裁判

March 06, 2010

強制執行停止決定のプラクティス

第一審判決において、被告に対して金銭の支払いを命じる場合、仮執行宣言が付されることが多い。

周知のとおり、仮執行宣言が付された判決は、債務名義としての効力が認められているため、判決が確定しなくても、原告は、これを基に被告の財産に対して強制執行することが可能となる。典型的には、銀行預金債権の差し押さえであるが、こういった差し押さえがあると、銀行取引約定上は「期限の利益喪失事由」に該当するし、多くの契約のデフォルト事由に該当するので、これは大変なことである。

被告に支払能力があっても、原告はいきなり執行をしてくることがあるのだから、たまらない。そして、それが引き金となって銀行から新規融資が受けられなくなるなどして、破産に至ることもある。

なので私としては、仮執行免脱宣言をできる限り認めるべきだと思っているが、私の経験上裁判所は免脱宣言はあまり付してくれない。

そこで、被告としては、仮執行を止めるために、強制執行停止の申立てを行うことになる(民事訴訟法403条)。しかし、ここでも裁判所のプラクティスに問題がある。

被告が国の場合は、「判決正本が送達されてから14日経過した場合に限り仮執行できる」などど仮執行に猶予期間が付されていることがあり、その場合には、被告はあせって強制執行停止決定の申立てを行う必要はないが、私の経験上、一般企業に対してそのような配慮を裁判所はしてくれない。したがって、原告が仮執行宣言付判決に基づき執行の申立てを行うのと、被告が強制執行停止決定の申立てを行うのはスピード競争となる。

申立ての要件としては、(1)控訴提起すること、及び(2)(i)原判決の取消し若しくは変更の原因となるべき事情がないとはいえないこと又は(ii)執行により著しい損害を生ずるおそれがあることにつき疎明がされること、と非常に緩いものなので、実務上は、担保の金額さえ積むことさえできれば、必ず決定が出されると言われている。

しかし、問題は決定のスピードである。訴訟記録が原裁判所にあるときは、決定の裁判は原裁判所が行うとされている(民事訴訟法404条)。そうすると、原裁判所を構成する裁判官は決まっているので、たまたま「本日は裁判長が不在ですので、今日中に決定を出すことは不可能です」などと言われることがある。「スピード競争」なのにである。

一方の原告は、執行文付与の申立てを行う必要があるものの、これは書記官にて対応でき、その後は東京の場合だと民事執行センターで申立てをするので、原裁判所の裁判官の誰かが不在のために手続きが妨げられることはない。

こういう審理主体の関係での問題が第1点である。まあ、たとえば保全部のようなところに担当させると、原裁判には関わってないので逆に審理に時間がかかるということもあるかもしれないが・・・。

また、無事に強制執行停止決定を得てもそれで一安心ではない。強制執行停止決定を得ても、被告は執行裁判所に当該決定を提出しなければ執行は止まらない。

しかし、原告がどの裁判所で執行を申し立てているか被告には分からない。仮に分かったとして、執行裁判所に正本を提出しようとしても、裁判所は事件番号を特定して提出しないと受理してくれない(少なくとも東京の場合)。結局、被告としては、差押えを受けた第三債務者たる銀行からまず第一報を聞きつけ、そこで事件番号を知り、慌てて決定正本を執行裁判所に提出することになる。そして、銀行との関係では期限の利益を喪失…。

こんなバカなことあっていいのだろうか。被告が強制執行決定を取得したらどこの執行裁判所でもそれが分かるようなシステムを構築して、このような執行が行われないようにすべきだと思う。おそらく、このような観点で最高裁が予算措置を求めたことなどないのではないか。大企業はともかくとして、中小企業における差押えのインパクトを裁判所はもっと認識すべきである。

ちなみに、企業法務に携わる弁護士も契約書のレビュー時には、解除事由や期限の利益喪失事由の仮差押えや差押えについては、14日以内に停止・取消があったときはこの限りでないと但書きを入れるべきである。

なお、強制執行停止決定を得たときは、相手方にもそれが通知される。強制執行決定が出されたことを知りつつ、強制執行を行うことは不法行為を構成するという東京高裁の判例があるので、現状は、この判例を基に相手方代理人に対して予め警告して抑止力を利かせるのが最善の策である。

もう1点述べるとするならば、仮差押えの裁判所のプラクティスである。仮差押えは一方審尋で命令が出される。債権の仮差押命令であれば、第三債務者と債務者の双方に命令が送達されることになるが、裁判所は、債務者に先に送達された場合には、例えば預金債権の場合、債務者が預金を引き出す可能性があることから、債務者に先に送達されないように、第三債務者たる銀行に先に送達して、そこから1週間程度おいて債務者に送達することがある。

ところで、債務者側として仮差押命令に不服がある場合に、保全取消なり保全異議の申し立てをするのだが、その申立てには仮差押命令の正本が必要だったりする。しかし、上記のとおり債務者に正本が送達されるまで1週間のブランクがあったりする。

仮差押えは一方審尋なので、債務者側からする様々な抗弁があったりするので、それを取消や異議審で言いたいわけだ。しかし、申立てをするにも、上記のとおり相当程度のタイムラグがある。そして、その間に債務者は銀行からの信用を失うことがあるのである。

第三債務者より先に債務者に正本が届くのは問題だという問題意識は分かる。しかし、現在の企業法務のスピードにおいて、1週間という期間は長すぎる。

裁判所は、仮差押えにしても強制執行にしても、そのインパクトをもう少し考えるべきである。


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December 17, 2009

東京地裁に新たな特別部を

最近仕事をしていて東京地裁にあったらいいなと思う特別部。

それは・・・、

英語専門部!!

外国企業との契約交渉で紛争解決条項として東京地裁の合意管轄を勝ち取るのって苦労しませんか?外資系の100%子会社である日本法人との日本国内の取引に関する契約でも、契約書自体英語だし、紛争解決はなぜかニューヨークでの仲裁などと主張してきます。

まあNYのヘッドクォーターの法務部からすると、日本の裁判所など得体の知れないところで裁判などできないという考えなのでしょうが、それ以上に英語が通じないというところが実務的には大きい気がします。

準拠法を日本法にせざるを得ない契約については、やはり日本の裁判所が紛争解決には適していると私は思っています。仲裁の方が迅速かというと実はそうでもないし、仲裁人のコストはばかになりません。

しかし、日本の裁判所では、すべての訴訟書類を日本語に訳さなければならない。これはかなり負担です。すべての書類提出が英語でOKなら、もちろん日本の弁護士を訴訟代理人として選任しなくてはなりませんが、英語の契約書を日本語に訳して証拠提出する必要はないし、訴状や準備書面なども英語でドラフトして英語で米国の法務部や米国のカウンセルと電話会議などもできて非常に使い勝手がいいのです。

そうすると判決も英語か?というとさすがに支障があるんでしょうから、判決については日本語でもいいみたいなアバウトな制度でどうでしょうか。


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August 09, 2007

ブルドック最高裁決定

ブルドックの許可抗告事件の最高裁決定が出たみたいですね。
平成19年8月7日最高裁第二小法廷決定 平成19(許)30株主総会決議禁止等仮処分命令申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件

一応ちゃんと目を通していたのですが、飲み会やらアメフトとかで夜を忙しくしてエントリーをサボっていたら、igi先生から催促を受けたので、ちょっと検討してみます。

1.株主平等原則について

この点について、最高裁は、以下のとおり述べています。

「株主平等の原則は,…(中略)…特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の存立,発展が阻害されるおそれが生ずるなど,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるような場合には,その防止のために当該株主を差別的に取り扱ったとしても,当該取扱いが衡平の理念に反し,相当性を欠くものでない限り,これを直ちに同原則の趣旨に反するものということはできない。」


「特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになるか否かについては,最終的には,会社の利益の帰属主体である株主自身により判断されるべきものであるところ,株主総会の手続が適正を欠くものであったとか,判断の前提とされた事実が実際には存在しなかったり,虚偽であったなど,判断の正当性を失わせるような重大な瑕疵が存在しない限り,当該判断が尊重されるべきである。」


平たく言えば、企業価値を毀損するかどうかなんて正直誰にも分からないんだから、株主総会の判断を尊重しましょう、ということでしょう。なお、議決要件についてですが、あてはめの部分では、「ほとんどの既存株主が…」と述べていますが、この規範のところでは特に議決要件について述べていない以上、ここは特別決議を要求しているのではなく普通決議で足りると解釈すべきと思います。そして、株主総会決議の判断内容や合理性は問わず、判断過程に瑕疵がある場合にのみ当該判断は尊重されないことになるのでしょう。

ただ、あてはめにおいて「上記判断は,抗告人関係者において,発行済株式のすべてを取得することを目的としているにもかかわらず,相手方の経営を行う予定はないとして経営支配権取得後の経営方針を明示せず,投下資本の回収方針についても明らかにしなかったことなどによるものであることがうかがわれるのであるから,当該判断に,その正当性を失わせるような重大な瑕疵は認められない。」と述べているところからすると、企業価値を毀損する旨のなんらかの判断材料は与えられていることは必要で、そのような材料がないにもかかわらず「企業価値を毀損する」と多数決で判断した場合は、正当性が失われるとしているようにも思われます。

