2005年09月01日

B0001E3E4Y 電撃的東京
近田春夫&ハルヲフォン
1978年

by G-Tools

誰もが知ってる歌手の誰もが知ってる曲に、独自の方法論で新しい魂を吹き込んだ歴史的傑作カバーアルバム


<I>
近田春夫近田春夫は常に誤解を含んだ評価をされてきた。軽薄で口先だけの男に見えて実は凄腕のミュージシャンであるとか、ハズしっぱなしなのは常に時代の一歩先を行ってるからだとか、まあだいたいそんな感じである。しかしよく考えてみると実は二重に誤解されていて、まわりまわって裏の裏は表みたいな、そんな感じさえする不思議な人物だ。

では近田春夫はホントに凄腕のミュージシャンなのか?
例えば彼の技術面におけるキーボードプレイは、実際どれ程のレベルであるのか。
今はストレートな鍵盤プレイを鑑賞する機会がほとんどなくなってしまったが、日本ロック史の黎明期を眺めれば、プレイヤーとしての近田春夫はたしかに筋金入りだ。敬愛するBOOKER.Tばりのオルガンプレイなどは伝説的箱バン時代の聴きモノだったらしい。

ゴールデンカップスしかし当時のミュージシャンというのは、とにもかくにもテクニックが求められていて、演奏できるレパートリーの多さが評価に直結しているような時代だった。
そういう背景から各楽器ごとにバカテクと称する優秀なプレイヤーが百花繚乱のごとく生まれたわけだが、そのなかで近田のプレイが群を抜いて超絶的だったわけでもなかっただろう。同時期にはミッキー吉野なんて天才オルガニストもいたことだし。(写真:ゴールデン・カップス)

事実、近田が注目を集めるようになったのは演奏テクニックではなく、合間にはさむ抱腹絶倒のMCによってであった。
このへんのことは村八分のメンバーで、のちにハルヲフォンの結成に参加した恒田義見氏のハルヲフォンRELOADEDに詳しく書いてある。
日本ロックの創生期という時代の雰囲気が伝わってくる非常に面白いサイトなので、興味のある方にはぜひ一読をお薦めする。

では近田が常に時代の一歩先を行っていたという評価はどうだろうか?
思うに近田は風変わりなマニアなのである。それも誰も知らないモノに異常に詳しいというヲタク的探求タイプではなく、誰もが知ってるモノを自分なりに裏読みして果てしなく勝手に別方向に掘り下げてしまう、生来の風変わりなマニアなのだ。

バンド初期から筒見京平などの手による歌謡曲への傾倒は顕著だったが、ムード歌謡独特のビブラート唱法や予定調和の極地のようなケーデンスにとことんこだわったり、日本においてはYMOが突破口となったテクノミュージックを徹底的に下世話に処理してしまうセンスも、近田のねじれた着眼点においては正しいアプローチだったのだろう。
80年代に入るとテクノロジーの申し子であるヒップホップの料理法として、肉体による音像の究極的再現という手法を選択する。当時、それはファンクとどう違うの?といった野次もあったが、近田は日本語とリズムの関係を徹底的に追求していくのである。

結局どれもこれも商業的にはパっとした成果を残せなかったわりには、近田の評価は逆に高まり、さらに固定化されていくわけだが、さてこういった業績が時代を先取りしていたかというと、実はどれもこれも微妙に後乗りの感がある。
全て強烈なパイオニアがいて、それを近田が面白がって独自の方法で取り上げ、そのエッセンスの部分だけを巧みに取り入れた近田の表現手段を、彼の後輩ミュージシャン達が受け継ぎ、熟成させ、さら時を経て商業的成功を手中に収めるという構図だ。
そういう意味では時代の先駆者というよりも、良質なコンテンツを発掘しながら、常に仕掛けるタイミングを微妙にハズしてしまうという、損な、もしくは特異な体質の持ち主であるといえる。


<II>
珍しく一発当てたジューシー・フルーツは近田らしいアプローチが奇跡的に時代にハマったレアケースだが、小室やつんく♂ほどビジネス手腕に長けてない彼は、あっさりその地位も手放してしまう。
それはやはり戦略的に自らの趣向をコントロールするのではなく、実に素直に自分の趣味趣向に従って行動してしまうという、彼の生まれながらの性格に起因するのかもしれない。
しかしそういう近田の音楽バカ的な部分が、同業者に愛されリスペクトされる魅力の根源なのだろう。

とんねるず前述で「世間に評価されている近田の才能のありかた」を”誤解”と表したわけだが、真の近田の才能とはコーディネーション能力の高さだと思っている。

「こうやってハズすと妙にマッチする」というツボを、常人とは違った(もしくはズレた)感覚で見事に探り当てる才能は、CM音楽の傑作の一つであるとんねるずの「くぇっくぇっくぇ〜チョコボール〜♪」や、松浦あやのCM「午後の紅茶ポッポ編」においても見事に発揮されていた。

また洋楽邦楽問わずおいしいエッセンスを、絶妙なブレンド具合でオモシロおかしく自身の音楽に取り入れ融合させる技術は、訓練して出来るたぐいのものではないだけに、まさしく近田春夫的才能の最たる部分だ。


