スペースオペラ。日本では「スター・ウォーズ」が決定版で、アメリカでは「スター・トレック」でしょうか。映画としての1作目のアメリカでのオープニングの週末の動員数に関しては「スター・トレック」が圧勝したと記憶しています。テレビシリーズ(日本では「宇宙大作戦」として放映されていました)の根強い人気があったからでしょう。

私は(例によって地味ですが)「フラッシュゴードン超人対火星人」(Flash Gordon:Rocketship 1936)「ロッキー・ジョーンズ翔べ!銀の翼」(Silver Needle in the Sky 1954)「ロッキー・ジョーンズ宇宙海賊を追え!」(Manhunt in Space 1956)といった古典的スペースオペラをSFチャンネルなどの放映用に翻訳してきました。(もっとも、ロッキー・ジョーンズはスペースオペラには入らない気がしますねぇ…)

スペースオペラの私の中での定義は「人型の悪い宇宙人がたくさん出てきて、正義の地球人が彼らを倒す話」といった感じです。(とっても簡単に言ってしまうと、ですが)

「スター・トレック」は映画版第1作の成功を受け、何本も劇場版が作られ、「スター・ウォーズ」も6本目の新作が夏に公開されます。

さて、本題の「バビロン5」は、「新スター・トレック」というテレビシリーズが成功した後、企画が動き出した1話1時間・全110話(違ったらすみません)のテレビシリーズです。

過去のスペースオペラの集大成。最新のCG技術を結集させた作品として第1話から最終話まで、全体のコンセプトを先に完成させた上で撮影に入るといった、こだわりのSFテレビシリーズでした。

この「バビロン5」シリーズを日本で最初に放映したのがSFチャンネルです。私はこの時に「バビロン5」を翻訳しました。ただし、残念な事にSFチャンネルと版権元との契約の事情で放送は中断し、たしか12話までしか翻訳(&放送)していません。

膨大な作業でした。先に書いたように100話以上のコンセプトができているにも関わらず、翻訳時に入手できた素材は20話ほど。それぞれのエピソードに出てくる「今後の展開への伏線」が謎のままでの翻訳です。

その意味で、納得いく字幕にならなかった部分も少なくありませんでした。

このシリーズは、その後スーパーチャンネルで吹替版が作られ(私は担当していません)、さらに最近、DVD版でファースト・シーズンが発売されました。テレビ放映の字幕版を作っていた事もあり、発売後、私は1セット買いました。(ワーナー・ホーム・ビデオから私には何の連絡もなかったので、「字幕も作り直したんだろうな。全体を見通してから、このシリーズ特有の用語や表現を自分が作った字幕よりも入念に決めたりして」と思いつつ…)

セットを開けてDISC1をプレーヤーに入れて第1話を見て、冒頭からびっくりしました。1枚目の字幕は「報告は以上です」。110時間もの壮大な物語の最初のセリフが誤訳です。(10分ほど見ましたが、訳自体は新訳のようです)私は自分のテレビ放映版の訳を過去のデータから捜し出しました。「警備主任アイラだ」でした。

DVDの英語字幕でも確認できますが、「Watch Cmdr. Ayla reporting for duty.」というセリフです。

警備主任という肩書きは異論の余地があると思います。(ただ、偉そうではない感じの宇宙人が言っていたので、私は「主任」と訳しました)

ここではひとまず誤訳の問題を話します。「reporting for duty」というのは軍隊でよく聞きますが「着任します」とか、一般でも「出勤しました」と、「報告」する普通の表現です。

物語のオープニング(それも110時間のドラマの最初)だから「着任」から入るのです。字数的に入りきらなかったので、「着任」を表現するのは私にもムリでしたが、私の2枚目の字幕は「交替する」(DVD版でも2枚目は似たようなものです)にして、「アイラという宇宙人が出勤し、前任者と交替する」展開を字幕にしました。

それがDVDでは「報告は以上です」…。誰も何も報告していませんが…。冒頭ですけど…。

悩みました。「彼らは何のために字幕を作り直したんだろう…」

翻訳料を2回別々に払い、わざわざ新訳を作りながら1枚目から誤訳。こんな事をしているのがハリウッド・メジャーなのでしょうか…。前にも言いましたが、私も翻訳家として他の人の仕事にケチをつけるつもりはありません。でも、110時間のシリーズをシーズン5(1シーズン22話)まで全部買おうと思ってくれるファンが1話目の冒頭から「誤訳じゃん」と思ったら…。悲しい話です。

とにかく「reporting」と「duty」という言葉を聞いたら、普通は「報告」以外の意味を連想するのがプロの翻訳家として当然です。それでも私は、この訳を作った人を責める気はありません。誤訳したのが一番の問題ではありますが、DVDの字幕制作担当者のミスです。チェック時に「変だ」と思わなかった事と、1枚目から誤訳してしまう翻訳者を選んだという二重の意味で。

この場合、「時間がない」「予算がない」というのも言い訳にしにくいです。それはテレビ放映時の字幕が、ここに存在しているためです。それを叩き台にして110時間全体の伏線を踏まえて新訳を作る方が、当然効率的です。ただ、110時間とはいえ1本の作品です。途中までしか見ない状態で翻訳した私の字幕には、残念ながら不備もあったはずなので、新訳を作る事に問題はないと思っていますが。

今、自分のデータを見直して思い出しましたが、私の訳では「タイグリス地域」という誤訳が、パイロット版にあります。英語の発音通りにカタカナにしたのですが、これは「チグリス地域」の間違いでした。(SFチャンネルでの放映版の話です。)今回のDVDシーズン1にはパイロット版が入っていないようなので、今後、パイロット版をDVD化する時は「チグリス地域」を「タイグリス地域」に間違えないようにして欲しいものです。思わず間違えるタイプの地名です(汗)

でも「バビロン5」なんですよね…。チグリス川とユーフラテス川の間に栄えたメソポタミア文明の都市バビロン…。不覚でした…。ファンの方、申し訳ありません…。

しかし、テレビ放映版の字幕の存在を知らなかったのなら「字幕の著作権とは?」でも書いたように、管理が不充分だからであり、その結果「予算がない」状態にしている業界がおかしいのです。

嫌な話ばかり書くのは私自身、愉快ではありません。でも、こうした問題を、これ以上黙っていたら「日本語字幕」の質はどんどん落ちます。本当に考えてしまいます。字幕の不備に文句をつけるのが好きな人なんて、絶対いません。「この訳はヘンだ」「素人が訳してる」「作品への愛情が翻訳者にない」と感じてしまった後、その作品を楽しめなくなった人がいたら、それは映画という娯楽「産業」の罪だと思います。

次のSF関係は「スターシップ・トゥルーパーズ」のCG版テレビシリーズについて書きますね。(これも案外大変でした…)