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【翔田寛】誘拐児 3

 本年度の江戸川乱歩賞受賞作の一つ。ミステリー作家の登竜門的な乱歩賞だが、この著者はデビューして8年。既に5作品を発表してからの受賞というのは、かなり異例ではなかろうか。ちなみにデビュー作はこちら

 『ダ・ヴィンチ』9月号のインタビューによれば、「座してチャンスを待つよりも、もっと大きなチャレンジをしてみようか、と」思っての応募なのだという。初応募での受賞は、さすが現役作家の面目躍如というところか。

誘拐児講談社 2008/8/6 第一刷発行

 《おまえは、ほんとうの息子じゃないよ。私が誘拐――》 という母親の今わのひと言に悩み苦しむ谷口良雄。そしてそれが真実でないことを信じ確かめようと奔走する恋人の杉村幸子。
 一方、平凡な女性の殺害事件を捜査する輪島・井口と、彼らと反目しながらも別の角度から事件を追う神崎・遠藤の四人の刑事。三者三様に見出した道筋を辿り、徐々に15年前の児童誘拐事件の真相に迫っていく。果たして良雄は本当に「誘拐児」だったのか――!?

 天童荒太の選評で「何より優れたエピソードを作れる力が受賞の決め手となった。小説の豊かさとは、エピソードの豊かさでもある」とあるのだが、エピソードが多すぎると感じた。さらに「顔」の見えない登場人物が多く、ストーリーを追いづらい。

 恩田陸の「謎解きの部分が分かりにくかった」という意見には同感。刊行に際して手が加えられたのではと思うのだが、特に主人公の良雄がなぜ真相に気付けたのかが分からなかった。まあ、これは読み手にも責任ありかも。

 ラストは輪島・井口の二人がある人物の家を訪ねるシーンで終わるのだが、その人物が誰だったのか思い出すにひと苦労してしまった。最後の最後でこういうことになると非常に印象が悪い。短期間で集中して読めばこういうことも無かったかも知れないが。

 ここからは余談。
 恩田陸の選評に「皆(他の候補作も含めて)タイトルがひどすぎる。もう少し自分の作品に愛を込めてタイトルを付けてほしい」とあるのだが、これとは別の意味で、受賞作が発表になってこの作品のタイトルを目にした時、何とも言えぬ違和感を感じた。

 「誘拐児」とういのは造語とは言えないが、あまり見かけない言葉ではないか。とはいえ、誰しもが「誘拐された児童」と解するだろう。

 だが、これが「誘拐者」となればどうか。この場合「誘拐を行った者(犯人)」になるだろう。英語ならば "kidnaped" と "kidnaping" でその違いは明確なんだろうが…と、ふと日本語の曖昧さが気になった次第。

by higeru  at 12:27
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1. 誘拐児/翔田 寛  [ 心の音 ]   2008年11月16日 11:03
誘拐児講談社 翔田 寛 ユーザレビュー:う??ん、難解書店の薦 ...期待を込めての受賞作 ...乱歩賞は役目を終えた ...Amazonアソシエイト by ウェブリブログ
2. 誘拐児  [ ぼちぼち ]   2008年11月17日 23:07
JUGEMテーマ:読書 第54回江戸川乱歩賞受賞作 昭和21年、帰らなかった誘拐児。悲劇はそこから始まった――。 緊迫の推理。かつてなく切ないラスト。圧倒的筆力で描く興奮、そして涙。 終戦翌年の誘拐事件。身代金受け渡し場所、闇市。犯人確保に失敗。そして15年後、...
3. (書評)誘拐児  [ 新・たこの感想文 ]   2008年11月17日 23:09
著者:翔田寛 誘拐児(2008/08/07)翔田 寛商品詳細を見る 昭和36年6月。運送会社に勤める良雄は、数日前に死んだ母が隠していた手帳の連絡兮..
4. 誘拐児(翔田寛)  [ Bookworm ]   2008年11月24日 14:54
第54回江戸川乱歩賞受賞作。 終戦翌年、昭和21年に起こった誘拐事件。犯人は逮捕できず、誘拐された子供も見つからなかった。そして、15年後、事件が動き出す・・・。
5. 誘拐児 〔翔田 寛〕  [ まったり読書日記 ]   2008年11月27日 20:13
3 誘拐児翔田 寛講談社 2008-08-07売り上げランキング : 122591おすすめ平均 Amazonで詳しく見る by G-Tools ≪内容≫ 第54回江戸川乱歩賞受賞作 昭和21年、帰らなかった誘拐児。悲劇はそこから始まった――。 緊迫の推理。かつてなく切ないラスト。圧倒的筆力で描く...
6. 時代の空気  [ 活字の砂漠で溺れたい ]   2009年04月25日 14:22
優れた時代小説を読むと、その時代の空気を、 単語や固有名詞に頼ることなく、 文章だけから、でも感じ取ることが出来る。 いや、それは時代小説に限らない。 昭和20年代を舞台にする、 京極夏彦さんの京極堂シリーズにしても、 戦後のどさくさや、安保の時代を描いた作品に...
7. 誘拐児  [ どくしょ。るーむ。 ]   2009年05月23日 01:25
著者:翔田 寛 出版社:講談社 感想: 江戸川乱歩賞受賞受賞作品。 誘拐事件の被害者ではないかという疑惑を持つ主人公。一方で平凡に暮らしていた女性が殺され、部屋を荒らされていた。二つの事件を繋ぐものは?というお話。 緊迫感のある誘拐シーンで幕を開け、さま...
コメント
1. Posted by ちきちき   2008年11月17日 23:09
先日なぜかコメントを受け付けてくれなかったので、再チャレンジです。

