前回エントリーに引き続き、日本電子出版協会(以下JEPA)で行われた電子出版セミナー「EPUB25セルフパブリッシング狂時代」に登壇してみた感想です。

いしたにさん、佐々木さん、鈴木3人のパネルディスカッションで感じた、セルフパブリッシングを成功させる共通キーワードは「ブログの重要性」と「アウェイ感覚」。

JEPAに加盟していない人間にとって「アウェイ」感を感じる場所であることは当然ですが、他にも理由があります。

JEPAを知らない人のために解説すると、当団体は電子書籍に関わる様々な業種の会社が会員になっている組織です。電子書籍元年ぐらいから電子書籍関連団体が増えましたが、JEPAが老舗です。JEPAの特長は、特定業界団体ではなく、出版社、電子書店、電子化会社、印刷会社、メーカー、コンテンツメーカーなどなど多彩な加盟社。印刷本を電子化したものだけでなく、インターネット発の電子出版も対象としている間口の広さでしょう。

とはいえ、まだまだ紙の本の電子化こそが電子書籍である、という意見が根強いんじゃないかと。印刷本の電子化売上で生計を立てている会社も多いですし、そうした電子書籍の方がタイトル数も売上も圧倒的に多い。インターネット発の電子書籍を企画販売している会社はまだまだ少数派。まだまだ、ブログ発のセルフパブリッシング作家と作品は異端の存在なのかもしれません。

ブログ本を書いて自分で売っているインターネットの人々
会場の一部からそんな視線を受けて、ブログを「ホーム」にしたセルフパブリッシャー初心者の私は思わず「アウェイ感」を感じました。いずれにしても、ホームなのかアウェイなのか議論する前に、空気を読まずにまずやってみることが重要なわけです。

それぞれのプレゼンが進むにつれて、セルフパブリッシング作家たちがアンチ紙やアンチ出版業界ではなく、普通に紙の本を書いたり企画したり売ったりよく読む人であることがわかっていただけたんじゃないでしょうか。会の後半、ディスカッションの時間になるとアウェイ感は薄れていったような気がします。

司会の高瀬拓史さんもそんな空気の変化は感じ取っていたのではないかと(変化していなかったらすみません)。高瀬さんは私のブログ本『日の丸電子書籍はなぜ敗れたか』を読んでくださって、ある種の渋みを感じたそうです。思うにその渋みは、2009年に日本電子出版協会が出版した本を私が読んだ時の渋みに似ている気がします。

電子出版クロニクル
電子出版クロニクル [単行本(ソフトカバー)]



現状打破ツールとしての電子出版。個人の言論・表現を支援するツールとしての電子出版にロマンを感じて奮闘してきたJEPA会員社の人々が、それぞれ電子出版史を語った貴重な証言集です。高い理想を掲げながらも、利害が異なる会社間の調整や自社組織内調整に追われ、ゴールに辿りつかなかった悪戦苦闘の様も伝わってくる本でした。私自身も当ブログ連載を始める際、改めて読み直したぐらいです。

ただし、発売当時に電子書籍情報メディアを立ち上げて、電子書籍関連記事やインタビュー記事、レポート記事を発信していた私はこんな渋さも感じました。過去の歴史を本で残すことも大事だけど、一番肝心なのは複雑に絡まった今の情報を個々人がわかりやすくネットで発信することなんじゃないだろうか。業界内だけではなく、一般社会や普通の読者に届けることなんじゃないだろうか。

そして当時、電子出版クロニクル自体を批判した人々もいました。
「最近はうちの会社だって頑張ってるのに、うちの会社と俺の話が載ってないじゃないか。俺の方がもっと詳しい。あんな本はクロニクルとして信憑性に欠ける。認めたくないね」と。

当時、JEPA会員社の一人として、電子出版クロニクルへの批判を耳にした私は、隅っこから石を投げるんじゃなくて自分のメッセージがあったら個人で発信したり出版すればいいのにと渋く感じたものです。まぁ、どんな世界でもよくある話だとは思いますが。

ところで、当時と同じような理由で、私の本に不満を持っている方々がいたらすみません。

私は事業者であってジャーナリストや学者ではないのです。エポックメイキングな出来事はそれなりにカバーしている気がしますが、自ら経験していないプロジェクトについて全て把握しているわけでもなし。なので、当事者としての立場で関わったプロジェクトを中心に書いています。正誤率で勝負する歴史書ではなくブログ読み物なので、レイアウトも展開もわりとざっくりしてます。お買い得な価格設定はそのためです(笑)。


●新しい革袋と聖パウロ女子修道会

2010年の電子書籍元年以降、当時とは比較にならないほど多くの会社と関係者の方々がJEPAに参加しているようです。組織が大きくなれば情報や予算も増えるため利点も多いですが、利害が異なる企業が増えるため調整も大変でしょう。そんなことを思って久々にJEPAのホームページを覗いたところ、参考になる記事があったのでその中から二つ紹介します。

事務局の方々の長年の努力によるものだと思いますが、久々に会に登壇して感じたことは、電子出版の世界にもかつてより柔軟な風が吹いていることでした。

新しき器には新しきコンテンツを
株式会社パピレス会長 天谷幹夫
 
 人は過去の固定観念にとらわれながら、次を考えるものです。しかし、キリストの新約聖書マタイ伝9章に「新しい酒は新しい革袋に」とありますが、新しいインターネットのWEBというメディアの器には、新しいコンテンツがふさわしいと思います。
過去のメディアの変遷においても、古き概念にこだわり続けると新しき変革に乗り遅れることが何度も起こっています。
(中略)
 今、出版業界においても新しいWEB出版というメディアが出来上がってしまっていることを認識し、過去の轍を踏まないためにも、「新しき器には新しきコンテンツを」と先導を切って新しいコンテンツを生み出す役割を担って欲しいと思います。

たとえ補助金をもらっても電子出版はやりたくない
自由電子出版 長谷川 秀記

◆昔「聖パウロ女子修道会」がJEPAの会員社になったことがある。「修道会がなんでJEPAなんですか?」と失礼な質問をした。答えはこうである。
 「私たちは主の御言葉を伝えるのが使命です。伝えられるのであれば紙でも電子でも問わないのです」。
 長いことJEPAをやってきて、電子出版に対するこれほどストレートな意見を聞いたことがない。紙で出版するのが有効なら紙で、Webのホームページが有効ならWebで御言葉を伝える。同修道会は今もそうやって活動している。もうePubを出しているかも知れない。