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時代/歴史小説

【真保裕一】覇王の番人 上・下 5

 明智光秀の名を知らぬ者はいまい。しかし思い浮かぶことといえば、信長を裏切り本能寺の変を起こした男という悪いイメージ、あとはせいぜい細川ガラシャの父親ということくらいではないか。

覇王の番人 上覇王の番人 下講談社 2008/10/8 第一刷発行

 真保裕一初の歴史小説!ということで、評価はいささかファンのひいき目かも知れないが、歴史物好きの人にはぜひオススメしたい。

 「対談 新たな歴史小説はまだ創れる! 真保裕一×垣根涼介」(『小説現代』2008/10月号)で、著者は本作品を書くに至った経緯を以下のように語っている。

 いくつか書きたいものがあって、自分が五十歳くらいになって歴史小説が書ければいいなと思っていたんです。私が「歴史小説にはいろんな可能性がある」とか「ああいうのもやると面白いよね」と言っていたのを憶えていた編集者がいて、たまたまその人のところへ、武士を主人公にした映画を作りたいんでいい原作はないか?という話が来て、じゃああいつに書かせてみようとなったんです。
 残念ながら映画の話は立ち消えになってしまったらしいが、「『惟任退治記』や『太閤記』など、勝者側の論理ででっち上げられたエピソードをなぞって書かれたある歴史小説を読み、歪められた光秀像に激しい憤りを感じた」ことが原動力になったのだとも。

 「覇王」信長の「番人」光秀の真実の姿、何ゆえに光秀は信長を討つに至ったのかを、光秀ともう一人の(これは架空の)人物、忍びの小平太の視点から描いてゆく。
 光秀が「覇者」と成り得なかったのはなぜなのか!? ミステリーめいた 《今、明かされる「本能寺」に隠された真実》 に思わず唸る。そして結末では、「覇王の番人」のもう一つの意味が明らかになる。

【宮部みゆき】おそろし 三島屋変調百物語事始 4

 11月から読売新聞で続編の連載が始まるとのことで、何としてもそれまで読みたいと思い、自宅の方の図書館で借りた。普段利用している単身住まいの町では市内全館での蔵書数が30冊、今日現在で予約数290…ということはほぼ5ヶ月待ちだが、自宅の方はたったの1冊ながら何せ利用者の少ない田舎なもので、ひと月ほどで借りることができた。(^^

角川書店 2008/7/31 初版発行

 ある事件を境に心を閉ざし、川崎宿の生家を出て神田で叔父夫婦が営む三島屋に身を寄せることになった17歳のおちか。叔父の伊兵衛の言い付けで「変わり百物語」の聞き手となった彼女は、見ず知らずの人々の不思議な話を聞くことで、徐々に凍てついた心を溶かしていく…。

 基本的にホラーは嫌いだ。ホラー映画なぞお金をもらっても見たくない。だが宮部の作品はただ怖いだけのホラーではない。人情と風情による味付けがされているし、そもそも怖いモノ好きなのに怖がりだという彼女には、あまり怖い話を書けないのじゃなかろうか。たとえ恐ろしいタイトルの作品でも、安心して読めようというものである。

 本書は「曼珠沙華」、「凶宅」、「邪恋」、「魔境」、「家鳴り」の五話から成るが、あくまで「事始」。冒頭に書いたように来月から続編の連載が始まるが、以下に抜粋した『ダ・ヴィンチ』9月号のインタビューによれば、どうやらこのシリーズは彼女のライフワークになりそうである。
これから先も彼女は「変調百物語事始」を続けながら、恋愛をし、結婚をし、子供を持ち、だんだん年を取っていきます。このシリーズでは、百物語を積み重ねるだけでなく、おちかの一生を書いていきたいんです。
百話の前に私が死んじゃったら申し訳ないですけど。後半は「寿命との競争だ!」みたいなことになったりしそう(笑)。
 ということで、宮部とは同世代のおいらとしても長いお付き合いをさせて頂こうと思うのだが、さて最後まで読めることやら。なにせ女性の方が平均寿命が長いからなぁ。(^^;

【宮部みゆき】孤宿の人 5

 『ダ・ヴィンチ』9月号の特集「宮部みゆきを読みつくす!」のインタビューによると、「書き上げるまでにもっとも苦労した作品」なのだそうだ。
 宮部お得意の時代モノだが、これまでの江戸モノと違い、四国は讃岐の丸海(まるみ)という架空の藩が舞台。読む側からすれば「新境地」かも知れないが、本人曰く「無謀なことをやりはじめた」がゆえに何度も連載をやめたいと泣きを入れたらしい。

