問題解決型不動産コンサルタント 伊藤英昭の事件簿|キャリア20年の独立系「問題解決型」不動産コンサルタントが仕事を通じて日々思うこと、感じた事を綴ります。

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モノを大切にするこころ

令和5年も早半年を過ぎようとしています。さて、昨年あたりから目に見えて多くの食品、衣料品、工業製品など生活に必要な多くのものが値上げされました。これは世界的な原材料高、原油などのエネルギー高や円安が主な原因とされております。このように物の値段が上昇することをインフレーション、いわゆるインフレと呼びますが、物価とともに賃金なども上昇し、消費も上向いて経済全体が活性化すれば、適度なインフレは歓迎すべきですが、残念ながら今の状況は、物価は上がるものの、賃金は上がらず、消費も進まず生活は苦しくなる、という悪い経済循環に陥ってきているようです。

私たちが仕事でよく耳にするのは建築費の高騰です。これは既に何年も前から言われてきたことで、東日本大震災や東京オリンピックによる建設需要による原料高、人件費の増加による建築費の上昇、その流れに今回の原料高、円安による建築費の上昇が加わりました。

一般財団法人建築物価調査会の資料によりますと202110月から202210月までの1年間では、建物構造によって若干の違いはあるものの建築価格は約10%上昇しているとのことです。もう少し遡って10年前の2011年と比較すると約40%もの上昇です。要するに2011年に1億円で建築できていたものが今建築すると14000万円になるという計算です。不動産経営という観点で考えますと、前述した物価も賃金も上昇する良いインフレのように、建築費とともに建物から得られる賃料も上昇すれば十分に建築費の上昇分を吸収できるのですが、残念ながら賃料は10年間ほぼ横ばいとなっています。ということは要するに建物に対する収益率、投資利回りが少なくともこの10年低下し続けているということです。これまでの建築費と賃料の相関関係を見ますと、今年よりも去年、去年より一昨年に建築していれば、投資効率の高い賃貸経営ができていたと言えますし、今後同じような傾向が続くと予想すれば、来年より今年に建築したほうが少しでも高い収益性が得られるとも考えられますが果たしてどうでしょうか。

別の角度から需給という観点で建築費を考えますと、需要が減れば価格は抑えられるとも言えます。原材料などにしても人件費にしても理論上は需要がなくなれば価格は落ち着くもしくは下落します。それを考えると、原材料需要、建築需要が旺盛なこの時期に建築するより、適切な修繕をしつつ大事に使って世の中の様子を見ながら建物を建築することも選択肢の一つといえます。建築を先送りすることは短期的には経済活動にプラスの影響を与えないかもしれませんが、長期的な地球環境の事を考えるとこれからの大事な視点かもしれません。「モノを大切に」小さいころに教わったことですね。

ずいぶん大きな視点で偉そうな事を書いてしまいました。我が家の車も冷蔵庫も、もう少し大切に長く使おうかと改めて考えているところです。




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責任と負担

不動産売買における売主、買主それぞれの責任と負担は明確にしなければいけません。責任と負担とは、取引の条件として、物件の引き渡しおよび代金支払いの期日までに、やらなければならないことを誰の責任と費用負担でやるのか、ということです。言い換えれば、それができなければ売買が成立しないという条件ですので、その責任は重大です。

不動産売買では売主に責任を課すことの方が一般的であり、売買契約書では「売主は本物件引き渡しの日までに、その責任と負担において〇〇を完了させるものとする」という条文が入ります。何を取引条件とするのかは当事者で取り決めますが、一般的に売主に課される条件としては土地の場合、地積を確定するための測量、土地境界標の設置、隣接土地所有者から境界に異議がない旨の確認書の取得、道路境界の証明書の取得、加えて、隣接地との地上や地下越境物の確認、また、前面道路が私道の場合は、私道所有者から、対象物件から公道に通じるまでの通行、掘削の無償承諾の取得などがあげられます。

これらの作業にはそれなりの時間と費用がかかりますので、特に隣接地権者など相手のある確定測量などは売却の意思決定をした段階から早め早めに取り掛かることが取引を円滑に進めるためのポイントです。とはいっても現実には、買主が決まってから、売買契約書にこれらの条件を盛り込んで、「売主は引き渡しまでに、その責任と負担で○○を行うこと」という取引も多いのが現状です。何が良い、悪いではありませんが、そこで売主が注意すべきは、万が一、引き渡し日までに売主がやるべき条件を整えられなかった場合にどうするかです。

例えば、引き渡し日を延長できる、延長しても条件を整えられなかった場合は白紙とするなどといった条件を付さなければ、契約違反となり違約金や損害賠償のリスクを負うこととなります。前述した隣地に協力をお願いしなければならない地積確定測量や、共有者の多い私道の承諾などが条件になっている場合は、作業に要する期間と費用も心配ですが、円滑に関係者から同意を得られるまでは安心できません。

隣接地などの関係者が多かったり私道所有者が多かったり円滑に条件を整えられるか心配な場合は、確定測量も私道の承諾も取得せずにあくまで現状で売却するということを条件にすることも検討の一つです。当然、そのリスクや負担は買主が追うことになりますから、金額は相応に減額されることとなりますし、すべての買主がそのような条件を承諾するとは限りません。売買価格が想定より下回ったとしても、確実な時期に確実な売買代金を受け取ることを優先しなければならない場合はこのような条件も選択肢の一つです。

いずれにしましても売買契約書には標準的な約款があるものの、当事者に心配な事、やって欲しい事がある場合は、それを契約書に盛り込み、それぞれの責任と負担を明確にすることがトラブルを未然に防ぐ大事なポイントの一つです。



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無断譲渡とは気づかずに無断譲渡

地代の振込名義が変更します、との連絡を受けて、何事かと確認したところ、土地を賃借している法人(借地人)が地主に無断で「会社分割」を原因とし、借地上の建物の所有権の移転をしておりました。借地人に説明を求めたところ、顧問税理士を伴い「経営戦略上の判断で会社分割を行った。支配権その他実態は変わらない」との事です。要するに実態は変わらないので無断譲渡ではないとの主張です。

いずれにしても理由はともあれ地主に無断でこのような取引をすることは賃貸借の基本である信頼関係の観点から問題といわざるをえません。賃貸借契約は人と人との約束事ですから、相手が誰であるか、ということが重要であり、相手方との信頼関係のもと成り立っています。したがって借地借家法では勝手に相手方である借主が変更されては困るので賃借権の譲渡は必ず地主の承諾が必要となっているのです。

本件はまず、借地権の無断譲渡に該当するのかが問題となるわけですが、賃貸借契約の基本を考えますと、確かに相手方が実質的に変わらなければ(連続性が保たれれば)譲渡には該当しないという解釈が成立すると考えられます。(個人の相続等がこれに該当すると思います)会社の場合、実質的支配権、すなわち株主が変更されなければ商号変更や役員変更があったとしても意思決定機能は変更ありませんので、実質的には変更ないとも解されます。

