『悪人』から7年・・・。
内容紹介この土日、『怒り』上下巻を一気に駆け抜けました。
殺人現場には、血文字「怒」が残されていた。事件から1年後の夏、物語は始まる。逃亡を続ける犯人・山神一也はどこにいるのか?
犯罪をめぐる群像劇。
『悪人』で吉田修一の格(自分のなかでの「格」です)が三つくらい上がった読者としては、読んでいくにつれて、期待感がじわじわせりあがっていきました。帯裏にも、「『悪人』から7年、吉田修一の新たなる代表作。」とあります。
でも、ちょっと待って。
吉田修一さん、その7年間にも佳作を次々に世に出しているじゃないですか。『静かな爆弾』『さよなら渓谷』『キャンセルされた街の案内』『横道世之介』『路』等々(さりげなく『平成猿蟹合戦図』や『太陽は動かない』『愛に乱暴』を外しておきました)。とはいえ、『悪人』以降、私にとって、吉田修一さんは、新刊が出たら即座にハードカバーで買作家さん入りしていましたが、正直、大きな期待の器をみずさわ屋の中華そばのようにたっぷり満たしてくれことはありませんでした。みんな、それぞれ佳作なんです。でも。空白の7年というつもりはありませんが、『悪人』に匹敵するテンションを、他の作品群に感じることができないでいたことを正直に申しあげなければなりません。
だからこその、期待感のせり上がりだったんだと思います。
それで、
『怒り』は
どうだった
というのか?
う〜ん、そうでもなかったなあ。
うまく収まりすぎたというか、あの、魂の根っこをつかまれてぐるぐる引きずり回されるような緊張感とは無縁のドラマとして仕上がっていたように感じました。最終的に、わかりやすいフォルムに収斂したというか。
ミステリーという手法と仕上がりに対する距離感というのか、吉田修一さんは、『悪人』でふと到達してしまった高みを、方法論的にまだつかんでいらっしゃらないのかな。当然そこでいう方法論の「方法」とは、一回限りの体験に後付けで認め取られるようなものでしょうが。
すみません、よくわかりません。