2014年の貝塚クリス亮監督『実録 女の犯罪』

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製作は木山雅仁、プロデューサーは望月健二・一力健鬼、脚本・編集は貝塚クリス亮、撮影・照明は永井裕、録音は山口勉、助監督は富田大策、ヘアメイクは木原真由子(ヘアメイクRev.)、スチールは髙橋卓也、撮影・照明助手は宮原かおり・齋藤雅寛、監督助手は増田秀郎、演出応援は菊島稔章、音楽は與語一平。制作協力はANGLE、製作はオールインエンタテインメント。


こんな物語である。ネタバレするので、お読みになる方は留意されたい。

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IT企業OZ technicsの若き経営者・尾崎和也(田中靖教)は、先日創業時からのメンバーで経理担当重役だった美咲(竹内ゆきの)を何者かに殺され、しかもその嫌疑をかけられていた。
そんな日々の中、平成26年1月14日に尾崎はマイカーに乗り込もうとしたところを女二人組に拉致される。尾崎を誘拐したのは木村恵子(倖田李梨)と大野真由美(周防ゆきこ)。

1

恵子は拷問の末に尾崎の会社メール・アドレスとパスワードを聞き出し、真由美に命じて会社に尾崎の身代金3億円を要求する脅迫メールを送信させた。二人はOZ technicsが裏金のマネー・ロンダリングや偽装IDの不正売買、顧客名簿の横流しをやっている事実を突き止めており、尾崎が警察に連絡することを牽制した。

2

恵子は暴力で尾崎をコントロールしようとするが、真由美はそんな恵子とは裏腹に尾崎の世話を焼いた。そのことで真由美と恵子の間には徐々に亀裂が生じ始める。
一方の尾崎は、真由美に対して不思議な献身と親密さを感じるようになっていった。

3

ことの発端は、平成25年10月17日。看護師の真由美は、夜の巡回時に入院患者の蛭田友義(山田武虎)からレイプされる。その事実を知った恵子は蛭田に鉄拳制裁を加えるが、それが原因で彼女は病院をクビになる。

4

恵子は「勝てば女とやれる」という触れ込みで裏ギャンブル・ビジネスを始めるが、それが地回りのヤクザにバレて強姦された上に落し前として5千万円を要求された。窮地に陥った恵子は犯罪で一攫千金を狙う覚悟を決め、自分が病院を辞めた責任を取れと真由美を計画に抱き込んだのだった。
銀行強盗でもするかという恵子に対して、真由美は誘拐を提案する。真由美がターゲットに選んだのが、尾崎だった。

5

恵子は同性愛者で、看護師をしていた頃から真由美に想いを寄せていた。誘拐犯として精神が張り詰めている上に、尾崎と接近する真由美を目の当たりにして恵子は激しく嫉妬した。彼女は、尾崎同様に真由美のことも威圧的にコントロールしようとする。

6

三人の関係は、いよいよおかしな空気を帯びて行く。尾崎は何とか真由美に取り入ろうと彼女に甘い言葉をかけ、真由美は真由美でさらに尾崎に接近して行った。

遂に、尾崎の会社から3億円の用意ができたと連絡が入る。指定された場所にワゴン車で赴く恵子。ところが、そこに現れたのは麻薬取引の情報を聞きつけた刑事(森山翔悟)だった。刑事は、ワゴン車の荷台に積んである黒いビニール袋を見つける。中から出て来たのは、女の手足。恵子は、殺人と死体損壊容疑で現行犯逮捕されてしまう。

10

すべては、尾崎と二人きりになるために真由美が仕組んだ計略だった。
もう、あの女は帰って来ないわ。これで、あなたと私二人きり…と笑って、真由美は尾崎に近づいて行った。

11

病院でレイプされた翌日、深く傷ついた心を隠して真由美は勤務を続けていた。入院患者に注射しようとしてミスした真由美を、その患者は優しく慰めてくれた。真由美は、その男性患者に心惹かれた。それが、尾崎だった。
尾崎は、その時ストレス性胃潰瘍で入院していたのだ。

7

真由美は、尾崎のことが知りたい一心で病院の電子カルテに不正アクセス。尾崎の個人情報をすべて調べ上げると、次の日からストーカー行為を始める。
非通知の電話から始まった尾崎へのストーカー行為は、次第にエスカレート。真由美は、手紙を送り付け、盗撮し、果ては尾崎のゴミすら漁るようになった。

8

尾崎の会社は、数回裏社会からの依頼を断り切れずに裏金のマネー・ロンダリングや偽装IDの不正売買、顧客名簿の横流しをしたことがあった。犯罪行為は2度としないと誓った尾崎は、経理担当重役の美咲に命じて裏社会からのアプローチを徹底的に断るよう指示していた。
そんな事情もあり、当初無言電話は裏社会からの嫌がらせではないかと尾崎は考えた。ところが、それは考え過ぎで、若い女からのストーカー行為であることが次第に明らかになって行った。
尾崎の出したゴミの中に使用済みコンドームを発見した真由美は、嫉妬に狂った。尾崎と肉体関係を持ったのは美咲だろうと決めつけた彼女は、美咲を自分のマンションに監禁すると、殺害して手足を切断。恵子のワゴン車から発見された女性の手足は、美咲のものだったのだ。

