みなさま、新年明けましておめでとうございます!

  気が向いた時にしか更新しないブログですが本年もどうぞよろしくお願いいたします!(最近「スマホで更新する」という技をおぼえたので更新頻度を上げたいです)


 さて、『咲』本編はとうとう決勝先鋒戦、照の「ギギギー」が発動しそうな雰囲気ですが、私、実は菫と照の関係がすごく好きで…そんな気持ちをSSにぶつけてみました。twitterで秋頃に発表した2篇をちょっと直したものになります。なんとなくカッコいいかと思って菫照にウィーン菓子を絡めて展開させてみました。しかも日本ではあんまり手に入らないやつ!超カッコいい!



1

菫の花の砂糖漬けの作り方を、知っている。


 朝露に濡れてうつくしく咲く花を茎から摘み取り、よく洗い、キッチンペーパーで水分を取ったあと、まずは卵白に浸す。つぼんだ花びらを抉じ開けて、奥の奥まで卵白が満ちるように。それからグラニュー糖を敷き詰めたバットの中へ。先ほどの卵白が花にグラニュー糖を絡めてくれる。楊枝やピンセットを使って花の形を整えつつ、満遍なく甘い甘いグラニュー糖を塗してゆく。日陰で二、三日乾かせば、愛らしい砂糖漬けの出来上がり。ケーキなどのトッピングに使っても、紅茶に砂糖の代わりに入れてもいい。自然に咲く花が萎んだあとも、陽光に照らされてきらきら輝く砂糖の衣を纏った菫は、そこに残り続ける。

自然に咲く花が萎んで実になって、次の世代に命を繋ぐころーー戸棚の瓶の中で、菫の砂糖漬けは静かに朽ちてゆく。


菫は。

菫にとってはーーどっちが不幸なのかな。

自然のままに生きるのと、私にこうして摘み取られてしまうのと。



2

それはまるで、巨人の踵に踏み砕かれたような。これまで培ってきた戦術もセオリーも何もかも通用しなかった。その力はどこまでも圧倒的だった。総てを薙ぎ倒して無に帰すかのような、尋常ではない力。

ーー天性の、才能。


「明日も来いよ」

そう告げた自分の口元が、きちんと笑みを形作れていたかどうか。それさえもわからないほどに消耗している。けれど私はことばをつづけた。つづけなければいけない、と思ったから。

「ーー最低でも私だけは相手をする」

「善処するよ、菫」

そう言って彼女は、少し笑ったように見えた。疲労に霞んで歪んだ視界のせいで、そう見えただけなのかもしれなかった。


✳︎✳︎✳︎

 10分間の休憩!と、誰かの声が聞こえた。彼女はすぐさま、テーブルの脇に置いてあったチョコレート菓子を口に入れる。ひとつ、ふたつ。こいつは甘いものが大好きなのだ。ここに来たのだってお菓子とパンケーキ食べ放題に釣られてのこと。それなのに起伏の少ない細身の体型を保っていられるのは、糖分から得たエネルギーを総て麻雀に費やしているからだろうか。

 不意に、彼女が口に運んでいるのが、古い映画に出てきた欧州のお菓子であることを思い出す。天才に焦がれた凡人の食べ物として描かれていたそのお菓子に、彼女は唇を這わせ、歯を立てる。表面を覆っていたホワイトチョコレートがぱらぱらと崩れ、暗い色の中身が露出する。白い夏服の膝の上に、お菓子のかけらがいくつも落ちた。

白く細い指が、それを集めてゴミ箱へ持ってゆく。どうして私はこいつに「私だけは相手をする」なんて言ってしまったんだろう。


  なあ、照。お前に凡人の気持ちがわかるか?ただただ圧倒的な才能を見せつけられ、ちっぽけな自尊心も自己肯定感も粉々に砕かれてしまう人間の気持ちが。つい先ほど、教室で他愛のないことばを交わしているときにはあんなに近く感じたお前が、こんなにも遠い。

  いずれこの差を埋めてみせる、と誓ったこともある。これまでずっとそうしてきたように、弛まぬ努力のもと一歩一歩進んでゆけば、いつかは高みへと辿り着くはずだ。そう信じたかった。人は誰でも平等で、勤勉と努力によって何にだってなれるし、どこにだって行ける。そんな幻想にずっと、縋っていたかった。

  でも麻雀では勝てなくて、だから私は「不器用な天才を補佐するしっかり者の同級生」としての地位を選んだ。お菓子を零したり、道に迷ったり、時間割を間違えたりーーそういうお前の姿を見ることでささやかな優越感を得て、それでなんとか日々を繋いできた。くだらない、腐った日々。

そこまでして、どうして私はお前の側にいるんだろう。


「菫も食べる?」

照が尋ねる。私は頷いて、彼女の手からお菓子を受け取った。それを、私はひとかけらも零さずに食べることができた。




 2に出てきたお菓子のレシピはこちらです。おもちよりも直接的というか、なんというか…