しかし、会社分割に伴う賃借権の譲渡について、東京地裁平成10223日の裁判例によると「会社分割の当事者間は密接な関係があることが多いことから実質的には賃借人の変更がないとの考えもあるが、たとえ密接な関係があるにしても別法人に変わりがないことから賃借権の移転があったと認められる。したがって賃貸人の承諾なくして分割範囲に賃借物件を含む会社分割を行った場合、賃貸借契約の解除を主張することができる」との判断が下されました。このことからも法的には「無断譲渡」であり、借地権の解除事由にもなりうるとも考えられますが、現状では堅固な建物が存し、地代などの遅延もないことから現実的には解除ではなく、承諾料の請求という事が実務的な妥協点です。

 これは会社分割に限らず、合併や株式譲渡(M%A)なども同じことがいえます。表面上の商号が変わらず実質的な支配権が変わるケースでは客観的な判断が難しいところです。また個人では相続対策と称して子や孫に借地上の建物を生前贈与したり譲渡したりすることも同じです。いずれにせよ悪気はなくとも事前に地主に相談することが第一です。

本件も、順番さえ間違わずに事前に地主への説明さえあれば形式的な承諾で済んだと思われる事案です。

また、税、会計の専門家も節税や経営戦略以前にこのような基本的な法解釈と取引実務を理解していないとお客様の財産を毀損させることにもなりかねません。昨今のMAブームによる資産移転でも注意が必要な点の一つですね。




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不動産は収益価格とはいうものの・・・プロとエンドユーザー

物価も不動産価格も永遠に下がらないと皆が信じて疑わなかった1980年代後半の不動産バブルの崩壊によって、不動産価格も物価もいろんな要因によって上がったり下がったりするということがわかり、その教訓から、特に不動産投資は不動産の値上り益ではなく、家賃などの安定収入に重きを置いた収益力が不動産の価値を決めるという事がもはや常識となりました。

収益不動産を対象とした過度な相続対策による税務トラブルや、金融機関の不正融資など、取引の加熱とともに問題も生じつつも、それでも不動産取引の現場では、本業以外の副収入や老後の年金替わり、楽々家賃収入、資産形成、はたまた、早期リタイアメントなどという魅力的なセールストークによって収益不動産の売買は好調です。いうまでもなく収益不動産売買の指標は物件から得られる収益を基準とした利回りです。

現在の不動産投資は値上がり益期待ではなく、収益力期待であるということは前述したとおりですが、それはあくまでエンドユーザーでの視点です。では、不動産のプロである不動産業者はどうかというと、今も昔も変わりなく値上がり益重視なのです。かつては世の中の流れによって土地価格そのものが上昇し、そこで値上がり益を得ておりましたが、収益価格重視の現在は、利回りの差によって値上がり益を得ているのです。例えば年間賃料収入1000万円の物件を利回り8%である12,500万円にて購入し、利回り6%の16,666万円で売却できれば値上がり益(転売益)は4,166万円です。仮に利回り4%で売却できれば、なんと、倍の25,000万円です。このように収益価格に着目すると、利回り1%の差によって不動産価格に大きな影響を与えることがお分かりいただけると思います。

この考え方では周辺の土地相場や賃料相場、土地価格や賃料の増減は価格に大きな影響を受けす、物件の個別性や取引相手の個別性が非常に強くなります。不動産のプロは利回りが何%であればエンドユーザーが購入するかを想定したうえで、いくらで物件を購入するかが値上がり益を享受するための重要なポイントになっています。

このような取引の流れや仕組みを考えますと、エンドユーザーはその名の通り、最終消費者であって、最終消費者であるがゆえに不動産の値上がり益は、そもそも期待する立場にはない。という悲しい現実を知ることができます。

とはいいながら適正価格、適正利回りで購入しなければ、特に借入金を活用する場合は安定した賃貸経営はできません。




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風が吹けば桶屋が儲かる。今年もよろしくお願いします。

「風が吹けば桶屋が儲かる」 強い風が吹くと砂ぼこりが舞って、多くの人の目に入り、盲目の人が増える。盲目の人は三味線で生計を立てる人が多いので三味線を作るために多くの猫の皮が必要になる。そうすると猫がいなくなって猫を天敵とするネズミが増え、増えたネズミがたくさんの桶をかじるので桶屋が儲かるという、一見なんの関係のなさそうなところから意外なところに影響が出る、ということわざです。

昨今のコロナ禍では、外出自粛の影響でネット通販やゲーム、ウーバーイーツや出前館などの食事宅配が伸びましたが、意外なところではプロテインや小麦粉、入浴剤、除草剤、ホースなども売れたようです。不動産分野では飲食ビルなどは撤退や賃料減免の影響で収益が減り、テレワークの影響かマンションや戸建てが売れまくり、撤退した飲食店舗あとには無人フィットネスやゴルフレッスンスクールが入る、などなど意外なところに影響がありました。株式市場では日々変わる社会経済情勢の中、まさに「桶屋の株」をめぐって市場が動いていますね。

毎年行われる税制、法制などの制度改正は、風と桶屋のような遠回りの影響ではなく、社会経済に直接的な影響を与える明確な目的をもっています。たとえばNISAの拡充、恒久化については金融業界が沸き立ち、相続土地国庫帰属法の施行では測量士や土地家屋調査士業界が、相続登記の義務化においては司法書士業界が、東京都における太陽光パネルの設置義務化では太陽光パネル業界が盛り上がってくるでしょう。いわば国や地方自治体は、さまざまな制度改正によって「風」を吹かせているとも言えます。

コロナ禍、ウクライナ危機をはじめ、物価高、資源高、円安、金利上昇、実質賃金の低下、老後の2000万円問題、少子高齢化など先行き不透明な世の中だからこそ、国には、きちんと桶屋まで潤う風を吹かせてほしいものです。

かくいう私は、このブログを通じて仕事につなげて潤いたい、桶屋でありながら自分で風を吹かせるという、自作自演のいやらしいそよ風を吹かせています。

さて、今年もみなさまの不動産に関する問題解決のパートナーとしてお役に立てると嬉しく思います。もちろん相談、雑談無料です。(笑)

また皆様と元気にお会いできる日を楽しみにしております。

くれぐれも風邪などひかぬようご自愛さいませ。



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配分に固執しすぎて損をする

 貸地の権利調整手法のひとつである借地権付き建物と土地(貸地)を第三者に完全な所有権で売却するという所謂、共同売却という方法では、地主と借地人との配分をどうするかが大きなポイントとなります。

特に、借地人にとっては、土地と併せて完全な所有権として売却するか、借地権付き建物として売却するかでは売却価格に大きな影響を与えます。地主が積極的に土地を売却したい場合は、売却価格や配分について大きな問題になることはありませんが、地主に積極的な売却理由もなく、借地人が売るなら一緒に、というような消極的な理由の場合、借地人が価格や配分に固執しすぎると話は纏まりません。

