2009年06月18日

【映画】レスラー

レスラー

この映画の主役は、ランディ“ザ・ラム”という初老のプロレスラーである。80年代には会場に満員の観衆を集める人気レスラーだったのだが、年齢とともに凋落。今は衰えた身体をステロイドとクスリで騙しながら、場末のリングで細々と試合をしている。生活も荒み、家族とは別離。昼間はスーパーマーケットで働いているが、トレーラーハウスの家賃にも困るような暮らしぶりだ。
ある日、ランディは試合後の控え室で心臓発作を起こしてしまう。一命は取り留めたもののリングからは引退せざるを得ない。だが、プロレスラーからただの男に成り下がったランディには何も残っていない。失ってしまった人生を、ランディはスーパーの仕事と、疎遠になっていた娘との関係を修復すること、そして同世代のストリッパーとの淡い恋とで取り戻そうとする。
それは少しずつ形になりそうだったのだが、一夜の過ちからその芽を自ら摘み取ってしまった。すべてを失ったランディは、ドクターストップがかかっているにもかかわらず、プロモーターから持ちかけられた20年前の名勝負の再戦のため、再びリングへ…。

ストーリーを書くと陳腐に聞こえるかもしれない。日本人なら「明日のジョー」の二番煎じじゃねえかと思うかもしれない。でも、ランディ役を務めた一人の俳優が、そんなありふれたストーリーをものすごくリアルなものにしてしまったのだ。

ランディを演じたのは、あのミッキー・ローク!80年代、二枚目俳優として一世を風靡するも、近年は人気が急落。俳優と並行して行っていたボクシングの影響で端正な顔面は崩壊し、その整形手術にも失敗。加えて酒とクスリに溺れた生活が彼の容姿を著しく変貌させ、今や二枚目俳優の面影はほとんどない。オレなんて、最初スクリーンに出てきたロークを見て、一瞬誰だかわからなかったぐらいだ。
そんな彼が、一世一代の大勝負を賭けて臨んだのが、このランディ“ザ・ラム”役だったわけ。この映画の何が切ないって、主人子ランディの生き様がそのままミッキー・ロークの半生そのものに見えるところだろう。

ロークの不自然にビルドアップされた身体は明らかにステロイドの使用が伺える。隠し持ったカミソリで出血するギミックは本当に自らの額をカットしたらしい。危険なプロレスシーンも、かなりの部分は吹き替えなしだったという。この映画、ミッキー・ロークは並々ならぬ熱意を持ってのぞみ、本物のプロレスラーになりきったのだ。
ロークの入れ込みぶりは監督のダーレン・アロノフスキーにも伝わった。製作会社は、落ち目のロークを降ろし、数字の取れるニコラス・ケイジで撮り直せと圧力をかけたらしいが、アロノフスキーはがんとして首を縦に振らなかった。その結果、制作費を大幅に削られることになったというが、それでも彼はロークに賭けたのだ。

もうあとは何の説明もいらない。オレは客席で固まってしまった。まるでドキュメンタリーだぜ、これは…。
老いとの絶望的な闘い。全てを失ってもなお這い上がろうとする凄まじさ。夢と現実との狭間でもがき続ける孤独な魂…。ここまでさらけ出したミッキー・ロークの男気を、オレは心の底からリスペクトする。

それから、ランディと熟女ストリッパー、キャシディとの関係も強く心に残った。
老いたレスラーと年増のストリッパー。老いへの不安を隠しつつ、それぞれの仕事にプライドを持つ2人は実は似た者同士なのだ。心の奥ではキャシディも孤独でランディに好意を持っているんだけど、プロの踊り子としての誇りが店外での付き合いを許さないのだ。それが切ない。
そんなキャシディも、最後の最後は会場へ走ってリングに上がろうとするランディを止めるんだけど、それを振り切ってランディは観衆の待つリングへと向かう。自分が輝いていた頃のテーマ曲、ガンズ・アンド・ローゼスのスイート・チャイルド・オブ・マインにのって…。このシーン、オレは泣けて泣けてしょうがなかった。
リングに上がる前のミッキー・ロークの顔と言ったら、もう…。悲しみと、諦めと、精一杯のプライドと、キャシディへの愛情とが入り混じった、なんともいえない表情で彼は振り向くのよ…。

試合前のマイクアピールで彼は観客に語りかける。自分はもうボロボロだと…。だが、引退を決めるのは医者でも自分でもなく、ファンだと。ファンこそが家族だと力強く宣言するのだ。
試合が始まり、やはり彼の心臓は異変をきたす。それでも彼はトップロープから飛んだ。自らの身体を張った大技“ラム・ジャム”をやり遂げるために…。映画はランディが飛んだ瞬間に暗転し、ブルース・スプリングスティーンによるテーマ曲が静かに流れて終わる。

