音楽

2012年11月28日

来年1月に開催するリサイタルのご案内です.


「福田ひかりピアノリサイタル 続バッハ・ツィクルス3〜フーガに魅せられて〜」

flyer [プログラム]

 J.S. バッハ《平均律クラヴィーア曲集》
   第1巻より 第10番 ホ短調 BWV855
   第2巻より 第16番 ト短調 BWV885
        第23番 ロ長調 BWV892

 ショスタコーヴィチ《24の前奏曲とフーガ》作品87より
   第4番 ホ短調, 第11番 ロ長調, 第22番 ト短調

 ベートーヴェン ソナタ第31番 変イ長調 作品110

 J.S. バッハ 半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV903



前回は組曲特集でしたが,今回はフーガ特集です.
バッハでフーガといえば「フーガの技法」を思い浮かべますが,それはまた別の機会をいただくとして,今回はバッハからショスタコーヴィチまでのフーガを楽しんでいただく趣向です.

前半はバッハとショスタコーヴィチのコラボレーション.バッハの平均律とショスタコの「24の前奏曲とフーガ」から3つの調性を取り出し,連続して演奏します.作法や響きの違い,また違って見える様相の中に共通してあるものを探っていきます.

後半は長年温めてきた2曲,ベートーヴェンのop.110のソナタとバッハの「半音階的幻想曲」をお楽しみいただきます.2曲とも折にふれて演奏していますが,大きな舞台で弾くのはop.110は1998年のリサイタル以来,「半音階的〜」は2005年のバッハ・ツィクルス1以来です.10数年を経て感じ方や考え方も変化・深化してきましたが,今も進化の可能性を秘める作品の奥深さに感じ入る毎日です.


日時・場所は以下の通りです:

☆岡山公演
  2013年1月14日(月・祝)13:30開場 14:00開演
  ベルフォーレ津山
  全席自由 一般 2,000円・高校生以下 1,000円
  プレイガイド:ベルフォーレ津山/地域交流センター/津山文化センター
         津山市勝北文化センター/津山市加茂町文化センター
         ピアノ工房アムズ/ヨシダミュージック/平和堂楽器
  問い合わせ: ベルフォーレ津山 0868-31-2525
         ピアノ工房アムズ 0868-27-2100


☆東京公演
  2013年1月26日(土)16:30開場 17:00開演
  杉並公会堂 小ホール
  全席自由 3,000円
  プレイガイド:e+(イープラス)ピティナ
  お問い合わせ:Office KAME 03-3706-0308



アンコールにもお楽しみを考えておりますので,皆様お誘い合わせの上ぜひ会場に足をお運びいただきたく,よろしくお願いいたします.

P.S. 公式HPに「いいね!」ボタンを設置しました.FBのアカウントが必要になりますが,ぜひぽちっとお願いいたします.


hikarifmhikarifm at 23:57│コメント(0)トラックバック(0)

2012年10月17日

紀尾井ホールでエル=バシャのピアノリサイタルを聴いてきた.

エル=バシャ


パリ在住のレバノン人.ピアノ界の新たな巨匠として注目されているピアニストである.チラシの写真だけ見るとどんな強面のいかつい親父がどんなに変わったピアノを弾くのか,などと想像していたが(ほんとに失礼な話),ステージに出てきたのはとてもスラリとして足の長い素敵なおじさま♡ 一緒に行った友人曰く「ハゲにもかっこいいハゲとそうでないハゲがいるんですよね...」と.スタイルだけでなく,身のこなしも優雅でステキだった.

そしてピアノは...もっとステキ! ステキなんて言葉ではいけない.あんな音を出すピアニストを聴いたのは初めて.なんというか,音が匂い立ってくるのだ.鈴の転がるような音,さまざま光を放つ音,黒いけむりのもやに包まれるような錯覚を起こす音...音の表情がさまざまに見えるのだ.正に音色の魔術師!その魔術師が選んで用いたのがベヒシ
ュタインだったことも嬉しかった.

