今年のブログ納めにご紹介するのは先月末に当センターと神戸赤十字病院が合同で大々的に行ったCBRNE災害実動訓練の記事です。書いてくれた〇田先生は今や当センターの主力中の主力に成長した中堅スタッフで、外科や麻酔サブスペシャリティが多い当センターでは異色の内科専門医です。しかし重症外傷診療がウリの当センターでは内科系救急医の彼も立派な外傷医として日々の臨床でその腕を振るってくれています。そんな彼のもう一つのサブスペシャリティが中毒。そして最近は中毒のみならずCBRNE災害にも専門をひろげ、今回の実動訓練がその集大成です。
2017年に彼が中心となって防火防災委員会が開催したCBRNE図上訓練の記事がこちら↓
http://blog.livedoor.jp/hemc/archives/51239800.html
ちなみに当センターが輩出した初の救急指導医となった彼の記事がこちら↓
http://blog.livedoor.jp/hemc/archives/57593269.html
今年最後のブログ記事として○田先生の記事をお送りします。大作です。
では以下、本文ママ↓
両院合同CBRNE災害実働訓練
○田正太
2023年11月24日(金)…この日は当センター・神戸赤十字病院にとって記念すべき日なのかもしれない。そう、両院の開設史上初めて両院合同でのCBRNE災害実働訓練が開催された日である。
2019年にラグビーW杯神戸開催に向けてのCBRNE災害対応マニュアルを作成したが、両院が承認した正式なマニュアルではなかった。もちろんその頃からCBRNE訓練の構想はあったが、所謂コロナ禍によって大規模な実働訓練を行う機運はここ数年萎まざるを得なかった。
そんな時、昨年の神戸赤十字病院ER(以下、日赤ER)への化学剤に曝露された船員が4名walk-inで来院されたことを契機に、潮目が転換したように思う。
今年度の初頭からCBRNE対策に関して両院で議題に挙げることが不自然でなくなり、5月には○藤淳先生と共同でなぎさモーニングレクチャーにてCBRNEの講義を行った。研修室が満員となるほどに聴講を頂けたことから、そのまま日赤ERへ少人数のCBRNE傷病者が来院した時の初期対応シミュレーション開催へ持っていくことができると確信した。しかしながら開催に向けての障壁は少なくなかった。日赤ERを訓練使用する場合、2か月前から輪番日を外す算段を整えなくてはならず、その他の調整事項などもあり開催は夏以降へ持ち越しとなった。出鼻をくじかれた格好となったが、これを機にシミュレーションに留めずに受入体制プランC(CBRNE傷病者が比較的少数の際に大がかりな水的除染テントは設置せずに既存の両院除染室と必要に応じて乾的除染テントを用いて対応する計画)の実働訓練を行う方向で調整することとなった。
訓練開催に向けて10月、ワーキンググループ(以下、WG)を発足し、訓練に必要な調整や事務作業を会議で提示しつつ現状の課題等の担当者や期限を決めていった。三宮周辺で多数傷病者が発生するようなCBRNE事案ではなく、近隣の化学工場での事故というあり得るシナリオで訓練を開催することで日赤側のニーズに合致し、両院が協力しやすい雰囲気が作れたように思う。
実働訓練の1か月前にCBRNEの総論講義、2週間前にレベルC防護服着脱・除染研修を行い、3日前には事前勉強会と称して図上訓練を事前に行った。実働訓練に参加する過半数の方がこの図上訓練に参加してくれた。タッチペンで直接記載も可能な大型モニター“Elmo-pad”を2つ有する施設の利点を活かし、図上訓練はHEMC史上初めてデジタル形式で行った。
24日の実働訓練直前までWGでの会議を行い、当日にも訓練内容のテコ入れを図った。実働訓練自体は予定通り17時40分、近隣の農薬工場から日赤ERへwalk-inで来院する設定で開始した。傷病者を安全に屋外へ出しつつHEMCへ診療応援を依頼し、簡易型のレベルC防護服(迅速性を優先して体幹部・靴は化学災害非対応のPPE)のHEMCスタッフが応援に来るというシナリオであった。その後は乾的除染テントを展開するピロティへ自力歩行できなかった傷病者を移動させ、設置したテント内での乾的除染(脱衣・拭き取り)、据え付けの除染室での水的除染を行い、各診療エリアで対応するというものであった。途中本物のドクターカー出動と受入があったものの、大きなトラブルはなく訓練は終了した。
各エリア・役割での反省点はもちろんあったかとは思うが、これらについては今後アンケート結果を集計し、今後の訓練マニュアルを改善していきたいと考えている。訓練の開催に関する反省点としては、やはり11月下旬では少し寒かったように思う。薄着であった傷病者役はもちろん、屋外エリアの担当者にも寒さがストレスであったと思われ、開催時期については今後十分に配慮する必要があると感じた。
今回の訓練にはWGスタッフの努力をはじめ多くの方々の支援が必要であった。今後さらなる大きな訓練を行うのであればさらなる支援が必要と考えられ、今回の訓練に向けて徐々に広まったCBRNEの輪を土台に、持続可能かつ有意義な訓練を開催していきたいと思う。
最後に、訓練の開催に関わって下さった方々および訓練開催中に病院診療を支えて下さった方々に深く感謝いたします。今後ともよろしくお願い致します。