・・・スピンオフ特別篇・・・
110
荒れたわ。思いっきり、荒れたわ。

泣いたわ。死ぬほど、泣いたわ。

お願い、夢だと言って…。

夢なら、早く醒めて…。

だって、今までは
朝起きてから、夜寝るまで
私の生活の中心に、ママが居たんだもん。

ママが言うように、素直でいると
ママが、とっても、喜んでくれるから。

ママの喜ぶ顔が見たいから
私、勉強も、お手伝いも、頑張れたんだもん。

朝起きてから、夜寝るまで
学校に行ってる時間以外は
どんな瞬間も、ママが居たの。

あの、穏やかな笑顔とか、優しい声とか
甘えた時に鼻をくすぐる、いい匂いとか
あたりまえだと、思っていたのに…。

だから、今は
朝起きてから、夜寝るまで
何をしても思い出して
いつもいつも、泣いてしまうの。

ううん。

夢の中だって、泣いてるのよ。

悲しくて悲しくて、泣いてしまうの。

私、生活、できないわっ。
生きていく力が出ないものっ。

世の中の全てが恨めしい…。
私以外の人間全てが恨めしい…。

私の生命さえ、恨めしい…。

初七日が終わって
おばあちゃんが帰っちゃって
パパも仕事に戻って…。

何よ、何よっ。
みんな、ママのコト、忘れちゃったの?

朝早く、パパが仕事に出掛けてしまうと
だあれも居ない家…。
しぃ~んとした家…。

私、どうしたら、良いの?
何をしたら、良いの?

何も食べたくないし
部屋に籠ってしまうの。

この部屋の中だけは
ママが居た時と同じ時間が
静かに流れているように思えるから。

部屋から出た時
ニコニコ笑顔のママが
キッチンに立っていそうだから。

だけど、悲しいよ。

悲しくて悲しくて、涙が止まらないよ。

この涙のひと粒ひと粒が
床に染みて、壁に染みて、心に沁みて…。

この部屋の中にも、少しずつ
ママが居ない現実】が、満ちてゆくの。

私、どうしたら、良いの?
ドコに居たら、良いの?

仕事から帰ってきたパパ
不器用な晩御飯を用意してくれるの。

ママが居た時よりも
3時間も遅い2人だけの寂しい晩御飯。

…美味しくないわ。

「御馳走様…。」(薫)

胸もお腹も悲しみに満たされているから
食欲がないの。

「…………。」(パパ)

何よ?何か文句あるの?

何か言いたげに
立ち上がった私を見るパパの目にも
悲しみが満ちている…。

暗くて、会話のない家…。

交通事故の相手も死んじゃったそうなので
文句を言う相手もいないけれど…。

それでも、ひと事、言わせてよ、お相手さん。

あなたが奪ったのは
ママの生命だけじゃないんだよ?

家の温もりも、生きる喜びも、私の心も
そして、もしかしたら、パパの心も
全部、奪っていったんだ。

「……フロ…沸いたら…呼ぶから…。」(パパ)

「ごめん…。入りたくないの。」(薫)

何よ、何よ。
ママの代わりに、私の裸で遊ぶ気なの?
怪獣オチンチンを入れられちゃったら
イヤだもん。

なんてね。

いくら何でも、そんなコト、しない…か。

「昨日も、入らなかっただろ。」(パパ)

安心して。
昼間のウチに
パパが居ないウチに、シャワーしたもん。

何か、判らないけれど、お葬式の日を境に
パパと、おフロに
入りたくなくなっちゃった。

理由なんか、ないの。
心が、イヤだって、言ってるの。

ごめんね。

・・・・・

もう2週間になるけれど
私、学校を休んだままなの。

だって
あんなガキばっかりの場所に
行きたくないんだもん。

どうにもならないガキのくせにさあ。
みんな、家に帰れば、ママが居るのよ。

んもうっ!あったまきちゃうっ!(;`O´)o

何で、私だけ
こんなメに遭わなくちゃいけないの?

何で、私だけ
こんなにミジメにならなくちゃいけないの?

。今日は学校に行きなさい。」(パパ)

ちょ、ちょっと、何よぉ!

