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2012年09月

 中国で「反日デモ」が過激化している。日本車、日本料理店、日系デパート、日系企業の工場などへの襲撃が相次いでいる。普段、少しくらいの騒動であれば涼しい顔をしている在中日本人も「今の雰囲気はこれまでとは違う」とこぼしている。

 その反面、少なくない数の中国ウォッチャーが「官製デモ」を指摘しており、中国政府によって容認・コントロールされた反日デモである可能性も高い。9月16日現在日本人の死者・重傷者は出ていないが、このまま犠牲者の無いまま事態が収束して欲しいものだ。


 今回は、その中国で成功するという覚悟を決めて、努力をしている日本人俳優の話をしたいと思う。


 まだ私が北京にいた頃、とある日本人が主催する舞台の手伝いをした事がある。そこで知り合った俳優志望の日本人が言った言葉は今でも忘れられない。

「俺は日本兵役をやらずに中国で役者として成功して見せる」

「日本兵役?」と思う読者もいらっしゃるかもしれないが、中国では未だに日中戦争をテーマにした「抗日ドラマ」がこれでもかというくらい頻繁に放送されている。日本人と知り合う機会のある都市部や観光地の中国人は別として、田舎の中国人の「日本人像」は学校教育と、この「抗日ドラマ」で形作られる側面がある。実際、煽られて反日デモに参加している人達はこういったものに強い影響を受けている人が多い。


 私も中国の田舎で知り合った中国人の家にお呼ばれしたら、おじいちゃん・おばあちゃんが「抗日ドラマ」を楽しそうに見ていて、その状態で食卓を囲むという気まずい経験や、長距離列車の中で隣の中国人に話しかけられて「生の日本人を見るのは人生で初めてだ。(抗日)ドラマで見る日本人とはまたえらく違うな」なんてことを言われた事もある。


「抗日ドラマ」に出てくるステレオタイプな日本兵(将校)は小太り・ちょび髭という格好で、強盗・暴行・拷問・レイプなど悪行三昧の絵に描いたような悪役だ。


 多くの中国人が知っている日本語は、実は「こんにちは」「ありがとう」ではなく、「ミシミシ(飯、飯)」「バカヤロウ」。これは抗日ドラマに出てくる暴力的な日本兵が口にしていたセリフであり、私自身も中国の田舎で「お前日本人か!俺、日本語話せるぞ。ミシミシ・バカヤロウだろ」と言われたのは一度や二度ではない。多くの場合、本人たちには悪意がなかったりするからたちが悪い。「ところでバカヤロウってどういう意味だ?」なんて事を平気で聞いてくる。「ミシミシ(飯、飯)」は悪役である日本兵が中国の民家に土足で踏み込んで「さっさと飯を出せ!」という暴力的な場面で使われる事が多いようだ。

 
 この「ミシミシ(飯、飯)」の中国での浸透度が分かる事例として、過去に日本の偽造パスポートを使ってアメリカに不正入国しようとした中国人が、入国審査で「日本語話せるか?」と聞かれて「YES、ミシミシ」と答えてばれたという嘘の様な本当の話がある。

 
 中国で既に成功している日本人としては、矢野浩二氏という「中国では一番有名な日本人俳優」がいる。日本では俳優として成功せず、中国に渡って来たばかりで仕事の無い時期には、上記のようなステレオタイプな日本兵を演じていたが、現在ではその枠を出た様々な役を演じており俳優として成功している他、中国で最も有名なバラエティ番組「天天向上」のレギュラー出演者の座を得ている。

 この番組は6人の司会者達が、週ごとのテーマに沿ったゲストとのトークやショートコントを繰り広げる人気番組で、中国では2億人から3億人の視聴者がいると言われている。彼はその番組の司会者の一人として活躍し、2008年には中国の雑誌「新周刊」によって娯楽司会者賞を授与されている。


 今年末にはビビアンスーも11年ぶりに出演する日本ドラマ「金田一少年の事件簿 香港九龍財宝殺人事件」にも出演予定であり、中国で最も成功した日本人の一人と言えるかもしれない。


 それでも、これまで抗日ドラマなどで多くの日本兵役を演じてきており、中国人の中ではその「日本兵」のイメージもかなり強い事は確かだ。


 中国での成功者としては、彼の他にも俳優ではないが「中国で一番有名な日本人」と称して日中両国でコラムニストとして活躍している加藤嘉一氏がいる。北京大学のいち留学生として中国での生活をスタートさせた後、反日デモに参加した事をきっかけに中国・香港メディアで発信するようになり(公式HPの情報によれば)最盛期には年間300本以上の取材を受け、200本のコラムを書き、テレビでもコメンテーターとして活躍し、現在では中国版ツイッターでフォロワー150万人以上を有するに至っている。


