March 2010

March 19, 2010

一般条項これでいいのか−契約書の改定条項−

本日、大手事務所の売り出し中パートナーと大手外資系事務所のM&A弁護士と久々に飲みました。

こういう飲み会では、色々と最先端の実務の話を聞かせていたたくことができ、本当に勉強になります。やはり持つべきものは友。

で、勉強させていただくばかりでは申し訳ないので、逆にひとつ問題提起をさせていだきました。契約書の一般条項は最近英米系の契約書の条項をそのまま輸入していますが、日本法の下でそのまま輸入して大丈夫かという問題意識持っていますかと。

その例示として私が挙げさせていただいたのが、契約書の改定条項。
典型的なものは以下のようなものだと思います。

「本契約は、各当事者の適法に授権された代表者によって署名された書面によらなければ、改定され得ないものとする。」

これは日本法の下で、有効でしょうか?

すなわち、一方当事者が、契約違反で相手方を訴えたとします。相手方は、それに対して「口頭でこのような合意をした。したがって、何ら債務不履行ではない」という反論をしたとします。
この場合、どうなるのでしょうか、という問題提起をさせていただきました。

大手事務所の売り出し中のパートナーは、「契約書において当事者が合意しているんだから、それが尊重されるべきでしょう。」との回答。

一般論としては、まさにそのとおり。
では、裁判所がこの条項の効力を制限するとすれば、何が根拠になるでしょうか。

回答はまた次回に持ち越させていただきますが、念のため申し上げれば、こういった改定条項を契約書において採用してはいけないということではないです。したがって、企業の法務部の皆さまは慌てないでください。

私の申し上げたいことは、このような改定条項があってもいいのですが、それが日本法の下でも尊重されるかは分からないので、特に海外のクライアントに対してはきちんと説明しておいたほうがいいですよ、アカウンタビリティの観点からすると。ということです。

昔は、大手渉外事務所の意見書でも、この改定条項の効力については意見を留保しているのをみかけて「しっかりしているなぁ」と感心したことがありますが、最近はそういう留保条項をあまり見かけないですね。

それでは、また次回に。


hibiya_attorney at 01:01|PermalinkComments(2)TrackBack(0)clip!企業法務 

March 06, 2010

強制執行停止決定のプラクティス

第一審判決において、被告に対して金銭の支払いを命じる場合、仮執行宣言が付されることが多い。

周知のとおり、仮執行宣言が付された判決は、債務名義としての効力が認められているため、判決が確定しなくても、原告は、これを基に被告の財産に対して強制執行することが可能となる。典型的には、銀行預金債権の差し押さえであるが、こういった差し押さえがあると、銀行取引約定上は「期限の利益喪失事由」に該当するし、多くの契約のデフォルト事由に該当するので、これは大変なことである。

被告に支払能力があっても、原告はいきなり執行をしてくることがあるのだから、たまらない。そして、それが引き金となって銀行から新規融資が受けられなくなるなどして、破産に至ることもある。

なので私としては、仮執行免脱宣言をできる限り認めるべきだと思っているが、私の経験上裁判所は免脱宣言はあまり付してくれない。

そこで、被告としては、仮執行を止めるために、強制執行停止の申立てを行うことになる(民事訴訟法403条)。しかし、ここでも裁判所のプラクティスに問題がある。

被告が国の場合は、「判決正本が送達されてから14日経過した場合に限り仮執行できる」などど仮執行に猶予期間が付されていることがあり、その場合には、被告はあせって強制執行停止決定の申立てを行う必要はないが、私の経験上、一般企業に対してそのような配慮を裁判所はしてくれない。したがって、原告が仮執行宣言付判決に基づき執行の申立てを行うのと、被告が強制執行停止決定の申立てを行うのはスピード競争となる。

申立ての要件としては、(1)控訴提起すること、及び(2)(i)原判決の取消し若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと又は(ii)執行により著しい損害を生ずるおそれがあることにつき疎明がされること、と非常に緩いものなので、実務上は、担保の金額さえ積むことさえできれば、必ず決定が出されると言われている。

しかし、問題は決定のスピードである。訴訟記録が原裁判所にあるときは、決定の裁判は原裁判所が行うとされている(民事訴訟法404条)。そうすると、原裁判所を構成する裁判官は決まっているので、たまたま「本日は裁判長が不在ですので、今日中に決定を出すことは不可能です」などと言われることがある。「スピード競争」なのにである。

一方の原告は、執行文付与の申立てを行う必要があるものの、これは書記官にて対応でき、その後は東京の場合だと民事執行センターで申立てをするので、原裁判所の裁判官の誰かが不在のために手続きが妨げられることはない。

こういう審理主体の関係での問題が第1点である。まあ、たとえば保全部のようなところに担当させると、原裁判には関わってないので逆に審理に時間がかかるということもあるかもしれないが・・・。

また、無事に強制執行停止決定を得てもそれで一安心ではない。強制執行停止決定を得ても、被告は執行裁判所に当該決定を提出しなければ執行は止まらない。

しかし、原告がどの裁判所で執行を申し立てているか被告には分からない。仮に分かったとして、執行裁判所に正本を提出しようとしても、裁判所は事件番号を特定して提出しないと受理してくれない(少なくとも東京の場合)。結局、被告としては、差押えを受けた第三債務者たる銀行からまず第一報を聞きつけ、そこで事件番号を知り、慌てて決定正本を執行裁判所に提出することになる。そして、銀行との関係では期限の利益を喪失…。

こんなバカなことあっていいのだろうか。被告が強制執行決定を取得したらどこの執行裁判所でもそれが分かるようなシステムを構築して、このような執行が行われないようにすべきだと思う。おそらく、このような観点で最高裁が予算措置を求めたことなどないのではないか。大企業はともかくとして、中小企業における差押えのインパクトを裁判所はもっと認識すべきである。

ちなみに、企業法務に携わる弁護士も契約書のレビュー時には、解除事由や期限の利益喪失事由の仮差押えや差押えについては、14日以内に停止・取消があったときはこの限りでないと但書きを入れるべきである。

なお、強制執行停止決定を得たときは、相手方にもそれが通知される。強制執行決定が出されたことを知りつつ、強制執行を行うことは不法行為を構成するという東京高裁の判例があるので、現状は、この判例を基に相手方代理人に対して予め警告して抑止力を利かせるのが最善の策である。

もう1点述べるとするならば、仮差押えの裁判所のプラクティスである。仮差押えは一方審尋で命令が出される。債権の仮差押命令であれば、第三債務者と債務者の双方に命令が送達されることになるが、裁判所は、債務者に先に送達された場合には、例えば預金債権の場合、債務者が預金を引き出す可能性があることから、債務者に先に送達されないように、第三債務者たる銀行に先に送達して、そこから1週間程度おいて債務者に送達することがある。

ところで、債務者側として仮差押命令に不服がある場合に、保全取消なり保全異議の申し立てをするのだが、その申立てには仮差押命令の正本が必要だったりする。しかし、上記のとおり債務者に正本が送達されるまで1週間のブランクがあったりする。

仮差押えは一方審尋なので、債務者側からする様々な抗弁があったりするので、それを取消や異議審で言いたいわけだ。しかし、申立てをするにも、上記のとおり相当程度のタイムラグがある。そして、その間に債務者は銀行からの信用を失うことがあるのである。

第三債務者より先に債務者に正本が届くのは問題だという問題意識は分かる。しかし、現在の企業法務のスピードにおいて、1週間という期間は長すぎる。

裁判所は、仮差押えにしても強制執行にしても、そのインパクトをもう少し考えるべきである。


hibiya_attorney at 04:20|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!裁判