(Lナポリオーニ 文藝春秋)

ベルリンの壁の崩壊以降、法も統治も機能しなくなった失敗国家や地域が世界に続々と出現した。そこでは誘拐や人身売買の類いが大手を振って行われ、前例のない規模に達している。大国の秘密主義を背景に、このビジネスは野火のように拡がる一方だ。

すべてのきっかけは、9.11を契機にテロの抑止を図ろうとアメリカが制定した、2001年「愛国者法」にあるのだという。

「ドル取引のすべてを米国政府へ届け出ること」が金融機関に義務付けられたため、ユーロ決済ルートを求めたコロンビアの麻薬カルテルとイタリアの犯罪組織が接近した。

コカインをヨーロッパに持ち込むため、アフリカのサヘル地域(サハラ砂漠南縁部に広がる半乾燥地域)を中継地とする新しい密輸ルートが開拓されたのである。

間もなくして、サハラ周辺で密輸をサポートしていた「武装イスラム集団」が、ヨーロッパ人旅行者32名を誘拐するという事件が発生する。

(このとき、ヨーロッパ各国の政府が支払った莫大な身代金の一部を投じて設立されたのが、「イスラム・マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」だったのは皮肉である。)

身代金を支払ったことを認めない主要国政府は、その後頻発することになったサヘル地域での誘拐に対し、公の場で非難することも、適切に介入することもできなかった。

こうして、多くの犯罪組織や武装集団は、欧米人の誘拐が資金調達の格好の手段であることに気づいたのだ。

もちろん、こんな危険な誘拐ビジネスが横行するような場所には、欧米人(特に観光客)は寄り付かなくなってしまい、人質の供給は先細りとなりそうなものだが、

「ジャーナリスト」や「人道支援活動家」を自称する、先進国の無邪気な若者は後を絶たず、身代金の要求額もうなぎ上りという盛況のようなのである。

さらに、生身の人間を扱うことに慣れた商人たちは、「人質」から「難民」へと商売のターゲットを移すようになってきた。

2015年に中東で発生した大量の難民が、雪崩を打ってヨーロッパを目指そうとした時、誘拐組織や密輸組織が密入国斡旋にシフトすることは造作もないことだった。

供給をはるかに上回る需要があり、儲けの多いビジネスであるにもかかわらず、誘拐と違ってほとんどリスクはないのだから。

ブレグジット(Brexit 英国のEU離脱)。
極右政党の勢力伸長。
移民排斥や人種差別。
国境管理の強化。
保護主義の高まり。

排他的な感情に訴える政治家や政党が大国の政権の座につく事態が、先進世界全体に拡がりを見せている昨今、

ヨーロッパを目指す大半の難民が、犯罪組織の力に頼らざるを得ないという苦境は、ますます深まっていくばかりであるが、

密入国を斡旋する悪徳商人たちの潤沢な資金は、元々は最も声を上げるべきときに沈黙を守ってきた大国が、人質の取引に支払った身代金なのである。

このような状況が続く限り、生身の人間を貨物のように扱う悪徳商人は、絶望した人々をヨーロッパの玄関口に運んで暴利をむさぼることだろう。そしてこのビジネスは、ヨーロッパ内外のジハーディスト組織に資金を供給し続けることになる。

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