・・・1月30日・文句さんとの特別対談・・・
072
「ねえねえ。
 それじゃあ【観察ごっこ】してみましょうよ?」


思いの外近くで、思いの外小さな
若菜の嬉々とした笑顔が弾みました。


綺麗で可愛い若菜にドキッとしながらも
何か、懐かしい感じが、します。


(懐かしい?何で?)


「か、【観察ごっこ】ぉ?」


「アソコに、喫茶店の看板、見えますよね?」


【珈琲スギモト】
若菜の細い指が指し示した方向約30m先に
確かに、そんな看板が、見えます。


「まずは、私が1人で、先に歩きますから
 孝子ちゃんは、ここで立ち止まっていて
 私が、どれほど注目を集めるか
 よおく観察していて下さいね。」


「うん。」


「喫茶店のトコロに着いたら
 私、待ってますから
 なるべくゆっくりと歩いてきて下さい。
 孝子ちゃんが、どれほど注目を集めるか
 私、よおく観察しちゃいます。」


(なるほど。【観察ごっこ】か。)


言いたいコトは、判りましたが
は、別のコトに、ポカンとしていました。


「うふふっ…楽しみですねっ。」


ワクワクした笑顔でピョンピョン弾む若菜
何だか、とっても幼い少女のように見えます。


暮れかかる1歩手前の…
真昼よりは少し太陽が低くて
黄昏色を帯び始めているような…。


そんな眩しい陽光を
満面に、いっぱいに浴びた笑顔が
どうしてこんなに懐かしいのでしょう?


(そうだわ。ケン太くんだわ。)


(誰だ?そりゃ?)


遠い昔、がまだ、幼かった頃です。
近所に住む、同い年で大親友のケン太くん
毎日、陽が暮れるまで、遊んでいました。


何故、大親友なのかと言いますと…
…よく、判りません。


(何だ?そりゃ?)


俺達、大親友だよな。…が
2人の合言葉といいますか…。
日に何度も、何かにつけて出てくる
2人の口癖といいますか…。
何しろ、幼い時のコトなので
理屈なんかないんです。


(幼い時の大親友って、それでいいんだよ。
 どうして大親友なのかなんて
 屁理屈をコネたがるのは
 つまらねえオトナの証拠さ。)


は、ケン太くんが、大好きでした。
ご飯よりも、ケーキよりも、大好きでした。
何もしていなくても
ケン太くんといれば
それだけで楽しいでした。


(そういうのを、大親友ってゆうんだ。)


ねえねえ。
それじゃあ【観察ごっこ】してみましょうよ?
…は
当時、ケン太くんからよく聞いた
ねえねえ。
次は、カン蹴りしようよ。
…と
何故かとてもよく被って、の心に響いたのです。


(あらま。)


ワクワクして嬉々とした若菜の表情も
ケン太くんに、そっくりでした。


(そう言やぁ、自分で童顔だって言ってたもんな。)


【綾乃ちゃん騒動誕生秘話91】参照ですね。


5歳の時に引越で別れてしまって以来
何十年も経っています。
すっかり忘れ去っていたケン太くん
どうして急に、思い出したのでしょう?


(おめえが、ここまで引っ張るんだ。
 何か、ウラがありそうだな。)


これは救済計画】
若菜は、決して遊んでる訳じゃないって
覚えてます?


(…半分、忘れてた。)


昨日までホームレスだった53歳の男の
気色悪いナンチャッテ女装について
私が何故
ここまで長く書き連ねているのか…。


(実は少し不思議だった。)


少し長くなりますが
救済計画】について
ここで整理しておきたいと思います。


(…判った。)


つい昨日まで、ホームレスしてた孝は
言わば
【喋る不衛生】のような存在でした。


(そうだったな。)


【若くて綺麗で可愛くて美しい女性】
孝にとって、ちょうど対極の存在でありました。


(そうなる…かな。)