そもそも借地権と土地は別々の財産であり、それぞれが売る、売らないという意思決定権がありますので、地主が、配分や金額に納得がいかなければ売却を中止するということも十分ありうるのです。

売却先が見つかり、契約の直前でこのような配分をめぐるトラブルにならないためには予め配分に関する取り決めをしておくことが重要です。地域や取引慣習にもよりますが、路線価による借地権割合を配分の基本としつつも地主側にプラスアルファすることが多く見受けられます。それは、単に地主が強いから、頑固だからではありません。地主が協力し、一緒に売却することによって完全な所有権となり、結果、借地権の価値も最大に発揮されるということ、また、借地権単独で売却した場合は、地主に譲渡承諾料として売却価格の一部(一般的には一割)を地主に支払わなければならないこと、加えて借地権の設定当初は権利金などの一時金を受け取っていないこと、そもそも借地権割合は国税局があくまで相続税の評価をする上での指標として決めたものであり、必ずしも売却価格の配分として用いる必要がないことなどを鑑みると、売却価格の配分には地主に対して相応の考慮が必要であることが理解できると思います。

また、地主の立場に立つと、配分の取り決めに加えて、土地(貸地)価格の下限を定めることも検討する必要があります。想定より高く売却できそうな場合は問題ありませんが、思った金額以上で売却できそうにない、価格を少し下げてでも借地人が売却を急ぎたい場合などは、下がった金額の割合に応じて一緒に金額を下げる理由はありません。

繰り返しになりますが、地主には借地人に合わせて土地を売らなくてもいい、売る、売らないという意思決定は自由であるということを、借地人は基本として理解しておかなければなりません。要するに、土地も一緒に売却するという事自体、借地人に相当程度配慮しているといえるのです。このようなことを理解しないで、あまりに配分割合に固執するなどの権利主張が強いと、地主の心証も害し、最悪の場合、一緒に売却しない、借地の譲渡承諾もしない、など、折角の財産価値を大きく毀損することにもなりかねません。




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管理費、共益費という曖昧な費用

 賃貸経営における収入は当然ながら「賃料」です。しかし、「賃料」とは別に「共益費」「管理費」などの名目を受領しているケースも多く見受けられます。

「共益費、管理費」とは、建物の共用部分を維持管理するための実費です。例えば共用部分の清掃費、水道、光熱費などがこれに該当します。しかし、複数のテナント(入居者)が入る賃貸物件では、管理費、共益費がテナントによってまちまちなケースも見受けられますし、入居時期によっては管理費を取らずに賃料に含めたりしていることも珍しくありません。テナントの入居時期によって賃料の額、単価がまちまちな事はよくあることですが、維持管理する上での実費であるはずの管理費、共益費が部屋ごと、フロアごとでバラバラなのはあまり気持ちのいいものではありません。

管理費、共益費を本来の主旨に照らすならば、月々、あるいは半年や一年に管理費明細を明らかにしてテナントから実費のみを請求するのが本来の姿だとおもいますし、仮に暫定的に管理費、共益費を徴収したとしても一年に一度、実費との差額を精算するということがあるべき姿だと思いますが、現実は管理費、共益費をそのように開示して精算することは殆どありません。

賃貸オーナーは、管理費、共益費をテナントから受領するしないにかかわらず、共用部分の水道光熱費など、ビルを維持するための実費を支払います。これは要するに、賃貸オーナーにとって管理費、共益費は受領名目にかかわらず賃料の一部であり、テナントにとっても賃料の一部なのです。よくよく考えると、それを賃料と共益費に分けることの意味がほとんどありません。あえて言うなら、賃料と共益費を分けることによって、賃料をベースに計算する敷金、保証金、礼金、仲介手数料などの金額は変わるということでしょうか。これも単に見せ方と計算の問題です。

このようなことから管理費、共益費とは、その名目の割に、オーナー、テナントにとって実は非常に曖昧な費用であり、場合によっては無用な説明、誤解を生む材料にもなりかねません。無用な疑義を生じさせないために、受け取るものは、実態に合わせてすべて「賃料」とする検討も必要です。

 一時期話題になった更新料の有効、無効の問題についても、本質は「意味不明」「説明不能」な金銭であることが問題の発端です。管理費、共益費についても同様、場合によっては実費を開示し、清算してくれ、返還してくれ、などという争いに巻き込まれるのも余計な時間と費用がかかるだけです。

一部の法律専門家が主導、扇動した「更新料無効、返還訴訟」に次いで「管理費、共益費の返還」というのは考えすぎかもしれませんが、何事も、突っ込まれないように武装するにこしたことはありません。とはいいながら、まずはテナントとの信頼関係が基本ですね。




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やりすぎはダメ、ではどこからがやりすぎか?

 既に少し前の話題となりましたが整理するために所感をブログに纏めておきましょう。
 今年の4月に相続に携わる業界が注目した相続税の評価をめぐる最高裁の判決が出ました。詳細は新聞その他いろいろなところで解説しているので細かく触れることはいたしませんが、要するに「やりすぎは駄目よ」という国の最上級司法機関の判断です。相続税評価のルールに沿って申告したものが、具体的な指標が示されることもなく「やりすぎは駄目、他の納税者と比べて不公平」と言われても消化不良のような気もしますが法治国家なので、この判断が判例となり今後いろんな所で判断の物差しとなるのでしょう。しかし、どこまでいっても「どこからがやりすぎか」という議論に立ち戻り、具体的な物差しが示されなければ、あるいは相続税法や相続税の評価通達等が改正されなければ同じような争いは続くでしょう。

 そもそも相続税上、財産の評価は相続発生時点の時価が原則です。現預金や上場株式など取引市場があり、相場が成り立っているものを評価するのは何も問題はありませんが、不動産は二つとして同じものがないうえに個別性が強く、同じ土地が頻繁に取引されるわけではないため評価が非常に難しい資産です。このように評価の難しい資産を客観的に評価する物差しとして「路線価」が登場したのです。しかも時価のわかりづらい土地に国が値段を付けるわけですから、時価より高くなってしまうと、それこそ公平ではなく問題になりかねません、そこで国は時価より概ね2割ぐらい下げれば大丈夫だろうという割り切りで路線価を付しています。加えて、より実態に近づけるために、道路付けや間口、奥行きや土地の形などによって細かく加算、減算するという現在の相続税評価のルールがあります。この方法は土地については非常に合理的で実際の取引価格に近いものといえるでしょう。しかし前述したように不動産は土地だけではありません。

 今回の裁判で問題になったのは収益マンションです。収益マンションの実務上の取引指標は土地がいくら、建物がいくらではなく、そこから得られる収益をもとに期待利回りで算出され取引されます。そこに前述した路線価による相続税の評価方法との決定的な違いが生じています。結果的に時価と相続税評価額との乖離が大きくなりやすく、その乖離が大きければ大きいほど相続税が減少するのです。相続に携わる人であれば昔から、誰でもわかる理屈です。ここでの問題の一つは、相続税の評価をするルールには土地、建物の評価方法は細かく規定されていても土地と建物とが一体となって収益を生む収益不動産を評価するための物差しがないということです。物差しがないがために、それを逆手に取って、とりあえずある国に与えられた物差しで測ったという納税者等の気持ちはわからなくもありません。

収益不動産の評価は還元利回りを何%とみるか、と一見単純そうですが、その還元利回りをどうするかは、絶対的な利回りの指標はありませんし、建物の立地、構造、規模、経過年数、用途などによっても非常に難しい部分です。

今回の問題を受けて、もしかしたら今後は利回りを基本とした収益不動産の相続税評価上の物差しができるかもしれません。これができれば一つの指標として不透明な不動産取引市場にも好影響を与えるのではとも思います。

それにしてもどこまでがやりすぎなのでしょうか。もやっとしています。




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誰のための契約か?