一応、株主平等原則違反にならないための要件として、「特定の株主による経営支配権の取得に伴い,会社の企業価値がき損され,会社の利益ひいては株主の共同の利益が害されることになる」ことを挙げているのですから、このように判断したとおよそ認められないような場合は排除しようということなのでしょう。でも、そういった資料さえ総会に提出しておけばいいのですから、ハードルは極めて低いと思います。

そうすると、結局は、総会決議は万能だと言っているのと変わらない気がします。でも、最高裁は株主総会で何でもできるという建前はとらずに、あえて「企業価値を毀損する場合」に限定をしています。つまり、株主平等原則違反とならないために一定の「正当性」を要求しているように思えます。以前のエントリーでも指摘したとおり、株主平等原則は資本多数決の濫用から少数株主を守ることにその機能が求められるのですから、なんらかの正当性は要求されて然るべきだと思います。

とするならば、株主総会が「企業価値を毀損する」と判断したことが妥当か否か、その実質について司法審査を及ぼすべきなのではないでしょうか。

もっとも、最高裁は、次の「衡平の理念に反し、相当性を欠くか」の点jについては、対象企業にとって重いハードルを課しているように読めるので、(本件では)そこでバランスを取っているのかもしれません。

その「衡平の理念に反し、相当性を欠くか」についてですが、最高裁は、.好謄ールが意見を述べる機会があった総会で決議されていること、⊃軍予約権の対価を得ることができること、を理由にこれを否定しています。

気になるのは、単に「相当性を欠くか」だけではなく、「衡平の理念に反し」という点も問われているところです。差別的取扱いが許されても衡平の理念に反してはならないことを要求しているわけですが、とすると、対価の付与が決定的に重要な要素となっているようにも思われます。それとも、判断権者である株主総会で発言の機会が与えられてさえいれば、「衡平の理念」に反しないと解する余地はあるのでしょうか(でも実際は、委任状や議決権行使書による議決権行使がほとんどでしょうから、総会の場で発言の機会があったとしてもそれが議決権行使にどれだけ影響を与えるかという点は考える必要があるかと思います)。

仮に、最高裁が平等原則違反にならない要件として、一定の経済的補償を要求しているとすれば、これは実務上厄介なことになりかねません。新株予約権の取得とはいえ、一般株主の新株予約権は必ず普通株式に交換される一方で、買収候補者の新株予約権のみを現金で買い取るという実態に鑑みれば、実質的には相対の自己株式取得のようなものです。そうするとこの手法を適法に導入するためには結局のところ株主総会の特別決議が必要になってしまいます(そこまで考えると、一般株主に売主追加の議案変更請求権を認めていない時点でアウトなのですが。でも江頭先生が「特定の株主から取得する手続が厳格な理由」の1つとして触れている「グリーン・メイラー」からの高値取得の阻止の必要性」というのは本件でもまさに妥当しちゃいますよね。)。

これを考えると、むしろ「企業価値を毀損する」旨の株主総会決議の判断の合理性について司法審査を及ぼすることによってややハードルを上げ、相当性の要件のところはもう少しハードルを低くして経済的補償なしでもOKという建てつけにすべきだったのではと思います。

最後に、最高裁はなお書きで、

「相手方が本件取得条項に基づき抗告人関係者の有する本件新株予約権を取得する場合に,相手方は抗告人関係者に対して多額の金員を交付することになり,それ自体,相手方の企業価値をき損し,株主の共同の利益を害するおそれのあるものということもできないわけではないが,上記のとおり,抗告人関係者以外のほとんどの既存株主は,抗告人による経営支配権の取得に伴う相手方の企業価値のき損を防ぐためには,上記金員の交付もやむを得ないと判断したものといえ,この判断も尊重され
るべきである。」


と述べています。

この点の最高裁の判断は雑だと思います。この23億円の交付については株主は了解していたのでしょうが、この23億円の流出が会社決算にどの程度の影響があるかなど、ブルドックは総会前に(つまり委任状や議決権行使書の取得前に)どの程度説明したのでしょうか。十分な説明がなされたうえで株主が同意したのかどうかという点は問われて然るべきだと思います。

2.不公正発行

この点についてはスルーしようかとも思ったのですが、以下の点は注目に値すると思います。

「株主に割り当てられる新株予約権の内容に差別のある新株予約権無償割当てが,会社の企業価値ひいては株主の共同の利益を維持するためではなく,専ら経営を担当している取締役等又はこれを支持する特定の株主の経営支配権を維持するためのものである場合には,その新株予約権無償割当ては原則として著しく不公正な方法によるものと解すべき」


ここは読み方が難しい気がしますね。

この部分についてあえて言及していることからすると、最高裁は、株主総会決議にも主要目的ルールが適用され不公正発行となるという立場を明らかにしたように思えます。

しかし、最高裁はあてはめのところで「これまで説示したところにより」このような場合に該当しない旨あっさり述べてしまっています。企業価値を毀損する旨の株主総会の判断内容については基本的には踏み込まず、最低限度の検討をしているだけなのに、この点は判断できるんでしょうか。すなわち、防衛策について株主総会の判断を仰ぐのは、機関権限分配論のもと、どの経営陣に経営を委ねるかは株主の専権事項だからということなのでしょう。とするならば、防衛策を発動する際には、必ず現経営陣の経営権を維持する目的は認定されることになると思われます。そうするとこれが主たる目的かどうかは、「企業価値を毀損する」旨の判断にどの程度合理性があるかによるのではないでしょうか。ここで合理性が否定されれば、現経営陣の経営権を維持することが主要目的と判断される気がするのですが…。

この点は今思いついただけなので、もう少し検討する必要があるかもしれませんが。

えっと、ちょっと疲れて時間切れなのでigi先生には申し訳ないですが、今日はこのあたりで。思いつくままに書いたのでまとまりがなくて申し訳ありません。まだ書きたいこともありますし、明日になってエントリーを読み返したら考えが変わっているかもしれないので、次回に続きます。

なお、コメント、批判、反論は大歓迎なのですが、その際には私が議論の前提にしていないことを勝手に所与の前提にしたり、私の主張をよく読まず誤解したまま反論することは避けていただければと思います。よろしくお願いします。

hibiya_attorney at 16:01|PermalinkComments(4)TrackBack(2)clip!

July 09, 2007

ブルドック地裁決定−総会特別決議と不公正発行−

あまりぼやぼやしていると、高裁決定が出てしまいそうなので、駆け足で今度は不公正発行の論点について見ていきたいと思います。

今回の決定の特徴は、株主総会の特別決議を経ている場合には、ニッポン放送・ライブドア事件の高裁決定が示した判断枠組は適用されないことを明らかにした点でしょう。

そして、原則として株主総会決議があれば、明らかに不合理と認められない限り株主総会の判断は尊重されるという点です。

以下、決定内容を個別に見ていきます。

1.本件は、株主総会において、定款変更をして一定の場合の新株予約権無償割当てを株主総会の権限とした上で、当該定款規定に基づき株主総会の権限の行使として特別決議に基づき実施されたものである。→本件新株予約権無償割当ては、取締役会の提案に係るものではあるが、その実施は、株主総会の権限に基づきされているから、取締役会の権限に基づき新株予約権の発行がされた場合についての上記の法理は本件について妥当するものではない。

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「株主総会の権限に基づきされている」と記載されていることからすると、定款変更をしたうえで株主総会の決議事項としていないいわゆる「事実上の決議」の場合には、以前としてライブドア事件の法理が適用され得るかのような印象を与えます。が、その理由を実質的に考えた場合には、そのように捉えるべきではないのでしょう。

なお、この理由付けからすれば、不公正発行の論点との関係では、特別決議である必要はなく、普通決議でもいいということになるのではないでしょうか。

2.誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは、株主総会における資本多数決によって決すべき事柄であるから、定款に定められた株主総会の権限の行使として特別決議に基づき実施された本件新株予約権無償割当てについて、その目的が債権者関係者による経営支配権の取得を防止することにあることをもって、直ちに株主総会がその権限を濫用したものと認めることもできない。

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この点は論理の飛躍があるかと思います。誰を経営者としてどのような事業構成の方針で会社を経営させるかは、株主総会において資本多数決によって決すべき事項であることは疑いの余地がありません。しかし、本件では、そのような「取締役選任の議案」が諮られているのではなく、特定の株主を株式会社の構成員として認めるか否か、という、その前段階のところが問題になっているのではないでしょうか。

3.株主総会は、その株主によって構成される株式会社の最高意思決定機関であるから、特定の買収者により経営支配権の取得が企業価値を損なうおそれがあるという対抗的手段の必要性の判断については、原則として株主総会に委ねられるべきであり、当該株主総会の判断が明らかに合理性を欠く場合に限って、対抗手段の必要性が否定されるものというべきである。

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この点は、機関権限分配論に依拠し、株主総会の決議がある場合には原則としてそれが尊重され、その決議が明らかに合理性を欠く場合には例外的に防衛策が違法となると、ライブドア事件の場合とは立証責任を転換しているようです。