エンドロールが終わった後も、オレはしばらく席を立てなかった。長い長い余韻が残った。いろんなことを考えた。

プロレスとは虚構の芸術である。現実には恨みも何もない相手と本気で殴り合い、時には凶器を使って身体を傷付けてまで観客の興奮を煽る。リアルファイトではないが、流す汗と血は紛れもなく本物。そして、試合から得られるレスラー・観客双方のエクスタシーも紛れもなく本物なのだ。
そのリアルなエクスタシーを作り出すために、プロレスラーは無茶な技を繰り出し、時にはステロイドやドラッグを使ってまで自分の肉体を極める。健常な身体や平穏な暮らしを犠牲にしてもだ…。
そんなことに命を賭ける生き方を理解できない人もきっと多いだろう。でも、たとえ虚構であれ、非日常的な興奮に魅せられ、そこに身を捧げてしまう生き方に共感してしまう人だって同じくらい多いはずだ。

少年時代、自分は熱烈なプロレスファンだった。そして、今でも自分はプロレスラーの武骨な生き方にどこか憧れを持っているのだ。かつて、すべての格闘技の中で一番強いと信じていたプロレスラーが、実はギミックだらけだったことを知ってしまってもその気持ちはいささかも変わらない。
そこには三沢光晴の死という事実も多少影響していたかもしれないし、更に言うなら、ランディが死を覚悟してまでリングに上がり続けたその理由は、忌野清志郎が咽喉癌の宣告を受けても喉にメスを入れることを拒否し、最後までボーカリストであろうとし続けた理由と共通しているとオレは思った。

場末のストリッパーを演じたマリサ・トメイもあっぱれ。
なにしろ、上も下もさらけ出してポールダンスまで披露しているのだ。その脱ぎっぷりは豪快と言ってもいいぐらい。実際、彼女のカラダはとても44歳のものとは思えない。素晴らしくエロチックだった。女優魂だよ、正に。日頃そうとう鍛錬してるんだと思う。ある意味、ミッキー・ローク以上に闘ってたな、彼女は。

切なく、誇り高い映画。見終わった今もまだ胸がじんじんしている…。

hendrix69 at 22:02│Comments(3)TrackBack(0)clip!映画 

トラックバックURL

この記事へのコメント

1. Posted by ショートケーキ   2009年06月20日 14:39
初めまして。キヨシローが大好きで時々こちらにうかがってました。
レスラー!!最高ですよね。昔の色男ミッキーロークと同一人物とは思えない外見だけど、あのクールさは変わってないですね。この映画での彼はリアリティ100%でランディの生活を見てるのか、ミッキーロークの生活を見てるのか途中でわからなくなるほどでした。マリサ・トメイもあのうら悲しさが、すばらしかった!アカデミー賞を獲得したスラムダンク・ミリオネアもよかったけど、私はレスラーが一押しです。
2. Posted by Y.HAGA   2009年06月22日 12:52
◆ショートケーキさん
外見は変わったけど、やっぱりミッキー・ロークはミッキー・ロークだったってところかな。特に、娘を前にして目に涙をためながら「オレは孤独だ」って言うところなんか、往年の泣きの演技炸裂でしたね。あれで女性ファンはコロッと行っちゃうんだなあ、きっと(笑)。
この映画、舞台はニュージャージーあたりなんでしょうか…。寂れた遊園地とかボードウォークとか、まるでスプリングスティーンの歌の世界そのままでしたね。
3. Posted by zebra   2011年11月19日 20:32
友達とDVDで見ました

ニコラス・ケイジではなくロークをダーレン監督は強く推したそうですが それについて友達も
 「ニコラス・ケイジじゃレスラー役はムリだろ あいつ、ギャラうるさそうだし・・・」だと。


 >それは少しずつ形になりそうだったのだが、一夜の過ちからその芽を自ら摘み取ってしまった。
 あんな過ちで娘さんとの約束をすっぽかすのは さすがに まずいだろ

>80年代、二枚目俳優として一世を風靡するも、近年は人気が急落。俳優と並行して行っていたボクシングの影響で端正な顔面は崩壊し、その整形手術にも失敗。加えて酒とクスリに溺れた生活が彼の容姿を著しく変貌させ、今や二枚目俳優の面影はほとんどない。

 ローク自身も不器用だな!80年代は全盛期だったのに、ボクシングのために自分から全盛期を捨てちゃって・・・


 そういえばロークは「ホーム・ボーイ」というアメリカ各地を渡り歩く流れ者ボクサー"ジョニー"を演じていましたよ。

 ジョニーもまた「レスラー」のランディ同様 生き方が不器用なんですねェ〜

 好きになった女性が経営する遊園地が閉鎖寸前の状況のなか 彼女の遊園地再建のためジョニーはファイトマネーが高い試合を挑むのですが、 ジョニー自身頭蓋骨にヒビが入っており ボクシングはムリにも関わらず 戦おうとしました
 
 ロークが演じた「レスラー」のランディと「ホーム・ボーイ」のジョニー

 ふたつの作品の ふたとおりの不器用な男を比べてみるのも悪くないですよ。

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
プロフィール
Y.HAGA
1965年生まれ。高校時代にROCKに目覚めて以来、いまだに思春期が終わらない。相も変わらずライブハウスに通い続ける日々。妻1子2。仲井戸“CHABO”麗市ファンサイトcafe HENDRIXの管理人。
最新コメント
最新トラックバック
20世紀少年 (Blueの雑記帳(2nd edition))
【映画】 「20世紀少年」
今は・・・ (奥行きの深い日々)
役立たずの神様へ