IMG_20180113_0001_1<「グループ桂」77号。2017年12月25日発行。表紙絵・大沼陽子。題字・三浦真澄>
 「グループ桂」は、師とする伊藤桂一氏の亡き後、約一年をして、門下生による第77号が12月2日に発行された。
 本誌の巻頭を飾っていたベテラン作家の宇田本次郎氏(87)は、寄稿後に突然的に体調を崩し、入院。昨年12月に亡くなったことがわかりました。謹んでお悔やみを申し上げます。
内容目次は下記のようになっています。1月11日に行われた合評会は、宇田氏の人柄と、芸術性の高い文章を弛みなく紡ぐ孤高の作家精神について追悼の会ともなりました。また、各掲載作品のあらすじを、ここに順次記すことになりました。
          〜〜〜 目次 〜〜〜
■創作
「おろかな魚」 宇田本次郎
「消される裏面史(三)」長嶋公栄
「蛍(前)」三藤芳
「踊る采女ヵ原」桂城和子
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【おろかな魚」 宇田本次郎】
 小さなギャラリーの主であった中杉は、引退するために全てを整理していた。その彼の目の前で三十年以上も前に書かれた絵の中の魚が一瞬跳ね、あたりに潮の香が漂った。絵は油揚げを描くとか、緑の背景に青蜜柑を描くとか地味な絵をこつこつと描き続けた画家辻木仙次の絵だった。
「いつかは、どこかに、理解してくれる人がいる。そう思って、息をするように描いてきました」というこの画家の地味な、或いは理解不能で、抒情的なものを拒絶したその絵に、中杉はなぜか惹かれ、作品展を開くなど応援してきた。その画家が死んで、二十六年たつた、描かれた魚はひっそりと生きていたのか。
 画家が没した時、何回か遺作展をしたあとに、絵は五百点は残っていた。その作品は、画家夫人は、市役所に電話をして、清掃工場で焼いてもらうと話した。よほど高名な画家でもないかぎり、そんな処置になるのが普通だという。夫人は「お父さんはあんなに描いたんですから、満足だったでしょう」と言った。考えさせられる作品です。(佐田尚子)
☆「グループ桂」の入手には、文芸同志会で800円(送料込み)で、在庫分を頒布しております。コメント欄にてお申し込み下さい(非公開方式にします)。