パパが私を起こしにきたの。

あ、そうか。
今日は有給休暇って言ってたっけ。

それはいいけれど、レディの部屋なのよ?
ノックくらいしてよね。

「やだ。」(薫)

私、あったまきちゃったから
布団をかぶったの。

「いつまで
 そうしてる、つもりなんだ?」(パパ)

パパったら、強引に、布団を剥ぎ取ったの。

「何してるのよぉっ!!(;`O´)o」(薫)

エッチ過ぎるでしょっ!!
デリカシーが、ないわねっ!!
私を襲う気なのっ!?!?

私、もっと、あったまきちゃったから
パパを蹴飛ばしたの。

あ、あら?

意外に軽いのね。

パパ、思いっきり、吹っ飛ばされて
壁に背中をぶつけて尻もちをついたの。

「あ…ごめ…」(薫)
「どうして、そうなんだ。
 学校に行くのが子供の務めじゃないのか?
 こんなに何日も学校に行かなかったら
 勉強が判らなくなるだろ。
 こんなにダラダラしていて
 天国のママ
 恥ずかしくないのか?」(パパ)

謝ろうなんて気持ち、一瞬で消えちゃった。

大きな声で怒鳴りつけてきたら
私だって、きっと、大きな声で、対抗したわ。

静かに押し殺したような声で
私の気持ちなんか
隅々まで判ったみたいに諭すから…。

【イヤミなオトナの上から目線】
…みたいなモノを感じて…。

訳が判らない怒りが
抑えきれないほど湧き出してきて…。

どうせ子供よっ。私は子供よっ。
悪かったわねっ!!

私の中で、何かが弾けて
何かが切れた気がしたの。

「うう~っっ!!!!」(薫)

私、パパに、馬乗りになったの。

「ママを返してよぉ~っ!!
 そんなふうに言うなら
 今スグ、ママを返してよぉ~っ!!」(薫)

ゲンコツを固くして
頭や顔や胸や肩…。

「返してよぉ~っ!!
 返してよぉ~っ!!」(薫)

泣きながら、何度も何度も…。
何度も何度も…。

「うわぁ~んっ!!」(薫)

大きな泣き声に、自分でビックリしたの。
勝手に大声で泣き出しちゃった
他人みたいな自分…。

パパの肩を掴んで揺らして
頭が柱に何度も激突してるの。

パパなんか、死んじゃえばいいんだっ!!

「もう、気が、済んだのか?」(パパ)

その声に気がつけば
私、パパ
力の限り、何十回も殴っていて…。

パパ、まったく抵抗しないで
ずっと私に殴られ続けていたの。

弾けたシャツのボタン…。
腫れた顔…。

あ…血が出てる…。

「ひ…」(薫)

弾け飛ぶようにパパから降りて
床に座り込む私…。

「今日は…いいから…
 明日は…学校に…行くんだぞ。」(パパ)

やっとの様子で立ち上がると
フラフラになって、部屋を出ていったの。

大好きなパパを殴るなんて…。
大好きなパパを殴るなんて…。
大好きなパパを殴るなんて…。

ドス黒い油のようにベットリとこびりついた
取り返しのつかない大罪を心の中に感じて
狼狽えた私は、無意識に顔を覆い隠すの。

…痛い…

私の手…真っ赤になってる…。

大好きなパパを殴るなんて…。

ゆらゆらと立ち上がって洗面台に行くと
手を水で冷やしたの。

何てコト…。

大好きなパパを、ゲンコツで殴るなんて…。

親に手をあげる
…なんて、親不孝な子供の王道よ、ね。

人として、子供として
絶対にやっちゃいけない罪…。

でも、それ以上に恐ろしかったのは
顔が腫れて血が出るまで
パパを殴った自分自身…。

私は、悪魔になっちゃったの?
大人になれないばかりか
もう、女の子でも
いられなくなっちゃったの?

新しい涙が、どんどん溢れてきて
止まらないの。

私、死んだら、地獄に行くのね。
本当は、ママのトコロに、行きたかったのに。

冷たい水が気持ち良いわ。
この水で、私の心の中も
洗い流せればいいのにな。

だんっ

あれ?何の音かしら?