「日本人として中国で中国人向けに発信する」という点が彼が注目された理由でもあるわけだが、中国で日本の批判をしながら、日本では中国の問題点を指摘するという立ち位置からか、多くの支持者を持つ反面、日中双方で批判を受ける事も多い。こういった批判に対して彼は「(日中に情報発信するという)土俵に立つ事が大事であり、そのためにも、日中双方で発言が違うのは仕方がない」という主旨の反論をしている。が、見方を変えれば自己の成功のために日中それぞれで調子のいい事を言っている様にも見える。

 
 前述の舞台で知り合った俳優の方々に聞いた話だが、日本の有名俳優ならともかく、駆け出しの俳優にオファーされるのは未だに「日本兵役」であり、中には既に日本兵役を演じたことのある方もいた。ある意味、先駆者である矢野氏の作った成功への道とも言えるかもしれない。が、彼らの思いがどうあれ日本から見てみれば、見方によっては「売国奴」という人もいるかもしれないし、成功のために中国側に迎合した「政治の道具」という人もいるだろう。


 冒頭で紹介した彼の「俺は日本兵役をやらずに中国で役者として成功して見せる」 という言葉はこういった背景から来ている。彼の言葉からは「俺は政治の道具にはならない」という強い思いを感じた。将来、俳優として成功したとしても、「過去に日本兵を演じた。政治の道具になった」という事実は消えないという事を、先駆者たる矢野氏を見て感じたのだろうと思う。

 
 中国人など外国人に日本に対するイメージをつくるのは何も政治家や知識人だけではない。表現者として俳優を含む芸能人の影響は計り知れない。そういう意味でも彼のような人間が増えるということは日中関係にとっても重要なことであると思う。

 もちろん中国という国で、彼のような「政治の道具にはならない」という信念を持った挑戦者が成功するためには、越えなければならない壁が数多く存在するだろう。それに対して彼は「だからこそ私はオンリーワンになれる」と清々しさを持った表情で語っていた。

 私は常々、国家間の新たな関係は新たな挑戦者が作ると思っている。実際、矢野浩二氏は「抗日ドラマにおけるステレオタイプの日本兵」のイメージを変えたという評価を受けている部分もあり、加藤嘉一氏に関しても彼の書いたコラムによって日本の新たな側面を知った中国人も少なくない。彼らの挑戦が与えた影響は確かに大きい。大きいがそのために中国に売り渡したモノもあったのも確かだ。だからこそ、強い信念を持った彼のような挑戦者こそが、これからの日中の新たな関係を作っていくのは間違いないだろう。

■松野幸志:台湾在住のフリーライター。
一年前までは北京に長期滞在の中国通。
ツイッター https://twitter.com/matunokouji 

(有料メルマガhttp://www.mag2.com/m/0001552211.html 2012年9月20日号に掲載した記事です)

【北朝鮮が動く! ビデオ撮影OK、金剛山へもいらっしゃい】

~北朝鮮観光の変化に見る“改革開放”の先触れ~

 今年8月29日、4年間中止されていた日朝協議が北京で再開された。今回の協議は課長級で行われたこともあり、目立った“成果”は発表されなかった。しかし、これは近々開かれる予定の局長級会談のための助走で、本番の局長級会談では、日本側が要求している拉致問題の解決に向けた何らかの前進的な決定がなされる可能性が高い。もし、北朝鮮が日本からの“賠償金”獲得のため拉致問題で何らかの譲歩を行うとしたら、北朝鮮の“改革開放”の方向性は本物であることが証明されるであろう。不倶戴天の敵である日本に、若干の“譲歩”をしても賠償金を得たということは、北朝鮮が金日成、金正日時代とは全く異なる時代を迎えること、そしてこれまでとは全く違う日朝関係を築く気があることの証明に他ならないからである。

 この時期に、急に日朝会談が再開されたのには、現在の金正恩体制の成立とその動向が大きく関係していることは、衆目の一致するところであろう。先に金正日の料理人であった藤本健二氏が金正恩の招待で平壌を訪れたが、これは今回の日朝会談の助走であったことは間違いないだろう。

 金正恩を頭に抱く北朝鮮新指導部はどこへ向かおうとしているのか……。

 2012年4月に故金正日総書記の三男金正恩氏が第一書記に就任して以来、北朝鮮はめまぐるしく変わり始めている。これまで後ろ盾とされてきた人民軍のトップ李英浩の解任、叔父で最側近の張成沢の中国訪問、145名の女性労働者の中国出稼ぎ派遣容認と、次々に発せられるサインは明らかに北朝鮮が“改革開放”へカジを切りつつあることを示している。

