(斎藤哲也 NHK出版新書)

高校で学ぶ倫理という科目には、宗教、西洋思想、東洋思想、日本思想がぎゅっと詰まっていますが、西洋哲学の部分を取り出すと、入門的な内容がじつにバランスよく配置されています。また、そこから出題されるセンター試験の内容も、それぞれの哲学者の核となる思想を問うものになっている。

<センター試験に出題される高校倫理の内容が、哲学入門にも使えそうだ。>

と気付いたのは、あのベストセラー『哲学用語図鑑』を編集しているときに、ブ厚い哲学辞典よりも、倫理の教科書のほうが役立つことが多かったからだという。

著者は東大哲学科を卒業後、通信添削の老舗Z会を経て、学習参考書の編集や執筆も手掛ける、人文思想系フリーランス編集者の雄なのである。

だから「試験に出る」とはいっても、これは決して受験生向けに書かれた学習参考書ではなく、西洋哲学のあらましと大きな流れを一般向けに解説した本なのだ。

問 ベーコンは、正しい知識の獲得を妨げるものとして4つのイドラを挙げた。次の会話において、「劇場のイドラ」に囚われていると読みとれるのは誰であるか。(1999年・センター本試験第3問・問3)

という設問に続いて、父母と兄(高校生)妹(中学生)の4人家族がプラトンのイデアについて話し合う、という冗談のような状況設定の出題にしても、

ここで解説されることになるのは、17世紀ルネサンスの「科学革命」(神学との分離による地動説など)による近代科学の成立と、

それと軌を一にして、中世を支配したスコラ哲学の閉鎖性からの離陸を企てたベーコンの方法論についてなのである。

アリストテレスが定式化した「三段論法」では、最初に普遍的な大前提を立て、そこから一般的な結論を導く。

「人間は死ぬ」+「ソクラテスは人間だ」→「ソクラテスは死ぬ」

しかし、これでは大前提となる命題そのものを導くことはできないのだから、新しい知識を発見することはできないことになる。

これに代えて、ベーコンが新しい学問の方法として提出したのが、集めた個別の事実から一般的な法則を導く推論のやり方「帰納法」だった。

「イワシは卵から生まれる」+「アジも・・・も卵から生まれる」→「あらゆる魚は卵から生まれる」

先入観(イドラ)を排し、実験や観察を通じて真理を探究する――帰納法を重視するベーコンの哲学は、イギリス経験論の祖となって引き継がれていくことになる。

といったような感じで、ソクラテス、プラトンの古代ギリシャ哲学から、ニーチェ、ウィトゲンシュタインの近代批判の哲学まで、

選りすぐりの20問で、哲学史上のビッグネームを順番に解説してくれる(ただし現象学などは除外されている)、

これは、興味はあっても哲学にまったく触れたことのない人や、学び直しをもくろむ人にはうってつけの好著なのである。

え?設問の答えはどうなったかって?ご心配なく。

最後まできちんと解説さえ読めば、「なんだかよくわからなくなっちゃった」妹より、

「倫理の教科書や高校の先生の説明もわかったな。」という兄の方が怪しいと分かる仕掛けなのだ。

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