前半は彼の得意とする高音p系の音色が冴え渡っていた.特にモーツァルトの第3楽章の緩徐変奏でのヴァリアンテはうっとりとする美しさ.ラヴェルは得意中の得意なのだろう.オンディーヌでは水の揺れ動く様ときらめきの描写が見事.スカルボのおどろおどろしい空気も沸き立っていた.

後半は,前半で聴かせてくれた鈴の転がる音色もさることながら,和音・調の色の表現に舌を巻いた.和声感があり且つ表情のある左手ってなかなか聴けない.色気のある左手に惚れた.そして,多彩な音色と音の「動」「静」を見事なバランスで配置しており,実に立体的な響きを構築していた.ベートーヴェンも良かったが,なんといっても感動したのはショパンの葬送の第3楽章.「ぴたーっとした音」としか言いようのない「静」の音による葬送行進曲.その後にくる第4楽章をショパンがなぜあんなにもやもやした音楽にしたのか,初めてわかった演奏だった.

いやー,ピアノの音色の追究に対する考え方が180度変わった.彼の足下にも及ばないが,あの世界に少しでも近づきたい,もっともっと精進しなければならないな,と感動とともに決意もした一夜だった.


hikarifmhikarifm at 00:13│コメント(2)トラックバック(0)

2012年07月06日

前記事が長くなったので,アンコールについてはこちらに.

IMG_0208
(端に写っている外人さん,トルコ人のヒットマンみたいでよろしい)

 
1. 自作 BLACKEARTH
2. 自作 BODRUM(チェロソナタより第4楽章のピアノ版)
3. 自作 SES(バラード)
4. ショパン ノクターン 遺作 嬰ハ短調


ジャズ全開.CD1枚分弾いてしまうのではないか,と思わせるほどのノリノリぶり.「ブラックアース」は私とサイとの出会いの曲で何度もCDで聞いているし楽譜も持っている(ので弾いてみたりもした)が,やはり生は違った.楽器全体,そしてホール全体を震わせる振動と演奏者の感情の渦に巻き込まれていく感じ.アコースティックなのにエフェクトがかかったような響きも不思議. 

ノリノリで迎えた4曲目のショパンは,息を飲む美しさ.「悲しい美しさ」という表現はよく目にするが,それが音になるときっとこんな感じなのだろう.憂いに満ち,そしてその憂いがきらめきながら散っていくさまが見えるような,そんなショパンで演奏会は締めくくられたのだった...



hikarifmhikarifm at 09:26│コメント(0)トラックバック(0)
杉並公会堂でトルコの奇才,ファジル・サイのピアノリサイタルを聴いてきました.

Fazil Say


プログラムはこちら.

モーツァルト ピアノソナタ第11番 イ長調 K.331「トルコ行進曲付き」
ストラヴィンスキー バレエ音楽「ペトルーシュカ」より(ファジル・サイ編曲)

    〜〜 休憩 〜〜

ムソルグスキー 組曲「展覧会の絵」


 舞台に出てくるなり,ピアノの椅子に斜めに座りおもむろに弾き出したサイ.目線を前列の客(彼女でもいたのかい?)に送り,歌うように(実際に歌ってた,というより唸ってた?けど)弾く,その弾き方のなんと自由で伸びやかなこと.ところどころ音も足していた.感情のおもむくままに弾いているように聞こえるが,和声の色をきちんと捉えた音色・表現作り.あんなに多彩な音色で弾く第1楽章は初めて聞いたよ.
 続く第2楽章.第1楽章の奔放さからすると正統的に聞こえるから不思議.個人的にはこの楽章,退屈で仕方ないといつも思うのだけど,旋律の移り変わりとともに表情がさまざまに変化するのが実に面白かった.
 そして第3楽章,トルコ行進曲.「トルコ人の弾くトルコ行進曲だ」ということに後で気がついたが(^_^;; 音の取捨選択に工夫があり,打楽器的効果がうまく引き出されていた. 椅子にかなり深く腰掛けているようで,かかとを床につけず,つま先だけでペダルを踏んでいるのだが,その踏み方もかなり巧妙.f系の箇所で足踏みしていたのは狙ってやったのか,興に乗ってたまたまやっただけなのか... 興に乗り過ぎていつジャズになってもおかしくない感じだったけど,ここではなんとかクラシックにおさまっていた.
 モーツァルトの在り方としては,ある意味グールドと同じで決して正統的ではないが,こういう風に自由にモーツァルトを感じ,捉えて弾くのは,勉強の一段階であってよいことかもしれない,と思ってみたりもした.実際にレッスンで生徒がこんな風に弾いてきたらなんと言えばよいか考え込むとは思うけど...