 ところで、最近私が懇意にしている中国吉林省延辺朝鮮族自治州出身の朝鮮族から“貴重”な情報が寄せられた。

 実は彼はベテランの旅遊業者で、北朝鮮観光では豊富な経験を持つ人物である。彼によれば北朝鮮の“改革開放”の先陣を切っているのが観光業であるということだ。

 彼ら、中国の旅遊業者は観光業という視点からここ10年の北朝鮮の変化をつぶさに見てきたのであるが、観光業は北朝鮮の動きが業績に明確に反映するが故に、また何度も北朝鮮を訪れその実態をつぶさに見ているが故に、彼らの北朝鮮”改革解放“を見る目は確かなものがある。

・北朝鮮観光で制限が大幅に“緩和”?!

 これまで観光業は北朝鮮では数少ない“合法的”“な外貨獲得の手段であった。そしてここ数年それを支えてきたのが中国人観光客だ。

 北朝鮮は中国から最も簡単で安価で行ける外国だと言うことで中国人に高い人気があり、それを取り仕切ってきたのが彼ら旅行社であった。

 しかし、これまでは様々な規則に縛られた北朝鮮での観光に対する不満が少なからずあったことも事実だ。

 今回、北朝鮮観光を施行する中国の旅行社へこうした規制を“緩和”する方向性が示されたという情報が、その日本で活動する朝鮮族旅遊業者にもたらされたのだ。その具体的な項目が、ビデオカメラの持ち込み制限の緩和だ。今回、北朝鮮の旅行を管轄するセクションから中国の旅遊業各社へ中国人観光客はビデオ持込に対するチェックは行わないと告げられたとうい。つまり北朝鮮を自由にビデオで撮影してもいいと言うことだ。もちろんこれは観光コースに限られており、その意味で全く自由にやれると言う意味ではない。

 しかし,自国の情報が外国に漏れることを何よりも嫌っていたこれまでの北朝鮮から見れば、とても大きな変化であることは間違いない。こんなことは金正日の生存中には考えられなかった。観光客の観光地や宿泊地付近の“自由散歩”も、もしかしたら一部“解禁”されるかの知れないと中国旅行社では大きな期待を寄せている。

 鴨緑江を挟んで北朝鮮新義州と対峙する丹東市は北朝鮮観光のメッカである。この地に居を構える北朝鮮観光の老舗である某旅行社では、北朝鮮観光担当者は今、新しい北朝鮮観光のプラン作成と新規の顧客開拓に大わらわだという。

 北朝鮮観光における“規制緩和”の波は、もう一つの国境の川、豆満江周辺でも起きている。脱北のメッカである豆満江周辺の北朝鮮観光はこれまで厳しい制限が課せられていた。だがそれの緩和の兆候が見え始めている。この動きに呼応して延辺朝鮮族自治州州都延吉に本拠を置く旅行社は、延辺朝鮮族自治州の和龍から北朝鮮の茂山を経由しての七宝山コース、および白頭山山麓の温泉三淵池への観光コース開設を北朝鮮と合意したそうだ。

・北朝鮮が日本人観光客の誘致を要請

 これまでの北朝鮮の観光コースは平壌~妙香山観光、平壌~板門店観光、平壌~元山の3コースが主で、やや物足りなさがあった。特にリピーターが望めなかった。つまり一度行けば充分と言うものでしかなかったのである。

 それがまるで”改革開放“の動きに合わせるように、今年の夏に突然変化が起きた。これまで北朝鮮側からは認めていなかった金剛山コースが解禁されたのである。また先に触れたように北部では、これまで存在はしてはいたが、実質的にはほとんどなされていなかった北部威鏡北道や隣の両江道の七宝山コース、白頭山コース、温泉地として有名な三淵池などを全面的に再開することもきまったという。

 中朝国境地帯に位置する中国の観光業者たちはこうした北朝鮮の“変化”に色めき立っているそうだ。彼らはこの規制緩和をうけ、今この新コースを売りにした北朝鮮観光を大々的に展開しようとしている。

 更には、もう一つのターゲットである。それは日本の観光客へのアプローチだ。この動きも始まっているというのだ。中国の各旅行社へは日本からの観光客を北朝鮮側からの金剛山刊行へ誘致して欲しいという北朝鮮側からのオファ―が寄せられていると言う。

 金剛山観光といえば南北融和の象徴として位置づけられ、それは韓国側では現代牙山が独占的に手掛けてきた。それとあたかも対抗するかのように北朝鮮独自で観光開発しようというのである。

