ジョージ・A・ロメロ監督が亡くなったので、追悼の意味をこめてデビュー作『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』を再見しました。



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やはりこの映画の肝は「主人公の入れ替わり」にあると思うんですよね。

最初に登場する兄妹のうち兄のほうがゾンビに殺されて物語が幕を開けるんですが、この時点では逃げ延びた妹バーバラが主人公なんですね。そんなに仲良くなかったような兄ですが、ゾンビに殺されてしまい、バーバラは以後ほとんどを放心状態でおろおろするばかり。観客はそんなバーバラに感情移入してしまいます。

で、バーバラが農家の母屋にたどり着くと誰もいず、周りはゾンビに取り囲まれている。上の階に上がろうとしたら悲惨な死体があり、外に飛び出そうとするとちょうどトラックでやってきた黒人ベンと出会います。

実はこのベンと「主人公の入れ替わり」が行われるんですが、最初観客はベンにはあまり感情移入できません。

なぜなら、彼は「いろんなことを知っているから」です。
ゾンビが死肉を食らうことも知っているし、戦い方もある程度知っている。

だいたい映画の主人公というものは、観客と同じかそれより少ない情報しか知らないというのが普通です。バーバラに感情移入できたのは、突然兄を殺されたことへの同情もあるでしょうが、彼女がゾンビについて何も知らないことが自分たち観客と同じだからです。自分たちより多くの情報量を知っている人物は頼りには感じられても共感はしにくい。

さて、この映画は1968年の作品ですが、その8年前に「主人公の入れ替わり」という前代未聞の手法をやってのけた名作があります。天才ヒッチコックによる『サイコ』。






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最初は会社の金4万ドルをくすねたマリオンに感情移入してしまうんですよね。これからどうなるんだろう。捕まるんだろうか。あの警官がどこまでも追ってくるんじゃないか。

と思っていたら、あるモーテルに着き、そこの支配人ノーマン・ベイツと出会う。このノーマン・ベイツと主人公の入れ替わりが行われるんですが、ヒッチコックがどういう手を使ったかというと、「物量作戦」なんですね。

二人が出会ってから会話するシーンが長い。特にマリオンがサンドイッチを食べながらノーマン・ベイツの母親の話を聞く場面などめちゃ長い。さらにマリオンが殺されてその死体の処理をするシーンも異常に長い。

観客は、いったいあの母親は何者なのか。息子への嫉妬で殺したんだろうか。しかし主人公と思っていたマリオンが死んでこれから映画はどこへ向かうのか。

という、前代未聞の疑問をもちながら死体処理シーンを見るので最初はあまり長さを感じないはずです。

逆にあの場面にじっくり時間という物量をかけたからこそ「主人公の入れ替わり」は成功したと言えます。

ただ、マリオンは殺されることで物語から強制的に退場させられるから、ノーマン・ベイツへの主人公の入れ替わりはそこまで時間をかけなくても、という気もします。

ただ、ここで問題になるのが「情報量」です。

マリオンの情報量と観客の情報量は完全に一致していましたが、ノーマン・ベイツは母親について観客よりもたくさんのことを知ってるじゃないですか。(実際は彼自身知らないことがたくさんあるわけですが、それは最後になって初めてわかることですもんね)

つまり、マリオンが死んだ時点でノーマン・ベイツには主人公の資格がないんですよね。だから充分に時間をかけて、粘着気質らしき母親に困らされている哀れな息子を描かねばならなかったのでしょう。(極めつけは車を沼に沈めるシーンですね。いったん車が沈まなくてノーマン・ベイツが慌てそうになるところで観客は「沈んでくれ!」とハラハラしますから。あそこでノーマン・ベイツは主人公になったと言っていいでしょう)



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この二人の場合はどうでしょうか。

入れ替わりにかかる時間はほとんど数分です。いや数分もかかっていないかも。

ヒッチコックより巧みな戦術が取られているんですよね。
その戦術も「情報量」です。

バーバラよりもいろんなことを知っていたベンですが、地下室に何者かがいることは知らなかった。ここで、観客の情報量とベンの情報量が一致し、ベンは主人公の資格を得ます。

『サイコ』ではマリオンが死ぬにも関わらず入れ替わりに多くの時間を要しましたが、この『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』では、最初主人公と目されていたバーバラが死なないにも関わらず、入れ替わりがほとんど瞬時に行われてしまう。

もし『サイコ』でマリオン殺害が未遂に終わっていたら、主人公の入れ替わりは完遂できたでしょうか? 私はかなり疑問に思います。



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ジョージ・A・ロメロ。
一部分とはいえヒッチコックを超えてしまった男。

ご冥福をお祈りします。


続きの追悼記事
『ゾンビ』(「妊婦」のコードを破って見せたロメロ)