明日、1月12日は有珠山高校二年、本内成香ちゃんのお誕生日です!


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司祭さまやシスター方はよく仰います。「イエス様が私たちに与えて下さったいちばん大きくて大切な掟、それは『隣人を自分のように愛しなさい』ということです」と。
でも…。
私は「隣人」を「愛」するどころか、傍にいてくれるひとの足を引っ張ったり、どんどん不幸にしている気がします。そして、それを良しとしている悪魔のような自分が心の奥のほうにいます。
こんな私はなんのために生きているんでしょうか?
もう、生きることをやめたほうがいいんじゃないでしょうか?

ねえ…

ごめんね、チカちゃん。



【有珠山高校・学生寮】
成香「チカちゃん…」
チカ「だいじょうぶ。熱だって38度台まで下がったし、昨日よりはだいぶ楽になったよ。それより成香のほうは…体調はどう?」
成香「…私は元気になりました」
チカ「そっか、今日から授業に出たんだよね…コホッ…麻雀部のみんな、どうしてた?」
成香「チカちゃんが風邪って聞いて、心配してた。そのうちお見舞いに行くかもって。あとユキちゃんは、お祈りしますって」
チカ「あはは。信仰熱心なユキらしいね…ケホッ」
成香「うん…」


【回想】
爽「そりゃあ大変な年末年始だったなあ…成香が風邪で倒れて、帰省できなくなちゃって、成香が治ったと思ったら今度は残って看病してた誓子が倒れるなんて」
ユキ「風邪を甘く見てはいけません。そもそも、多くの人々が研究に研究を重ねたにもかかわらず、いまだに風邪の特効薬は発明されていないんですから」
揺杏「マジで?でも薬局に行くとパブロンとか、ルル三錠とか…」
ユキ「あれは症状を抑える薬に過ぎないんですよ」
爽「ま、誓子は推薦で道内の短大受かってるし、この時期はゆっくり休めるからいいんじゃないか?」
成香「いちおう…センターも、受けるみたいですけど」
爽「それはしょうがないんだわ。ウチの学校、卒業の条件の中に『センターを五教科七科目受けるか卒業レポートを原稿用紙50枚以上書く』ってのがあるから」
揺杏「なんでそんな面倒なことを求めるんだろうね~」
ユキ「三年生が三学期に勉強しなくなると困るからでしょう」
爽「適当にマーク塗っときゃいいだけだから、そんなに大変でもないけどな」
揺杏「それはともかく、明日にでも麻雀部の精鋭連れてお見舞いに行くよ~。誓子先輩の負担じゃなさそうなら、だけど」
ユキ「そうですね。それと、私、先輩が良くなるようお祈りしますから」
成香「…」


【回想終了】
チカ「…ね、成香、日本史の用語集、私の机の上から持ってきて。あと、英語のイディオム集も」
成香「でも、まだ休んでいなきゃ…」
チカ「センターが終わってもいないのに勉強を休むなんて落ち着かなくって」
成香「うん…」
チカ「それと、机のいちばん上の抽斗に、ピンク色の包みが入ってると思うんだ。それも持ってきてくれる?」
成香「勝手に机を開けることになるよ?」
チカ「いいからいいから」


私は知っています。チカちゃんが近くの短大ではなく、東京の大学に行きたいと思っていることを。

四年間、看護師になるための勉強をしっかりするとともに、麻雀部に入って、もっともっと自分の麻雀の力を高めてみたい、そう考えていることを。
もしチカちゃんが東京の大学に合格したら…私たちは一年間、離れ離れ。そして私の両親は、進学先はうちから通える範囲にするように、そうでなければ学費は出さない、と言います。
だから私はユキちゃんのように、チカちゃんの回復を素直にお祈りすることができません。

それどころか…。

成香「…はい、チカちゃん」
チカ「どうも。それと…こっちは成香のだよ。十七歳おめでとう、成香」
成香「え…わっ…これ…」
チカ「熱のせいで、成香の誕生日を忘れちゃうところだった。せっかくプレゼントを用意してたのに」


私はきれいにラッピングされた包みを開けてみます。小さな白い箱。そして更にその中には…
銀色の鎖の先に、金属とエナメルでつくられたちいさな白い花がいくつも咲いている、そんな愛らしいペンダントが入っていました。


成香「これ、高かったんじゃ」
チカ「十七歳は特別な歳だもん。奮発しなきゃ」
成香「…ありがとうね、チカちゃん」
チカ「札幌のデパートでこれを見つけたときさ、絶対成香に似合う!って思って…ってどうしたの?成香ぁ…いや、涙が出るほど喜んでもらえて嬉しいけど…」


私のどす黒い感情が、悪い風邪を招き寄せてしまったのかもしれない。そんなことをなにも知らずに、チカちゃんは、私のことをとても大事にしてくれる。
年末、私が高熱で帰省できないということを知ったチカちゃんは、寮に残って勉強したほうが集中できるから、と帰省を取りやめ、看病をしてくれました。
修道院のキッチンでおかゆやうどんなどを作ってくれたり、ポカリスエットやシャーベットを買ってきてくれたり、魘されているとき手を握っていてくれたり…
当然、自分の勉強は睡眠時間を削って、ということになります。

どうしてそんなにまで、このひとは私なんかのことを。
何のとりえもない私なんかのことを…。

わあわあ泣いてしまった私の頭を、ベッドに横たわったチカちゃんは優しく撫でてくれました。

「成香はほんとに、昔から泣き虫さんだね…」




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ナルチカ冬の陣(下)につづく。


あ、ご近所で北海道物産展をやっていたら、成香ちゃんのお誕生日ということで奮発して「カタラーナ」なるお菓子を買ってみてください。焼きプリンを冷凍したような感じのお菓子です。最高です。その上に自宅を建てたくなるレベル。っていうか穴掘ってそこに住みたい。カタラーナの中に住みたい。そういうものに私はなりたい。微生物とか。