先日、大分の立命館アジア太平洋大学(APU)にて、「キャリア・プランニング・ウイーク」のひとつとして、表題の講演をハイアールの伊藤社長と一緒に行ってきたので、その内容をアップしておきます。






















APUは、初めて訪れましたが、大分市内を見下ろす高台に広大なキャンパスがあり、留学生が学生の半分(しかも、中国・韓国はもちろんのこと、ベトナムやウズベキスタンといった国からも100人以上の留学生)という、想像以上にインターナショナルな環境の学校でした。






















学長はじめ、幹部の皆様にもご挨拶をさせて頂く事ができました。この講演は私と伊藤さんそれぞれの会社の承認を取りながら、GAISHIKE LEADERSの活動の一環として行われたものでもあります。同じ内容を私が日本語(主に日本人学生向け)で、伊藤社長が英語(主に留学生向け)で行ったのですが、ここでは日本語版の内容を共有します。

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なぜグローバルキャリアなのか?

 「グローバルキャリア」の定義は、「日本や日本企業だけではなく、世界で通用するようなスキルや経験を獲得できるようなキャリアを積むこと」です。今、日本の若者に対して「グローバルキャリアを目指すべき」と考える、3つの理由があります。






















まず第1の理由は、今後、世界の中で、日本市場の存在感が圧倒的に低下していくという事実です。世界のGDPに日本市場が占める占有率は、1990年には15%あり、日本はアメリカに次いで世界第2位の経済大国でした。ところが2013年にはこの占有率は7%まで低下しており、2040年には3%程度まで低下すると予測されています。低下の比率やスピードには諸説ありますが、日本市場の規模としての存在感が、世界の中で低下していくことは間違いありません。これは、日本市場・日本企業だけで通用するキャリアを歩むと、1990年には世界の15%で勝負できたものが、2040年には世界の3%でしか通用しないということを意味しています。

実際、世界に占める日本企業の存在感も、残念ながら低下しています。2005年には81社の日本企業が「フォーチュン500社」にランキングされていたのに、2011年には68社に減っています。日本企業がグローバルで元気が無い大きな理由は、グローバルキャリアを積んだリーダーが、日本企業の中で育っていないことです。実に、7割以上の日本企業が、「グローバルリーダー(グローバルな異動の対象となり、世界の各地域や本社の経営を担う人材)の育成がうまく進んでいない」という認識を持っています。「現地人材の幹部への登用がうまく進んでいない」(約7割)こともあり、日本企業は世界で戦っていくための人材不足、というわけです。

今後、日本や日本企業でだけ通用するキャリアを積んでも、ビジネスで成長・活躍する機会は限定的であり、日本企業のグローバルでの活躍にも貢献できない、ということがわかります。

 




















グローバルキャリアを目指すべき第2の理由は、ビジネスに加えて、情報や人材が国境を越えてグローバル化していることです。ビジネスのグローバル化は既知のことと思います。いわゆるメガシティ(人口1000万人以上の都市圏)は、2010年時点ではほぼ北米・ヨーロッパそして東アジアやインドに固まっていますが、今後は南米も含め、世界中で誕生していきます。ビジネスのチャンスが世界に広がっていくことを意味しています。

またインターネットにより、世界の情報格差が無くなったというのは一面で真実ですが、情報格差が更に開いた、というのも真実です。というのは、2013年時点で、インターネット上で使われている言語の半分以上は英語と中国語であり、日本語は4%に過ぎません。これは、日本語しかわからなければ、インターネット上の情報の4%しか理解できないことを意味します。英語と中国語がわかればインターネット上の半分以上の情報を理解できるのと比較すれば、大きな格差であることは一目瞭然です。 

加えて、国境を越えた人材獲得競争、特に熟練(高度な)労働者の、グローバルでの移動も、既に始まっています。グローバル企業が、世界で勝っていくために世界中の優秀な人材を獲得しようという「War for Talent」という動きは、もう何年も前から始まっていますし、国を超えた異動を伴うようなヘッドハントも今では珍しくありません。
 
つまり、語学も含めて、世界を舞台にした活躍ができるようなキャリアや経験を積めば、大きな活躍の機会が待っているわけです。余談ですが、残念ながら日本の一般的な大学生は、英語が使えない(一流大学を出て英語が話せないのは、日本くらい)、給与レベルが他国と比較して高い、グローバルのキャリア形成や仕事に対してアグレッシブでない、という点で、採用側の企業からの評価は決して高くありません。






















グローバルキャリアを目指すべき第3の理由は、「想定外」なことが起こるのが「普通」の時代になったからです。2010年の欧州通貨危機、2011年の東日本大震災やアラブの春、2012年にアメリカを襲った大型タイフーンのサンディ、中国での反日デモ等、想定もしてなかった大事件が毎年、世界のどこかで起こっています。2014年にも、政治的に安定していると信じられていたタイや香港でデモが起き、都市機能が麻痺したりしました。

今の時代、いつ何が起きるかわかりません。どんな大企業に入っても、ある日突然にリストラされるかもしれません。何かあった時に路頭に迷わないためにも、会社や社会に頼ること無く、世界のどこでも通用するようなキャリアを、自分自身の責任で構築していかなくてはなりません。

