「阿良々木。お前は将棋を知っているか?」
「あれは単純な遊戯だ。本来的には底が浅い」
「駒の数が決まっている。駒の動かし方も定められている。
盤面も画されている。何もかもが有限だ。
つまり可能性が最初から限りなく閉じているのだ――」

「これでは複雑になりようがなく、
よってゲームとしては低レベルだ。
だが、にもかかわらず、
一流の棋士は、誰も彼もが天才だ。
凡才であろうと極められるゲームを、
天才以外は極めていない。どうしてかわかるか」

「将棋は速度を競うゲームだからだ。
棋士同士の対局では必ず脇に時計が置いてあるだろう。
そういうことだ、制限時間のあるゲームだからこそ、
ルールが単純なほど盛り上がる。
如何に思考時間を短くするか――詰まるところ、
頭の良さとはスピードだ。
どんな名人の手順であろうと、
時間をかければ誰でも同じことができる……
だから大事なのは時間をかけないことなのだ」

「将棋だけではない、人生もまた有限だ。
如何に思考時間を短くするか――
換言すれば、如何に素早く考えるかが重要だ。
お前達より長く生きている者として、
ひとつだけ忠告してやろう」

「あまり考え過ぎるな。俺から見れば、
己の考えに没頭している奴は、
考えなしの奴と同じくらいに騙しやすい。
適度に思考し―適度に行動しろ。
それが――今回の件からお前達が得るべき教訓だ」


「……よう、キス魔」
だだこねてるとまたキスすんぞ。

忍のお陰で横たわる火憐を見つけた僕は、彼女を連れて帰るつもりだったのだが………

「考えてみりゃ、兄ちゃんとマジで喧嘩するのは久し振りだな」


絶対に道場以外では使うなって言われた技を使うんじゃない!
病み上がりどころか病みの真っ最中、だけどベストコンディションだという火憐ちゃんの攻撃を僕は悉く受けてしまう。

しかし………

「正義は必ず勝つんだろ?」
「だったら、勝ったほうが正しいってことでいいんだよな、兄ちゃん。
兄ちゃんを倒せば―あたしは行ってもいいんだよな」
その考え方は、危ないよ。正義とは随分程遠い。

お前は正しい。でも強くない。
力が強くっても意味なんかねーよ。
本物に必要なのは―意意志の強さだ。

お前達はいつだって、他人のために動いている。
そこにお前達の意志はない。
理由を他人に求める奴が、正義であってたまるものか。
お前達は正義でもなければ正義の味方でもない。
正義の味方ごっこで戯れる―ただのガキだ。
偽物だ。

僕はお前達が大嫌いだ。
だけど、誇りに思っている。
僕の誇りを汚した奴を許せるか!

「あとは任せろ」
今回は僕の格好いいところを見せてやる。
惚れないように気をつけるんだな。
近親相姦になっちまうぞ。




「兄ちゃん。あとは、任せた」
妹の尻拭いなんて、兄ちゃんにとって名誉以外の何でもない。
火憐ちゃんに任された僕は、戦場ヶ原と共に貝木と対峙したのだが、
そこから先の展開は肩透かしと言ってもいいほどにあっさりとしたものになった。


『おまじない』を広げることはもうしない。
火憐ちゃんの風邪はすぐ治る。
戦場ヶ原の母親のことについても謝罪する。

貝木は、謝罪と命乞いの言葉を口にした。

火憐のようにひとりでではなく、今回のように複数名で来れば、貝木は無抵抗に白旗を上げたらしい。

「俺は大した人間ではない」
幽霊を信じはしないが幽霊を怖がるという人間の心理はわかる。
オカルトを信じるつもりはないが、しかしオカルトは金にはなる。
怪異など、俺は知らない。しかし怪異を知る者を知っている。それだけのことだ。

更に貝木は、囲い火蜂という怪異は偽の歴史―偽史であると説明した。


貝木という男は、劣等感と一生向き合うことを決めている、誇り高き偽物だ。


かつて戦場ヶ原に乱暴しようとした男は、何のドラマもなく、車に轢かれて死んだらしい。
「今回の件からお前が得るべき教訓は、人生に劇的なことを期待してはならない―ということだ」
そして最後に、
「お前がかつて俺に惚れていたことなど別に浮気には値しない―今の恋人に対し誠実であろうとするあまり、俺を逆恨みされても困る」
さらばだ。そう言って、貝木は僕と戦場ヶ原の前から姿を消した。


「阿良々木くんは今、付き合っている彼女の処女性を確認したのかしら?」
あの頃の自分は、それがどんな人間であれ、助けてくれる人がいたら王子様のように捉えていた。
もしも阿良々木くん以外の人が自分を助けてくれていたら、その人を好きになっていたかもしれない。
「私を助けてくれたのが阿良々木くんで―本当によかった」
過去に対してけじめをつけた戦場ヶ原。
だから僕は、例のお願い‥伏線を回収しておく。
今夜はお前に優しくするさ。



後日。
僕は、風邪は人肌で暖めたら治るという民間療法を実践していた百合姉妹を叩き起こしていた。

「ごっこじゃなくて正義の味方だよ、兄ちゃん」
「正義の味方じゃなくて正義そのものだよ、お兄ちゃん」

『おまじない』の後始末をすると言って、僕の自慢の妹達、
ファイヤーシスターズは火のついた花火のような勢いで、出撃していったのだった。


☆☆☆☆☆☆☆


シャフトならではの描写で描かれた暦と火憐ちゃんのバトルパート、
三木さんの演技が冴えわたる西尾維新ならではの会話劇をもって、
「かれんビー」7話終了です。

百合姉妹最高や!!!


全編を通してみても、喜多村さんは大活躍でしたね!
え?「かれんビー」なのに火憐ちゃんも月火ちゃんも出てない話があった?
いや、そんな訳は………

次からは月火ちゃんの出生の秘密に迫る
「つきひフェニックス」です。



『偽物語』公式サイト
http://www.nisemonogatari-anime.com/


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