しかし、機関権限分配論の理解はこれでいいのでしょうか。株主総会は、その構成員となる資格があるか否かも決議できる機関なのでしょうか。株主総会で想定されている決議事項というのは、元々は、構成員たる資格の部分ではなく、その先の会社運営に関する部分と思われます。先にも述べたとおり、買収防衛策は、特定の株主を会社の構成員から強制的に排除するという制度に他なりません。このような要求については会社は譲渡制限付株式という制度を用意しているのですから、特定の者を株主として認めたくないのであればこの方法によるべきでしょう(ライブドア高裁決定もこのように述べています)。

合理性を明らかに欠く場合には違法とされる旨留保しているとはいえ、株主総会万能説を唱えるかのような本決定については違和感があります。もっとも、会社法で導入された全部取得条項付株式の決議要件との対比からすれば、株主総会の特別決議でキャッシュアウトできるはずということになるのでしょう。しかし、以前のエントリーでも少し触れましたが、元々は全部取得条項付種類株式は「正当な理由」が必要とされていたはずであって、法制審議会でも解釈上少なくとも要求していくべきと述べています。そうすると、純粋にキャッシュアウト目的の場合には、総会決議の「合理性」の判断をもう少し厳しくすべきではないかという気がします。

なお、この法理を導く前に、地裁は「公開買付けに応じなければ上場廃止により売却の機会を喪失するというおそれから、経営陣を支持しつつも、公開買付けにやむを得ず応じる株主も存在すると考えられるのであり、公開買付けに応ずるか否かという形での選択権行使の機会を認めれば足りるということはできない」としたうえで、「そうであれば、特定の買収者が公開買付けの制度に基づき買収手続を進めている場合においても、株主総会としては、当該買収者による経営支配権の取得が企業価値を損なうおそれがあると判断する場合には、株主全体の利益保護の観点から相当な対抗手段を採ることが許容されるというべきである」と展開していることからすると、上場廃止という一種の強圧性の部分を手当てすれば、防衛策発動の必要性は認められないという反対解釈も成り立ちそうです。

株主の意思を尊重するというからには、一番いい方法は、TOBに応じるか否かの自由を株主に与えることに他なりません。地裁の上記説明は、そのような選択権行使の機会を認めるだけでは足りない事情を本件について説明しているわけですが、逆にそういった事情がない場合には、防衛策発動は認められないことでしょう。

もっともスティールに買収されると企業価値が毀損されるおそれがあり、株主はTOB価格が会社の本来的価値を把握していないことに気づいていないことを理由に、TOBに応じるか否かの機会を付与するのは妥当ではないという主張が防衛側からはなされるのでしょうが、その場合の立証責任がどちらに転換されるかが今後は見物です。

実はアメリカでも買収防衛策については、委任状争奪戦の機会が付与されていればPreclusiveではなく適法とされている一方で、それでは、何故、株主がTOBに応じるか否かを即時に直接判断することは許さず、数ヶ月も後の株主総会まで待たせる必要があるかについてデラウェアの裁判所はまったく理由を示していません(と、GordonだかGilsonが論文で言っていたと思います。)。なので、日本の裁判所がこのあたりを意識するような攻防を期待したいところです。

なお、私がスティール側の代理人であるならば、ブルドックがTOBの結果上場廃止となった場合には、TOBに応じなかった株主も希望すればTOB価格で買い取りをする旨のプレスリリースをこの段階ですることを勧めます。

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July 06, 2007

ブルドック地裁決定−買収防衛策と株主平等原則−

さて、ブルドック地裁決定について少し分析に入ろうかと思います。今回は、ブルドックの買収防衛策と株主平等原則との関係について。この点は、今回の決定で、実務上もっともインパクトがあって、関係者が顧問弁護士と自社の防衛策について対応を迫られるところでしょう。

地裁は、株主に無償で割り当てられた新株予約権について定められた差別的行使条件又は取得条項のために、特定の株主が持株比率の低下という不利益を受けるとしても、少なくとも、ヽ主総会の特別決議に基づき新株予約権の無償割当てが行われた場合であって、当該株主の有する株式の数に応じて適正な対価が交付され、株主としての経済的利益が平等に確保されているときには、当該新株予約権無償割当ては、株主平等原則や会社法278条2項の規定に違反するものではない、と述べています。

そうすると、実務上は、差別的行使条件や取得条項が株主平等原則との関係で適法とされるためには、株主総会の特別決議を経る必要があるのか否かが今度大きな検討課題となるでしょう(高裁でこの判断が維持された場合の話ですが)。

1.株主平等原則との関係で総会特別決議は必要要件か?

では、株主平等原則をクリアするためには、本当に総会の特別決議を経る必要があり、これを経ていなければアウトになりかねないのでしょうか?

地裁が、上記規範を導くために示した理由は以下の3つあります。

仝開会社においては、募集株式又は募集新株予約権の募集事項の決定について、有利発行である場合を除き、取締役会の決議によるものとされていることからすると、会社法は、既存株主の持株比率の維持の要請は、株式の経済的価値の平等の要請より劣後するものとして取り扱っている。

現金交付合併・株式交換の規制に鑑みれば、会社法は、株主の有する株式の数に応じて金銭その他の対価が交付され、経済的利益が確保される限り、株主総会の特別決議によって、少数株主の株主としての地位を強制的に失わせることを許容している。

譲渡制限株式の買取等、特定の株主からの自己株式取得、現物配当といった、支配株主等一部の株主のみが利益を受けるおそれがあり、株主平等原則の上から株主の利害に関わる事項も、会社法は、株主総会の特別決議の下に許容しているということができる。

,亙かり易いと思います。株式あるいは新株予約権の発行においては、有利発行とならない限り(すなわち、既存株主の1株あたりの経済的価値が維持されている限り)、既存株主の持分比率が低下したとしても株主総会決議を経る必要はない。このことから、経済的価値が維持されているのであれば、持分比率が減少するとしても、影響を被る株主らの決議を得る必要はないということを導いていると思われます。

△砲弔い討蓮△海譴肋し違うのではないかと思います。キャッシュアウト・マージャーにおいては、適正な対価を支払う限り少数株主を追い出すことができると裁判所は述べていますが、追い出されるのは消滅会社の株主であって、そこには「少数株主」という概念が成立する余地はありません。仮に統合後の会社における持分比率との関係で、消滅会社の株主がマイノリティであることを意味しているとしても(事案によっては、Majorityになる場合もあるわけですが)、かかるキャッシュアウト・マージャーにおいては、消滅会社の株主総会で特別決議を経る必要があるわけですから、majority of minorityによる決議が成立しているわけです。すなわち、同一の影響を被る株主から3分の2以上の同意を得ており、ここでは株主平等原則が問題となる場面ではないと思われます。本件では総会で議決権を行使する株主間で利益状況が異なっていますが、キャッシュアウト・マージャーの場合は、総会で議決権を行使する株主間で利益状況が異なっていない点で、これを持ち出すのは妥当ではないのではないでしょうか。

については、譲渡制限株式の買取りを持ち出すのは、公開会社であるブルドックについては妥当ではないと思われますし(しかも買取請求権者は特別決議に参加できないようなので、平等原則は関係するのでしょうか??)、特定の株主からの自己株式取得については、他の株主に売主追加の議案変更請求権が認められていることを考えると理由にならないのではないでしょうか。ちなみに、このは、江頭教授の『株式会社法』初版328頁の記載とそっくりなので、これを参考にしているのでしょう。私もこの点についてはそれほど深く検討できていないので、何か重大な勘違いをしている場合にはご指摘いただければ幸いです。

こうしてみてくると、地裁は、会社法が特別決議を要求している様々な制度を羅列していますが、株主平等原則との関係でどれくらい意味があるものかはよくわかりません。どちらかといえば、これらの理由は、不公正発行の論点で言及すべきことだったような気がします。そもそも、株主平等原則の機能として、支配株主の資本多数決の濫用等による差別的取扱いから一般株主を守ることがあげられます。そうすると、特別決議の存在が株主平等原則違反を治癒する要件とされることについては非常に違和感があります。特に、本件では、スティールとそれ以外の株主での取り扱いが異なるにもかかわらず、それ以外の株主の大多数が承認したから平等原則は問題にならないというのはどう考えてもおかしいのではないでしょうか。

そうすると、むしろ、上記,ら株主間において経済的価値の平等が図られている限りは、平等原則には違反しないと述べて、総会特別決議については要件にしないほうが理論的にはすっきりするのではないかと思います。もっとも、本件では特別決議を経ているのであえてそれ以上踏み込んで判断する必要はないわけですから、決定としてはこれでいいのでしょう。

2.企業価値研究会や経産省の指針とのスタンスの違い

この点は、大阪弁護士会の山口利昭先生も「ビジネス法務の部屋」の「新株予約権の無償割当と株主平等の原則」で指摘されているところですが、株主平等原則についての地裁の立場は、経産省の企業価値研究会や、経産省・法務省の買収防衛策に関する指針の立場とは異なっているように思われます。後者は、「新株予約権の割当について法律上特に制限は設けられていないことから、株主平等の原則に反しない」(平成17年5月27日付「企業価値報告書〜公正な企業社会のルール形成に向けた提案〜」77ページ)とか、「新株予約権を行使する権利は、株主としての権利の内容ではないから、新株予約権の行使の条件として、買収者以外の株主であることという条件を付すことは、株主平等の原則に違反するものではない」(2005年5月27日付経済産業省・法務省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」7ページ)と形式的に捉えていますが、地裁は、新株予約権自体が直ちに株主平等原則に違反するものではないが、当該新株予約権が株主としての資格に基づいて割り当てられているときは、株主平等原則の趣旨が及ぶと、実質的に捉えています。