<III>
そんな近田が「電撃的東京」を作り上げられたのは、ほかならぬその風変わりなマニアックさゆえのタマモノだ。誰もが知ってる歌手の誰もが知ってる曲に、誰も試さないだろう方法論で新しい魂を吹き込んだ歴史的傑作アルバムである。

近田がロックミュージシャンであるにもかかわらずクールファイブの「そして神戸」をライブで朗々と歌い上げ、筒美京平を大賛美してきた裏側には、実は望む理想の才能が自分に備わってないことへの諦めきれない感情が高圧縮で蓄積されていたのであろうと思う。

熱望しても手に入れられなかった才能、それは歌唱力とメロディーである。
とくにメロディーメーカーへの強い憧れは、リズムへ傾倒していく過程においても、まだ色濃く残っていた。
近田は器用だから作曲でも編曲でも平均以上の仕事を手早くやってしまうが、極上のメロディー、大衆にバカ売れするヒット曲を大量に紡ぎ出すという才能だけは持ち合わせていなかった。そしてそれを自分の声で歌い伝えるという才能にも欠けていた。
無いモノに対する強い憧れと執着、それが近田を正統派とは真逆の方向に向かわせ、そして自らが開拓したフィールドにおいて唯一無二の存在になりえた力の源泉だった。

そうしたことも踏まえて、歌謡曲のカバー集であるこのアルバムを聴くと、近田の才能が最も良い形で発揮され、素材に対する深い愛情さえ感じさせる内容は、どれをとってもベストワークスと呼べるクオリティーに達している。

森進一など郷ひろみ、平山みきといった手慣れた素材は、いつも以上に期待を裏切らないし、ザ・ピーナッツフォーリーブスも出色の出来だ。職人的技術に裏付けされたタイトな8ビートが躍動感に溢れている。
本人達が曲のブリッジの回数をほとんど分からずに演奏していたという沢田研二の「気になるお前」はヴェルヴェット・アンダーグラウンドに通じるようなヘビーな仕上がりで、大げさに言えば現代のループミュージックが持つ陶酔感すら感じさせる。
限りなくデフォルメされた山本リンダやジャニーズJrスペシャル、ピーターのアレンジに至っては変態歌謡ロックの域に達しており、カバーされた本人達も思わず笑ってしまったのではないだろうか。

ハルオフォンというロックバンドの素晴らしさは森進一のカバー「東京物語」に集約されている。ロックギターのお手本のような小林克美のギターが唸りを上げ、バンド全体がえもいわれぬ疾走感のマグマの中へヒネり落ちていく感覚は、パロディックなムード歌謡唱法のネジれた磁場とからみ合って、トランス状態まで導いてくれる。

ピストルズが出現し、世界がロックにアナザーワールドを垣間見ていた時期、不世出のジャパニーズロックバンド「ハルオフォン」はこのアルバムをもって解散となった。思えば明らかにクォリティーの落ちる自作曲「恋のTPO」をおまけのようにアルバムに入れているあたり、近田自身がバンドサウンドによる歌謡曲へのアプローチに限界を感じていたことのサインだったのかもしれない。

考えるヒット後年、近田氏とたまたま深夜のカフェで隣席したさいに「電撃的東京は大好きで今でもよく聴くんですよ」と言ったら、「やめてくれよ(笑)」と言ってニヤリと笑ったのが印象的だった。


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(22:10)

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音楽が好きだ! (3) 近田 春夫 某mixiで、Dr.Tommy氏やOTO氏の書き込みとかビブラストーン(VIBRASTONE)コミュニティーとか見てて、最近またビブラ熱が上がってた矢先、たまたま見つけた本です。 「ぼく、近田春夫(ちかだはるお)。12人編成(へんせい)の大バンド...
2. 近田春夫&ハルヲフォン『ハルヲフォン・レコード』  [ ポンチレコード本舗 ]   2005年10月28日 21:49
キャッチーなメロディ−があって、ユーモアがあって毒もあって、おまけにバカテクまである。これ、歌謡ロックのアルバムとしてほとんど完璧です。ユニコーン、すかんち、シャ乱Qあたりには間違いなく影響を与えたはず…ていうか、ROLLY(すかんち)の場合、このアルバムの1曲
3. ●近田春夫とハルヲフォン  [ アナロ-ブログ ]   2006年11月29日 10:20
MUSIC   ★”早すぎた、時代の異端児だったのか?”                      現在(いま)こそ、「COMEON,LET'SGO!?」               近田春夫とハルヲフォン                          ...

この記事へのコメント

1. Posted by 雑食ミュージシャン5    2005年10月21日 00:00
TB、コメントありがとうございます。
とても濃い情報で、大変参考になりました。ありがとうございます。

近田先生には、是非また復活して頑張って欲しいんですが。
2. Posted by 特撮ベーシスト5    2006年11月30日 18:32
はじめまして。TBではお邪魔しました。
最後の一文、「やめてくれよ(笑)」と言ってニヤリと笑った・・というのがやけに心に残りました。
今後ともよろしくお願いします。

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