(Jヒル 小学館文庫)

いっしょにいるときは、たいてい話をしていたから――彼の体の状態からして、荒っぽい遊びは問題外だった――死というテーマと、死後どうなるのかが一度ならず話題になった。アーサーは、自分が生きてハイスクールを卒業できればラッキーだと知っていたんだろう。おれと出会った時点ですでに十二回、つまり彼の人生の一年につき一回の割で、もうちょっとで死ぬような目に遭っていた。あの世の存在は――あるいは、あの世が存在しないかもしれないという可能性は――つねに彼の頭の中にあった。(『ポップ・アート』)

この短編小説集がデビュー作であるにもかかわらず、並みいる評論家たちの激賞を浴び、ブラム・ストーカー賞、英国文学大賞、国際ホラー作家協会賞を総なめしてしまった、

「驚異の新人」ジョー・ヒルが、たとえ本人は極力伏せようとしてみたところで、あの現代ホラーの第一人者スティーヴン・キングの次男坊であることは、まぎれもない事実なのであるから、

たとえば、

ホラー傑作選の選者であるエディは、大学の文芸誌に収められた「ボタンボーイ」という作品に衝撃を受け、ようやく探しだした謎の作者キルルーの自宅を訪ねるのだが、そこにはどこか不穏な雰囲気を漂わせる奇妙な兄弟が待ち受けていた。(『年間ホラー傑作選』)

ある朝突然、巨大な昆虫に変身してしまったフランシスは、自分を殺そうとした父親を誤って殺害してしまうが、その臓物をバリバリとたいらげたいという本能を、もはや抑えることができない自分に気付くのだった。(『蝗の歌をきくがよい』)

変質者に誘拐されてしまった少年フィニィが、閉じこめられた地下室の壁には、線が切られた黒い旧式の電話がかけられていた。みんなと同じように自分も死ぬのだと、希望を失いかけていたある日、つながるはずのない電話機に、誰かから電話がかかってきて・・・(『黒電話』)

死体のように痩せこけ、身長は二メートルを軽く越えているうえ、こめかみは影ができるほど窪んでいる、アリンジャーがガイドをつとめるのは、亡くなった著名人の「末期の吐息」を展示する「静寂の博物館」だった。興味を示す息子を残し、母親は早く帰りたいと飛び出して・・・(『末期の吐息』)

精神に疾患を抱える弟のモリスは、大量の段ボールの箱を使って、地下室に精密な要塞を築き上げる。ある日、兄ノーランの親友エディが、制止を振り切ってその中に迷い込む。それは兄から悪友を「離れさせる」ためのモリスの企みだった。(『自発的入院』)

などなど、

文庫本700ページに収められた17編の短編のどれもが、身も凍りつくほどのホラーや、思わずにやりとさせられるようなブラック・ユーモアに満ち溢れた、極上の作品群であることは間違いないのではあるが・・・

もはや取り戻すことのできない青春時代の、はかない友情を描いた『ポップ・アート』に流れている、

この心優しい哀切さに、溢れる涙を押しとどめることができなくなってしまったのはどうしたわけだろう。

なにしろ、意思を伝え合い、議論を交わし、たがいを貶し合ったり褒め合ったりした、おれの一番の親友アーサー・ロスは、

何も話すことができず、メモ帳を吊した紐を首にかけ、ポケットにクレヨンを入れて、発言したいときは紙に書くという、

「空気で膨らませる人形だった」のだから。

もうたくさんだよ。まじめな話――もう限界だ。一日に十五、六回も空気が抜ける。ほとんど一時間に一回の割合でだれかに空気を入れてもらわなきゃいけない。しじゅう気分が悪くてうんざりする。こんなの、生きてるうちに入らない。

「やめろよ」視界がぼやけた。涙があふれ、目からこぼれ落ちた。「そのうちよくなるよ」

いや。そうは思わない。死ぬかどうかの問題じゃない。どこで死ぬかが問題なんだ。とうとう決めたよ。どこまで高く昇れるかためしてみる。ほんとかどうかたしかめたいんだ。空のてっぺんが開くかどうか。

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