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【東野圭吾】さまよう刃 5

 何と重く、何と熱く、それでいて何と読みやすくそして面白い小説であることか。これが東野圭吾の東野圭吾たる所以なのであろう。

角川文庫 2008/5/25 初版発行

 長峰重樹の一人娘・絵摩が花火大会の帰りに行方不明となり、数日後その死体が荒川から発見される。絵摩の葬儀を終え、久しぶりに出社して帰宅した長峰は、留守電に吹き込まれたメッセージに驚愕する。それは謎の人物からの犯人の正体を告げる密告電話だった。

 詳しい捜査状況を教えてくれない警察に不満を抱いていた長峰は子機を手にする――さて、ここで問題。長峰が取った行動は次のうちどっち?
  1. 警察に電話すべきだと考え、捜査本部に密告電話があったことを伝える。
  2. ある決意を胸に、「体調がよくないので、明日は休みます」と会社の上司に電話する。
 もし本当に長峰の立場になったなら、ほとんどの人は1を選択するだろう。だが一方で、2を選びたくなる気持ちも大いに理解できるのではないか。

 あくまでフィクションであるからして長峰の選んだのはもちろん2である。そして、彼が抱いた「決意」の内容は容易に想像が付こう。目撃された不審な車に乗っていたのは若者だという。もしそれが犯人で、そして未成年だったら…。
 少年法は被害者のためにあるわけでも、犯罪防止のためにあるわけでもない。少年は過ちを犯すという前提のもと、そんな彼等を救済するために存在するのだ。そこには被害者の悲しみや悔しさは反映されておらず、実情を無視した、絵空事の道徳観だけがある。
 何とも強烈な著者のメッセージである。しかし長峰の決意は…悲しくやるせない、しかしこれが現実なのであろう終幕を迎える。

 ここで終わったなら★4つというところだが、最後にちょっぴりミステリーらしいしかけ(まあおかしいとは思ったんだが)が明かされたことを評価して★5つとした。

by higeru  at 01:47
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ずーーーっと読むのをためらっていた作品です。 読んでみて,まぁ,そこまでためらうほどでもなかったなという印象です。 ★★★☆☆ 蹂??.
コメント
1. Posted by らぶほん   2008年06月05日 17:01
こんにちは。
少年犯罪や精神鑑定を必要とするような犯罪の場合、加害者の人権ということがとても大切にされます。
死んでしまったのだから今さら仕方がない!と、被害者が切り捨てられている気がするのは、私だけでしょうか。
とても重く哀しい作品でした。
失われた命は戻らないけれど、奪った命の代償はとてつもなく重いということを、少年たちに思い知らせてやりたい!と、私も思いました。
2. Posted by higeru   2008年06月05日 23:59
らぶほんさん
 「被害者が切り捨てられている」と感じる人は多いでしょうし、東野さんもそう思っていることはラスト近くの「警察が守っているのは市民でなく法律」という、元刑事のセリフにも表れているかと。

 少年たちというか「加害者」をもちろん意図的に徹底して悪人として書いているのでしょうけどね。
3. Posted by じゃじゃまま   2008年06月07日 23:09
東野さんのこの作品、非常に憤慨した記憶があります。(爆)設定というか展開が、気分のいいものではなかったですよね。
やっぱり被害者側になって読んでしまうので、確か復讐邪魔入りましたよね?すごくフラストレーションが溜まった覚えが・・・。

higeruさんが最後に書かれてる、しかけ・・・まったく覚えてなくて。(汗)
4. Posted by higeru   2008年06月08日 21:16
じゃじゃままさん
 うーん、憤慨しましたか。
 そう言えば入りましたね、「邪魔」。あの女性(名前忘れてた)、最後にそらないだろ〜、って感じで…むむ、思い出したら憤慨してきた。(^^;
5. Posted by さゆみ1194   2008年06月09日 20:05
あのラストは、個人的にはやるせないですが、一番リアルなラストだと思いますね。そのスッキリしない感じが、溜飲が下がらない感じが現実なんですよね。そこに東野圭吾がなげかけるメッセージが感じられる気がします。私は★4つにしたんですが、それは作品が云々じゃなくて、個人的にあのバカガキの最後が許せなかったからです(笑)
最後の最後にあったミステリ的オチも、一花添えてて良かったですね(*´▽`*)
6. Posted by ふくちゃん   2008年06月11日 00:22
東野圭吾にしては社会派な・・・!
と驚きながら読みました。
ハードな作品でしたね。
現実に長峰のような思いを抱えて、折り合いなんてつくはずないけど、何とか生きている人って、たくさんいらっしゃるんでしょうね。辛い話でしたが、読んで良かったとは思います。
7. Posted by higeru   2008年06月12日 22:31
さゆみ1194さん、ふくちゃんさん
 確かに「社会派」といえる東野作品は少ないでしょうか。社会派とエンタメが両立しないということはないでしょうが、このテーマではやはりすっきりとした結末は難しいのでしょうか。
 バカガキは、あえて徹底的にバカガキに書いてるんだろうけどね。
8. Posted by the salaryman   2008年06月21日 22:50
読んでて、力が入りました。盛り上がりました。
そうだー!あんたは正しい!いけいけ〜!やっちまえ〜!
・・・
9. Posted by bunkoya   2008年07月29日 23:19
今頃になってしまったのですがー・・・
TBさせていただきました!
こっちからはうまくいくのに、higeruさんとこからはダメなのはどうしてなんでしょうね?!
10. Posted by higeru   2008年07月30日 23:45
bunkoyaさん
 あれっ、「ぶんこや」さんとは違う人? (^^;
 TBはなんででしょうねぇ。こっちからは打率?大体8割くらいでしょうか…。
11. Posted by ぶんこや   2008年08月02日 11:00
すみません。同一人物です(笑)
パソコンが英語優先なので、日本語に直すのをわすれるときがあるのです・・・
あ、このコメントにはお返事不要ですよー。またよろしくです!
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