春になり、街でフレッシュマンをよく見かけるようになりました。
見かけるだけではなく、時折思わずのけぞることも。
この間、20代前半の大学の後輩2人と飲んでいたら「電子書籍業界に入りたいんですけど」と突然言われ、のけぞってしまいました。

従来の漫画とかラノベ、ボーイズラブ愛好者ではなく、ふつうの本好きのようです。
これは時代の変化の現れなのか。ただの奇特な若者なのか(笑)。

電子書籍市場を傍から見たら、右肩下がりの出版市場と比較してほぼ右肩上がりに拡大しているように思われがちです。ところが、電子書籍の仕事を始めて10年経った私の実感としては、最初が小さすぎたの一言に尽きます。仕事のやりがい云々は個人差があるのでさておき、ルックスも能力も高そうな将来性豊かな若者が身を投じるほど魅力的な業界かというと、疑問符がつきます。

ひと昔前と比べ電子書籍市場全体が伸びている割に、給料相場は決して高くありません。そして、新卒で電子書籍の会社(電子化会社や制作会社を除いた事業会社)に正社員として入社する人は、日本でいったい何人いるんでしょうか。

出版不況といっても、出版社や取次、書店などいわゆる本の会社に入る人の方がはるかに多い現状です。いくらなんでも日本全体で数人ということはなく、毎年何千人単位で出版業界の会社に入社しているはず。電子書籍業界は昔も今も、出版業界やネット業界、メーカーなど周辺業界から即戦力として中途入社する人がほとんどです。グループ会社を除けば、新入社員教育制度などという制度も発想自体もない会社が大半でしょう。入社後に待っているのはパソコンと机と椅子だけといっていいでしょう。

本やインターネットビジネスのことを何も知らない新卒の子が入社できるようになるまでは、もう少し電子書籍市場自体が大きくなり成熟する必要があるんじゃないかと。そんな現実を知らない若い人に対しては、夢ではなく現実を正直に伝えるべきか否か迷っていたところ、二つの興味深い記事に出会いました。


「これからメディア業界でメシ食ってくってどうなんですか?」~就活生から「OB訪問」されてみた(上)

ITジャーナリストの佐々木俊尚さんが、就活中の学生からメディア業界の先輩としてOB訪問を受けた模様をまとめた記事です。佐々木さんはその中で、出版業界志望の学生に対してフリーランスライターの実状をこう説明しています。

そういう状況で僕自身に話を振ると、いまやジャーナリストがどうやって飯を食っていくのかというと、今のところよくわからないんです。

僕のようなフリーのジャーナリストやフリーのライターは、かつては雑誌で飯を食っている人がほとんどでした。本を書くだけでは生活できないので、大半のフリーのジャーナリストは雑誌に原稿を書いていたわけです。雑誌の取材費もでるので。例えば事件の取材をすると出張をして、この間青森に行って来ますとなると、その旅費を出版社が出してくれるっていう構造だった。しかしさっきも言ったように出版業界がものすごい勢いで崩壊していて、雑誌もなくなってきている。だからそういうところからお金が出なくなってしまった。そして原稿の依頼もあまりこないので、ネットメディアに原稿を書くかということになるんだけど、そうすると原稿料がものすごい安いんです。

たとえば総合週刊誌とかだと90年代からゼロ年代前半ぐらいまでなら、1ページ原稿料が3~5万円くらい出ました。だから10ページの原稿書くと、30~50万円、まあ10ページも書かせてもらうことはほとんど無いけど、4ページでも12~20万円になり、貧乏ライターでもカツカツ1ヶ月くらいの収入になってる感じではあったんですね。

その収入が途絶えつつある。そしてネットメディアはどうかと言うと、1本書いて1万2000円~1万5000円なんですよ、標準的にはね。1ページじゃなくて1本ですよ。だからどんなに分量を書いても、1万5000円。これでは生活はできません。


ページビュー(=広告収入)を追わず、電子書籍実売だけを原資に運営する電子書籍メディアに限定して言うと、取材費という発想自体がないことはもちろん、文字数問わず1本1万円2000円の原稿料はむしろ稀。書籍や雑誌でよほど実績があるベテランライターでないと社内を通しづらい金額です。なぜなら、同じ金額をリスティング広告など広告費として使った場合との実売効果比較もしくは訪問者数増効果比較になってしまうから。

IT業界的なコスト感覚で考えられると、お金をgoogleに払うのとライターに払うのとどっちが得かの二者択一の議論になってしまいがち。残念ながら、実績数値が明確に出やすいネットの世界においてはコンテンツに払うよりネット広告に払う方が効率的かつ確実だと考える人が依然として多数派です。

googleのパンダアップデートによるアルゴリズム変更によって、SEO対策におけるコンテンツマーケティングがより重要視されてきた最近は変化しつつありますが、文字数や労力ではなく実売数や集客力によって投下額が変わってくることに変わりありません。電子書籍市場においても、漫画や成人向けコンテンツのタイトル数が一般読み物系コンテンツより多い理由は、売上に加えて新規訪問者数への貢献度の差によるものも大きいのです。

