おひさしぶりです。ご無沙汰しております。もう年末ですね…すみません。

 さて、皆様はドラマ版『咲―Saki―』をご覧になられたでしょうか。 元ドルオタで今でもときどきアイドルの曲などをチェックしている私は、最近ちょっと気になっている子が出るときいてドキドキです。ただキャラのイメージと合っているかは微妙なところなので、とりあえず映画を見てから判断しようかと思っています。

 あと16巻の単行本特典も出揃ってきましたね。シズアコとニワチョコという組み合わせが大好きな私はメロブの特典にかなり心惹かれています。みんな美脚でかわいいですね。
 でもユキちゃん、なんで原村母娘と一緒におそろいのビキニで海水浴をしているの?どういう状況なの?あとユキちゃんが手に持っているのがスタバの容器に見えますが、ここはいったいどこなのでしょうか…。

 閑話休題。
 ここ数年、天江家と龍門渕家を舞台にした陰鬱な話を読みたい、とずっと思っていたのですが、探してみてもあまり数がないので自分で書くことにしました。思いついたら吉日ということで、ときどきブログで連載していこうと思います。読みたいことを好きなように書いたので完成度は高くありません。
 しかも私は書いているうちに唐突に飽きるので、途中で投げたらごめんなさいです。


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「私が読みたいだけの龍門渕物語・第一話 蛙の餌は生きた虫」


 天江衣は器用に竹製のピンセットを操り、プラケースの中で飼われている蟋蟀(こおろぎ)を捕まえては紙コップの中に入れる。ぽとり。それからもう一匹、ぽとり。
 
 蟋蟀は空を飛べないから、深いコップの中から逃げ出すことができない。そしてサプリメントの白い粉にまみれ、自由に動くこともままならず――ふたたびピンセットに捕まえられて蟾蜍(ひきがえる)の口の前に差し出される。てらてらと土色に輝く蟾蜍は大口を開け、ぱくりとそれを喰らった。
 
「足ずりをして鳴けどもかひなし、というわけだ」

 衣はコップのなかでもがくもう一匹の蟋蟀に向かって言うと、それを摘まんで蟾蜍に差し出した。
 

 あの家に住んでいたころ、衣の友達は庭に棲むこの蟾蜍、嫦娥(じょうが)と、目の覚めるほどに真っ青な尾をした蜥蜴だけだった。とはいえ、彼らは無償の愛をささげてくれる存在ではなかった。二匹は供物を求めた。飛蝗や蟋蟀、団子虫に蚯蚓。虫を取ってきて供物として捧げれば、彼らは衣のそばに来てくれた。ほんの、須臾の間だけ。

 しかし龍門渕の整然と手入れされた庭には農薬か何かが撒かれていたようで、蛙も蜥蜴もいなかった。なんだか悲しくなって、嫦娥に会いたいと言ったら、ハギヨシが捕まえて、こうして水槽の中に入れてくれた。自由を失った嫦娥だが、敵がいないこの場所はそれなりに住みよいようで、衣が与える蟋蟀を食してご満悦だ。
 
 嫦娥はこの硝子の水槽から逃げない。逃げられない。
 そしてもし水替えもせず、餌も与えなければ――嫦娥はこの中に閉じ込められたまま病に苛まれ、飢餓に苦しみ死んでゆく。
 いまの衣は嫦娥を支配する立場にあった。あの家に住んでいたころとは、何もかもが変わってしまったのだった。
 そして、衣を支配するのは――
 彼女は窓の外を見る。この牢獄のような薄暗い離れから少し離れたところにある、龍門渕の本宅。その当主である蛇のような目をした男と、彼の娘のことを考える。柔らかく波打つ金髪を揺らめかせて庭を走り回り、家族やメイドに囲繞されて笑うあの娘のことを。

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「私が読みたいだけの龍門渕物語・第二話 透華父はホラー映画が苦手」