「第三者のためにする契約」とは、不動産の売買契約形態の一つで通称「さんため」とも呼ばれています。日本語の通常の解釈としては、「第三者の利益のために自己犠牲を払って契約をする」という崇高なイメージがありますが、実際の不動産取引ではどのような意味合いで用いられ、どのような場面で利用されるのでしょうか。

第三者のためにする契約とは、不動産転売事業者による売買手続きの手法で、AからBへの売買、BからCへの売買(転売)の流れのなかで、間に介在する転売事業者Bの登記手続きを省略することで、中間省略登記とも呼ばれます。もちろん法律で認められた手続きであり脱法的な要素はありません。登記手続き上、本来このような取引ではAからBBからCへと実態に即した登記手続きがなされるのが望ましいのですが、登記にはそれなりの費用が発生することから、その転売事業者Bの取得経費の削減を主目的としてこのような手続きがとられることがあります。(転売事業者Bはあくまで第三者の為になした契約であって自身は取得していないという法解釈のようです)

取得経費が下がる分、売主や買主である第三者に、その浮いた経費分を間接的に還元できるという大義ですが、本音は、転売事業者である自社の利益を少しでも多く確保することです。言葉は悪いですが、先に第三者である転売先を見つけたうえで、売主と限りなく安く交渉し、間に入って転売利益を得る。業界用語で、一瞬だけ取得するワンタッチ(実際はノータッチ)とも呼ばれます。もちろん合法手続きですし、経済活動として転売は全く否定するものではありません、ただ、このような手続きを用いての転売は、一言でいうと「あまりきれいな取引ではない、胸を張れる取引ではない」というイメージでしょうか。売主から見ても、買主であるはずの不動産事業者が、さらにその先の転売先名義で登記しますというのも、みすみす安く買いたたかれたようであまり気持ちの良いものでもありません。まさに「第三者のための契約」とはいいながら、第三者を利用して自分が多くの利益を得るという「自分のための契約」というのが実態です。

不動産登記は取引の原因や所有者などの当事者を記録した公の証明ですから、お客様の利益、取引の安全性、ひいては公共の利益という観点から、限りなく実態に即し、消費者に分かりやすく説明できるものが望ましいと言えます。特に魑魅魍魎が蠢く不動産業界だからこそ、特殊な説明が必要な取引は極力避けるのが本来あるべき方向ではないかと思います。転売利益が見込めるからこそ、登記費用など不動産取得に要する費用はお客様に安心していただくため、説明しやすくするための必要経費という考えもあります。

第三者のため契約について説明しましたが、多くの不動産事業者は転売目的であっても登記を省略せずに手続きをしているのが実態です。もちろん不動産取得に関する費用が軽減されればこのような説明の難しい手続きもなくなるのですが。




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良かれと思って安い家賃で。。。

 賃貸建物の老朽化に伴う建て替えを検討する際に一番頭を悩ますのが借家人(テナント・入居者)の立ち退き問題です。計画的に定期借家契約などを活用して運営している場合は大きな問題はありませんが、昔からの普通借家契約の借家人の場合は、立ち退き交渉に相当の時間と費用など大きな労力が必要です。

結論から申し上げると、立ち退きのほとんどは金銭で解決します。ただ、その金銭が100万円か1000万円かでは大きな違いですし、立退料の多寡によっては建て替え計画に大きな狂いが生じてしまいます。では、どのような点に注意する必要があるのでしょうか。まず、立退料の算定、交渉の際に一番大事なポイントとなるのは賃料です。相場より安く貸しているのか、適正な相場で貸しているのかによって、相手が求める立退料、すなわちこちらが支払う立退料は大きく変わります。

 借家人の立場になって考えるとわかりやすいと思いますが、借家人が立ち退くには当然、移転先がなければ立ち退くことはできません。移転先を検討する際の条件は、基本的に賃料や広さ、環境など現在と近い物件となります。同等の物件、移転先候補がそれなりにあれば、立ち退きも立退料の交渉も難易度が低くなりますが、同等の物件が周辺になければ立ち退きは難航します。その際に特に大事なポイントとなるのが現在の賃料です。適正相場で貸している場合と、相場より安く貸している場合とでは、後者の方が移転先候補を見つけるのに苦労します。借家人は現在支払っている安い賃料をもとに生活をしたり商売をしたりしています。現在貸している家賃が相場に比べ安すぎて、同程度の賃料の物件が見つからない場合は、移転先の賃料と現在の安い賃料との差額の一定期間分を立退料として要求される可能性が高くなります。

 よく「相場より安い家賃で貸していたから立ち退きにも応じてくれるでしょう」という大家さんもいらっしゃいますが、実はそうではなく、相場より安い賃料で貸していたから、同等の安い賃料の移転先が見つからず、結果的に立退料が高額になるのです。良かれと思っていたことがまったくの逆効果ということにもなりかねません。

 したがいまして、前回もお話ししましたが、賃貸経営においては「相手の足元をみる」とまでは露骨ではなくても、定期的に賃料を見直し、適正賃料を維持することが、将来の立退料負担を軽減することにもつながり、安定経営の基礎となります。もっとも借家人の入れ替え時などに定期借家契約を導入する、もしくは更新時に定期借家契約に切り替える等の検討が重要なのはいうまでもありません。




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足元をみる

 「足元を見る」とは、相手の弱点をみつけて付けこむ、という意味です。テレビドラマのビジネス交渉などのシーンで「足元を見てきやがったな」と、主人公が苦虫を嚙み潰したような顔をする場面が頭に思い浮かぶ人も多いのではないでしょうか。言葉の由来は、むかし、宿屋や籠屋が、旅人の足元から、草鞋が擦り切れていたり、汚れていたり、足元がおぼつかないほど歩いて疲れ切っている様子を見て、高額な宿賃や籠賃を吹っかけるという、まさに相手の弱みに付け込むということからきた言葉です。狡猾な感じで、あまり良い意味でつかわれませんね。

 とはいいながら世の中の商売は、大なり小なり「相手の足元をみる」ことが基本になっています。それが露骨かどうかで今後の取引に与える影響や信用が変わってくるのだと思います。特にコロナ禍においてはマスク不足や消毒薬不足を足元に見た高額販売などが横行しました。あまりに露骨すぎますが、購入者がいるから成り立っているのも事実です。

