2008年11月18日

【映画】 ゆれる / 西川美和 案・脚本・監督作品

ゆれる

これは2年前に劇場公開された映画です。当時はそれなりに話題になったみたいですが、僕は全然知りませんでした。今年の夏にNHK BSで放送されたのをなんとなく録画してたんだけど、最近までそれすら忘れてて(苦笑)。
で、先週末にふと思い出してぼーっと見始めたんですが、すぐにモニターの前で座り直してしまいました。凄い映画だわ、これ!何の先入観もなく見たのがかえってよかったのかもしれませんが、まったく先の読めない展開に釘付けになってしまいましたよ、俺は。

物語は2人の男と1人の女を軸に展開します。オダギリジョー演じる早川猛は、退屈な田舎町を飛び出して、東京で成功を収めたカメラマン。香川照之演じる早川稔は彼の兄で、田舎で父親の経営するガソリンスタンドで働いています。都会で気ままに生きる猛と、田舎町で地味に生きざるを得ない稔。何から何まで対照的な2人なんですが、2人の間には子供の頃と同じように強い絆がありました。

ある日、猛は母親の葬儀に参列するため久々に故郷に戻り、そこで昔の恋人だった真木よう子演じる川端智恵子と再会します。奇しくも彼女は今、兄の稔と同じガソリンスタンドで働いており、稔は彼女に密かな恋心を抱いています。
ところが、彼女は稔のことなどまったく眼中になし。退屈な田舎町の生活に鬱々とした日々を送っています。そして久々にあった猛に抱かれ、都会への憧れをますます募らせていきます。

猛が東京に帰る前日、稔の発案で小さい頃よく家族で出かけていた渓谷へ、智恵子も連れて遊びに行くことになったのが、3人の運命を大きく変えてしまいます。欄干がところどころ朽ち欠けた吊橋の上で、東京に出ることを決めた智恵子は稔と揉み合いに。そして、ふとした拍子に彼女は橋から転落…。
一部始終を見ていた猛は、兄を守るため、これを事故として片付けようとします。しかし、智恵子の死に不審な点があることが判明し、稔は逮捕されてしまいます。ゆれる吊橋を渡る前と後で大きく運命が変わった兄と弟。猛は稔の無実を証明しようと、裁判に立ち会いますが…。

最初はありがちな映画かと思ってたんですよね、オレ。レザージャケットを着て助手席にイカした女の子を乗せ、田舎町を中古のアメ車で流す猛。オダギリジョーのチャラい風貌も手伝って、ここまではロードムービー風の話が展開されるのかと思ってました。
ところが、吊橋を渡ったあたりから映画は思いもしなかった人間ドラマに変わっていくんです。人を殺めてしまった背徳感とどん詰まりの絶望から、稔は長い間胸の内に秘めていた暗い感情を呼び覚ましていきます。自由に生きる弟への嫉妬。こんな事件を起こしてしまった自分の運命を呪う気持ち。田舎町と家族のしがらみに囚われてしまった自分の人生への嫌悪…。それはやがて、ずっと前から心のどこかでは猛を信用していなかったという、決して言ってはいけなかった一言を弟にぶつけるまでになってしまいます。

とにかく、静かに荒んで行く香川照之の演技は凄まじいです。前から巧い役者さんだと思ってましたが、これほどとは…。台詞を言わないでオダギリジョーと向き合うだけのシーンでも、ものすごい説得力があるんですよ。普通の男の狂気を演じさせたら、今やこの人の右に出る役者さんはいないんじゃないかとすら思いました。
オダギリジョーの演技の巧さは言わずもがな。この映画はオダギリジョーと香川照之という実力派2人の演技が火花を散らします。両者とも空気を作る俳優ですから、抑えた演技がいっそうの迫力を持って迫ってきます。エキセントリックなオダギリと、普通の中の狂気を表現する香川照之。2人の役者が役を超えて激しく主張しているようでした。

そして真木よう子。オレ、最近この女優さんが気になってしょうがないんです(笑)。この人の魅力は、演じる役柄によって顔がまったく違って見えること。この映画で田舎町の女を演じる彼女は、まるで昭和の女優みたいな顔をしていました。
最近、彼女は結婚・妊娠していることを発表しましたが、これは間違いなく女優としての引き出しを増やすことになると思います。人妻になり母親となって、今後の彼女がどう変化していくのか、僕はすごく楽しみなんです。

