(高山文彦 新潮社)

「結婚の自由が認められれば、差別はなくなる」

という理想を高く掲げながら、己には「酒」「煙草」「博打」「ネクタイ」に「妻帯」も加えた「五禁」を課して、

戦前戦後の水平運動を率いた「部落解放の父」松本治一郎の生涯。

大宅壮一ノンフィクション賞に輝いた前作『火花』において、ハンセン氏病に苦しんだ北条民雄の生涯を鮮烈に削りだした著者が選んだのは、

もう一つ別の「差別」との戦いの物語であった。

700ページ超の大著の前半7割を占めている戦前の記録では、当初は明治天皇の権威にすがって差別撤廃を訴えていた水平社が、

やがて共産主義によって活動の性格を変容させ、さらには戦時中の大政翼賛運動に収斂していくという大きなうねりの中にあっても、

権力におもねることなく、擦り寄ろうともせず、「あらゆる差別の撤廃」という一段高い視点から、決してぶれることのない治一郎の姿勢が、存在感をましながらも、

融通の利かない厄介者として、浮き上がってもいく過程が描かれている。

「人間が人間を拝むようなまねは、僕にはできんよ」

戦後、参議院議員となり、副議長にまで登りつめた治一郎は、慣例となっていた天皇への拝謁を拒絶する。

平民の上に華族があり、下に部落民がある時代は終わった。

平民の左に「新平民」がいるのなら、右にいることになる旧華族は新「新平民」であるはずだ.

というのが「水平運動」なのであれば、

部落民と天皇は、同じ立場の両極端なあり方なのであろう。

解放運動を経済的に支援し続けながら(その資金源となる「松本組」というゼネコンの存在や、軽く触れられている利権の構造についての突っ込みが不足しているのは仕方がないことなのだろうが・・・)

中国やインドなど、アジアに視点を拡げていく、後半部分にきて、

治一郎に課せられたくびきがほどけていくと同時に、ようやく読書のスピードも上がっていったような気がした。

(2005年9月)

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