 不動産業界もやはり足元を見る商売です。足元を見るといっても販売価格の決まっている住宅やマンションを購入しようとしているお客様の足元を見て値段を吊り上げることはできませんが、事業者とは反対に、購入希望者は意識せずとも売主の足元をみて、少しでも安くならないか価格交渉するのはもはや当たり前になっているようです。不動産の売買の場合は、売主、買主互いに足元を見ながらも条件が合わなければ取引不成立となり、他をあたることになりますが、賃貸の場合はなかなかそうもいきません。特に既に契約を継続している貸主借主間の契約更新や、再契約における賃料の条件については互いに足元を見られたくないものです。オーナーは、テナントに出て行ってほしくない、もしくは出て行ったとしても直ぐに条件の良いテナントがみつかる。または、テナントが儲かってそうかどうかも賃料の改定の判断材料となります。テナントはその反対で、うちに出て行ってもらったら困るだろうと考えれば強気の減額交渉になるかもしれません。特にコロナ禍では営業自粛要請などにより店舗や事務所がおしなべて苦戦しております。言葉は悪いですがオーナーの足元を見て賃料の減額や減免が多く行われています。この状況がしばらく続くとも考えられませんので、コロナ禍が落ち着いて、お店も会社も元気になったらその時はテナントの足元をみてそれなりに賃料を増額してもらえばいいのです。住宅も考え方は一緒です。少し家賃を上げても引っ越しはしないだろう、とか、逆に出て行ってもらいたくないから家賃は据え置きもしくは少し減額しようとか、感覚としては高額な賃料のほうが賃料の増額が受け入れられやすい傾向が見られます。高額帯の住宅は、住環境さえ気に入っていれば多少の賃料の増減は気にしない傾向にあるようです。

 このように特に賃貸事業では相手の足元を見て機動的に条件改定することが経営の良し悪しを左右することになります。相手の足元を見るとは、まさに相手を日ごろから良く観察することです。観察の過程で相手の弱点をみつけたとしても、露骨に相手の足元をみるような態度だけは慎みたいものですね。「足元を見る」やはり気持ちのいい言葉ではありません。



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売った後も住み続けられる・・・

 近年、自宅を売却しても住み慣れた自宅に住み続けられます。という不動産会社の宣伝を多く見かけるようになりました。これは何も最近開発された売却手法ではなく大分前から活用されてきた手法で、売却して借り受けるという意味でセールアンドリースバック、またはリースバックとよばれています。かつては企業の財務体質改善のために本社ビルを売却して、そのまま引き続き賃借人として利用するような場合に用いられるケースが主流でしたが、最近では老後の資金不足問題などを背景に住宅でも活用が増えてきているようです。

 リースバックというと何やら難しく感じますが、要するに自宅の売却です。その自宅の売却資金をもって近所の賃貸住宅に引っ越すか、もともとの自宅に家賃を支払って住みつづけるかということです。したがいまして、大事なポイントは、リースバックするかどうかはひとまず置いておき、好条件で売却できるかどうかです。住み続けられるという言葉に魅せられて、単純に売却した場合に比べて相場より安く売却したとすれば、老後資金の確保という意味では本質を見失ってしまっていると言わざるを得ません。また、売却金額や売却後の賃料などの諸条件に納得しても賃貸契約の内容が継続性がある契約なのか、定期借家など一定期間で終了する契約なのかも重要なポイントです。

 そもそもリースバックの事業者である不動産業者は福祉事業ではなく営利目的でこの事業に取り組んでおります。したがってリースバックで購入した物件は、いずれ第三者に売却して、その売却益を見込んでいます。定期借家契約により元の所有者である賃借人が出ていく時期が明確で転売の時期が見込めるものと、普通借家契約で賃借人が出ていく時期が不明で転売の時期が読めない物件とでは自ずと購入価格も賃料条件も変わってきます。もちろん短期で事業利益が見込める方、すなわち比較的短期で明け渡してもらえる契約形態の方が、利用者にとって好条件を引き出せることにはなりますが、居住の安定が見込めなければ、そもそもリースバックにて自宅を売却する必要もありません。

また、資金調達の観点から考えると、売却して纏まった資金が入ってきたとしても、その資金を取り崩しながら毎月の賃料を支払わなければなりません。同じ資金調達でも、例えば自宅を担保にした不動産担保ローンの場合は毎月の借入金の返済が生じますが、賃料の負担はありません。また自宅を手放すこともありませんので、毎月の返済額が、想定される賃料並みか、それ以下であれば何も不安定なリースバックを選択する必要もありません。最近では金利のみの支払いや死亡後に自宅を売却することを前提とするリバースモーゲージという融資方法もありますので、それらも含めたうえで、資金調達による老後の資金と居住の安定をどうするか検討する必要があります。

土地資産家には特に縁のない老後資金調達の話題かもしれませんが、事業者の視点を持つことによってリースバックを上手に活用することも可能です。例えば、高齢の借地人で相続人が身近にいないケースなどは借地権付き建物である自宅を買戻し、亡くなるまで建物を賃借してもらうことによって、その後は自己の所有地として活用することが見込めます。

リースバックやリバースモーゲージなどの普及は超高齢化社会がもたらしたビジネスモデルです。老後も健康で安心して程よく長生きしたいものですね。





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先のことは深く考えない・・・老朽マンション問題

令和4年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお付き合いくださいませ。

昨年もコロナに明け暮れた1年でしたが、不動産市況、特に戸建て住宅やマンションの販売は活況でした。コロナ禍によってライフスタイル、ワークスタイルが変わったことによって自らの住まいを見直すきっかけになり住宅を購入する人が増えたようです。新築、中古ともにマンション価格も上昇し、契約率も高い推移を維持しております。

 そんな景気のいい話題とは裏腹に、老朽化マンション増加の問題が顕在化してきております。国土交通省の推計によると2020年末時点でのマンション675万戸のうち、築40年を超えるマンションは103万戸あり、更に2040年には405万戸に増加するとの事ですがマンションは権利関係が複雑で、建て替えがなかなか進まないというのが現状です。

 マンションの法律である区分所有法では所有者の4/5の賛同がなければ建て替え決議ができません。建て替えを推進するためにこれを4/3にしようという動きもありますが、4/5でも4/3でも難しいのは変わりありません。建て替えの合意ができない一番の要因は、区分所有者それぞれの事情が異なるということです。例えば、新築時に購入して住宅ローンを完済した人もいれば、数年前に購入して住宅ローンがまだ多く残っている人もいます。また、多くの収入がある人、年金暮らしの人、貯蓄がある人、ない人、子供の学費が必要な人、高齢な単身者、相続人である子や孫がいるかいないかなど、様々な事情の人が集まっているマンションの建て替えを多数決で纏めようということ自体、非常に無理があると言わざるを得ません。一戸建て住宅のように、お父さんの鶴の一声では建替えできないのです。

