
あまりにも世俗にまみれて自分の感性がひどく汚れてしまったように感じる時、ぼくは一人ピアノに向かって、ショパンの「エチュード 遺作 第3番 変イ長調」(これは知られざる名曲です。)を弾きます。
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ぼくが小さい頃、祖父、岡田照馬のはじめた、高松市瓦町の、今、アイゼンパチンコ店のところにあった、実家の「丸天旅館」のロビーには、毎年広いお庭にあったヒマラヤ杉を抜いてきて、鉢植えにし、天井に届くくらいのこのヒマラヤ杉に一杯のクリスマスデコレーションを飾っていました。このデコレーションに飾っていた綿雪の間から、見える鈴に、クリスマスデコレーションに欠かせない電気(これは、ヒマラヤ杉が大きかったので5本もつけていました。)による明かりがついたり消えたりしいたこと、そして、ボーッと霞んでいたことを、この作品をピアノで弾くことによって思い出せる、ぼくにとっては素晴らしい作品なのです。
この作品は、ショパンの最も好きだった、変イ長調で書かれています。和声進行から言って、晩年の作品であることは間違いないとぼくは思っています。また、遺作と言えども、エチュード(練習曲)ということだったので、テンポ設定はアレグレットになっています。しかし、ぼくは、絶対にアンダンテで弾き、一つ一つの和音の響きにこだわっています。この素晴らしい和声進行とノスタルジックなクロスリズムに接する度に、ショパンはピアノが好きで好きでたまらなかったことを再確認するとともに、ぼく自身は、あのクリスマスイブの楽しかった幼かった頃の思い出に浸ることが出来るので、演奏後失語症になってしまいます。それだけに、コンサートなど人前で演奏することは絶対にありません。一人ピアノに向かって、弾きたい時に演奏することにしています。
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ショパンのエチュード集をお持ちの方は、この最後にその作品が掲載になっていますので、スコアはそちらでご覧下さい。私の申し上げたテンポ設定で弾いてみて、ショパンのピアノへの愛情を是非、ご確認下されば幸いです。
それから、この作品演奏のベストは、ぼく自身だと、自負しています(笑)。
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ピアノ演奏を始める時期ですが、ぼくがこれまでの52年の人生で出会った、アマチュアピアニストの演奏開始最高齢者は、高松の某自動車ディーラー会社の社長をしているN君でした。
彼は、ピアノを38歳の時にはじめ、異常な集中練習と努力で、40歳で、ショパンのエチュードとベートヴェンの「月光ソナタ」全楽章を見事に弾ききりましたので、3歳からピアノをやって来たぼくは腰を抜かしました。
それまでにも、東京、大阪で、晩学のアマチュアピアニストと何人か出会っていましたが、それでも、30歳代前半がリミットだと思っていたので、ぼくはビックリ仰天したのです。
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N君の話によると、演奏したい曲を決めてから、一年に一曲というゆっくりしたペースで集中してやった方がよいそうです。彼の言い分はこうなんです。
「ぼくが、あと40年生きるとしたら、40曲を確実なレパートリーに出来るから、素晴らしい夢を持って生きていけるんだよ。」
ぼくは、チャラチャラといっぱいレパートリーを増やしてきた自分が恥ずかしくなりました。だって、一曲一曲に込められる切実さは、レパートリーが少ない方が強いに決まっていますからね。
また、彼が、ピアノを始めた動機が実にいいんだな。
大変に苦労して会社を立ち上げた創業社長のお父様が脳梗塞で倒れたためなのです。で、優しい彼は、お父様にもしものことがあったら、その告別式では、絶対に、自分の大好きな、ショパンのエチュードOP.10-3(別れの曲)を演奏してあげたいと思ったからなんだそうです。
その後、お父様は回復されましたけど、優しい彼は勤務していた「東京海上火災」を辞めて高松にUターンして、跡をとって社長になりました。
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時々、彼から電話があります。来年は何を演奏すべきか曲目の相談と、晩学なので指が吊った時の対処(これは、ハリ治療で簡単に直せます。)なのです。
そして、5年前、彼は、ぼくが奨めたショパンの「幻想即興曲」を一年がかりでクロスリズムの難所を克服して見事に仕上げました。テンポはゆっくりだけど素晴らしい演奏でした。
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やはり、音楽に一番大切なことは、人間への深い愛だと思います。
作曲や演奏においては、その愛は、聴いてくれる人達へ向けられていますが、同時に、楽器を演奏していたら、自分にも向けられるんですよね。
だから、音楽好き、といっても、やはり、楽器を演奏すべきなのです。
次の、ヘルマン=ヘッセが名著「ガラス玉演戯」で言っているとおりなのです。
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「音楽はあらゆる世紀を通じてまず第一に感覚的なものや息の流出や拍子や色どりや摩擦や刺激を喜ぶことから成立した。・・・・・確かに精神が主要なものである。・・・・・しかし、この外面的感覚的特徴を感覚的に強烈にとらえ味わうのでなければ、時代と様式とをそれから理解することはできない。音楽をするのは手と指と口と肺とでもってするのであって脳だけではない。なるほど譜は読めるが楽器は一つも完全に奏でることが出来ないというようものは、ともに音楽を語る資格がない。」
(ヘルマン=ヘッセ「ガラス玉演戯」・若きヨーゼフ・クネヒトの言葉)
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それと、あともう一点付け加えておきたいのですが、住宅環境のせいでグランドピアノがなくても、鍵盤の数が88鍵さえあれば、アップライトでも電気ピアノでも、ショパン「エチュード 遺作 第3番 変イ長調」の演奏に、全く支障はありません。
ショパンは楽器を超越した天才作曲家ですので、全く、OKですので、安心して、取り組んで下さいね。
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ピアノって楽器は本来、ロマンティックなものですから、一人ピアノに向かって、燃えて弾きたい時に演奏するという楽しさも是非、皆様には体験していただきたいと共に、ピアノを生涯の友として取り組んでいただければ、と思い、今回は執筆掲載しました。
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