July 06, 2007

ブルドック地裁決定−買収防衛策と株主平等原則−

さて、ブルドック地裁決定について少し分析に入ろうかと思います。今回は、ブルドックの買収防衛策と株主平等原則との関係について。この点は、今回の決定で、実務上もっともインパクトがあって、関係者が顧問弁護士と自社の防衛策について対応を迫られるところでしょう。

地裁は、株主に無償で割り当てられた新株予約権について定められた差別的行使条件又は取得条項のために、特定の株主が持株比率の低下という不利益を受けるとしても、少なくとも、ヽ主総会の特別決議に基づき新株予約権の無償割当てが行われた場合であって、当該株主の有する株式の数に応じて適正な対価が交付され、株主としての経済的利益が平等に確保されているときには、当該新株予約権無償割当ては、株主平等原則や会社法278条2項の規定に違反するものではない、と述べています。

そうすると、実務上は、差別的行使条件や取得条項が株主平等原則との関係で適法とされるためには、株主総会の特別決議を経る必要があるのか否かが今度大きな検討課題となるでしょう(高裁でこの判断が維持された場合の話ですが)。

1.株主平等原則との関係で総会特別決議は必要要件か?

では、株主平等原則をクリアするためには、本当に総会の特別決議を経る必要があり、これを経ていなければアウトになりかねないのでしょうか?

地裁が、上記規範を導くために示した理由は以下の3つあります。

仝開会社においては、募集株式又は募集新株予約権の募集事項の決定について、有利発行である場合を除き、取締役会の決議によるものとされていることからすると、会社法は、既存株主の持株比率の維持の要請は、株式の経済的価値の平等の要請より劣後するものとして取り扱っている。

現金交付合併・株式交換の規制に鑑みれば、会社法は、株主の有する株式の数に応じて金銭その他の対価が交付され、経済的利益が確保される限り、株主総会の特別決議によって、少数株主の株主としての地位を強制的に失わせることを許容している。

譲渡制限株式の買取等、特定の株主からの自己株式取得、現物配当といった、支配株主等一部の株主のみが利益を受けるおそれがあり、株主平等原則の上から株主の利害に関わる事項も、会社法は、株主総会の特別決議の下に許容しているということができる。

,亙かり易いと思います。株式あるいは新株予約権の発行においては、有利発行とならない限り(すなわち、既存株主の1株あたりの経済的価値が維持されている限り)、既存株主の持分比率が低下したとしても株主総会決議を経る必要はない。このことから、経済的価値が維持されているのであれば、持分比率が減少するとしても、影響を被る株主らの決議を得る必要はないということを導いていると思われます。

△砲弔い討蓮△海譴肋し違うのではないかと思います。キャッシュアウト・マージャーにおいては、適正な対価を支払う限り少数株主を追い出すことができると裁判所は述べていますが、追い出されるのは消滅会社の株主であって、そこには「少数株主」という概念が成立する余地はありません。仮に統合後の会社における持分比率との関係で、消滅会社の株主がマイノリティであることを意味しているとしても(事案によっては、Majorityになる場合もあるわけですが)、かかるキャッシュアウト・マージャーにおいては、消滅会社の株主総会で特別決議を経る必要があるわけですから、majority of minorityによる決議が成立しているわけです。すなわち、同一の影響を被る株主から3分の2以上の同意を得ており、ここでは株主平等原則が問題となる場面ではないと思われます。本件では総会で議決権を行使する株主間で利益状況が異なっていますが、キャッシュアウト・マージャーの場合は、総会で議決権を行使する株主間で利益状況が異なっていない点で、これを持ち出すのは妥当ではないのではないでしょうか。

については、譲渡制限株式の買取りを持ち出すのは、公開会社であるブルドックについては妥当ではないと思われますし(しかも買取請求権者は特別決議に参加できないようなので、平等原則は関係するのでしょうか??)、特定の株主からの自己株式取得については、他の株主に売主追加の議案変更請求権が認められていることを考えると理由にならないのではないでしょうか。ちなみに、このは、江頭教授の『株式会社法』初版328頁の記載とそっくりなので、これを参考にしているのでしょう。私もこの点についてはそれほど深く検討できていないので、何か重大な勘違いをしている場合にはご指摘いただければ幸いです。

