(竹本健治 講談社)
のっぺらぼうに 雪女 のつへらほうに ゆきおんな
鵺や化猫 鎌鼬 ぬえやはけねこ かまいたち
おとろしも居て 群れ歩く おとろしもゐて むれありく
酔ひ醒め忘る 身ぞ伏せよ ゑひさめわする みそふせよ
と、妖怪づくしを七五調に織り込んだこの詩のようなものは、48個の「かな文字」を一字ずつ、すべて使用して作った「いろは歌」というものなのだが、
驚くべきことに、「子」から「亥」まで十二支の名が付けられた、地下室のすべての個室の4面の壁には、頭の文字が全て違う48首の「いろは歌」が展示されていた。
そんな酔狂な「隠れ家」を遺していったのは、『萬朝報』を創刊して明治のジャーナリズム界を牽引した巨魁・黒岩涙香(実在の人物)で、
松桐坊主 櫻笑む まつきりはうす さくらゑむ
雨添へ得ぬを 追分と あめそへえぬを おひわけと
揺れぬ牡丹に 紅葉来よ ゆれぬほたんに もみちこよ
猪鹿蝶や 色なせる ゐのしかてふや いろなせる
と、花札の五光に猪鹿蝶や青丹まで詠みこんでみせたり、
珠聯ね居て 知恵ぞ選る たまつらねゐて ちゑそえる
五聯を目指し 延び含み これんをめさし のひふくみ
行け豈無理と 追へばよも ゆけあにむりと おへはよも
顔色失せぬ 易き罠 かほいろうせぬ やすきわな
と、ノビやフクミやオウという連珠用語を駆使したりと、
様々な「遊芸」にのめりこんでプロ並みの域に到達したばかりでなく、乱歩にも影響を与えた一流の探偵小説家でもあった涙香なのであれば、
これらの「いろは歌」には、何らかの暗号のようなものが仕組まれているに違いないのである。
というわけで、この封印されてきた「謎」の解明に取り組むことになったのが、皆さまご存じ(暇人は知らなかったが、これはシリーズ物なのだ)史上最年少の大三冠棋士・牧場智久で、
石音へ即 二段バネ いしおとへそく にたんはね
荒らせ貪れ キリチガヒ あらせむさほれ きりちかひ
悩み増すゆゑ 目も虚ろ なやみますゆゑ めもうつろ
和を得で更けぬ 囲碁の夜 わをえてふけぬ ゐこのよる
なんて「いろは歌」を、自分でもいとも簡単に作ってしまうほどの天才(なんとIQ208!)ゆえに、恋人の美少女剣士・武藤頼子の絶妙のアシストもあって、スラスラと暗号を解いてしまうことになる。
もちろん、これは実際には涙香が作ったのではなくて、作者が作ったものなのだから、自分で作ったものを自分で解けるのは当然というべきなのだし、
むしろ、49首目の「いろは歌」が最初にできて、それに合わせて残りの48首を後付けで作り上げたと思われるのだが、
この49首目の暗号が出色のできで、解いた智久より、作った涙香(いや、作者)に座布団3枚なのである。
ちなみに、物語の本筋の方は、ちゃんと殺人事件が起こったりして、犯人探しのミステリー仕立てなのではあるが、まあ、こちらの方はあまり気にしなくていいです。
本日もお読みいただいた皆様どうも有り難うございました。
今後も読んであげようと思っていただけましたなら、
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のっぺらぼうに 雪女 のつへらほうに ゆきおんな
鵺や化猫 鎌鼬 ぬえやはけねこ かまいたち
おとろしも居て 群れ歩く おとろしもゐて むれありく
酔ひ醒め忘る 身ぞ伏せよ ゑひさめわする みそふせよ
と、妖怪づくしを七五調に織り込んだこの詩のようなものは、48個の「かな文字」を一字ずつ、すべて使用して作った「いろは歌」というものなのだが、
驚くべきことに、「子」から「亥」まで十二支の名が付けられた、地下室のすべての個室の4面の壁には、頭の文字が全て違う48首の「いろは歌」が展示されていた。
そんな酔狂な「隠れ家」を遺していったのは、『萬朝報』を創刊して明治のジャーナリズム界を牽引した巨魁・黒岩涙香(実在の人物)で、
松桐坊主 櫻笑む まつきりはうす さくらゑむ
雨添へ得ぬを 追分と あめそへえぬを おひわけと
揺れぬ牡丹に 紅葉来よ ゆれぬほたんに もみちこよ
猪鹿蝶や 色なせる ゐのしかてふや いろなせる
と、花札の五光に猪鹿蝶や青丹まで詠みこんでみせたり、
珠聯ね居て 知恵ぞ選る たまつらねゐて ちゑそえる
五聯を目指し 延び含み これんをめさし のひふくみ
行け豈無理と 追へばよも ゆけあにむりと おへはよも
顔色失せぬ 易き罠 かほいろうせぬ やすきわな
と、ノビやフクミやオウという連珠用語を駆使したりと、
様々な「遊芸」にのめりこんでプロ並みの域に到達したばかりでなく、乱歩にも影響を与えた一流の探偵小説家でもあった涙香なのであれば、
これらの「いろは歌」には、何らかの暗号のようなものが仕組まれているに違いないのである。
というわけで、この封印されてきた「謎」の解明に取り組むことになったのが、皆さまご存じ(暇人は知らなかったが、これはシリーズ物なのだ)史上最年少の大三冠棋士・牧場智久で、
石音へ即 二段バネ いしおとへそく にたんはね
荒らせ貪れ キリチガヒ あらせむさほれ きりちかひ
悩み増すゆゑ 目も虚ろ なやみますゆゑ めもうつろ
和を得で更けぬ 囲碁の夜 わをえてふけぬ ゐこのよる
なんて「いろは歌」を、自分でもいとも簡単に作ってしまうほどの天才(なんとIQ208!)ゆえに、恋人の美少女剣士・武藤頼子の絶妙のアシストもあって、スラスラと暗号を解いてしまうことになる。
もちろん、これは実際には涙香が作ったのではなくて、作者が作ったものなのだから、自分で作ったものを自分で解けるのは当然というべきなのだし、
むしろ、49首目の「いろは歌」が最初にできて、それに合わせて残りの48首を後付けで作り上げたと思われるのだが、
この49首目の暗号が出色のできで、解いた智久より、作った涙香(いや、作者)に座布団3枚なのである。
ちなみに、物語の本筋の方は、ちゃんと殺人事件が起こったりして、犯人探しのミステリー仕立てなのではあるが、まあ、こちらの方はあまり気にしなくていいです。
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