悪い子になった私を
地獄の鬼が、迎えに来たのかしら?

そんなの、イヤよ。
イヤ、イヤ。

んもう…。
今月、水道代、多かったわね~。(;´д`)

ふと、そんな
困った笑顔のママを思い出して
私、慌てて、水道を締めたの。

まだ、痛いな…。

この痛みで、今日1日、反省してよう。
そして、たくさん、勇気を貯めて
パパに謝ろう…。
許してもらえるまで、一生懸命、謝ろう。

洗面所を出て、キッチンへ。

あれ?何か、床に、大きなモノが…。

「きゃ~!!!!」(薫)

キッチンの床に
パパが、倒れていたの。

・・・・・

大パニックになりながら
おばあちゃんに電話をして
おばあちゃんが、救急車を呼んでくれて…。

救急車に一緒に乗って
おじさん達から事情を訊かれても
知らない判らないと泣くばかり…。

大きな病院の割には
救急救命の待ち合いが狭くて
奥の少し硬いイスに座って
やっぱり私は泣くばかり…。

何が大人よ。笑わせるわね。
泣くばかりで、何もデキないじゃないの。
私、最っ低のガキだわ。

「大丈夫よ。大丈夫よ。
 おとうさんは、大丈夫だからね。」

看護師の優しいお姉さん
ずっと、そばに居てくれて…。

「痛かったね、痛かったね。
 もう、大丈夫だからね。」

私の手が腫れているのを見つけて
手当をしてくれて…。

こんなにも、安心させてくれるような
優しい大人の女性に
私は、なれるのかしら?

ムリなような、気がするわ。

・・・・・

2時間くらいして
おばあちゃんが病院に来てくれた時には
パパの意識が戻っていたの。

軽い脳震盪なんだって。

「それって、死んじゃう病気?」(薫)

「大丈夫よ。
 スグに元気になるわ。」(おばあちゃん)

念の為に1晩入院するコトになって
私は、おばあちゃんと一緒に
家に帰ったの。

あ。

玄関の鍵、かけ忘れてる…。

「うふふっ。慌てちゃったんだものね。
 どろぼ~さ~ん
 居ませんかぁ~。」(おばあちゃん)

そんなのが居たら、怖いわ。

取り返しのつかない大ドジを窘めるコトもなく
むしろ滑稽な物言いで私を笑わせてくれる
大きな大きな心…。

やっぱり私、まだまだ子供だわ。

お掃除して、洗濯して、お料理して…。
家の中で、気づいた家事を
どんどんこなしてゆく、おばあちゃん

私も、一緒に、手伝うの。

「それじゃあ、洗濯物干し、お願いね。
 ばあちゃん、腰が曲がっちゃって
 届かないのぉ。\(^o^)/」(おばあちゃん)

そのくらい、お安い御用だわ。

わ。( ゚Д゚)
パパのパンツ、デカ…。( ゚Д゚)

どうして、こうなったのか…とか
おばあちゃん、何も聞かないの。

どうして学校に行ってないのか
それも聞かないの。

終始和やかな笑顔で
一緒に晩御飯を作って…。

「おばあちゃん
 おかず、作り過ぎだよ。」(薫)

「いいのよ、いいの。\(^o^)/
 これと、これは、小分けにして
 たっぱぁに入れておけば
 明日とか、明後日とか、チンして
 食べられるでしょ。」(おばあちゃん)

わ。

そういうの、賢いわね~。
勉強になるわぁ。

「薫ちゃんが大好きなカレーも
 作っておこうね~。」(おばあちゃん)

何だか、久し振りに
家の中が、温かいの。

おばあちゃんって、凄いわね~。
私も、そんな女性に、なれるかしら。

多分、ムリね。

・・・・・

2人で、おフロに入ったの。

「ばあちゃんにも、ばあちゃんが、居たよぉ。
 優しくってね~。
 いつも、ばあちゃんに、飴、くれたぁ。
 ばあちゃんの、ばあちゃんは
 縫物が、とっても上手くってね~。
 ばあちゃんの、ばあちゃんみたいに
 なりたくてね~。
 ばあちゃん、頑張ったぁ~。」(おばあちゃん)

(03へ)

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