そもそも、分譲マンションは1棟の集合建物を不特定多数が共同で所有しているということを基本としたうえで、それぞれが居住している部屋の権利を区分し、その区分した権利(区分所有権)を自由に使用、(居住する)収益、(賃貸する)処分、(売却する)することを認めたという特殊な権利形態ですので、色々な事情をもった所有者が入れ替わるのは当然であり防ぎようがありません。従いまして、現実的には将来の建て替えは難しいという前提でマンションを購入する必要があります。とは言いながらも、はるか数十年先の問題ですし、目の前の綺麗なモデルルームや窓からのビューに魅せられて、売主も買主もなんとなく目を瞑っているのが現状です。建て替えが難しいものを買ってどうする、というと身も蓋もありませんが、とりあえず現実の対応策として考えると、建て替えの問題が顕在化する前に買い替える、という自己中心的で消極的な対応しかありません。

将来の街づくりを考えれば、理想的には定期借地権を活用して50年、60年で権利が消滅するというように、所有権ではなく利用権として販売することが望ましいと考えます。

とは言いながら、私たちはせいぜい23年先のことは考えられても50年後のことまではなかなか想像力は働かないのが現実です。あまり先のことを憂えずに、先のことは、その時に考えればいいや、というくらいの方が豊かな人生が送れるかもしれません。








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見た目が変わると本質が見えづらくなる

世の中には多くの投資商品、節税商品と呼ばれるものがあります。当然、投資にはリスクが付き物ですが、中には、少し複雑でよくわからないという商品や、リスクというよりそもそも詐欺に近いのではないかと思われるものもたくさんあります。では不動産にはどのような投資商品、節税商品があるのでしょうか。

最近耳にすることが多くなりましたが「不動産の小口化商品」という投資、節税を併せ持ったという商品があります。特徴は、比較的少額で投資できる、それなりの配当が得られる、相続税の節税効果が見込める、という触れ込みで、それなりに売れているようです。要するに、複数人共同で収益不動産を購入し、その共有持ち分に応じて賃料を分配するという投資商品です。所有形態は不動産の共有ですので、税金の取り扱いは不動産の現物を保有しているのと同じです。相続税の評価上は土地は路線価評価、建物は固定資産評価、加えて貸家建付地の評価減が適用され、購入(出資)金額より低くなり、相続税の評価引き下げ効果があると言われています。

投資の単位は11千万円程度で、不動産投資にしては確かに少額ではあるのですが、その出資持分(共有持ち分)が1千万円の価値があるかどうかは判断の難しいところです。出資持分の価格の考え方は、その対象となる収益不動産の価値を出資口数で割ったものです。そのように考えると対象となる収益不動産の客観的な価値と、小口化された出資持分の合計は限りなく一致しなければなりません。しかし、現実は出資持分の合計が収益不動産の客観的価値を上回るような商品設計が多く見受けられるようです。マグロ1本の値段と刺身の合計の値段の違いと考えればイメージがつくでしょうか。

 もちろん不動産の価値は絶対的な指標が決められていないため、人によって、考え方によって価格は異なりますが、うがった見方をすれば、収益不動産単独で売却するよりも、小口化にして細かく分けた方が結果的に高く売却できるという、頭のいい売主が物件を高く売却するために考案した方法とも言い換えられます。例えば年間収入4000万円の収益不動産を単独で第三者に売却する場合の客観的価値が10億円(利回り4%)という収益不動産を年間配当20万円、11000万円(利回り2%)という商品設計にした場合、理論的には20万円の配当をベースに200人に売却することが可能となりますので不動産の価値は1000万円×200人で20億円と、単独で第三者に売却する場合の2倍になります。これは分かりやすく計算した例ですが、これが売主側、商品供給側の儲けのカラクリです。

 前述しました通り、不動産には絶対的な価値基準がないためこのような考えが良い、悪いということよりも、それが1千万円の価値があるのかよく考えようということです。小口化商品の相続税の評価引き下げ効果にしても、実際の換金価値があって初めて成り立つ引き下げ効果ですので、そこだけに着目しても本質を見失ってしまします。

 小口化商品はこれまでいろんな問題を引き起こしながらも形や根拠法を変えながら、現在に至りますが、根本は昔も今も変わっておりません。だいたいこういう小口化商品の広告が大々的に露出し始めると不動産価格も頭打ちという感じですね。何度となく繰り返されたパターンです。




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嫌いだからこそ あえて縁を切らない

嫌な相手、苦手な相手とはできるだけ関係をもちたくないものです。嫌な相手が利害関係人であれば、できれば関係を解消したいと考えるのが普通の人です。では、不動産の場合はどうでしょうか。不動産における利害関係人とは隣人や、大家と店子(テナント、入居者)、地主と借地人などが主なところですね。

まず、不動産における隣人との関係は、特に資産価値に影響するので重要です。お互いの土地の境界や越境物など、隣人と紛争状態であったり、そこまでいかなくとも相手から協力が得られない関係であれば売却する際の換金価値は下がってしまいます。それでも当人とすれば売却することによって嫌いな隣人と縁が切れ、関係が解消できることを考えれば精神衛生上はよいと言えるでしょう。

大家と店子の場合はどうでしょうか、賃料を滞納する、騒いで周囲に迷惑をかける、共用部分の利用やゴミ出しのルールを守らないなどという不良入居者がいる場合は、他の良質な入居者までもが退去し、収益に悪影響を及ぼす可能性が高いので、費用をかけてでも退去してもらい関係を解消すべきでしょう。

では、地主と借地人の場合はどうでしょう。地代や更新料などを巡って地主に権利主張ばかりしている。そればかりか更新料は支払う必要ない、などと他の借地人を巻き込んでまでして地主に権利の主張をする。このような借地人とは早く縁を切り関係を解消したいものです。このような借地人との関係を解消するためには土地を売却するよりほかありません。反対に借地人も地代の支払いや値上げ、更新料、各種承諾料などの経済的な面と、交渉など人間関係の煩わしさから、地主との関係を解消したいと考えているため地主から土地を購入したいというのが本音です。売却によって互いの煩わしい関係が解消しますので双方にとってはメリットです。

 と、ここまで考えるのはごくごく普通の思考回路です。しかし、借地の場合、嫌な相手だからこそ土地は手放したくないと考える地主が多いのも事実です。それは土地の売却は借地人が最も喜ぶことだからです。借地人は土地の購入により財産価値があがり、地代の支払いも、各種承諾料、更新料も支払う必要がありませんし、更に地主という最も気を遣う相手がいなくなります。地主はこれを逆手にとって借地人に土地を売却せず、借地の関係を継続することによって、借地人が借地権を売却するときや、建物の建て替え、増改築をする場合などの承諾を拒んで困らせることが可能になります。この段になって初めて地主とは仲良くしておくべきだった、と後悔しても時すでに遅く、地主にとってはこれまでの仕返しというところでしょうか。これが、嫌な借地人との関係を継続する大きな目的ですが、地主にとっても関係を継続することは相当なエネルギー、ストレスがかかることも事実です。