 ペトルーシュカの編曲は本邦初披露.ペトルーシュカに詳しくないので,「ロシアの踊り」と後は「聴いたことあるんだけどどこだっけ〜」な程度にしかわからなかったが,オーケストラに勝るとも劣らない多彩な響きが素晴しかった.あと,弾いているのは確かに一人2手なんだけど,3本目,4本目の手が実はあるんじゃないの(ないないww)と思ってしまうくらい音が多く,それをしっかり弾き切ってしまうのがこれまた驚き.でも決して超絶技巧だけで聴かせてる訳ではないのよね〜 そこが素晴しい.

 〜〜〜〜〜

 さて後半の「展覧会の絵」.ここまでくると「こんな演奏だろう」と大体予想がつくが,まあ,予想通りで,音色と表現技巧の多彩さはここに極まれり,という感じだった.プリペアードピアノまではいかないが現代音楽臭のする技法も用い(って弦を指で押さえて弾いただけですが)たり,ダンパーペダルを高速で小刻みに踏むことで生じる振動を楽器全体に共鳴させたり,といった手法も面白かった.
 そして聴いているうちに「この人が弾いている楽器は確かにピアノの形をしているけれど,我々の知っているピアノじゃない.ピアノの形をした,オーケストラに匹敵する音響を持つ楽器を操っているのではないか」と思えてきた.ラヴェルのオーケストラ版よりもずっとオーケストラ的に聞こえてしまったのだ.実際,まるで弾き振りをしているかのような仕草が随所で見られ,彼の頭・耳の中にはオケの響きが構築されているのだろうと想像できた.ピアノってこんなに可能性を秘めた楽器だったのか! まだまだ精進が足りないな,自分.


他にも顔芸,足芸,もれなく付いてくる鼻歌(というかうなり声)も一見/聞の価値ありです.ぜひ,舞台上手側前方のお席でご堪能下さい.


hikarifmhikarifm at 01:47│コメント(1)トラックバック(0)

2012年06月25日

古屋晋一著『ピアニストの脳を科学する--超絶技巧のメカニズム』
http://www.shunjusha.co.jp/detail/isbn/978-4-393-93563-7/

935633


銀座のヤマハで楽譜物色中に見つけ,「楽譜を読み,記憶する脳」という章に惹かれた.テクニックもあり音楽を理解し感受する能力も持っているのに暗譜でつまずいている生徒がおり,指導のヒントになればとの思いもあって購入.どこの書店でも平積みされている注目の書らしい.

以前から,ピアノを弾くという行為には脳からの雑多な情報をいかにうまく整理して手指に命令するか,というある種の情報処理能力の差が少なからず関係していると考えていたが,それが実験で立証されていることがわかりやすく説明されている.また,自分にとって自然と感じる身体の使い方も人間工学的に妥当であることがわかった.

特に興味深かったのは,音楽のさまざまな要素を認識する際に働く脳の部位がそれぞれ異なっていること.その中でも,和声の認識は言語の文法を処理する部位(ブローカ野)が関与している,ということ.和声は音楽の文法を司る重要な要素.和声(フレーズ)を正しく把握することで,音楽に句読点が生まれるのだ.それを司る脳部位が同じとは!

欲を言えば,脳と身体の関係の中に「耳」がどう関わってくるのか,次はその部分を「科学して」もらいたい.


hikarifmhikarifm at 12:23│コメント(0)トラックバック(0)