(田村美葉 企画・編集 自費出版)

新しいタカハシと古いタカハシがあらわれて、どちらか選べと迫ったので、アタシは迷わず新しいタカハシの手をとって、さあゆこう世界は始まったばかりだとスキップを開始した。
(『新しいタカハシ』 田村美葉)


「女の子がエスカレーターをのぼっていくところで終わるオリジナルの小説を募集します」

という、ネット上からの<奇怪な呼びかけ>に応えて集まった42編もの作品の中から、

これは、冒頭の編者自身の作も加えて、厳選された7編の短編が掲載された、わずか100ページの小冊子なのだが、

ここに掲載されたどの作品を読んでみても、

なるほど近頃の若者たちは誰だって、「朝井リョウ」や「湊かなえ」程度の物語なら、今すぐにでも書き上げて見せるだけの素質はある。

と、「少なくとも自分では思っているんだろうな。」なんて、いささかひねくれた感想を抱いてしまったのは、

奇を衒って<短歌>で応募した暇人の<自信作>が、見事に落選の憂き目を見たことによる、悔やしまぎれというわけだけでもない。

なにしろ、世界に一つだけのエスカレーター専門サイト「東京エスカレーター」を主宰し、世界に一人だけの「エスカレーター・ソムリエ」を自称するこの編者は、

「なんやここのエスカレーター、ちょっと暗ないですのん、ホテルなんやしもっとぱーっといっとかんと」「ほうかて地下やさかい、しゃあないんとちゃいますん」
・・・と言ったかどうかはしらない。
(――ホテル日航大阪)


と、バリバリの「東京・ガール」であるにもかかわらず、突如大阪に出没して、無敵の「大阪のおばちゃん」になりおおせることなどほんの序の口で、

「お客さん、お客さん、どうですご覧くださいよ、うちの店は他とはちょっと違いますよ。なんと言ったって、階段が、勝手に動いてお客様を二階へとご案内するんですよ。おい、ちょっとお前、電源入れろ」・・・
「パパ、パパ。行ってみる?」「やめときなさい」
(――マラケシュの土産物店)


と、はるかモロッコの涯まで飛んで行って、怪しげな「土産物屋の親父」になることさえ、厭わないのである。

「このエスカレーターは、どこにつながっているのですか」
「あなたが一番行きたいところに」
「なるほど、だからこんなに長くて、先が見えないのですね」
(――東京芸術劇場)


「世界には、これほどに多様な女の子と、多様なエスカレーターが存在する。」

と、編者が本当に世界中を駆け巡って撮影したものから、厳選に厳選を重ねて収録したという48基の、息をのむほどに美しい写真と、

それに捧げられた、「エスカレーターへの愛」に満ち溢れ、練りに練られ趣向を凝らされたキャプションたち。

こちらの方が、数多の投稿作品なんかより断然、群を抜いて光っていると感じてしまったのは、

もちろん、この「麗しの東京エスカレーターガール」が暇人の<愛娘>であるという歴然たる事実とは、まったく無関係である。

アタシは連絡橋につづくエスカレーターに乗りこんでうしろを振り返る。新しいタカハシがまぶしい眼をして見上げる。世界が上昇を始める。
(『新しいタカハシ』 田村美葉)


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