「お義父さん。仰っていた巻物というのはこれですか?」
 龍門渕統太はそう言って、テーブルの上に細長い木製の箱を置いた。蓋の中央には薄い和紙が貼られ、上に「りうもんふち」と書かれている。
 
「ああ、うん。――どこにあったの」
 彼の義父である槻夫はおっとりとたずねた。
 
「天江の自宅の書斎です。金庫の中に入っていました」
「研究室ではなくて?」
「あの男はこれを誰にも見せなかったようですね。助教や院生などに聞きましたが、そんな巻物は知らないと」

 しばらく槻夫は黙っていたが、そういえば君、中を見た?と統太に問いかける。
「いえ。箱に『りうもんふち』という紙が貼られていたので、お義父さんが探していらっしゃったものだろうと思ったまでです」
 和風ホラー映画に出てきそうだ、とか、なんだか不気味だ、とかいう理由で箱を開けられなかったのは内緒だ。
「なるほど」
「恐ろしいモノなんですか?」
「いいや。五百年ほどまえに作られた、ただの物語絵巻だよ。文章もそんなに高尚じゃない。今風にいえば、ライトノベルか漫画か、というところだ」

 槻夫は箱を開け、小ぶりで細い巻物を取り上げる。その紐を解いて広げると、流麗な墨の文字があらわれた。少しだけ虫食いがあるが、保存状態はかなりいいようだ。さらに広げるとあらわれるのは唐風の装束を着た天女のような女性の絵。典型的なやまと絵、引目鉤鼻の顔立ちだが、結い上げて簪をいくつもさした髪は墨ではなく金泥でいろどられている。そして、その天女の前には双六盤と賽子があり、そして黒髪を背に流した十二単の姫君の後ろ姿が墨一色で描かれている。
 双六盤をはさんで、金色に輝く天女とモノクロームの姫君とが対峙している。そんな、不可思議な絵だ。
 
「天江くんによれば、この絵はそんなに上手くはないらしい。プロではなく『ちょっと絵の上手い女房』あたりが書いたものだそうだ。しかも完本じゃなくて断簡だから」
「だんかん」
「前半の一部しか残っていないんだよ。龍門渕に住む長者の姫君はたいそう美しいが男を寄せ付けず、若い女房を集めて囲碁や双六といったゲームにうつつをぬかすばかり。誰かのことみたいだね」
「透華には――よく言っておきます」
「別に責めてるわけじゃない。それはともかく、この姫君が八月の十五夜に満月の下でうたた寝をした夢に天女を見る。天女は姫君に双六の勝負を求め、姫君はそれに応じるが、負けてしまう。翌年も、その次の年も勝負をするが、姫君は天女に勝てない。物語はここで切れている」
「切れているとは」
 
 槻夫は統太に絵巻の最後の部分を見せた。文章の途中とおぼしきところで紙がすっぱりと断ち切られ、そのあとには白紙が継がれている。そのあとも物語がつづくだろうことは、紙の端にところどころ見える次の行の文字の断片から推測できるのだが――いったいなぜここで切られてしまっているのか。龍門渕の蔵の中に眠る謎の絵巻という出自や亡き天江の行動と相まって、なんだか禍々しい雰囲気さえある。しかもその主人公の行動ときたら、自分の娘である透華そっくりで――
 統太は目を塞ぎたくなる。
 
「この物語のつづきは、どこに行ったんでしょうか」
 額ににじむ汗を拭いてから、統太は義父にたずねる。 
「天江くんにそれを探してもらうつもりだった。この絵巻の残りの部分じゃなくてもいい。同じ内容の物語がどこかに伝わっていて、これにつづく内容が記されているかもしれない、と思ったから。しかし、私がもう探さなくていいと言っても、彼は絵巻を返してくれなかった。何度も催促したんだけど、『確認したいことがあるからもう少し貸してくれ』って。それで、そのまま」
孫がいる年齢の男とは思えないほどに若々しい、整った白い顔がかすかにゆがむ。

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