 読んだのは最近出た新書版の方。上下二巻だが、一冊ずつ見ればそう厚くはない。だがその薄さに騙されてはいけない。単行本は『楽園』よりも厚い。心して読むべし。しかし読み終えたその時、読んで良かった〜と思うだろう(多分)。
 カテゴリーの都合上、「時代/歴史小説」に分類したが、最後の15ページほどに限れば間違いなく「泣ける話」でもある。

新人物往来社 2008/5/25 第1刷発行

 「阿呆のほう」と名付けられた不幸な少女――いきなり話がそれるが、この「ほう」という名前が何とも心憎い最後の泣かせどころの一つとなる。
 ほうは江戸の生まれだが、訳あって今は丸海藩の藩医を勤める井上舷洲宅に奉公人として住み込み、人の子らしい暮らしを送っている。

 その丸海藩に「加賀様」、元勘定奉行の船井加賀守守利が流されてくることになる。加賀様は妻子や側近数名を殺め、江戸ではこの世のものじゃない、悪霊に憑かれていると噂されるようになっているのだという。そしてその加賀様の所業をなぞるように、不可解な毒死や怪異が井上家と丸海藩を襲う…。

 上巻の終盤に至るまではじれったい。「長い」という頭があるものだから、ここは5ページくらいカットしてもいいだろ〜とか、この段落は半分でいいじゃんとかツッコミつつも読み進めるが、なかなか話が進まない。

 でも大丈夫、絶対そのうちに面白くなるという安心と確信を抱きつつ、下巻になるとページを繰る手が止まらなくなる。そして最後は…既に書いたが、泣ける。(T^T)

 ちょいと人死にが多いのはやるせない。ではあるが、
 封建制度の江戸時代には、どんなに心の温かい庶民も権力に対しては無力であり、割を食ったり、犠牲にならなければならないことが多かった。そこを一度、しっかり書きたいと思い続けていました。
と新聞のインタビュー記事で語っている、なんてことを知ってしまうと、う〜んなるほどと、優柔不断にも納得してしまう。(^^;

 でも…やっぱり長いよね。冒頭に紹介した『ダ・ヴィンチ』のインタビューでは「最近はやたら長いものが多いですから、少し反省しています(笑)」と、本人も自覚はしているらしい。おかげでおいらの感想も長くなった。少しだけ反省しとこう(笑)。

【五十嵐貴久】相棒 4

 『シャーロック・ホームズと賢者の石』を読んだきりで、特に好きな作家ということでもないのだが、図書館の新刊案内で見知った名前を見つけ、今なら最初に借りられる!ということで衝動予約した。なので新刊であり、新本である。ただ新本であるというだけで、何だかちょっといい気分。

PHP研究所 2008/1/29 第 1 版第 1 刷発行

 そういう次第なのでどんな本なのかまったく予備知識を持っていなかった。どこぞで見たようなタイトルから、刑事物かとも思っていたのだが、表紙に描かれているのは日本刀である。ほう、時代小説か…なんと、「相棒」の正体は、坂本龍馬と新撰組副長・土方歳三なのであった。

 大政奉還を目前に控えた慶応3年(1867年)旧暦10月4日の未明、西郷吉之助との会談のため二条城を出た徳川第十五代将軍慶喜の一行が襲撃される。倒幕側の薩摩藩、長州藩、公家の岩倉具視、あるいは大政奉還を阻止せんとする幕府側の人間の仕業か――老中永井の発案により、下手人探しの白羽の矢が立ったのが、龍馬・土方の二人という訳である。

 小説家見てきたような嘘を書き、ではあるが、読み進むにつれ、これは本当にあったことなのではと思えてくるほどに面白くなってくる。性格も考え方も異なる龍馬と土方――調べてみれば二人は同年(龍馬は早生まれ)――が、割れ鍋に綴じ蓋的「相棒」ぶりを発揮する。

 さはさりながら、その後龍馬は暗殺され、土方は戊辰戦争で命を落とす、というのは曲げられぬ史実である。ではあるのだが…最後はちょっとしたサプライズが用意されている。

【鯨統一郎】月に吠えろ! 萩原朔太郎の事件簿 3

 図書館で朝晩の電車で読むの本を物色していて見つけた。萩原朔太郎に興味があるということではまったくないのだが。

トクマ・ノベルズ 2003/9/30 初刷

 サブタイトルで分かるように、萩原朔太郎が探偵役となって数々の事件を解決するという鯨さんらしい短篇集。タイトルの方は『月に吠える』という朔太郎の詩集をもじったもの。