ここまでご説明した3つ理由は、世界の「メガ・トレンド」とも言うべき、誰もが絶対逆らえない時代の流れです。ここまで将来が明確に推測できる中で、グローバルキャリアを目指さない理由がありません。

外資と日本企業の違い 〜 グローバルキャリアを積む選択肢としての外資

そもそも、「外資系企業」とはなんでしょうか?一般的に想起されるのは、アマゾン・グーグル・コカコーラ・P&G等の米国系、アクサ・ネッスル・メルセデス・ロレアル等の欧州系、最近ではレノボやハイアール等の中国系、サムソンやLINE等の韓国系等の企業でしょう。

しかし実は、エスエス製薬や西友(親会社がそれぞれ、ベーリンガー・インゲルハイムとウォルマート)、ソニーやオリックス(株主の過半数が外国人)等も、厳密には「外資系企業」の分類に入ります。一般的には、外資系企業の定義は、資本の大半(3〜5割以上)が外国資本であることです。

ただ、日本企業と同様、外資系企業と言っても千差万別なので、ここでは比較のための一般論として、「外資系企業」の定義を、本社の価値観や働き方をそのまま踏襲することの多い、「100%外国資本の日本法人」または「外国企業の日本支社」の、米国系のメーカーとし、「日本企業」はいわゆる大手メーカーとすることにします。

 



















 
1)言語

外資系と日本企業との大きな違いは、社内の共通言語が英語であることです。英語ができないと、ビジネスのスタートラインにも立てません。この点で、英語が苦手な方の場合は、英語が堪能な方と比較して、キャリアの最初から大きなハンディキャップがあります。しかし一方で、英語ができれば日本以外の国への赴任も含め、キャリアの可能性が大きく広がります。

ただ、日本の外資系で働く場合、日本語で行う仕事が多いのが現実です。なので、本当に重要なのは、日本人に対してはきちんと日本語で日本的なコミュニケーションができて、外国人に対しては英語でコミュニケーションができるという、柔軟性です。また、外資系といっても、企業や職種によっては全く英語を使わない場合もあるので、注意が必要です。

2)報酬(福利厚生)

一般的に、外資系の報酬レベルは日本企業と比較して格段に高いです。その差は、若手で1.2から2倍程度、経営層になれば2〜3倍もの違いがあります。ちなみに外資系である日産の社長(カルロス・ゴーン氏)の年間報酬は約10億円ですが、トヨタの社長は約2.3億円、ホンダの社長は1.5億円です。

この差は、外資系の社員の方が優秀だからというわけでは全くありません。高いには、高いなりの理由があります。まず、日本においては外資系で働きたいという人が決して多くないこともあり、需要に対して供給が少ないことがあります。また、組織的に余裕な人員をもたない外資では、経営層はもちろん、一般社員でも多忙を極める場合が多いです。定時に帰れるなんて誰も期待してませんし、夜中に自宅から海外と電話会議、というのも普通です。また、外資系では報酬が高い分、日本企業では一般的な「手当」や「社宅」等はほとんど無く、福利厚生面では日本企業に大きく見劣りする場合が多いです。

ただ、外資系と日本企業で報酬が大きく違う一番大きな理由は、報酬に対する根本的思想が違うことです。日本企業は長期の在籍を前提にしているので、若いうちは忙しくて報酬も安く、社歴が長くなると給与も高いレベルで安定する、という「年功序列」的な要素があります。手厚い退職金制度などはその典型です。ところが外資は長期の在籍を前提としないので、その人のその時点での働きに応じた報酬を支払うという考え方です。退職金制度が無い会社もあります。なので、同じ業種の同年次の方を比較した場合、外資系の方が日本企業より給与水準は高くなる場合が多いのです。

 





















3)評価(昇格・昇級・雇用)

年次評価はどの企業でもありますが、外資系での評価(および、その結果に応じた昇格や昇級)には、日本企業と比較して、いくつかの特徴があります。

まず、プロセスより結果の比重が高いことです。日本企業の場合、明確な個人の数値目標を持たない社員がいても不思議ではないですが、外資系の場合はほぼ必ずと言ってよい程、個人の数値目標が明確です。そのため、日本企業と比較すると、評価の中で結果の比重が高くなる傾向があります。

評価の優劣が明確につくことも外資系の特徴です。5段階評価の中で、日本企業では「普通」を表す「3」の評価が社員の7割いることもありますが、外資系の場合、「3」はせいぜい4割程度で、残り6割は「5」「4」または「2」「1」であり、評価に差がつきます。これは日本企業の評価が「仕事をきちんとしたか、しなかったか」という絶対評価の要素が多いのに対し、外資系の評価が同レベルの社員の中での相対評価の要素が多いことも理由です。

年齢・社歴・性別・国籍など、仕事の優劣に関係無い要素で評価が左右されないことも、外資系の特徴です。日本企業も最近はダイバーシティとかコンプライアンス等を重視していることもあり、このような要素で明らかな差がつくことは少なくなりましたが、未だに、日本人(または本社からの出向者)や長い社歴の社員を明らかに制度上で優遇している企業もあります。