 こうした動きに対応して、東京日本橋にある某中国旅行社の日本支社では、今、北朝鮮観光への日本人観光客の勧誘に力を入れ始めている。

 その中心にいる同社顧問の朝鮮族男性は、これまで何度も日本人を北朝鮮観光に誘った実績を持つ。その朝鮮族男性が注目しているのが金剛山観光だ。彼の下にはすでに北朝鮮から招待状が届いている。彼はこれが本物かどうか確かめるため11月を期して試験的な小規模の観光旅行を企画している。

 この朝鮮族男性は、これまで猫の目のように変わる北朝鮮側の対応に何度も苦汁を飲まされてきた。大きなツアーを企画し、それが施行直前に北朝鮮側からキャンセルされるというのは日常茶飯事であったと言う。行けば行ったで、外出もままならない厳しい制限に嫌気をさす観光客も少なくなかったそうである。

 しかし彼は昨年8月末、アリラン祭を見るため日本人観光客を引率して平壌を訪れた時から、こうした一連の変化を感じていたと言う。8月末といえば金正恩の後継者お披露目の時である。この朝鮮族旅行業者は金正恩の登場とともに、こうした動きは始まったのではないか、今回の動きはそれが固まった証拠であり、北朝鮮が中国を見習い“改革開放”にカジをきったのはほぼ間違いないと見ている。

・大勢の親戚訪問者が中国に渡っている

 この朝鮮族男性は、吉林省延辺朝鮮族自治州出身であるが、そこに住む親戚から伝えられた、ホットな情報を教えてくれた。今、辺朝鮮族自治州には北朝鮮から親戚訪問のため多くの北朝鮮人が訪れていると言う。

 親戚訪問とは北朝鮮に住む人が、中国にいる親戚を訪問することだ。その目的はただ一つ、経済援助のためである。もちろんこれまでも親戚訪問は許可されていた。

 しかし、これまでは申請者には厳しい審査が行われ、許可が出るのに1年以上も掛かっていたのである。今回、国境地帯で見られた事態は、そうした規制が大幅に緩和されたことを物語っている。

 親戚訪問への規制は、何よりも中国の情報が北朝鮮へ流れ込むことへの危惧からであった。北朝鮮指導部は自由な情報が流れ込むことは体制の崩壊に繋がりかねないとして厳重な規制を引いてきた。今回の事態は北朝鮮当局がそうした“危惧”を棚上げしても中国からの資金導入へ繋がる親戚訪問を歓迎してのことではないかと、現地の朝鮮族は語っていると教えてくれた。

 先に述べた145人の北朝鮮女性労働者の中国派遣の行き先は、この延辺朝鮮族自治州の豆満江沿いの町図門市である。今回の北朝鮮人の中国への親戚訪問の大幅緩和は、北朝鮮北部が中国吉林省との関係を密にしようとする政策の一環と見て間違いないであろう。北朝鮮労働者の延辺進出、延辺への北朝鮮人の親戚訪問の規制大幅緩和は、来たるべき、中朝間の自由往来の前触れと捉えることもあながち的外れとは言えないであろう。
 
 旅遊業、親戚訪問の大幅緩和は小さな動きに過ぎない。しかし,こうした小さな変化に注目することで、金正恩体制化で進行する“経済改革”の方向性やその将来を見通すことは可能である。

 これからも、こうした中朝国境地帯で起きている小さな変化には充分注視していきたい。
(了)

(有料メルマガhttp://www.mag2.com/m/0001552211.html に掲載した記事に少し手を加えました)

▼第10号
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                       2012/09/06
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  ノンフィクション・ライター小野登志郎のメールマガジン
    ~牡羊座が見たディープな出来事とスターたち~

Vol.10

毎週木曜日発行
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【今週の目次】

1. 【東方神起から分裂したJYJ騒動初期におけるバーニング・プロダクション周防氏】
2. 【六本木クラブ『Flower(フラワー)』集団暴行死事件について】
3. 【わたしが出会った北朝鮮人】
  日本から北朝鮮に帰国した後の脱北者
3. 【韓流爺やの韓国エンターテイメント散歩】(浪城暁紀)
4. 【北米からの手紙】(内藤茗) 
5. 【世界を動かしているのは腐女子である!】Journal retriever(浜本菜織・岸友里)
6. 【中国・台湾の芸能最新事情──日本に「華流」「台流」ブームは来るのか】(松野幸志)
7. 【松田健嗣の建築よもやま話】(松田健嗣) 
8.  新連載【南町同心書留――武田家再興計画】(横山茂彦)
9. 【オムニバス小説 あわいの小骨】(伊藤螺子)――お休み
10.【東方神起とJYJについて】
11.【続・龍宮城 果てしなき日中闇のオセロゲーム】
  中国上海で成功している日本人
12.【編集後記】 東アジアの「領土」紛争と「縄張り」争い

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