2008年07月12日

歩いても 歩いても / 是枝裕和監督作品

歩いても休日出勤の振替休暇が突然とれることになった昨日の金曜日。夜はCHABOのライブに行くことになってたからいいとして、昼間はぽっかり時間が空いちゃいました。
妻も子供もいない平日の昼下がり。あーっのびのびする…はずなんだけど、いきなり休みになると、逆に何していいのかわかんなくなっちゃうのがサラリーマンの悲しい性(苦笑)。
今日はジムも休みだし、銀座に出て映画でも観ようと思って見つけたのがこれです。なんとなくこんな日にふさわしい映画なんじゃないかと思ってね。予備知識はほとんどなかったんだけど、『誰も知らない』を撮った是枝さんの映画ならば、間違いないだろうと…。
大正解でした!決して派手な映画ではありませんが、じわじわと心に余韻が染み渡るような素晴らしい作品でした。

あらすじはこんな感じです。
ある晴れた夏の日、開業医を営んでいた横山恭平(原田芳雄)と妻とし子(樹木希林)の家に、長女ちなみ(YOU)と次男良多(阿部寛)の家族が帰省してきます。それぞれの家族を連れ、いろんな話をして、食べて、飲んで、墓参りして、風呂入って…。そんななんてことのない二日間の物語。
そう、この映画は見事に何も起こりません(笑)。ありふれた里帰りの光景が淡々と描かれるだけです。ちょっとだけ普通と違ってるのは、この家にはかつて長男がいたんだけど、だいぶ前に海で他人の子供を助けようとして亡くなってしまっているらしいこと。そして、夏の日にこうして家族が集まるのは、長男の命日に合わせてのことだってことです。
それから、次男の良多は実は今失業中。優秀だった兄といつも比較され、医者として後を継いで欲しがってたのに別の道に進んじゃったことで、もともと父とはそりが合わなかったのに、これでますますぎくしゃくしちゃってる…。
もちろん、失業してることは妻(夏川結衣)しか知らない秘密です。おまけに、妻と良多は再婚同士。一緒に連れてきた子は妻と先夫との連れ子です。
でも、これだって今時そんなに珍しい話じゃないでしょ?要するに、この映画は親と離れてそれぞれの日々を送っているような人なら、誰もが思い当たるようなある日の光景を描いた映画なんです。

このなんにも起こらないってのがとにかくリアルなんですよ(笑)。それぞれの人生の機微が現れている些細な言葉や行動に、つい引き込まれていってしまいます。
母も父も、子供も孫も、血の繋がった肉親という関係であるがゆえに起こり得る甘えや厳しさをお互いに持ってしまう。そして、日々を重ねていくにつれ、お互いに少しずつ求めるものや差し出すものがずれていってしまう…。そんな家族の姿が、この映画には驚くほどリアルに再現されていました。
それに加えて、失われた命と救われた命、血は繋がってないんだけど家族となろうとする者の切なさなんかも表現されていて、映画が進むにつれて登場人物の内面が観客にもどんどん伝わってくるんですよ。
時として相反する感情がぶつかりそうにもなるんだけど、その寸前にくすりとした笑いが挿入され、映画はまたまた穏やかな空気に…。このあたりは、まるで久しぶりに会った親戚同士の飲み会のよう(笑)。うーん、やっぱり是枝監督、巧いです!

この映画を観た人は、誰もが自分と自分の家族とのことを思い返すと思うんです。
僕もそうでした。不肖ワタクシ、42歳。妻1子2。妻とは結婚して13年目。子供は上が小学5年生。下は4歳。都内で30年ローンを組んだマンション暮らし。まあ、いろいろあるけど仕事はまずまず順調。家庭もいろいろあるけどまあまあ順調です。
でも、親との関係、夫婦関係、子供との関係の三つをずーっとうまく保ち続けるって難しいですよね。結婚して家庭ができるってことは、家族がもう一組増えるってこと。そして、遠い家族と近い家族ができてくる。遠い家族は、遠いんだけど血の繋がった家族。近い家族は、血は繋がってないんだけど努力して築き上げた関係。そして、近いんだけど口にできないこととか、遠いんだけど口にしてしまえることとかを通して、人生にはいろんな澱が溜まってくるんだと思うんです。

前にも書いたことがあるけど、この世の中に100%幸せな人生を送ってる人なんていないと思うんだよね。誰もが少しだけ幸せで、少しだけ切ないものを抱えて日々を送ってる。それをお互いに補ったり、癒しあったりしていくのが家族という存在なんだろうけど、実際はこれがなかなか難しい…。

最後の最後に阿部寛がこんなことを言うんです。

「いつもいつも、少しだけ間に合わないんだよなあ…」

そう、そうなんだよなあ…。なんか、ぐっときてしまいました。
いつか一緒に海外にでも行こうか…。一度ぐらい銀座の一流どこで食事しようぜ…。こんどゆっくり温泉にでも連れてってやるよ…。子供の運動会、今度誘うわ…。これ、全部僕が田舎の父母にいった言葉です。はい、お察しの通り一つも実現できていません(苦笑)。
ふと口にした約束は果たされず、目先の言葉で傷ついたり。そうかと思うと、予期せぬ驚きに嬉しくなっていつまでも笑いあったり。遠い家族ってのはほんとに難しいです。いくつになっても、何年経っても…。
それだけに、ラストのシーンには、オレかなり胸に迫るものがありました。これから夏休みを迎えるにあたって里帰りをする人も多いと思うけど、その前にこの映画を観ると、かなりぐっとくるかもね…。

役者さんも、みんな芸達者な人ばかり。特に樹木希林さんはもう絶妙でした!この人は、今日本一お母さん役がうまい女優さんかもなあ(笑)。夏川結衣さんのバツイチの奥さん役も最高。いい女優さんになったなあ、夏川さん。

映像もとても綺麗です。台所の窓から射す夏の日差し。木々の緑。墓参りの長いだらだら坂。いつかどこかで見たことのあるような、夏の日の美しい映像に郷愁をそそられました。音楽はゴンチチ。素朴なギターの音色が美しい映像をより引き立ててましたね。
あと、最初の方に出てきた横山家の家庭料理、とうもろこしの天麩羅がむちゃくちゃ美味そうだったなあ!(笑)

hendrix69 at 15:07│Comments(2)TrackBack(0)clip!映画 

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この記事へのコメント

1. Posted by Sala   2008年07月13日 14:41
旧名Roco。『GIFT from the SEA』のSalaです。
(最近、HN変更致しました)
お久しぶりでゴザイマス。
ところでこの映画、私がよくお邪魔させて頂いているブロガー様も絶賛されておられました。関西ではまだ公開されていないのですが、HAGAさんのレビューを呼んでスッゴク楽しみになってきました。

特別なことはなくても、カレーとか、HAGAさんいいパパですよね♪そういう日々のことが大きいと思いまぁ〜す。
2. Posted by Y.HAGA   2008年07月13日 18:58
◆Salaさん
お久しぶりです。この映画はあんまり期待せずに行ったんですが、それだけに感動は大きかったですね。家族の風景を描いたところは、小津映画の現代版みたいなタッチも感じました。
思うんですけど、最近はこういうシネコンで上映されるような日本映画に秀作が多いですねえ…。ハリウッドの大作ももちろん好きですが、こういうさりげない映画作品に、堪らない愛おしさを感じます。

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プロフィール
Y.HAGA
1965年生まれ。高校時代にROCKに目覚めて以来、いまだに思春期が終わらない。相も変わらずライブハウスに通い続ける日々。妻1子2。仲井戸“CHABO”麗市ファンサイトcafe HENDRIXの管理人。
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