著者の方、既にプロの作家さんなのですね。
既刊を見たら、確かになんか知ってる本がありました。全然気づかなかったです。

乱歩賞、今回選評がなんだか楽しかったです。
恩田さんは結構辛口なのにビックリしました。見た目が9割…
2. Posted by たこやき   2008年11月17日 23:18
こんばんは。

>ミステリー作家の登竜門的な乱歩賞だが、この著者はデビューして8年。既に5作品を発表してからの受賞というのは、かなり異例ではなかろうか

という部分なのですが、以前、乱歩賞を全部読む、というのをしたときに、結構、すでにデビューした作家の受賞作、というのもありました。
最近ですと、06年の早瀬乱氏などは、すでにデビューしていましたし、古いところだと、西村京太郎氏なども、デビューして数年後に乱歩賞を受賞というパターンでした。ただ、やはり、デビューして2〜3年、1〜2作という作家が多くて、翔田氏くらいキャリアのある人は殆どいませんでしたが(多分、上回るのは、1976年に受賞した藤本泉氏のデビュー10年、作品6本くらいだと思います)

そういえば、桐野夏生氏や渡辺容子氏は、乱歩賞を取る前に、別のペンネームで、ジュニア小説を書いていたらしいのですが…こういう場合、「デビュー作」はどれになるのだろう? とか、この文章を書いていて思ってしまいました(^^;)
3. Posted by higeru   2008年11月19日 01:48
ちきちきさん
> 先日なぜかコメントを受け付てくれなかった
 あら、そうですか。TBが(こっちから)飛ばないことはしょっちゅうですが。

 恩田さんの選評は激辛でしたね。(^^; ところで「見た目が9割」って何ですか??
4. Posted by higeru   2008年11月19日 01:53
たこやきさん
 丁寧な解説ありがとうです! なるほど、ちょっと前まで「乱歩賞受賞作=デビュー作」と思い込んでいたのですが、決してそうではないってことですね。

 複数のペンネームがある場合、やはりその名前で最初に出したものがデビュー作になるのでは? ところで乱歩賞受賞作は完全制覇したのでしょうか?(^^
5. Posted by ちきちき   2008年11月19日 21:46
いや、恩田さんってほわ〜んとした雰囲気で、あんまりきつい事言わなそうじゃないですか。
なんで、普通よりさらに辛く見えてしまう気がするんですよ。
と、あのコメントじゃわからんですね。
6. Posted by たこやき   2008年11月23日 21:45
こんばんは。

>ところで乱歩賞受賞作は完全制覇したのでしょうか?(^^

はい、一応、全部制覇しました。
立て続けに、というよりも、次に何を読もうか、という時に、乱歩賞受賞作を優先するような形だったので、全部読むのに1年以上かかりました(^^;)
7. Posted by すずな   2008年11月24日 14:59
こんにちは。
私も乱歩賞って新人賞の位置付けなんだと思ってたので、著者紹介を読んで驚きました。
期待が大きすぎたのか、イマイチ感の大きい読後感になっちゃいました^^;
8. Posted by higeru   2008年11月25日 21:42
たこやきさん
 おお、制覇したのですか!
 そういえば、私も大藪賞作品制覇とか書きながら、すっかり忘れてました…。(^^;
9. Posted by higeru   2008年11月25日 21:53
すずなさん
 たこやきさんの解説にあるように、「乱歩賞=新人賞」はまったくの勘違いだったようで。
 そう思って読めば新人らしからぬ感もありますが、それと面白いかどうかは別ですからねぇ。
10. Posted by エビノート   2008年11月27日 20:21
翔田さんのデビュー作の記事拝見しました。
デビュー作のほうが、私の好みと合いそうな雰囲気。ちょっと探してみようと思います。BOOKOFFにあるかなぁ〜。
11. Posted by higeru   2008年11月29日 01:14
エビノートさん
 自分でもデビュー作の方に良い評価をしてますね。
 復刊はされてないようですが、Amazonのマーケットプレイスではもとの値段より高いですね。これも乱歩賞効果なんだろうな。
12. Posted by yori   2009年04月25日 14:24
higeruさん こんにちは
なるほど、エピソードが多すぎるのですね。何となくの据わりの悪さというかバラバラ感の原因は・・・笑
13. Posted by ia.   2009年05月23日 01:37
こんばんわ。
ちょっとわかりづらかったですね。
途中まで面白かったので残念でした。
乱歩賞の選評は私も興味深く読みました。
確かにあまり読みたくならないタイトルが多かったですね(笑)
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