この映画を撮ったのは西川美和さんって人。ホンも自分で書いてます。なんでも、自分の友人が人を殺してしまうという夢を見てこのストーリーを思いついたんだとか。恐ろしい話ですが、それをここまで凄まじい話に膨らませてしまえるのは才能以外の何物でもありません。おまけに彼女、長編はまだ2作目なんですって。いやもう、恐れ入谷の鬼子母神です(苦笑)。

この映画で、西川監督は家族という危い絆の崩壊と再生の物語を描きたかったんだと思います。
いろんな見方があるでしょうけど、僕は、稔はどんなに堕ちようとも最後まで兄弟としてのギリギリのラインを超えることはなかったと思ってるんです。それは、智恵子が死ぬ前日の夜、猛と寝たことを知っていながら、最後までそれを言わなかったことから感じます。
そして、智恵子と寝てしまった事実は、猛自身にとってもずっと負い目だったと思うんだ。兄の知恵子に対する気持ちを知りながらも彼女を抱いてしまった後ろめたさ。そして、そのことが智恵子にとっては典型的な田舎町の男にしか見えなかった稔への嫌悪感をますます燃え上がらせてしまった。しかも、この夜のことに兄は気が付いていた…。そんな背徳感が猛にはずっと付きまとっていたんだと思うんです。

あんまり言うとネタばれになっちゃうんだけど、最後の法廷の場面では、猛が証言したことですべてが覆ってしまいます。稔は殺人の罪を被り、7年の刑期に…。
これは、その前の刑務所での面会シーンも含め、稔はわざと猛に憎々しいことを言って、猛が自分を憎んで不利な証言をするように仕向けたんじゃないかと思うんですよね。何故そんなことをしたのか。それは、これがイコール長男として最後まで家を守ろうとする行為だと稔は考えたからだと思うんです。
猛は、兄が刑期を追える七年後まで、そのことにまったく気がつかなかったんだと思います。そして、兄が刑期を終える前日に、かつて家族で行った渓谷の8ミリフィルムを見返すことでやっとそのことに気がついた…。悲しい。切ないです。

ラストシーンは、観客にその後を考えさせる結末になっていました。
これから観る人もいるでしょうから、これ以上書くのは止めます。ただ、ひとつだけ思ったのは、どんな兄弟においてもどんな家族においても、ゆれる吊橋はかかっているのだということ。そして、腐った板が蘇り、朽ちた欄干を持ち堪えさせるために、みんなそれぞれの人生を生きているんだな、っていうことです。

いい映画です。すごく考えさせられました…。

hendrix69 at 22:02│Comments(2)TrackBack(0)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by 永岡瑞季   2008年12月10日 08:17
5 はじめまして!
わたしも「ゆれる」を遅ればせながら観ました。
レビューを読ませていただいて
すごくきちんと観ていらっしゃるな〜と
感動しました☆
わたしは、香川照之(稔)が
智恵子が酒を飲めないことを知っていて
かまをかけているところとか、
裁判で智恵子が前日に稔以外の男性と
性交していることが知らされて
傍聴席に(つまり猛に)深々とおじぎするところとか、
稔の深い深い念のようなものを感じて
すさまじいなと思いました。
わたしも感想を書いていますので
もしよろしければ遊びに来てください♪
TBもさせていただきますね。
それでは〜!
2. Posted by Y.HAGA   2008年12月14日 16:42
◆ 永岡瑞季さん
この映画はある意味オダギリジョーと香川照之の演技対決みたいなところもありますよね。僕の判定では鼻の差で香川さんの勝利(笑)。普通の人の秘めたる暗部が徐々に露になっていくようで、鬼気迫るものを感じました。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
プロフィール
Y.HAGA
1965年生まれ。高校時代にROCKに目覚めて以来、いまだに思春期が終わらない。相も変わらずライブハウスに通い続ける日々。妻1子2。仲井戸“CHABO”麗市ファンサイトcafe HENDRIXの管理人。
最新コメント
最新トラックバック
20世紀少年 (Blueの雑記帳(2nd edition))
【映画】 「20世紀少年」
今は・・・ (奥行きの深い日々)
役立たずの神様へ