諸々考えると、何だかんだ言いながらもぐるっと回って嫌な相手、苦手な相手とは関係を解消するのが一番ではないでしょうか。嫌な借地人には少し位高い値段を提示しても手切れ金と思えば購入してくれる可能性は高いでしょう。こんなところが理屈や経済合理性ではない不動産の難しいところです。「人間だもの。」




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「負」動産その2 不要な土地を国に引き取ってもらう・・・

所有者不明により管理や活用の妨げになる土地の発生を抑制するための関連法が4月に成立しました。所有者不明土地の主な原因は、その土地が不要であるということです。不要であるがために、管理責任を伴う所有者であることを明確にする為の手続きをとるという意識が希薄になるのはある意味当然の流れといえます。このようなことから、これまで任意だった相続登記や住所変更した場合の登記を義務化し、所有者を明確にするとともに、相続した土地が不要な場合は一定の条件のもと国が引き取るという「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。

相続土地国庫帰属制度では、国庫に帰属させるための主な物理的要件として、建物が建っていないこと、地中埋設物、土壌汚染がないこと、担保権や使用収益するための権利が設定されていないこと、境界が明確なこと、権利の帰属について争いのない土地であることがあげられています。このような事から、巷では制度はできたものの国に引き取ってもらうためのハードルが高いのではないかと言われております。しかしよくよく考えてみれば、特に難しい要件ではなく、通常の不動産売買においてはごく一般的な取引条件とされるものです。

相続土地国庫帰属制度はこれからの新たな制度ですが、同じように国に土地を引き取ってもらう制度として、相続税の物納制度があります。これは従来から存在する制度ですが、国に引き取ってもらうための基本的な物理的要件は相続土地国庫帰属法と同じです。

しかも、相続土地国庫帰属制度では、前述の物理的要件を満たしたうえで、10年分の管理費用相当額を納付する必要がありますが、相続税の物納制度では、その土地の相続税評価額を税金に充当する金銭とみなして国が引き取る制度ですので不要な土地を金銭に替えてくれる、要するに国が買い取ってくれるのと同じ効果があります。

ただし、物納制度を利用するには、相続税の金銭納付が困難であり、延納によっても納められないことが大前提となっております。したがいまして一定の財産規模を相続し、相続税を納付しなければならない人は、相続税の物納制度を活用することによって不要な土地を国に引き取ってもらうかどうかの検討をしてみてはいかがでしょうか。

いずれにしましても不要な土地は、将来の売却、相続税の物納制度、国庫帰属制度の利用によって円滑に手放すことができるよう、事前の計画、準備が必要になってきます。

不要な土地、特に遠隔地の土地については管理に要する費用がかからなくとも所有しているだけで精神的な負担となります。その負担を次世代に引き継がないためにも所有者が元気なうちに積極的な解決が望まれるところです。





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「負」動産 〜ただでいいから手放したい〜

 不動産は所有しているだけで負担の生じる財産です。固定資産税や都市計画税、建物の維持修繕費、マンションなどの場合、管理費、修繕積立金など、それなりの金額を所有している限り永遠に負担しなければいけません。もちろん、自身や家族で住居や店舗、事務所、倉庫、駐車場や資材置き場、田や畑などで利用したり、第三者に賃貸して収入を得たりすることで負担相応の不動産の利用価値を見出しています。そして、所有者にとって利用価値の無くなった不動産は売却し、相応の金銭を受け取る。これがごく一般的な不動産の活用サイクルです。

しかし、利用価値がなくなり、いざ売却しようとしても売却できない不動産、売却できないばかりか管理の手間と費用がかかる不動産が顕在化し問題になってきています。代表的な例として、80年代バブル時のリゾートマンションがあげられます。購入当初は年に数回利用したり、バブルによる利用価値を上回る資産性もあったことから維持管理の負担感はありませんでしたが、バブル崩壊後は資産価値が暴落し、売却しようとしても、まったく売れず、管理費用の負担ばかりがのしかかってきました。このような利用価値もなく資産価値もない、加えて保有している限り費用ばかりが嵩む不動産は子供も引き継ぎたくありませんし、親も引き継がせたくありません。たとえ無償であったとしてもなかなか引き取り手がないのが現状です。また、子供が引き継がない方法として、相続発生後に相続を放棄するという方法もありますが、不要な財産だけでなく、ほかの一切の財産も含めて放棄しなければならないことなどから現実的には難しいといえます。

このような所有し続ける限り費用の負担が生じる、無償でも引き取り手がいない不動産の問題解決事例として、引き取り手に一定期間分の維持費を不動産と併せて譲り渡すという方法があります。本来とは真逆の発想ですが、所有者にしてみれば手切れ金のようなもので、一定金額を支払うことによって負担から解放されるというメリットがあります。実際に相談を受けた案件ではリゾートマンションの管理費数年分を管理会社に支払って、その管理会社に物件を引き受けてもらったという事例があります。将来の負担から解放されることはもちろんですが、金銭を支払ってでも、自分の代で解決し、子供に負の財産を残さなくて済んだという精神的なメリットは大きいといえます。これは関与していただいた弁護士の交渉力も多分に影響したと思われますので、すべてがこのように解決するとは限りませんが、このような発想をもつこともひとつです。

相続土地国庫帰属法が成立し、不要な土地を国に帰属させる法律ができました。この法律では10年分の維持管理費相当分を国に納めることを条件の一つとしています。

もはや不動産の処分方法は、売る、あげるに加えて、お金とセットであげるという不思議な時代になりました。





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相続した借地を売却したいのですが

「親から相続した実家を売却したいのですが、どれくらいで売れるのか査定してほしい。その実家は借地だが、この辺だと所有権の6割から7割で売れるらしいが。」

このような相談を受けることがあります。特に難しい相談ではなさそうですが、借地の実務に精通していれば、軽々に回答できない相談ということが言えます。このような相談者には、査定以前に、まずは借地とはどのような権利なのかということを理解いただかなければいけません。このような相談にはまずは次のような回答が必要です。

「借地権付き建物を譲渡(売買)する場合、地主の承諾が必要となります。したがいまして地主が承諾してくれるか否か、承諾いただく場合の条件は何かを確認する必要があります。また、地主に借地権を買い取ってもらうという方法も考えられます。

順番としては、借地権を地主が買い取ってくれるか、その次に借地権を売却する際に承諾してくれるか、その場合の条件(承諾料)はいくらか。という地主との交渉が必要になるでしょう。また、建物が老朽化している場合は、新たな買主は建替えを前提に購入すると思われます。その際はやはり地主の承諾が必要となり、別途建替え承諾料が必要となります。なお、承諾には、地代の納入状況や、更新料などのトラブルがないかなど、これまでの地主との関係も少なからず判断に影響を与えます。