地裁の理由付けは説得力がありますし、これまでの裁判所の判断手法からしても当然予想された判断かなと思います。経産省等の指針に依拠して、株主平等原則についてあまり検討してこなかった企業は、今後慎重に検討する必要があるでしょう。

なお、経産大臣の記者会見中、ブルドックの防衛策と株主平等原則について触れられているところがあるのでご参考までに。定款自治・株主自治なる概念を持ち出しているところが興味深いですが、資本多数決の濫用の抑止という理念はどこにもないようです。
http://www.meti.go.jp/speeches/data_ej/ej070625j.html

3.非適格者が名指しではなかった場合

防衛策と株主平等原則との関係については、それほど論文等フォローできていないのですが(帰国したら2年分の論文のキャッチアップが大変です…)、株主平等原則は、個々の株主の属性に着目して株主ごとに異なる扱いをしなければよく、必ずしも保有株式数に応じて比例的な取扱いを要求するものではないとする見解もあったかと思います。

本件では、新株予約権の行使の「非適格者」として、スティールの関係者が名指しで列挙されており、まさに個々の株主の属性に着目して差別がされていますので、地裁がこの見解を支持しているかどうかは不明です。したがって、「総議決権の●●%以上保有するもの」という定め方をしている場合には、経済的価値の平等の確保や総会の特別決議がなくても株主平等原則に違反しないと判断する可能性は一応残っているということになるのでしょうね。

個人的には、「数に応じて」という日本語からすると、会社法は、持株数に応じて比例的に取り扱うことを原則として要求している気がするのですが、この辺は色々と手当てをすることにより「例外」として適法とされる余地はあるのかなとも思っています。




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July 04, 2007

ブルドック地裁決定雑感1

およそ10日間の休暇から復帰しました。その間、日本では株主総会の集中開催日などいろいろあったようですし、何よりブルドックの仮処分決定があったようですね。

えっと、防衛策の発動について総会出席株主議決権の88.7%、総議決権の83.4%もの賛成により可決されたのであれば、賛成票を投じた株主はTOBに応じないのでしょうから、スティールが支配権を獲得することはなく、その結果、ブルドックの企業価値も損なわれないため「防衛策発動の必要性を欠く」というのは揚げ足とりでしょうか(笑)。

なお、かなり昔のエントリー「取締役派遣しなくても企業価値は毀損されうるのか」で述べた点について、日経Businessの「投資の自由は、侵されないのか ブルドック対スティールの係争が投げかける問題」に端的にまとめられています。そうそう、こういうことが言いたかったのです。

本件でも、現経営陣に経営は任せるとスティールは主張しているのに、「経営権取得後の経営方針についてはこれを具体的に明らかにせず、…企業価値を損なうのではないかとの思念を抱かせるのも無理からぬものというほかない」と裁判所は述べています。抽象的に企業価値を損なうというのではなく、具体的にどのように損なうのか述べて欲しいところです。

まあ、結論としては予想されたところですが、株主平等原則の解釈や不公正目的は株主総会決議で治癒されるのかといった重要な点について判断がなされており、理論的には突き詰めると本当にそうなのかとやや疑問に思うところもありますので、そのうち別途エントリーを立てると思います。

今日は休暇明けで疲れているのでほんとに雑感だけで(明日も独立記念日で休暇なのですが)。

hibiya_attorney at 12:40|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!

March 18, 2007

ホリエモン判決の感想

有罪は予想していましたけれど、実刑というのは重い気がしますね。株価が急落して個人投資家が被害を被った点を重視したのでしょう。

裁判所は、宮内が中心になって錬金術を進めたという事実認定したという報道もありましたが、そうだとすると1週間後に予定されている宮内氏も実刑判決になるのでしょう。これで宮内氏に執行猶予がつくようだと、実刑と執行猶予の差はまさに否認料ということになってしまいますので。いずれにしても以前のエントリー「富山の冤罪事件について考える」でも指摘した否認料の実務は変更すべきです。この点をもって「反省がない」として量刑を重くする方向にするのは何か違う気がします。

あとは、ちょっと裁判終盤になってホリエモンがマスコミに出て、偉そうに主張していた点や、被告人質問での対応が横柄に見えるところが悪印象に映り裁判官の心証に影響するのではないかとは思っていました(この点は弁護人が止めるべきだった)。でも事件担当裁判官は、当然事件に関するマスコミ報道には接してないのですよね?

しかし、株価が急落したという点も、これも以前のエントリー「ライブドア事件雑感」で指摘した検察の捜査手法やマスコミによる過熱報道によるところもあるわけだし(検察はそのときはもっと大きな事件の構図を描いていたようですが、結局これだけしか出てこないことが分かっていたとしたらあのような捜査手法はとらなかったでしょう)、なかなか厳しい判決ですね。

ところで自社株売却益の点は、会計計上すべき科目が違うだけで、キャッシュの裏づけはある点で、他の粉飾よりは悪質性が低いと思うのですがこの点は量刑上どう反映されたのでしょうか。投資事業組合を使ってキャッシュを稼ぐという手法自体は悪質性があるとは思うのですが、問題になっているのは有価証券報告書の虚偽記載ですので、粉飾という観点では、「ないものをある」と装うよりはましなのではないかという考え方も成り立つのかなと思いますし。

まあ、判決を読んだら「なるほど」と納得するのかもしれませんので、判決が公表されることを望みます。

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January 30, 2007

裁判所によるWikipediaの引用

また、Wall Street Journal Law Blogに面白いエントリーが。
Should Judge cite Wikepedia?

どうやら2004年以降、判決でWikipediaを引用したケースは100件以上、連邦控訴裁判所でも13件あるらしい。アメリカの話ですが、これってすごくないですか?

しかしエントリーで引用されている識者のコメントにもあるように、そのWikipediaの解説が正しいという保証なんてないし、Authorityを獲得したとはとても言いがたいという気がします。Wikipediaはちょこっと調べものするときには便利ですが、用語によっては正確とは程遠い解説しかなされていないものがあるわけだし、そうするとその点の吟味・検証が必要なわけで、あえてWikipediaを判決で引用しなくてはいけない理由が分かりません。第7巡回裁判所(7th Circuit)のPosner判事が何をもって正確といっているかは根拠が良く分かりません。でも、“It wouldn’t be right to use it in a critical issue. If the safety of a product is at issue, you wouldn’t look it up in Wikipedia.”なんて言っているところをみると、それってやっぱり不正確の可能性があるけれど、大して重要じゃないところで引用しているからOKでしょと意味しているように思えてなりません。裁判所の権威はどこへ??(涙)

「Authorityを獲得したというには時期尚早」という趣旨のコメントがありますが、このサイトの性質上、10年後だって一般的にAuthorityありとはいえないのではないでしょうか。マニアックな用語は永遠に有識者が編集しないこともあり得るわけで。

これって裁判所のClerkの単なる手抜きではというのは穿った見方でしょうか?日本の裁判所が引用することはまずないと言っていいと思いますが、万が一既に引用しているケースがあったら教えてください。



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January 24, 2007

富山の冤罪事件について考える

やはり弁護士として、この事件については触れなくてはならないと思うので、かなり長くなりそうですが徒然なるままに書いてみます。

3年服役男性 無実(Asahi.com)

「懲役3年の判決を受けて服役を終えた男性は「無実」だった――。県警は19日、強姦(ごう・かん)罪などで02年11月に実刑判決を受けた県内の男性(39)とは別の容疑者を逮捕したと発表した。現場に残された足跡が男性のものと違うという認識があっただけでなく、男性宅の電話の通信記録の調査が不十分なまま逮捕に踏み切っていた。逮捕から仮出所までに拘束された期間は2年9カ月。」

刑事訴訟法を勉強するときに必ず学ぶ法格言があります。
「十人の真犯人を逃がすとも一人の無辜(むこ)を罰すなかれ」
たとえ10人の犯罪者を逃したとしても、1人の無実の者を有罪にしてはならないという意味です。刑事訴訟法を学んだとき、その人権への配慮の仕方に私はある種の感動さえ覚えました。この法格言もその1つ。

社会としては10人の凶悪犯罪者が捕まらずに野放しになっているのは怖いし不安だと思うかもしれません。しかし、だからといって無実の者が有罪となって服役することを容認するわけにはいかないでしょう。その1人があなただったらどうするのでしょうか。10人の凶悪犯罪者を捕まえるためだったら10%くらいの割合で無実の者が有罪となっても構わないと考えている人は、それは自分がその立場になることはないと漠然と考えているからそう思うのでしょう。しかし、冤罪はあなたにも降りかかるかもしれないのです。日本国憲法は「個人の尊厳」を謳っていますが、無実の者が有罪判決をもらって服役した場合の人権侵害ほど甚だしいものはありません。その名誉を回復するのも大変でしょうけれども、何よりも服役していた期間は戻ってこないのです。その期間、完全に自由が奪われているのです。本件でも服役中に父親が亡くなったとのこと。国家は父親との時間をどのようにして取り戻してくれるのでしょうか。
そして、本件では男性のお兄さん夫婦も無罪が判明するまでの5年間大変つらい思いだったと会見しています。丁度、東野圭吾著「手紙」が映画化されて反響を呼んだかと思いますが、察するに余りあります。

