(小山鉄郎 共同通信社)

白川静さんによると漢字の聖典といわれる「説文解字」も、例えば「告」(旧字は牛に口)という文字について、こんな説明をしています。
「牛が人に何かを訴えようとするとき、口をすり寄せてくる」という形をした文字だというのです。白川静さんは、こういう解釈は「俗説」にすぎないと断言しました。


この口が「くち」ではなくて、神への祝詞を入れる箱である「サイ」(アルファベットのAの頭を丸くして逆様にしたような字)であることを、体系的に明らかにしてみせた「白川漢字学」の世界では、これが、

「告」の古代文字を見ると、木の小枝に祝祷を納める器である「サイ」を懸けている形です。つまり「告」とは、祝祷の器を小枝に懸けて、神に訴え告げることをあらわした文字です。
ということになるからである。

「白川静さんに学ぶ」という副題の付いたこの本は、「なぜ、学校ではこんなふうに教えてくれなかったのだろう」と後悔してしまう(しかも、膨大な著作を残した白川静さんは、昨年10月に96歳で亡くなられてしまったのだ)ほど、漢字の成り立ちや体系を、楽しく学ぶことのできる好著である。

その「サワリ」を、ここに少しだけご紹介しておこう。

「哀」という字は、「衣」という「襟元を合わせた衣の形」の中に「口」が入っている。この「口」が「くち」ではなくて「サイ」なのである。

死者の衣の襟元の胸のところに「サイ」を置いて、死者への哀告の儀礼を行うというのが「哀」なのである。

「還」という字の「シンニョウ」の中には、「哀」の上に「目」を横倒しにしたものが乗っかっているように見える。ところが古代文字を見ると、ここにある「口」は「サイ」ではなく「○」である。

死者の衣の襟元の胸に死者の霊力を盛んにする「○(玉)」を置き、その上に人間の生命力の象徴である「目」をかいて、死者が生き返ることを願う、それに「行く」という意味を表す「シンニョウ」が付いて、生還することを意味するのが「還」なのだ。

「遠」という字は、「還」の「目」の代わりに「土」が乗っかっている。古代文字を見ると、これは「止」つまり「足跡」の形であることがわかる。(交差点の一時停止のマークですね。)

死者の枕辺に「止(履き物)」を置き、衣の襟元の胸に玉を置いて、死者を送り出す、それに「シンニョウ」が付いて、死者が遠くに行ってしまうことを意味するのが「遠」なのだ。

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