 ワトスン役といういうべきか、「事件簿」の記録係は室生犀星である。準レギュラーとしては二人とともに人魚誌社(詩、宗教、音楽の研究を目的とする結社らしい)を設立した山村暮鳥、朔太郎の師である北原白秋が、さらに実在の人物としては竹久夢二、(ほんのチョイ役だが事件を解決する鍵となる重要はセリフを語る)アインシュタインなどが登場する。

 さらに最終第七話「謎の英国人」の正体は、これは実在ではないが「エルロック・ショルメス」。知らない人のために付け加えれば、これはモーリス・ルブランのルパンシリーズの登場人物であり、「Sherlock Holmes」のアナグラムになっている。

 各短編の最後には事件にインスパイアされて作った(と言われればそうなのかもと納得できそうでできなさそうな)朔太郎の詩が引用され、《この詩がどんな出来事にインスピレーションを受けて創作されたのか、朔太郎はとうとう誰にも明かさなかった》 といった具合にしめくくられる。鯨さん一流のワンパターンであるが、このワンパターンは悪くない。

 短編ということもあってか、朔太郎が解く謎はさほど複雑怪奇なものといった印象は無いが、久方ぶりにオーソドックスなミステリーを楽しめた。

【山田正紀】早春賦 4

 タイトルは…確か同名の歌があったように思うが、こちらは山田正紀であり、時代小説である。氏の時代物は決して少なくないが、どちらかというと伝奇小説、ファンタジーっぽいものが多い中、これは本格と言えよう。

角川書店 2006/1/30 初版発行

 慶長18年(1613年)八王子総奉行として絶大な権力を誇った旧武田家臣・大久保長安が死去、幕府の財源を横領したとの濡れ衣を着せられ、一族郎党ことごとくに死罪が言い渡される。長安直轄家臣団はこれを不服とし、徹底抗戦をとなえて今や廃城となった八王子城に立てこもる。
 一方、千人同心と呼ばれる半士半農の郷士たちは、幕府に恭順の意を示すため、すなわち生き延びるために家臣団討伐を余儀なくされる。

 物語は風一(かぜいち)、林牙(りんが)、火蔵(ひぞう)、山坊(やまんぼう)の、それぞれが風林火山の一字を名にいただいた幼なじみの少年たちを軸として展開する。さらに、やはり幼なじみのきぬという少女が登場し、ほんのりラブ・ストーリーっぽい味付けもされている。

 このうち火蔵とその弟の火拾は家臣団の子弟。風一たちはこれを討つ側であり、それぞれの思いを抱き、ある使命を帯びて、千人同心の先陣を切って八王子城に向かう――。

 長安の7人の男児と腹心は全員処刑された、というのが史実であるらしい。こう書けば風一たちの対決の結果は自ずと知れようが、そこには決して凄惨さは無く、むしろ清々しさを覚える。火蔵・火拾の兄弟にとってもその結末は本望であったろう。

 章題がユニークだ。獅子蚕(ししご)、催青(さいせい)、掃立て(はきたて)、鷹蚕(たかご)、五齢(ごれい)、上蔟(じょうぞく)、曳理(ひきる)、収繭(しゅうけん)と続く。すべて養蚕に関する専門用語であり、それぞれが物語の中で、各章にふさわしい意味を持つことが語られる。

 「獅子蚕」とは蚕が桑を餌として発育する既刊の第二段階、最後の「収繭」は字面からその意味を推測できよう。風一をはじめとする少年・少女たちの成長の物語でもある。

あかんべえ 5

新潮文庫 2007/1/1 発行 宮部みゆき
 宮部みゆきは大好きな作家の一人。ブログを始めて以来、初の宮部作品だ。文庫・新書しか買わないこともあり、今年はほとんど読んでない気がしたが、『模倣犯』と『ブレイブ・ストーリー』で「ページ数」としてはかなり読んだことになるな。(^^;

 『ぼんくら』以来、久しぶりの宮部 《江戸物》 を堪能した。年の瀬でもあるので(換言するとめんどいので)あらすじなどは一切省略するが、帯に書かれた 《人情+ミステリ+ファンタジー》 というコピーが物語のテイストを良く表していると思う。

 ところでハードカバーは一冊なのに、文庫化の際、発売日は変えずに分冊する意図って何なんだろ?

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