事実、【若くて綺麗で可愛くて美しい女性】
みな一様に、孝に蔑みの眼差しを送り
決して近寄ろうとはしませんでした。


(そりゃ当然だ。
 関わり合いになんか、なりたかねえだろ。)


仮に孝が憧れて、近づいていっても
【若くて綺麗で可愛くて美しい女性】
尚逃げて、更に離れてゆくばかりです。


(何をあたりまえのコトを…。)


この現実は、そっくりそのまま
状況の縮図とも言えます。


仮に孝が憧れて、戻ろうと努力したとしても
【人間としてのマトモな生活】
尚逃げて、更に離れてゆくばかりなのです。


(判らんでもねえが…
 ちょっと、強引な気もするな。)


【若くて綺麗で可愛くて美しい女性】
それは孝にとって
【人間としてのマトモな生活】に直結し得る
願っても戻れない
【本来在るべき姿の象徴】なのであります。


(少し、飛躍し過ぎな気もするが
 まあ、そういうコトにしておこう。
 もしも【若くて綺麗で可愛くて美しい女性】が
 自分の話をまっすぐに聞いてくれて
 とても親切にしてくれたなら
 
だってオトコのハシクレなんだから
 人間らしく生きてゆく自信だって
 大きく回復するだろうからな。)


念の為に申し上げておきますが
今、話しているのは、福井県版【かみなり】
救済計画】の思想や骨子なので
私とて、多少の異論は、ありますよ。


(ムダにツッコむなってコトかよ?)


【若くて綺麗で可愛くて美しい女性】
何の前触れもなく突然に
自ら、孝に飛び込んできてくれました。


若菜です。


福井県版【かみなり】
若菜と出逢わせるコトによって
孝の自信を回復させて
【本来在るべき姿】に立ち戻る
入口に立たせました。


(なるほど。まずは、第一歩だな。)


そうです。まずは第一歩です。


次に福井県版【かみなり】
入口から一歩でも進ませる為に
若菜を孝に尽くさせました。


(そうだな。それが今の展開だな。)


綺麗に洗ってもらいましたし
食べさせてもらいましたし
温かな温もりの中で、寝かせてもらいました。


(おかげで
 だいぶ人間らしくなって、人心地付いたんだ。)


若菜は、ミゴトに
孝に寄り添うコトに成功しました。


(そうだな。
 それが証拠に、今日、1人になっても
 逃げださなかった。)


その為に女装させましたが
それでも、逃げ出す想定は、あったそうです。
隣で監視していますので、逃げ出せば尾行をつけて
若菜に連れ戻させる予定でした。


(そうか。)


孝から見れば
あまりにも急速過ぎる展開でして
それ故、若菜
無償の慈愛に満ち満ちた
有り難い女神様にしか見えませんでした。


(それは無理からぬコトだろう。)


でも、福井県版【かみなり】が想定しているのは
【人間女性・若菜であって
【女神様・若菜では、ありません。
女神様は、人間と暮らさないからです。


(ご尤も。)


人間なんだというコトを
徹底的に実感してもらう為に
若菜は、その裸体を、惜し気もなく開きました。


(そういう狙いだったか。)


遥か彼方の高嶺の花だった
【若くて綺麗で可愛くて美しい女性】…。


若菜【女神様】として現れ
その裸身を隅々まで晒すコトによって
【人間女性】へと鮮やかに転身して
孝の手のひらの中に収まりました。


孝は【本来在るべき姿】への一歩を
踏み出しました。


(ちゃんと考えられてるんだな。)


昨日から今日にかけて
もろもろ、狙いどおりに
進んできたように思えます。


ずっと以前から
考えに考え抜いてきたシナリオですから
狙いどおりに進んできて当然なのであります。


でも実は、ここから先のシナリオは
何もありませんでした。


(何だよ?どうしてだよ?)


孝の行動次第で、孝の反応次第で
千変万化していって然りだからです。


(なるほど。様子を見ながら柔軟に対応か。
 でも、漠然とし過ぎてねえか?)


