周知のとおり、日中関係の冷え込みは各方面に打撃を与えているが、その影響をもろに受けたのが中国を専門としている旅行社だ。今、中国専門の旅行社では倒産ラッシュが続いている。その現状を中国旅行関係者から聞いた。

 

 日本には中国旅行を専門にする旅行会社がいくつもある。彼らは1972年の日中国交回復以来、中国と日本の架け橋の一つとなってきた。約四十年間に渡って日中間の旅行業に関わってきた郭功威(仮名)さんは言う。

 

「去年大手の21世紀力者が倒産しました。他にも老舗が続々倒産しています。今残っているのは平和観光くらいでしょうか。そこも先行きはくらいですよ。昨年度の日本人の中国渡航は約3百万人、全盛期の600万の半分ですよ。韓国にも抜かれました」

 

 郭さんは3月に開かれた全人代に大きな期待を持っていた。

 

「習近平政権がスタートしたら、日中関係は改善に向かいという情報を得ていました。それに合わせ大型の訪中団や訪日団が計画されていました。それが、3月11日の東北大震災の慰霊祭で日本政府は台湾の代表団を中華民国代表団と認めました。つまり日本は二つの中国を認めたということです」

 

 日本政府のこの措置に対し、中国政府は抗議し代表団を引き上げた。「これは尖閣問題以上に問題です。中国政府は二つの中国は絶対に認めません。これで全部パーになりました」と郭さんは落胆を隠さない。

 

 確かに全盛期の半分になったとは言え、昨年はそれでも300万人が中国に渡っている。これは少ない数ではない。しかし、「この300万人の内訳は業務渡航と、個人旅行です。旅行社への実入りはありません」と郭さんは言う。

 

 そして、それ以上に深刻なのが中国からの旅客を扱っている旅行者だ。一時は大きな人気を集めた中国人の日本観光は今や全く閑古鳥がなく有様だ。では中国人はどこに行っているかというと、韓国やアメリカだと郭さんはいう。郭さんは40年間の日本での生活を見切って北京へ帰ろうかと思っているという。

 

 実際、中国専門で旅行業をやっていた日本の会社も深刻な状況だ。その一人である古田さん(仮名)は、社員10数人の小さな旅行会社を経営している。中国の各種団体の顧客を何件も抱え、十分に業績を上げていきた。それが、今は閑古鳥である。父親の残したビルの一角で営業しているため事務所代がかからないためなんとか維持している。

 

「時間の問題ですね。5月には数件の団体から契約を頂いいていたんですけど、こんどの台湾団体の名称問題で日中関係がこじれ、突発的”戦争の危機”もないわけではないということで、全部キャンセルされました。お先真っ暗ですよ。もう会社を畳むしかないかな……」

 

 中国は3月の全人代で習近平体制の正式発足とともに日中関係の改善を模索していた、と前出郭さんはいう。これ以上の関係悪化は中国も望んでいなかったようである。ところが日本政府が「二つの中国問題」を蒸し返したことですべてが白紙となった。なぜ日本政府はこの時期に中国を刺激するようなことをしたのか。「安倍政権発足に期待をかけていた中国政府は安倍政権に対する見方を全面的に見直すことになるだろう」と郭さんは言う。日中関係は抜き祭ならないところへ向かっているようだ。

 

 ところで、面白い事実を郭さんは話してくれた。

 

「日中関係が悪化して、日本製品の中国での伸びが鈍化していると日本では報道されていますけど、そんなことはないですよ。性能のいい日本製品はよく売れています。”愛国不買”とか言っているけど、中国人はそんなことは気にしませんよ。良くて安いものは売れるんです。私のいる旅行業でも日系のホテルは高い人気を誇っていますよ。日系のホテルは今では日本人旅行者が泊まるホテルではないのです。客の大半が金持ちの中国人。金持ちの中国人は設備とサービスのいい日系ホテルを好むのです。北京の長富宮ホテル(ホテルニューオオタニの経営)に行ってごらんなさい、中国人の客で溢れていますよ」。 

 

確かに中国では日系のホテルは人気がある。今年1月20日ホテル・ニッコー無錫(中国紅蘇省無錫市 総支配人:伊東栄根氏)は、中国国家旅遊局から五つ星の認定を受けた。設備とサービスが高く評価されたのであるが無錫の新しいランドマークとして地元で大きな期待を集めており、中国のホテルランキング上位には、日本のホテルグループがずらりと並んでいる。

 

 つまり、日本独特の”おもてなしの心”による上級のサービスを提供する日系ホテルは、日系であるからといって中国人から敬遠されるということはないということである。

 中国の「反日」には、身が伴っていない。

 

■取材・文 浪城暁紀 ライター