このようなことが起きた以上、法曹関係者は何故これを防げなかったのかを真摯に考える必要があります。マスコミもこういったことについてもっと徹底的に追求をすべき。

1.捜査について

捜査については警察・検察とも痛烈に批判されて然るべきという点に異論を挟む人はいないでしょう。警察の記者会見も検察の記者会見も甘すぎ、甘すぎですよ。検察も次席が会見に応じるという慣行で対応しているあたり、事の重大性を認識しているのかと疑問に思ってしまいます。

報道によれば、容疑を受けた男性は、逮捕・勾留された際の警察官・検察官に対する罪状認否、勾留質問における裁判所からの質問のいずれに対しても否認をしていたようです。

さらに、警察は、当初男性を任意同行して取調べをしていたようです。男性は最初の2日間は否認していたものの、3日目に容疑を認めたために逮捕されたとのこと。

この任意同行というのは一応「任意の取調べ」ですが、実際は任意といえるかは非常に怪しいところ。事実上の強制である場合も多いのです。何日も何日も職場で刑事が現れたら同行を断われるでしょうか。周りを気にして取り調べに応じることも多いですし、応じなければ応じないで応じざるを得ないように色々揺さぶってくるでしょう。そしてきちんと説明すれば分かると説明を試みてもまったく警察は信用せず、否認を続けていると不利になるとか、このままでは家に帰すことはできないとかまたいろいろ揺さぶったのではないでしょうか。

いずれにしても、警察が自白を取るまで数日にわたって任意で取り調べていたところをみると、その他の証拠では逮捕状請求には不十分だったのではないでしょうか。では、警察は一体何を根拠に2日間否認を続ける男性を容疑者と決め付けて自白を取りにいったのでしょうか。

特に、現場で残された足跡は男性のものとは違っていたと報道されています。この点は警察はどう評価していたのでしょうか。被害者の供述も断定的ではなかったと報道されています。

警察の立場としては、容疑者(この時点では重要参考人ということなのでしょうが)が容疑について否認するのは日常茶飯事のことで当たり前という感覚で、否認されたからといって「ああそうですか」と納得するわけにはいかないということでしょう。だけれども、自白を迫るからには、まず間違いないという物証、客観証拠がなければおかしいでしょう。本件では何に頼って「落とそう」としたのか。

このあたりも含めて、任意同行中の取調べの経緯について警察は明らかにすべきでしょう。もちろん、被害男性のプライバシーには極力配慮する必要がありますが、マスコミもこの点をもっと追及すべきです。関西テレビの「あるある大辞典」の捏造の記者会見では記者が粘って20分ほどして社長の口から「捏造」という言葉を引き出したようですが、今回もそれくらいの粘りが欲しいところです。

いかに警察が自白を獲得したのかを明らかにせずして、将来の冤罪の発生防止にはつながらないでしょう。

2.弁護人は接見にあたりどうすべきか。

弁護人が「当時疑問に思うことはなかった」と会見していることからすると、本件ではおそらく弁護人が最初に接見したときに、男性は弁護人に対しても「やった」と認めたのでしょう。そのため弁護人は単なる自白事件であると考え事件を処理したのかなと。

現場の足跡が男性のものとは異なっていたなどという不利な事実は、検察官が証拠調請求をしているわけではないでしょうから、弁護人の目に触れる機会はありません。検察官は手持ちの全ての証拠を弁護人に開示する義務はないですから(裁判員制度導入に向けて日弁連が義務を認めるよう求めていたと記憶していますが、その後フォローアップできていないので、その後変わっていたらすみません)、弁護人としては他の客観証拠から冤罪だと判断するのは厳しかったことになるでしょう。

しかし、弁護人が被告人の利益を守れなくて誰が守るのか。私は本件の弁護人を攻めるつもりはありませんが、今回の事件を教訓に全国の弁護士が接見にあたっての心構えを見直す必要があると思います。

被告人が弁護人に最初から「認める」と言ったのであれば、それはあきらめの境地からの言動ということになるでしょう。何がそこまであきらめさせたのか。

「洗脳」とまでいうと語弊がありますが、勾留中は被疑者は基本的に警察官や検察官としか話をしませんので、彼らのいうことに巧みに操られるようになるようです(佐藤優氏「国家の罠」にそのあたりのことが書いてあってリアルです)。また、被告人は警察や検察に否認する場合の不利益について色々言われて、認める場合があります。例えば、否認をしている場合には原則として第1回公判期日前に保釈決定がされることはないですし、場合によっては検察側立証が終わるまで保釈されないこともあります。また、「否認料」といって公判でも否認を続けると、その分刑期が長くなるという実態があります。こういった実態からすると、否認を続けるよりも認めたほうがスマートといえる場合もあるかもしれません。特に、自分の言い分はまったく聞いてもらえず長期の取調べで精神的にも疲弊していれば、捜査機関に迎合して楽になりたいと思うのは不思議ではありません。

弁護人としては接見にあたってはこの点をよく踏まえて接見に臨む必要があるでしょう。一旦あきらめてしまった被告人に再び戦うという意欲をもってもらうためには、やはり信頼関係の構築が重要なのだと思います。あと、「捜査段階で認めてしまったから、いまさらどうしようもない」と思っている被告人も少なくないと思います。そうではないことを懇切丁寧に説明して、素直に思っていることを話してくれ、それを前提にどうすべきか一緒に考えようという姿勢を見せることが重要なのかと。

あと、冤罪事件をなくすために一番努力しなくてはならないのが弁護士であることは間違いないのですから、安易に「自白事件」と判断することは禁物ということを肝に銘じなくてはならないですね。本件でも、検察官への罪状認否や勾留質問段階では否認していたことを聞き出すことに成功していれば、何故自白に転じたのかなどを質問することによって、本当は否認したいということが引き出せたのかもしれません。

今後刑事事件を受任するときにはこの事件を必ず思い出すようにしたいと思います。

3. 裁判官が見抜くことはできなかったのか。

日本の裁判官がいかに優秀であってもこの点はなかなか厳しいところなのだと思います。

現在の刑事訴訟法は、予断排除の原則、起訴状一本主義といって、第1回公判期日前は裁判所は起訴状以外の資料、すなわち証拠などを見ることはできないことになっています。これは裁判官が有罪の予断をもって審理に臨むことを防ぐためです。

でも、被告人が起訴事実を認める場合は、実際は弁護人と検察官と裁判所書記官が連絡をとりあって、1回の公判(1時間)で結審するように手続きを進めます。つまり、大雑把にいえば、ゝ訴状の朗読、被告人の罪状認否、8〇ヾ韻砲茲詼粗陳述の朗読、じ〇ヾ韻砲茲訃攀鯆汗禅瓩罰鴇攀鬚陵彁櫃旅霖痢↓ナ杆鄲Δ砲茲訃攀鯆汗禅瓠閉名錣肋霈証人と被告人質問)。で、最後に裁判所がもう一度被告人に何か言いたいことがあるかを聞いて結審する。

この手続きをみれば分かるように、自白事件の場合は裁判所は証拠を徹底的に精査してから結審する仕組みになっていません。大抵の裁判官は被告人質問の間に検察官請求の供述調書をざっと読んでいますが、一応検察官が起訴するくらいの事件ですから、ざっと読んだくらいで何か疑問点が出てくることはないでしょう。

で、一旦結審してしまうと、後に判決を書くときに多少ひっかかることがあっても、再度弁論を再開するのは躊躇するのではないかという気がします。例えば、補強証拠(*注)が少し弱いなぁと思っても、「素直な自白事件だし気にしすぎだろう」と思ってしまうのではないでしょうか。裁判官の皆さんが「そんなことは絶対にない」と言ってくれるのであればいいのですが。

*注:日本の刑事裁判では、補強証拠の法則といって、被告人は自白だけでは有罪とすることはできず、自白を補強する他の何らかの証拠が必要となります。

4.関連 −否認料−

 被告人が公判で犯行を否認した場合に、「否認料」(表向きは「反省していない」という被告人に不利な情状の1つ)として、刑期を長くするといった実務はなんとか止められないものでしょうか。この点については、修習中に色々と議論したような記憶がうっすらありますが、やはり廃止すべきだと今も思います。

 本件でも、否認料を恐れて認めた可能性もあるでしょう。推測になってしまいますが、もしかしたら男性の父親が病気で先が長くないかもしれず、そのためには否認して長く刑期を勤めるよりも(しかもその場合は品の結果、裁判も長くなるので裁判が確定する前の勾留日数(未決勾留日数)がある程度算入されるとしてもトータルで長くなる)、さっさと認めて模範囚として仮釈放でさっさと出てきたほうがいいという判断だったのかもしれません。