最後に、日本企業では評価は「誰かがしてくれて、受け入れるもの」ですが、外資系では評価は「自分で主張して、勝ち取るもの」です。外資系では、社内での評価を競っているのは同じオフィスの日本人社員だけでなく、海外にいる会ったことも無い社員です。アメリカ系、中国系、インド系等の社員の自己主張の強さは半端ありません。彼らに負けないような強烈さで、自らの成果や評価を主張しなければ、良い評価を「勝ち取る」ことはできません。

さて、日本企業ではそもそも評価で差がつきにくいので、リストラなどは業績不振の時くらいしかありませんが、外資系では評価が悪い社員に対しては、通常の年次サイクルとして退職勧告が出されるのが普通です。また外資系の場合、個人がどんなに素晴らしい働きをしていようとも、本社の業績不振や戦略変更のために運悪く日本支社が撤退・閉鎖・縮小等になり、社員が職を失う場合も多くあります。このあたりの要素が、外資系が「厳しい」とか「安定していない」と言われる理由です。

 





















4)社風

外資系では、外国人が多いこともあり、外国人はファーストネーム、日本人でもニックネームなどで呼び合う場合があります。また、完全に私服・カジュアルをOKとしている会社も多いため、とてもカジュアルでフラットな社風に見えます。また、外国人が長期休暇を取るのが普通であり、日本でも有給休暇の消化を会社として促進している会社も多く、日本人でも1週間単位の休みを普通にとることもできます。加えて、能力を認められれば、年齢や社歴に関わらず、プロジェクト責任者など、大きな仕事を任されることもあります。

ただ、仕事の評価が高くないのに、権利としての有給休暇を主張したりすると、評価が極端に下がります。あくまでも、義務としての仕事をきちんとした上での休暇、というわけです。また、若い頃から大きな仕事をいきなり任されて、その責任感で精神的に潰れてしまう方もいます。外資系では、どんなに若くても、仕事も体調もストレスも自分で管理できる、強い「個人」であることが前提です。

また、日本企業では飲み会や社外活動を通じて「家族的な付き合い」を奨励することもありますが、外資系では就業時間以外は自分の勉強やボランティア等の「ダブルキャリア」に使う方も多く、仕事の後の飲み会などは少ないのが普通です。海外で勤務すればわかりますが、欧米では公共交通網の発達した大都市以外は自動車通勤が一般的なので、仕事のあとに「ちょっと飲みにいく」ことは基本的にできません。また、日本企業は上司と部下の強い個人的なつながりを奨励しますが、外資系によっては、「(情が移って、厳しい評価をしにくくなるので)直属の部下とは必要以上に仲良くならない」ことを推奨する会社もあります。

 





















5)経験

外資系でできる経験というのは、日本にいながら、グローバルな環境で働ける、ということに尽きます。社内に外国人がいるのも、仕事上での海外とのやりとりも、普通です。社内研修などはシンガポールや上海等で、自分と同じレベルの社員が各国から集合して受講する、日本人は自分だけ、という環境も普通です。また、どこかの国の特殊なやり方ではなく、いろんな国で有効と証明されている「グローバル」な仕組みや働き方を学べるという利点もあります。

ただ、外資系が全て素晴らしい企業というわけではありません。日本でのシステムは全く整っていない会社もありますし、日本企業や日本社会で「あぶれた」方が集まっているような会社もあります。外資系に買収された日本企業や、日本での歴史が長い大手販売系の外資系企業などには、見た目は外資系でも、中身は完全に日本企業という場合もあります。このような企業では、グローバルな環境で働くことなど、望むべくもありません。






















まとめ 

これから社会人になろうとされている学生さん、または社会人になりたての方ならば、今後のキャリアを積んでいく上で、日本・日本企業だけで通用するキャリアの限界、将来のキャリア展開の可能性を考えたら、グローバルキャリアを目指さない理由がありません。グローバルキャリアの先には、世界を舞台にした無限のチャンスがあります。そのキャリアを作るのは、他の誰かではない自分自身です。

そのグローバルキャリアを目指す上で、日本にいながらグローバルな環境で仕事をできる外資系というのは、将来の選択肢として検討する価値があります。もちろん、そのような経験を積めるような外資系を、きちんと選ばなくてはなりませんし、日本をベースにする方にとっては、日本人と日本の価値観の中でもきちんと働けるようになるという意味で、日本企業での経験も有効です。

皆さんが、日本人としての強い自覚とアイデンティティーを持ちながら、外資系等でグローバルキャリアを積んで、将来、日本および日本企業のグローバルでの競争力の向上に貢献して頂けることを願ってやみません。

(2014年11月10日に、立命館アジア太平洋大学/APUで行われた講演内容を、加筆修正。当日使用された資料の日本語版のリンクは以下。)

 2014.11 なぜグローバルキャリアなのか?version 7.pdf

また、当日の講演の様子のビデオ(私の日本語版と、伊藤さんの英語版)がアップされたので、そちらへのリンクも貼っておきます。