もちろん、目標はあります。
【自立の復活】
です。


ソコへ向かわせるように
常に、微調整してゆく必要があります。


(面倒臭ぇな。
 身綺麗にして、自信も取り戻させて
 飯も食わしたんだ。
 
だって、いい大人なんだから
 アトは放置してても
 独りで何とかするだろうさ。)


人はみな、大なり小なり
自堕落な特質を備えています。


まして一度、ホームレスに身を堕とした者は
孤独になった途端
再び、ホームレスとなるケースが多いです。


(なるほど。元の木阿弥か。)


孝が、【自立の復活】を得るには
信頼できる【パートナー】が必要なのです。


(だから、若菜ちゃんが、いるんだろ?)


確かにそのとおりなのですが
孝にとって若菜【大恩人】でありました。
【パートナー】というよりも
受けた恩を少しでも返してゆくべき
【大恩人】でありました。


(あ、そうか。
 食器を洗おうとしたり
 洗濯物を畳もうとしたり、してたものな。
 何か、お返しできるコトは…なんて
 捜していたものな。)


特に【おフロ場掃除】は最たるケースでした。


恩返しという言葉で濁しているだけで
【おフロ場掃除】で見せたあの執着心は
異常という他、ありませんでした。


(確かになあ。)


大恩ある若菜という御主人様
生涯賭けて尽くし抜く下僕人…という心情が
若菜と監視チームに
ひしひしと伝わってきました。


(そうか。そういえば、そう見えるよな。)


全裸で、お尻の穴まで丸出しの四つん這いで
少しも休まずに、汗だくになって…。


在り来たりな【掃除】という範囲は
とっくに終わっているのに
まるで、タイル一枚一枚を
新品に復活させるような勢いで
ひたすらに磨き上げる姿
からは
【真面目】とか【ひたむき】を通り越して
【小さく黒く萎縮しきった瀕死の精神】
強く強く感じ取られました。


(そうか。
 ホームレス生活は、身体だけじゃなくて
 心まで汚しちまったってコトなんだな。
 劣等感、抑鬱、羨望、飢餓、失望、蒙昧…。
 そういう負の感情で
 精神が汚染されているんだ。)


さすがは文句さん
そのとおりなんだと思います。


どうすれば、御主人様下僕人という関係が
共に生きる【パートナー】に変われるのか…?


孝が若菜のアパートで独りで過ごしている時
隣では、若菜と監視チームが
激論に激論を重ねていました。


(そうだったのか。)


最終的に得られた結論は
若菜が、孝と一緒に考えて
若菜が、孝と一緒に行動して
若菜が、孝と一緒に遊ぶコトでした。


(もう、強引に
 対等なパートナーとして振る舞うってコトか?
 でも、どうやって?
 だいたい、何を一緒に考えて
 何を一緒に行動して
 どんなふうに遊ぶんだ?)


所定のストーリーを用意して
若菜が悩みを打ち明けて相談に乗ってもらう方向で
最初は、検討されました。


でも、それでは
孝が若菜の話を理解する必要があります。


(そうだよな。
 御主人様の話は、縁遠い話として
 が壁を作っちまうかも知れねえしな。)


はい。


だから、手段としては、限りなく弱く
不採用となりました。


(だいたい、悩み相談で
 どうやって、一緒に遊ぶんだ?)


はい。


それに、一過性の話題で
終わってしまう可能性もあります。


次に検討されたのは、
共通の趣味を持つコトでした。


(そんなコト言ったって、おめえ…。)


はい。
確かに若菜は話題豊富が売りですが
53歳の男と20歳の女が
共通の趣味を捜し当てるのは
並大抵のコトではありません。


(おうよ。)


今日、若菜を含めた監視チームが
孝を観察していますと
女装した孝が姿見の前で
しみじみと悦に入ってるではありませんか。


(ああ、そうだったな。)


(100へ)


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