August 09, 2007

ブルドック最高裁決定

ブルドックの許可抗告事件の最高裁決定が出たみたいですね。
平成19年8月7日最高裁第二小法廷決定 平成19(許)30株主総会決議禁止等仮処分命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

一応ちゃんと目を通していたのですが、飲み会やらアメフトとかで夜を忙しくしてエントリーをサボっていたら、igi先生から催促を受けたので、ちょっと検討してみます。

1.株主平等原則について

この点について、最高裁は、以下のとおり述べています。

「株主平等の原則は,…(中略)…特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の存立,発展が阻害されるおそれが生ずるなど,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には,その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても,当該取扱いが衡平の理念に反し,相当性を欠くものでない限り,これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。」


「特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては,最終的には,会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ,株主総会の手続が適正を欠くものであったとか,判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり,虚偽であったなど,判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り,当該判断が尊重されるべきである。」


平たく言えば、企業価値を毀損するかどうかなんて正直誰にも分からないんだから、株主総会の判断を尊重しましょう、ということでしょう。なお、議決要件についてですが、あてはめの部分では、「ほとんどの既存株主が…」と述べていますが、この規範のところでは特に議決要件について述べていない以上、ここは特別決議を要求しているのではなく普通決議で足りると解釈すべきと思います。そして、株主総会決議の判断内容や合理性は問わず、判断過程に瑕疵がある場合にのみ当該判断は尊重されないことになるのでしょう。

ただ、あてはめにおいて「上記判断は,抗告人関係者において,発行済株式のすべてを取得することを目的としているにもかかわらず,相手方の経営を行う予定はないとして経営支配権取得後の経営方針を明示せず,投下資本の回収方針についても明らかにしなかったことなどによるものであることがうかがわれるのであるから,当該判断に,その正当性を失わせるような重大な瑕疵は認められない。」と述べているところからすると、企業価値を毀損する旨のなんらかの判断材料は与えられていることは必要で、そのような材料がないにもかかわらず「企業価値を毀損する」と多数決で判断した場合は、正当性が失われるとしているようにも思われます。

一応、株主平等原則違反にならないための要件として、「特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになる」ことを挙げているのですから、このように判断したとおよそ認められないような場合は排除しようということなのでしょう。でも、そういった資料さえ総会に提出しておけばいいのですから、ハードルは極めて低いと思います。

そうすると、結局は、総会決議は万能だと言っているのと変わらない気がします。でも、最高裁は株主総会で何でもできるという建前はとらずに、あえて「企業価値を毀損する場合」に限定をしています。つまり、株主平等原則違反とならないために一定の「正当性」を要求しているように思えます。以前のエントリーでも指摘したとおり、株主平等原則は資本多数決の濫用から少数株主を守ることにその機能が求められるのですから、なんらかの正当性は要求されて然るべきだと思います。

とするならば、株主総会が「企業価値を毀損する」と判断したことが妥当か否か、その実質について司法審査を及ぼすべきなのではないでしょうか。

もっとも、最高裁は、次の「衡平の理念に反し、相当性を欠くか」の点jについては、対象企業にとって重いハードルを課しているように読めるので、(本件では)そこでバランスを取っているのかもしれません。

その「衡平の理念に反し、相当性を欠くか」についてですが、最高裁は、.好謄ールが意見を述べる機会があった総会で決議されていること、⊃軍予約権の対価を得ることができること、を理由にこれを否定しています。

気になるのは、単に「相当性を欠くか」だけではなく、「衡平の理念に反し」という点も問われているところです。差別的取扱いが許されても衡平の理念に反してはならないことを要求しているわけですが、とすると、対価の付与が決定的に重要な要素となっているようにも思われます。それとも、判断権者である株主総会で発言の機会が与えられてさえいれば、「衡平の理念」に反しないと解する余地はあるのでしょうか(でも実際は、委任状や議決権行使書による議決権行使がほとんどでしょうから、総会の場で発言の機会があったとしてもそれが議決権行使にどれだけ影響を与えるかという点は考える必要があるかと思います)。

仮に、最高裁が平等原則違反にならない要件として、一定の経済的補償を要求しているとすれば、これは実務上厄介なことになりかねません。新株予約権の取得とはいえ、一般株主の新株予約権は必ず普通株式に交換される一方で、買収候補者の新株予約権のみを現金で買い取るという実態に鑑みれば、実質的には相対の自己株式取得のようなものです。そうするとこの手法を適法に導入するためには結局のところ株主総会の特別決議が必要になってしまいます(そこまで考えると、一般株主に売主追加の議案変更請求権を認めていない時点でアウトなのですが。でも江頭先生が「特定の株主から取得する手続が厳格な理由」の1つとして触れている「グリーン・メイラー」からの高値取得の阻止の必要性」というのは本件でもまさに妥当しちゃいますよね。)。