紙媒体を主戦場としてきたライターさんの中には、そんな現状を全く知らない方もいます。中堅どころの活字系ライターさんに予め原稿料を正直に伝えたところ、「失礼だ!」と怒られたこともあります。電子書籍メディア運営者自体がまだまだ少ないので将来予測は難しいのですが、今後は原稿を書くだけではお金が入ってこず、その原稿が直接的もしくは間接的にいくら実売金額をもたらしたかというレベニューシェア方式で支払われる可能性が高くなっていくのではないかと。

Kindleダイレクトパブリッシングなどでのセルフパブリッシングはその究極形態とも言えます。

昔から「売文家」という言葉がありますが、現在は「文」というよりも「集客力」を売る文章家といった表現が実態に即しているのかもしれません。

そんな点で、現在いろんな意味でHOTなプロブロガー、イケダハヤト氏の記事も考えさせられるものがありました。

出版業界に行きたい?どうせ受からないし、本気なら自分でメディアつくれば?

出版バブル期を経験しておらず出版業界に期待すら持っていないイケダ氏は、進路で迷う学生に向けてこう説いています。
そもそも、編集者やライターを目指す上では、何も出版社に入社する必要はありません。出版社を経験していない編集者・ライターは山のようにいます。ぼくもその一人です。

この時代に生きているのなら、自分でメディアを作っちゃえばいいじゃないですか。目の前に、道具があるじゃないですか。その瞬間、あなたはメディアの経営者になれます。

本気で金を稼いでください、ウケるコンテンツを書いてください。100万PVクラスのメディアを自分で作ろうと、努力してみてください。


確かに、著者や社員へのコネクションを入社試験の応募条件にして話題となった岩波書店の「縁故採用」宣言関連記事あたりを読むと、出版業界が求める人材ニーズの変化を切に感じます。ただ本や雑誌を作る人から、出版物を活用してよりたくさん稼げる人への変化です。第一次就職氷河期のピークだった私の新卒時代、すでに、本に詳しくてマジメに勉強するからとか性格が面白いから、というだけで入れる業界ではなくなっていたと記憶しています。

出版不況がデフォルト化した現在は、外で遊んだりスポーツしたりゲームやTVを観る時間を犠牲にして勉強に全てを捧げるだけでは新卒で出版業界に入れない時代なのかもしれません。メディア業界に最も多いクラスターの一つといえる早稲田文系卒で、勉強熱心のように思えるイケダ氏でも鬼ゴネや強運がなければ入れないクローズドな世界になっているようです。もはやかつての選択肢などなく、もうこの道しかないといった諦観すら感じます。

genko


とはいえ、お二人とも紙、ネット問わず厳しい市場環境の中でフリーランスのジャーナリストあるいはブロガーとして十分食べていっています。翻って、電子書籍市場はどうか?と考えると電子書籍の仕事一本で食えている人は何人いるでしょうか。

現状、セルフパブリッシングだけで食べていくには時期尚早であることはもちろん、ライター、編集者、プロデューサー、ディレクターなど職種問わず電子書籍専業のフリーランスの人をいまだに聞いたことがありません。私もまだ電子書籍プロデューサー職で生計を立てるようになって日が浅く、後進を育てる余裕はとてもない状況です。そんな状況で「大丈夫、電子書籍専業でずっと食べていけるよ」と20代の未経験者にアドバイスするほどの確信はまだないというのが本音です。

フリーランスとして働くことも会社に属することも両方にメリットがあるし、デメリットもあります。ある程度、参加するプロジェクトを自分で選べる自由には、売上など結果責任が常に伴います。多くのヒトモノカネを動かすダイナミズムを味わいうる会社員には、個人ではなく所属企業の一員としての言動責任が常に伴います。

どっちがいいかではなく、価値観やキャリア変更年齢の個人差があるとしても、複数の選択肢から選べる環境が大切なのです。

少なくとも、苦境ばかりが報道される出版業界やメディア業界にはまだ両方の選択肢があります。会社を経験せずにフリーとしていきなり成功する若者も少なくないですし、倍率が超激しいとはいえ新卒に対する企業の受け皿もまだ存在している。知名度と資本金を誇る大手企業の苦境が伝えられる今も2014年卒の文系大学生の就職先人気企業トップ100に、電通・博報堂など広告代理店を含むマスコミ大手企業が16社ランクインしています。

よく報道されるように、古いメディアが衰退して新しいメディアばかりが成長する未来が約束されているわけではないのです。紙メディアよりむしろネットメディアの方が創刊〜休刊までのライフサイクルが短い。昔の学生に比べて情報コミュニケーション力に長けた現代の学生が、あまり報道されないそんな事実を見抜いていることが伺えます。若いから無知なわけではなく、多少の経験があるから未来を予測できるわけでもありません。

他者に何かをアドバイスしたりプレッシャーをかける前にまず、自らの身を置く市場を選択肢が持てるぐらいに大きくすること。

年度始まりの春、激変が続く活字メディアの世界をフリーランスとして生きる二つの記事から、そんなことを改めて考えさせられた次第であります。