(連城三紀彦 角川春樹事務所)

「いいえ。お母さんと一緒なんでしょう?だってさっきお母さんが車で迎えに来て連れて行かれたじゃないですか。お祖母ちゃんが蜂に刺されて危篤状態だからって」

一人息子の圭太が「スズメバチに刺された」という連絡を受けた香奈子は、急ぎ病院に向かう車の中で、ふと不審に思い幼稚園に問い合わせるのだが、

返ってきた答えは、まるっきり正反対の事実で、しかも担任の先生は「迎えに来たのは、確かにあなただった」と言い張るのだった。

「そちらがお金を払いたいと言うなら別だよ。いや、払いたいんじゃなくて・・・こう、言い直そう。そちらがお金をくれると言うなら別だ」

と、なかなか素直に「お金」を要求しようとしない誘拐犯が、ようやく指定した「身代金」の受け渡し方法は、

「昼の十二時半に、渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で」という突拍子もないものになったのだが、

散々、犯人に翻弄された末に、それでも無事に戻ってきた圭太の口から、香奈子は衝撃の事実を聞くことになる。

(ここからはネタばれになるので、しばらく文字を白くしておきます。)

「あるよ、ミノシロキンなら」
そう言って、圭太はベッドから跳び下り、窓辺の椅子に駆け寄ると、リュックサックを二つの小さな手でつかみとった。
次の瞬間、信じられないことが起こった。
「おかあさん、この人がユーカイハン?」


とおそるおそる担当の警部に差し出した圭太は「誘拐されたのはお母さんの方だ」と犯人から聞かされていたのだった。


『変調二人羽織』や『戻り川心中』で、世のミステリーファンをうならせた連城三紀彦が、久々に真骨頂を見せてくれたともいうべきこの作品は、

ここまででようやく物語の3分の1にすぎず、実は、ここからようやく始まるのだといってもいいくらいなのである。

「女王蜂」たる誘拐犯のために、「働き蜂」としての役回りを演じさせられることになった男の、

「表の誘拐劇」の「謎とき」ともいうべき回想と、その後の逃避行が描かれていく後半部分は、

やがて想像もしなかった結末に向かって、大団円を遂げることになるのである。

「さっき『重要な役』と言ったが、君は彼女が君にどんな役を与えたか、わかっているね」
彼の肩をもみ続けながら、警部は優しい声で訊いてきた。ただの優しい声ではない。裏に何かを隠した優しすぎる声だった。
彼は何も答えず、肩にのしかかってくる警部の手を冷たく払いのけた。
警部は彼の横側に回り、立ったまま上半身を大きく曲げ、彼の顔を覗きこんできた。
「今やっとわかったのかな・・・それとも夕方、高崎駅のホームにたった時にわかったのかな」


惜しむらくは、「ここで終わってほしかった。」というのが、暇人の率直な感想である。

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