これを考えると、むしろ「企業価値を毀損する」旨の株主総会決議の判断の合理性について司法審査を及ぼすることによってややハードルを上げ、相当性の要件のところはもう少しハードルを低くして経済的補償なしでもOKという建てつけにすべきだったのではと思います。

最後に、最高裁はなお書きで、

「相手方が本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権を取得する場合に,相手方は抗告人関係者に対して多額の金員を交付することになり,それ自体,相手方の企業価値をき損し,株主の共同の利益を害するおそれのあるものということもできないわけではないが,上記のとおり,抗告人関係者以外のほとんどの既存株主は,抗告人による経営支配権の取得に伴う相手方の企業価値のき損を防ぐためには,上記金員の交付もやむを得ないと判断したものといえ,この判断も尊重され
るべきである。」


と述べています。

この点の最高裁の判断は雑だと思います。この23億円の交付については株主は了解していたのでしょうが、この23億円の流出が会社決算にどの程度の影響があるかなど、ブルドックは総会前に(つまり委任状や議決権行使書の取得前に)どの程度説明したのでしょうか。十分な説明がなされたうえで株主が同意したのかどうかという点は問われて然るべきだと思います。

2.不公正発行

この点についてはスルーしようかとも思ったのですが、以下の点は注目に値すると思います。

「株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが,会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく,専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には,その新株予約権無償割当ては原則として著しく不公正な方法によるものと解すべき」


ここは読み方が難しい気がしますね。

この部分についてあえて言及していることからすると、最高裁は、株主総会決議にも主要目的ルールが適用され不公正発行となるという立場を明らかにしたように思えます。

しかし、最高裁はあてはめのところで「これまで説示したところにより」このような場合に該当しない旨あっさり述べてしまっています。企業価値を毀損する旨の株主総会の判断内容については基本的には踏み込まず、最低限度の検討をしているだけなのに、この点は判断できるんでしょうか。すなわち、防衛策について株主総会の判断を仰ぐのは、機関権限分配論のもと、どの経営陣に経営を委ねるかは株主の専権事項だからということなのでしょう。とするならば、防衛策を発動する際には、必ず現経営陣の経営権を維持する目的は認定されることになると思われます。そうするとこれが主たる目的かどうかは、「企業価値を毀損する」旨の判断にどの程度合理性があるかによるのではないでしょうか。ここで合理性が否定されれば、現経営陣の経営権を維持することが主要目的と判断される気がするのですが…。

この点は今思いついただけなので、もう少し検討する必要があるかもしれませんが。

えっと、ちょっと疲れて時間切れなのでigi先生には申し訳ないですが、今日はこのあたりで。思いつくままに書いたのでまとまりがなくて申し訳ありません。まだ書きたいこともありますし、明日になってエントリーを読み返したら考えが変わっているかもしれないので、次回に続きます。

なお、コメント、批判、反論は大歓迎なのですが、その際には私が議論の前提にしていないことを勝手に所与の前提にしたり、私の主張をよく読まず誤解したまま反論することは避けていただければと思います。よろしくお願いします。

hibiya_attorney at 16:01│Comments(4)TrackBack(2)clip!企業法務 | 裁判

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この記事へのコメント

1. Posted by 辰のお年ご   August 10, 2007 21:57
最高裁の決定の中で、「衡平」という語を使用していたのが、印象的でした。この語には、それ相応の意味がありますから。今後もう少し深く掘り下げる価値があるかな、と思われる点の一つでした。
2. Posted by hibiya_attorney   August 17, 2007 07:07
同感です。現在次のエントリーの準備をしているのですが、読み込めば読み込むほどいろんな疑問が湧いてきて、なかなかアップできません(涙)。
3. Posted by 辰のお年ご   August 18, 2007 14:46
最高裁は、最近これまでの形式的な判断の枠組みから踏み出す(いい意味で)方向を志向しているように思っています。まったくの感覚ですが、下級審や行政庁(例えばライブドアのToSTNETでの取引など)が「形式論」に拘泥する判断をしているのと異なり、やはり「法」のあり方の王道に戻しつつあるかな、という期待をもって見ています。
そういう考えを少し推し進めると、支配株主のFiduciary Dutyのような考え方もいずれ遡上にのぼってくるでしょうね。そういう意味で、Equityにつながる「衡平」という語には要注目かな、と。
4. Posted by hibiya_attorney   August 25, 2007 04:46
辰のお年ごさま

お返事が遅れてしまい申し訳ございません。支配株主のFiduciary Dutyというのは米国法の下でも如何なる根拠で認められるのか私には理解ができていません。Neon98さんやNY Laywerさんと少しばかり議論した過去のエントリーがあります。http://blog.livedoor.jp/hibiya_attorney/archives/50484009.html

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