万一、地主が譲渡の承諾をしない場合は裁判所に申し出ることによって地主に代わる許可を受けることが可能です。ただし、このような手続きを経てまで購入したいという人はほとんどいません。(二束三文になってしまいます)

以上のように借地権の譲渡は非常にデリケートであり、地主とのボタンのかけ違いによって資産価値に大きな影響をあたえます。机上で簡単に査定となかなかいきませんが、借地権単独での売却の場合で且つ、買主が建物を建て替えることを想定し、地主の承諾が得られるという前提ですと、路線価に面積と借地権割合を乗じた金額の〇〇割前後で売却できると御の字ではないかと思います。

いずれにしても先ずは地主に相談し、地主の考えを聞かなければ始まりませんので、ご本人から直接地主に挨拶を兼ねて、借地を相続した旨、売却を検討している旨を伝えたうえで、借地権の実務、交渉に長けた会社を間に入れて進めるのがよろしいかと思います。」

これは実際の回答例ですが、地主の考えが分からない状況での価格査定は、絵に描いた餅に過ぎません。最低限、このような借地権の本質を理解、納得できない、借地権の割合に拘りすぎる借地人は売却を上手に進めることができないといっても過言ではありません。





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不動産の価値から考える賃貸条件の変更とその順番

 昨年来続くコロナ禍による飲食店の自粛要請、テレワークの推奨によって店舗や事務所を借りているテナントはもちろん、オーナーも疲弊しきっています。オーナーには賃料減免や猶予の要請が多く寄せられ、オーナーも現状を鑑みると、要請を受けざるを得ない状況が続いています。誰が悪いわけでもない本当に頭の痛い問題です。

テナントもオーナーも互いに協力して頑張ったとしても、力尽き、止む無く撤退せざるを得ないケースも出てきております。このような状況下ですから、なかなかこれまでと同条件で募集するのは難しいのが実情です。どのようにすれば新規テナントが物件に興味をもつか、まずは経済的な条件を検討しなければなりません。

賃貸の経済的条件は主に、保証金(敷金)、礼金(償却)更新料などの一時金と、毎月の賃料に分けられます。募集条件を検討するには、一時金を減額するか、賃料を減額するか、といういずれかの方法がありますが、先ずは一時金を減額する。次に賃料を減額する。という順番で検討することが重要です。経営の安定を考えれば、一時金よりも毎月の収入のほうが中長期的に見て有効ですし、借入金を利用している場合はなおのことです。また、賃貸物件の価値は収益還元価値、すなわちその物件から1年間にどのくらいの賃料収入が得られるかが基本的な指標となっておりますので、賃料が下がるとそれだけ物件の価値は下がり、反対に賃料が上がると物件の価値は上がる、という関係になっています。このようなことから一時金は減額しても、賃料はなるべく下げないほうがよい。ということが言えます。



 そうはいっても、そうそう簡単にテナントが見つかるとも限りません。このような場合は賃料減額を検討する前に、フリーレントの活用を検討することが重要です。フリーレントとは一定期間の賃料を免除するというものです。かつてのリーマンショックやオフィス大量供給による需給バランスの悪化によるオフィス不況など、不動産市況の低迷期に多く活用される手法です。不動産ファンドなどを運営する不動産運用のプロは賃料減額による物件価値の低下を回避するために、フリーレントを多く活用します。ケースによっては
3か月から6か月程度賃料を免除することもありますが、賃料を減額することはほとんどありません。このように資産価値の維持を前提に不動産不況下での賃貸条件を検討するには、まずは一時金の検討、次にフリーレントの検討、最後の手段として賃料の減額の検討という順番で考えることが必要です。

ただし、不動産価値の維持とは言っても、実は実態に少し飾りつけを施した表面上の価値であることを忘れてはいけません。反対に言えることは、不動産もちょっとした飾りつけの仕方、化粧の仕方で価値の見せ方、見え方が変わるということです。

ますます不透明で雑多な情報が溢れる世の中、飾りや化粧に惑わされず、本当の価値を見分けられる人間になりたいものですね。






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奪い合うか、分け合うか、時には奪いに行くことも

不動産実務も長くなると多くの問題に直面し、経験を積み、いろんな知識、知恵が蓄積されてきます。皆が頭を悩ます問題というもののほとんどは、人と人との感情のもつれ、行き違いと言っても過言ではありません。相続の問題、近隣の問題、借地借家の問題などの合理的な解決策、あるべき解決方法は、我々プロはもちろん、当事者もわかっているケースが殆どです。皆、兄弟は仲良くしたほうがいい、隣近所とも仲良くしたほうがいい、店子や地主とは仲良くしたほうがいい。交渉窓口に弁護士を立てたりすることや、調停や裁判はなるべく避けたほうがいい、時間と費用の無駄だ。と、それが分かっていても納得がいかないから問題なのです。そのような相談者に対して、「相手に譲ったほうが早期に解決し、時間の面でも費用の面でも結果的には有利ですよ。」と言っても、相談者は、そんなことは百も承知で、そんなアドバイスはプロに求めていないのです。

不動産売買に伴い、隣接土地の所有者と土地境界の立ち合いをしました。現地には土地境界の標示もなく、参考となる資料もありません。しかし依頼者の記憶では昔はしかるべきところに石杭が設置されていたが、隣接地主が建物の建築に伴い、その石杭を撤去してしまったとのことです。そのことを隣接地主に主張しても、根拠となる資料はありませんし、当事の隣接地主は既に他界し、相続した長男はよくわかりません。現在の状況から客観的に判断したところを互いの地境としようと協議していたところ、依頼者はどうも納得しません。自らの確かな記憶では、あと5cm向こうです。何より、当時の隣接地主は強引なところがあり特に土地境界については腑に落ちない思いをずっと持ち続けていました。結局、依頼者は納得せず、境界の協議が整いませんでした。たかが5cm、されど5cm、それにより減少する面積、金額は大きくありません。しかも土地境界の協議が整わなければ売買は成立しません。依頼者がその5cmを譲りさえすれば、すんなり協議は整い、取引も進みますが、依頼者だってそんなことは百も承知なのです。証拠はありませんが、依頼者の話をよくよく聞き、現地の状況も併せて考えると、おそらく依頼者の記憶が正しいのではないかと推測されます。プロとして客観的、合理的に考えれば、境界線を少し譲って取引を進めるほうに依頼者を説得しがちですが、このような場面では、依頼者を信じ、依頼者が納得するために、境界確定をするための法的手続きを進めることのほうが、時間と費用は掛かっても依頼者が納得した取引が進められることもあるのです。

この事例からも我々プロは経済合理性だけではなく、依頼者が、何を問題にし、どうすれば納得し、問題解決するか、常に創造力を働かせなければいけません。

と、偉そうな事を書いておりますが、事件は現場で起こっていますし、私たちの考え通りになかなか物事はすすみません。

「うばい合えば足らぬ、わけ合えばあまる。」By あいだみつお

皆、頭では理解しているんですけどね。





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