 否認料という存在そのものが、萎縮効果を生み出し真意を反映した罪状認否を行えなくしているという発想は裁判所にはないのでしょうか。判決を書く以上、事実認定には絶対の自信を持っている、誤ることはないと考えているのかもしれませんが、萎縮効果というのは防ぎきれないはずです。

何故、表現の自由の規制法案などについては、表現の自由の萎縮効果を考慮して厳しい違憲審査基準を適用することができるのに、罪状認否については萎縮効果を考慮しないのでしょう。これは絶対改めるべき。

5.関連 −弁護士の無罪事件についての臨床経験の不足−

上記とも関連しますが、接見に行ったときに、被告人に「本当はやってないですけど、これこれこういう事情があるので長期間拘束されるのは困ります。否認して無罪になるのであれば否認しますが、有罪になって否認料をとられて長期服役になるととても困るのです」と相談されたときは、弁護人として一番困ることでしょう。そりゃやってない以上は、説得して無罪主張をしましょうというのが模範解答です。でもその時々の被告人の置かれた事情を考慮したときに、リスク分析をして弁護方針を決めなくてはならないこともあるわけです。ところが大概の弁護士は無罪事案についての臨床経験が不足しているために、無罪を取れるか聞かれるとこの回答がなかなか難しい。

司法研修所では、刑事関係では、刑事裁判、検察、刑事弁護と3科目の研修があります。いずれも実際にあった記録を検討して、裁判官の立場で判決、検察官の立場で起訴状、弁護人の立場で弁論要旨を起案します。

刑事弁護の場合には、被告人が起訴事実を否認しているときは無罪主張をすることになるので、無罪主張する弁論要旨を書くことは普通なのですが、刑事裁判で無罪判決を書くこと、検察起案で犯罪が成立しないとして起訴猶予処分を選択することは絶対になく、これらを卒業試験でやらかすと「落ちる」と言われているくらいです。

確かに日本の裁判では有罪率が99%を超えるなんていわれていましたので、有罪判決の起案の練習をしたほうが修習としては効果的なんでしょう。しかし、実際の無罪事件の記録を検討することによって養われることも多いと思います。裁判教官からこれは無罪とせざるを得ない、検察教官からこれは起訴猶予とせざるを得ないというポイントを教わることは何事にも替え難い経験かと思います。日本が、裁判官、検察官、弁護士、どの進路を選ぶかにかかわりなく修習中はすべての実務を経験させるという方針を採っている以上、裁判、検察科目についても、弁護士志望の者にとっても有益な教材を扱うべきかと思います。特に現在は8割以上が弁護士となるのですから。

勿論、難しい刑事弁護事案にあたったときは弁護士会の刑事弁護委員会の経験豊富な弁護士に指導を仰ぐこともできるのでしょうが、実際、無罪判決となった決め手は何かを現役の裁判官から学ぶことがやはり有益かと。

また、無罪判決などは判例時報などの法律雑誌で読むことはできるのですが、やはり実際の記録をみるのと判決における事実認定を読むのとでは全然違いますから。

そういう意味では、本件の訴訟記録は非常に貴重なのだと思います。そして注目すべきは本件の自白調書の中身ですね。本件では容疑をかけられた男性には実はアリバイが成立していたということですから、犯行現場にいたわけでもなく、犯行に至る経緯については完全な「作文」なわけです。男性がまったく体験していない事実を男性が体験したかのように調書が作成されているわけですね。いかに警察・検察が犯罪をつくりあげたかという点において貴重な資料です。不謹慎かもしれませんが、刑事弁護に携わるものとしては一度検討して、今後の実務の参考にしたいところです。

本件はたまたま別事件で捕まえた被疑者が自白したことで冤罪が発覚しましたが、逆にいえば真犯人が捕まらなかったら永遠に発覚することはなかったということです。そうすると、他にもまだ冤罪があるかもしれません。

あー、やっぱり長くなっちゃった・・・。


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December 06, 2006

特許法35条3項・4項と外国の特許を受ける権利

今朝顔を洗っていたら、何の脈絡もなく何故か数ヶ月前に出た旧特許法35条3項・4項は外国の特許を受ける権利にも類推適用されるという最高裁判例(最判平成18年10月17日)について「これでいいのか?」と思ったのでちょっと調べてみることにしました。この判例についてはニュースで結論を知っていただけなので、この際ロジックを抑えてみようかと。

考えるきっかけとなったのは、その結論ってアメリカの企業がアメリカで特許出願したときにも適用されるというありえない結論になっちゃうわけ?というものでした。

リサーチの結果、どうやらそのような結論にはならないようです。しかし、別の疑問が。それは、日本の特許を受ける権利との関係では特許法35条3項・4項は強行法規と解されてきましたが(オリンパス最高裁判決)、外国の特許を受ける権利との関係では任意規定として当事者の意思で排除できてしまうのでは?というものです。
以下、詳細。

まず、最高裁のロジックは以下のとおり。
(1)日本法人たる使用者と日本人たる従業者が、当該従業者がした職務発明について外国の特許を受ける権利を譲渡したのだから渉外的要素を含む→当該譲渡契約の準拠法を決定する必要あり。
(2)権利の譲渡の対価の問題は、譲渡当事者の債権債務関係に関する問題であるため債権的法律関係の効力の問題として法性決定→法例7条による。当事者の黙示の意思は日本法なので、準拠法は日本法。
(3)なお、対象となる特許を受ける権利が諸外国においてどのように取り扱われ、どのような効力を有するかは、特許権の属地主義の原則から、当該外国の法律が準拠法となる。
(4)文理解釈上、特許法35条3項・4項は外国の特許を受ける権利には直接適用されない
(5)しかし、以下の根拠から類推適用はされ、従業者は外国の特許を受ける権利の譲渡について使用者に相当の対価を請求できる。
/μ拡明は雇用関係等に基づいてされるものであるため、権利の譲渡時において使用者と従業者が対等の立場で取引をすることは困難であるため従業者を保護する必要があるという特許法35条3項・4項の趣旨は、外国の特許を受ける権利にも妥当する。
特許を受ける権利は各国ごとに別個に観念されるとしても、その基となる発明は社会的事実として1つ。
3姐颪瞭探を受ける権利も含めて、従業者と使用者間の発明に関する法律関係を一元的に処理しようというのが当事者の通常の意思。

確かに、上記の最高裁のロジック(2)(3)に述べられていることは、渉外的要素を含む知的財産権の譲渡があった場合の準拠法決定の際に一般的に主張されているアプローチです。しかし、このようなアプローチを採ると、少なくとも外国の特許を受ける権利の譲渡契約に関する準拠法については他の国の法律を合意することにより特許法35条3項・4項の類推適用を避けることができるように思われます。

もちろん、当事者が選択した準拠法が公序則(法例33条。改正法はフォローしてないです、すみません。)に違反するとして、結局日本法が適用される余地を残していると解釈することもできます。しかし、その場合の公序違反の根拠とは、おそらく特許法35条3項4項の労働法的性格から来る強行法規性となるでしょうから、そうであれば、上記のようなアプローチは採らず、最初から外国の特許を受ける権利の譲渡は雇用関係に関する問題であると法性決定をし、その強行法規的性格からいきなり特許法35条を類推適用するとすれば良かったのだと思います。加えて、最高裁は類推適用の根拠として0豸欺萢という当事者の意思を掲げてますので、当事者の意思がそうでないことが明らかであれば類推の基礎を欠くことになり、特許法35条3項・4項を適用しなくとも公序に反するとまではいえないでしょう。

この点、原審(東京高裁平成16年1月29日)は、法例7条による処理のアプローチに加え、予備的に雇用関係に最も密接な関係を有する国の法律を準拠法とするアプローチにも触れており、どちらの立場を採るのか明らかにしていませんでした。しかし、最高裁は、この点に関し法例7条のアプローチについてのみ触れ、後者のアプローチには言及していませんので、後者の立場を事実上採用しなかったものと思われます。

そうすると、外国の特許を受ける権利の譲渡については当事者は合意により他国の法律を準拠法とすることによって特許法35条3項・4項の適用を排除できるということになるのではないかなと。なんだかアンバランスじゃないですか?