こうしてみてくると、地裁は、会社法が特別決議を要求している様々な制度を羅列していますが、株主平等原則との関係でどれくらい意味があるものかはよくわかりません。どちらかといえば、これらの理由は、不公正発行の論点で言及すべきことだったような気がします。そもそも、株主平等原則の機能として、支配株主の資本多数決の濫用等による差別的取扱いから一般株主を守ることがあげられます。そうすると、特別決議の存在が株主平等原則違反を治癒する要件とされることについては非常に違和感があります。特に、本件では、スティールとそれ以外の株主での取り扱いが異なるにもかかわらず、それ以外の株主の大多数が承認したから平等原則は問題にならないというのはどう考えてもおかしいのではないでしょうか。

そうすると、むしろ、上記,ら株主間において経済的価値の平等が図られている限りは、平等原則には違反しないと述べて、総会特別決議については要件にしないほうが理論的にはすっきりするのではないかと思います。もっとも、本件では特別決議を経ているのであえてそれ以上踏み込んで判断する必要はないわけですから、決定としてはこれでいいのでしょう。

2.企業価値研究会や経産省の指針とのスタンスの違い

この点は、大阪弁護士会の山口利昭先生も「ビジネス法務の部屋」の「新株予約権の無償割当と株主平等の原則」で指摘されているところですが、株主平等原則についての地裁の立場は、経産省の企業価値研究会や、経産省・法務省の買収防衛策に関する指針の立場とは異なっているように思われます。後者は、「新株予約権の割当について法律上特に制限は設けられていないことから、株主平等の原則に反しない」(平成17年5月27日付「企業価値報告書〜公正な企業社会のルール形成に向けた提案〜」77ページ)とか、「新株予約権を行使する権利は、株主としての権利の内容ではないから、新株予約権の行使の条件として、買収者以外の株主であることという条件を付すことは、株主平等の原則に違反するものではない」(2005年5月27日付経済産業省・法務省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」7ページ)と形式的に捉えていますが、地裁は、新株予約権自体が直ちに株主平等原則に違反するものではないが、当該新株予約権が株主としての資格に基づいて割り当てられているときは、株主平等原則の趣旨が及ぶと、実質的に捉えています。

地裁の理由付けは説得力がありますし、これまでの裁判所の判断手法からしても当然予想された判断かなと思います。経産省等の指針に依拠して、株主平等原則についてあまり検討してこなかった企業は、今後慎重に検討する必要があるでしょう。

なお、経産大臣の記者会見中、ブルドックの防衛策と株主平等原則について触れられているところがあるのでご参考までに。定款自治・株主自治なる概念を持ち出しているところが興味深いですが、資本多数決の濫用の抑止という理念はどこにもないようです。
http://www.meti.go.jp/speeches/data_ej/ej070625j.html

3.非適格者が名指しではなかった場合

防衛策と株主平等原則との関係については、それほど論文等フォローできていないのですが(帰国したら2年分の論文のキャッチアップが大変です…)、株主平等原則は、個々の株主の属性に着目して株主ごとに異なる扱いをしなければよく、必ずしも保有株式数に応じて比例的な取扱いを要求するものではないとする見解もあったかと思います。

本件では、新株予約権の行使の「非適格者」として、スティールの関係者が名指しで列挙されており、まさに個々の株主の属性に着目して差別がされていますので、地裁がこの見解を支持しているかどうかは不明です。したがって、「総議決権の●●%以上保有するもの」という定め方をしている場合には、経済的価値の平等の確保や総会の特別決議がなくても株主平等原則に違反しないと判断する可能性は一応残っているということになるのでしょうね。

個人的には、「数に応じて」という日本語からすると、会社法は、持株数に応じて比例的に取り扱うことを原則として要求している気がするのですが、この辺は色々と手当てをすることにより「例外」として適法とされる余地はあるのかなとも思っています。




hibiya_attorney at 08:20│Comments(2)TrackBack(0)clip!裁判 | 企業法務

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この記事へのコメント

1. Posted by toshi   July 09, 2007 02:42
こんばんは。
TBありがとうございました。
平等原則違反と少数株主保護に関するご意見については、かなり関心を持ちました。専門分野に関するご意見、さらに今後も期待をしております。
また、ときどき勉強させていただこうと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
2. Posted by hibiya_attorney   July 09, 2007 05:13
Toshi先生、コメントありがとうございます。なにぶん手元に関係論文がないもので、日本の法曹界の「常識」とされているところについて見当違いの意見を言ってしまっているのではないかと、いつもエントリーするときは冷や汗ものです。そんななか、Toshi先生のエントリーはいつも示唆に富み、自分の考えの参考になっていますので、今後ともこちらこそ勉強させてください。

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