9

今、自分の目の前にいる女があのストーカーであることに尾崎は気づいた。しかし、真由美の目はもはや尋常とは思えない光を宿していた。命の危険を感じた尾崎は、とりあえず彼女の想いを受け入れるふりをするしかなかった。
恐怖におののく尾崎は隙を見て脱出を試みるが、廊下に張られた針金につまずき転倒。馬乗りになった真由美は、なじりながらも尾崎を求めて来た。しかし、すっかり委縮した尾崎のモノはうんともすんとも言わない。
憤った真由美は、なんら躊躇することなく尾崎のモノを切り取った。

尾崎を監禁して、自分が負わせた傷を看病しながら真由美は愛を囁き続けた。そんなある日、尾崎を乗せた車椅子を押して真由美は散歩に出かけた。
尾崎は、真由美のことなど愛していないと悪態をつき、その言葉に逆上した真由美は尾崎の胸を何度もメスで刺した。

12

平成26年1月18日に逮捕された真由美は、死刑を宣告され平成26年5月現在、刑務所に収監されている。
独房に繋がれながらも、いまだ真由美の心は尾崎への歪んだ愛情で満たされている…。

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「実録」と冠されたタイトルを目にすると条件反射的に1970年代の東映作品を思い浮かべる訳だが、本作の内容は言うまでもなくロー・バジェットな今様Vシネマである。
そして、一見しただけで評価すべき個所と問題点が明白な作品でもある。

先ずは優れた点から挙げると、本作におけるカット割りや構成、カメラ・アングル、ライティングは非常に優れていると思う。
こと近年のエロティック系作品においては、ピンク映画とVシネマを比較して“フィルムの質感が云々”とか“デジタル映像の奥行きがどうこう”…といった議論をよく見かける。それはそれで一理あるのだが、どのハードを選択したのか以前にそのハードの特性を生かした質の高い映像に仕上がっているのかどうかを先ず評価すべきなのは言うまでもないことだろう。
そして、この作品が提示する映像はデジタルならではのシャープさを遺憾なく発揮した優れて力強い画だと思う。

では本作の問題点は…というと、それは一に脚本、二に役者陣の演技ということになる。
ある種の定型的表現ともいえる「実録」を掲げるにしては、真由美と恵子の精神的暗黒があまりにも浅薄に過ぎる。彼女たちの描写に比べると、被害者・尾崎の造形にはそれなりの誠実さを感じるからなおのこと女二人の人物像が表層的に感じられるのだ。
ただ、その尾崎にしても前半部分における真由美とのやり取りに茶番的な甘さを感じてしまうのだが。

後半、真由美の狂気が暴走を始めて以降の展開はいい。DVDの特典映像に収録されたインタビューで、周防ゆきこ自身もやってみたかった役であるとコメントしている。
ただ、こういう極端なキャラクターはアクセルを踏み込んでしまえば演技力に多少問題を抱えていても勢いだけで走り切れてしまうところがある。
むしろ作品として問われるべきは、前半部分の展開において真由美の内なる狂気にリアリティを付与できるか否かである。
あるいは、恵子が真由美に対して寄せる一方的な恋慕の情と、二人を犯罪に駆り立てるまでの描写がちゃんとできているかである。
つまるところ、「女の犯罪」と題された物語においては、真由美と恵子の破滅的な人格に何処まで迫ることができるか、彼女たちが体温あるリアルな凶器として生を与えられるか…である。
残念ながら、脚本においてその辺りをきちんと描けてはいないし、周防ゆきこ倖田李梨の二人もそれぞれが演じる女性にリアルな魂を与えきれていない。

より演技的な部分の着目しよう。尾崎が拉致される前半部分に、緊迫感、恐怖心、暴力性が不足している。恵子が尾崎や真由美に暴力を振るうシーンに、僕は痛みを感じることができなかった。
あるいは、真由美がレイプされるシーンにおいて、彼女が死に物狂いに抵抗しているようには映らなかった。紐で縛られた両腕が何かに固定されている訳でもないのに、真由美は万歳した状態でレイプ犯に対して何ら拒絶するようなアクションをしないのだから。
恵子が真由美の仇打ちをした結果病院を解雇されてからの堕ち方も、あまりに安易すぎる展開である。
後半における粘着質な真由美のストーカー行為や美咲を殺害するくだりは、いささか過剰ではあるにせよちゃんと表現できているだけに、前半とのバランスの悪さを痛感してしまうのだ。

また、熱演を認めるにやぶさかではないが倖田李梨の男口調は自分の言葉になっていないし、真由美が尾崎を殺害するシーンで登場するエキストラたちがあまりにぎこちない動きで鼻白んだ。
なお、小さな役ではあるが竹内ゆきのは悪くなかった。まあ、元来が映像映えするルックスの持ち主である。

取り憑かれた者の狂気を描くためには、そこに至るまでの過程を如何に丁寧に描くかこそが鍵となる。
その部分をおざなりにしては、真の意味での狂気や恐怖は描けないのである。