個人的には、最高裁は類推の根拠としてをあげる必要はなかったのではないかという気がします。画一的取扱というポイントは実務上重要ですが、だからといって当事者の意思まで持ち出す必要はなかったかなぁと。最高裁は´△世韻藁狄笋垢襪砲麓紊い犯獣任靴燭里任靴腓Δ。私としては、どうせなら,魘調することによって、特許法35条の問題は雇用に関する問題であってその労働法的性格から準拠法の決定を待たずに直接適用されるというアプローチを採るほうが法律関係がシンプルでスマートだったのではないかと思います(原審の被控訴人の主張を退ける理由をみていると原審が実質的にはこのような立場を採っているような気もします)。この場合にはアメリカの企業の日本支店に勤務するアメリカ人従業員がなした職務発明についても、当該特許を受ける権利が国内であるか外国であるかを問わず特許法35条が規律することになりますし。

ちなみに、外国の特許を受ける権利の譲渡についても属地主義の適用を受けるという立場(原々審の立場。東京地判平成14年11月29日)については、原審は明確に退けています。外国特許を受ける権利の譲渡の対価の部分については、特許の属地主義を確認したBBS最高裁判決の射程距離外であって、特許を受ける権利は誰に原始的に帰属するかという問題は使用者と従業者が属する国の国家的利益に結びつく問題であって属地主義を採用することはできないとしたのです。でも、BBS判決を推し進めれば特許を受ける権利についても属地主義が妥当するのではないでしょうか。各国の特許法はそれを前提に構築されているように思われますが、ここを否定しているのはちょっと驚きです。高裁のロジックからすると外国の特許を受ける権利も日本の特許法に従って従業者に原始的に帰属することになりそうですが、最高裁はそこまでは踏み込んでないでしょう、さすがに。


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October 25, 2006

ストックオプション課税訴訟

ストックオプション「加算税は違法」・最高裁(Nikkei Netより)

本件、ストックオプションの行使益の課税区分自体は給与所得ということでとっくに最高裁でケリがついていましたが、加算税の違法性について触れたのは初めてじゃないでしょうか。

この種の訴訟を以前やっていたからというわけではありませんが、国税当局が昔一時所得で申告するよう指導していたことに鑑みればこれは当然の判断であって、適法としていた東京高裁の方が異常です。
これで、これに限らず超保守的で極端に行政よりの東京高裁の姿勢が変化すればと思います。



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October 15, 2006

海外在住者に対する日本のTV視聴サービス−録画ネット事件−

<録画ネット事件>

前回はまねきTV事件について述べましたが、それよりも1年以上も前にちょっと話題になったのが録画ネット事件。この種のサービスについての最初の司法判断だと思います。

こちらも、同様に、債務者は海外在留邦人が日本のテレビ番組を見ることができるサービスを提供していたのですが(ただし、ソニーのロケーションフリーテレビを利用していたわけではない)、1点違うところは、こちらは利用者が自由にテレビ番組を録画予約し、後で好きなときに録画を見ることができるようにしていたという点です。

仮処分決定(東京地裁平成16年10月7日決定/平成16年(ヨ)第22093号著作隣接権侵害差止請求仮処分命令申立事件)
異議審決定(東京地裁平成17年5月31日決定/平成16年(モ)第15793号仮処分異議申立事件)
抗告審決定(知財高裁平成17年11月15日決定/平成17年第10007号著作隣接権侵害差止仮処分決定認可決定に対する保全抗告事件)(三村裁判長)

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October 10, 2006

海外在住者に対する日本のTV視聴サービス−まねきTV事件−

<まねきTV事件>

もう2ヶ月ほども前になりますが、まねきTVというサービスについてNHKその他の民放業者5社が求めた差止仮処分の申立てについて却下する旨の決定がありました(東京地方裁判所民事第47部平成18年8月4日決定(高部裁判長)/平成18年(ヨ)第22022号著作隣接権仮処分命令申立事件)。決定はこちらから見ることができます。昨年、本件と似たようなサービスである録画ネットについてはテレビ局側の差止めが認められていたので今回の決定はテレビ業界に相当衝撃を与えたようです。

ということで、両決定の差はどこから生まれたのか、まねきTV事件と録画ネット事件の両決定について読み込んでおこうというのが今回(から数回)のエントリーの趣旨です。

まずはまねきTV事件から。

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September 26, 2006

裁判所からの処置請求

オウム事件、2弁護士を処分請求・東京高裁(NIKKEI NET)

「控訴審の公判が開かれずに死刑が確定した元オウム真理教代表、松本智津夫死刑囚(麻原彰晃、51)の弁護士2人について、東京高裁(須田賢裁判長)は25日、日本弁護士連合会に処分を求める「処置請求」をした。高裁は「控訴趣意書の提出期限の延期を申し出ながら、延期後もあえて提出しなかったのは、審理の迅速な進行を妨げる重大な違法行為」としている。」

まず、処置請求なんて制度あったんですね。聞いたことがあるようなないような。ということで調べてみました。処置請求の根拠条文は色々あるようですが、今回のは刑事訴訟規則303条2項に基づくものかと。

「第三百三条 裁判所は、検察官又は弁護士である弁護人が訴訟手続に関する法律又は裁判所の規則に違反し、審理又は公判前整理手続若しくは期日間整理手続の迅速な進行を妨げた場合には、その検察官又は弁護人に対し理由の説明を求めることができる。
2 前項の場合において、裁判所は、特に必要があると認めるときは、検察官については、当該検察官に対して指揮監督の権を有する者に、弁護人については、当該弁護士の属する弁護士会又は日本弁護士連合会に通知し、適当の処置をとるべきことを請求しなければならない。
3 前項の規定による請求を受けた者は、そのとつた処置を裁判所に通知しなければならない。」

で、処置請求を受けた弁護士会の手続等について定めているのが「裁判所の処置請求に対する取扱規程」という日弁連の規程ですが(今年の4月施行ですね)、これによると、日弁連は自ら調査をし又は単位会をして調査せしめ、3ヶ月以内に処置をするかどうかの決定をしないといけないようです。それで、処置をすることを相当と認めるときは、―言又は勧告及び懲戒の事由があると史料するときは懲戒の手続に付する、のいずれか又はその双方の処置をとるようです(規程第8条)。

両弁護士が控訴趣意書の提出期限を守らなかった経緯は、Asahi Comによると以下のとおり。「控訴趣意書の提出期限は05年1月だったが、「被告と意思疎通できず、趣意書を書けない」として期限延長を求め、高裁は同年8月に延ばした。 両弁護士は松本死刑囚の精神鑑定の方法を巡って高裁側と意見が折り合わず、期限になっても提出を拒否した。このため高裁は今年3月に裁判を打ち切った。弁護団は高裁に異議を申し立てたが認められず、最高裁への特別抗告も今月棄却され、死刑が確定した。」

漠然としたことしか書かれていないのであまり踏み込んだことは言えませんが、弁護人としては被告人と意思疎通ができないまま裁判所のプッシュに応じて控訴趣意書を提出するというのはなかなか厳しいのではないでしょうか。先日の最高裁は、松本被告が意思疎通を図らないのは自業自得と述べて死刑が確定しましたが、それは結果論であって、弁護人たる者、最後まで被告人を守る義務があるのであって、そのような立場にある者が「こんなに接見に来ているのにまったく話そうとしないなんて自業自得だな」と決めつけて妥協した控訴趣意書を提出するわけにはいかないと思います。確かに裁判の遅延にはつながったのかもしれませんが、それでは裁判所は弁護人にどうしろというのでしょうか(妥協して控訴趣意書を出せ?)。

もっとも裁判所も様々な事情に配慮し、弁護人と協議あるいは指示を出していたのかもしれませんので、裁判所が処置請求をするのもやむを得ない事案なのかもしれません。いずれにしても、日弁連の事実認定と判断が注目されます。事実如何によっては結構重要だと思いますね、これ。







hibiya_attorney at 11:51|PermalinkComments(0)clip!

July 21, 2006

民事裁判権

やっぱり出ましたね。以前のエントリーで紹介したようなしてないような。
商取引巡る訴訟、外国政府相手も可能・78年ぶり判例変更



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April 07, 2006

外国主権国家に対する民事裁判権

外国国家と裁判可能に 最高裁、大審院判例を見直しへ(Asahi Netより)

これまでの法曹の常識を覆す大きな変更になりそうですね。強制執行まで認められるんでしょうか。
あー、訴訟をやる弁護士として一度は(勝訴側で)最高裁の法廷に立ってみたい。。。高裁で一度負ける必要があるのが難点ですが(笑)。

写真はPenn大のキャンパス内にいる創設者のBenjamin Franklinです。

Benjamin Franklin

hibiya_attorney at 23:19|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!

March 01, 2006

Chancellors

今日はロースクールにおいて、以前ドロップしたValuation Principlesの授業の一環として、1985年から97年までDelawareのCourt of ChanceryのChancellorを務めていたWilliam T. Allen氏と彼の後を引き継いで現在もChancellorを務めるWilliam B. Chandler III氏を招いて、デラウェア会社法上のAppraisal Rightの評価方法を巡って争われた超著名ケースCede & Co. v. Technicolor, IncについてPanel Discussionが行われました。このケース何度もデラウェア最高裁から差し戻しがなされた大変難しいケースです。

このPanel DiscussionはValuationの授業を取ってない生徒にも開放されていたので、ちょっと参加。Court of Chanceryには1人のChancellorと4人のVice Chancellorがいてデラウェア会社法に関係する紛争を担当しているのですが、そのChancellorの話を聴けるなんてめったにないということで参加してみたのです。

が、Discussionの内容が難しかったので、内容紹介は省略・・・(笑)。手抜きですみません。まぁ、Pennでも授業以外にこういったパネルディスカッションやシンポジウムとか色々ありますよ、ということをちょっと紹介したかっただけです


hibiya_attorney at 16:38|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!

February 13, 2006

速報 -住友信託vs旧UFJ訴訟判決

出ましたね、ついに判決が。
差止請求は取下げになって個人的には興味の対象がやや薄れましたが、損害賠償のところだけでも先例のないところですので重要な判決かと思われます。

旧UFJの部門売却めぐる訴訟、住信の賠償請求を棄却(アサヒコム)

見出しだけを見ると、「おやっ」と思うのですが、記事をよく読んでみると、裁判所は、最終契約締結義務はないとしつつも、独占交渉義務違反に関する責任はあるとしたうえで、「独占交渉義務違反と、住信側が主張している『統合が実現されていれば得られた利益』とは相当な因果関係がない。独占交渉義務違反と相当な因果関係が認められる損害については住信側は何ら主張、立証していない」として、住友信託の請求を棄却したそうです。
ということは、大方予想されたとおりの判決ですね。

住友信託側としては、買収できていれば得られたはずの利益を損害として主張していた関係で、自らの主張を弱めることになる予備的主張は行わなかったのでしょうが、「事情」としても各種損害額について明らかにしていなかったのでしょうか。「予備的主張」という構成ではなくとも、「交渉の経緯」を「事情」として述べる過程で裁判所が判断できる程度に住友信託が被った損害を明らかにし、かつ証拠も提出していれば、裁判所も拾ってくれるのではないかという気がするのですが・・・。

仮に明らかにしていたにもかかわらず、上記のような判断になったのであれば、裁判所はかなり厳格に弁論主義を適用したということになるのでしょうね。

住友信託は控訴審では主張を追加するでしょうから、控訴審ではどの程度の損害まで認められるか、そちらに注目したいと思います。
判決原文はまだ裁判所のHPに掲載されてないようですが、掲載され次第読んでみたいと思います。



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January 14, 2006

制限超過利息の期限の利益喪失約款とみなし弁済規定

また消費者金融業界にインパクトを与える最高裁判決が出た。
平成18年1月13日 第二小法廷判決 平成16年(受)第1518号貸金請求事件

ということで、今日は同じアパートの友人宅で楽しく焼酎を飲みつつDVD鑑賞&友人の奥様方2人にプロ級のマッサージを受けて(ありがとう!!)超リラックスモードになって帰宅したにもかかわらず、結構インパクトが大きそうなのでちょいとエントリーしてみます(後日判決をしっかり読んだ後で変更するかもしれませんが)。

判決のポイントは3点。
1つ目は、貸金業法第18条書面の記載事項について定める内閣府令である施行規則第15条2項を法律の委任の範囲を超えるものであり無効であるとしたこと。
2つ目は、期限の利益喪失約款のうち利息制限法所定の制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は無効であり、債務者は、支払期日に約定の元本及び利息の制限額を支払いさえすれば、制限超過部分の支払を怠ったとしても期限の利益を喪失することはなく、支払期日に約定の元本又は利息の制限額の支払を怠った場合に限り、期限の利益を喪失するとの判断を示したこと。
3つ目は、利息制限法所定の制限超過部分の利息の支払いを怠った場合にも期限の利益を喪失する旨の特約が存在する場合には、債務者の制限超過部分の支払いは、特段の事情のない限り、自己の自由な意思に基づくものではないとの判断を示したこと。

まず、1つ目。貸金業法施行規則第15条2項は、「貸金業者は,法第18条第1項の規定により交付すべき書面を作成するときは,当該弁済を受けた債権に係る貸付けの契約を契約番号その他により明示することをもって,同項第1号から第3号まで並びに前項第2号及び第3号に掲げる事項の記載に代えることができる。」と規定していますが、貸金業法第18条1項6号は、18条書面の記載事項について「前各号に掲げるもののほか,内閣府令で定める事項」と規定しているにすぎないのですから、施行規則第15条2項が貸金業法第18条1項1号乃至3号に代わる記載事項を定めたのは、省令への委任の範囲を逸脱するものです。したがって、この点に関する最高裁の判断は至極当然ということになるでしょう。

次に2つ目と3つ目。この点のインパクトは大きいと思われます。最高裁は、制限超過部分の利息支払の懈怠に関する期限の利益喪失約款が無効であることの根拠として、当該約款の存在自体が利息制限法により支払義務を負わない部分の支払を強制する結果となることを挙げています。この点については、その後貸金業法第43条の適用によりグレーゾーンインタレストの受領が有効になったとしても(すなわち弁済を強制してなかったと個別具体的に判断されたとしても)影響を受けず、絶対的に無効と解しているように思われます。最高裁は、貸金業法43条の「みなし弁済」との関係については、債務者に、支払期日に約定の元本と共に制限超過部分を含む約定利息を支払わない限り期限の利益を喪失し、残元本全額を直ちに一括して支払い、これに対する遅延損害金を支払うべき義務を負うことになるとの誤解が生じなかったといえるような「特別の事情」がある場合には、その適用可能性を認めているものの、その立証責任は貸金業者側にあるため貸金業法43条が適用される場面はかなり限定されることになるでしょう。

みなし弁済規定との関係を考えると、最高裁の考え方は至極納得がいくものだと思います。みなし弁済規定が「債務者の任意の支払」を要件としている以上、本判決のように考えるのも仕方ないように思われます。

しかしながら、他方で利息制限法所定の制限利率を超過する利率での貸付は実務上とても需要が大きいものです。消費者金融会社は銀行が与信しないような者に対しても与信しますが、当然そのような者に対しては貸倒リスクが高いため利率を高く設定しなければビジネスとして成り立ちません。本判決の制限超過部分の利息の支払いを怠った場合に過ぎない場合は期限の利益を喪失しない旨の判断は、貸金業者から制限超過部分の利息を債務者に支払わせるための有効な手段を奪ったといいうるものです。貸倒リスク等を考慮して設定された経済合理性に適う利率が利息制限法所定の制限利率を超過する場合に、回収手段として有効な期限の利益喪失約款が無効とされたのではビジネスに多大な影響が出るのは間違いないでしょう。いずれにしても、実務としては、貸金業法43条の恩恵を確保するべく、一刻も早く期限の利益喪失約款に利息制限法所定の制限利率で計算した場合の利息の支払いを怠った場合に限定される旨を明記せざるを得ないと思われます。

本判決は、近年の貸金業法43条のみなし弁済はあくまでも例外中の例外規定であるという最高裁の立場を改めて明確にしたものといえそうです。しかし、こうなってくると現在の利息制限法上の制限利息が現在の実務に照らして妥当であるか否かの検証作業も必要になってくると思われます。


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December 16, 2005

みなし弁済

いわゆるリボルビング方式の消費者ローンの「返済期間及び返済回数」及び各回の「返済金額」について貸金業法17条1項書面にどのように記載すべきか、について最高裁が判断を示したようですね。
日本では消費者ローンの証券化を数多く扱っており、いわゆる24条2項書面の作成と関係するところなのでちょっと取り上げてみたいと思います。
平成17年12月15日 第一小法廷判決 平成17年(受)第560号 不当利得返還請求事件

いわゆるグレーゾーン・インタレストについて貸金業法43条に基づく「みなし弁済」の適用を受けるためには、貸金業法17条書面や18条書面などの交付が要件とされているわけですが、近時、最高裁はこの17条書面や18条書面の記載については極めて厳格な立場をとっており、記載事項が1つでも欠けていれば適用要件を充足しないと判断しています(最判平成16年2月20日)。

これらの書面については1回限りのローンであれば何の苦もなく記載できるのですが、多くの消費者金融会社が行っているような融資限度額の範囲内であれば何度でも貸付を行うというリボルビングローンの場合は、最初の基本契約+個々の貸付毎の貸付明細書の2点をもって17条書面とすることと、返済方式が様々であるため、記載が困難な事項も出てきます。今回問題になった「返済期間及び返済回数」などもそのうちの1つです。

本件の返済方式は、毎月所定の期日に所定の最低額さえ返済すれば返済金額は債務者の判断で返済できるというものです。したがって、返済金額が債務者の裁量にゆだねられている以上、返済期間や返済回数を予め確定することは不可能です。

この点について最高裁は、「しかし,本件各貸付けについて,確定的な返済期間,返済金額等を17条書面に記載することが不可能であるからといって,上告人は,返済期間,返済金額等を17条書面に記載すべき義務を免れるものではなく,個々の貸付けの時点での残元利金について,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等を17条書面に記載することは可能であるから,上告人は,これを確定的な返済期間,返済金額等の記載に準ずるものとして,17条書面として交付する書面に記載すべき義務があったというべきである。そして,17条書面に最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済する場合の返済期間,返済金額等の記載があれば,借主は,個々の借入れの都度,今後,追加借入れをしないで,最低返済額及び経過利息を毎月15日の返済期日に返済していった場合,いつ残元利金が完済になるのかを把握することができ,完済までの期間の長さ等によって,自己の負担している債務の重さを認識し,漫然と借入れを繰り返すことを避けることができるものと解され,確定的な返済期間,返済金額等の記載に準じた効果があるということができる。」という立場を取ったようです。

最高裁の判断は尤もかと思いますが、これを個々の貸付時に随時アウトプットできるようなシステムを各社が保有しているかどうか・・・。消費者金融会社は中小規模のところも多いので、これに対応してないとするとシステム変更の負担が大変でしょうね。

ホントは、各返済方式の場合の記載の仕方について考察を加えようかと思いましたが、CorporationのFinalが土曜日なのでさすがにやめておきます。まだ範囲一通りまわせてないし(涙)。



hibiya_attorney at 13:48|PermalinkComments(0)TrackBack(0)clip!