(佐藤信・編 ちくま新書)

日本古代史像は、最近大きく変貌しつつある。新しい史料の発見があったり、発掘調査によって新しい遺跡・遺物が明らかになったり、歴史的に国際関係を見る目がグローバル化したり、といったことを受けて、以前の古代史像とは随分変わってきている。

<高等学校の歴史教科書も、時代と共に少しずつ記載内容が変化してきている。>

考古学的調査の成果と絡み合う形でますますヒートアップする邪馬台国所在地論争に対し、「倭人伝」を遺称地名に基づいて恣意的に解釈し直すのではなく、

「倭人伝」の背後にある当時の中国王朝の世界観に基づく誤った認識まで踏まえ冷静に捉え直すことで、卑弥呼の時代の列島の真の姿を見出すべきという、

「邪馬台国から古墳の時代へ」(吉松大志)

かつては大化の改新で討たれた「逆臣」と見られていた蘇我氏だが、現在では古代国家の形成に大きな役割を果たした側面が再評価されるようになっている。

「乙巳の変」も、直系で大臣の地位を独占した蘇我蝦夷・入鹿父子と蘇我倉氏など同族たちとの対立を内包しており、蘇我氏がここで滅亡したわけではないという、

「蘇我氏とヤマト王権」(鈴木正信)

という時代から始まって、

天皇親政と摂関政治を対立的なものと捉える見方は、天皇親政こそ本来あるべき政治形態とした、王政復古の政治思想に基づく明治憲法などの影響によるもので、

皇統の一本化による幼帝の即位などの事態に対し、天皇の政務を代行・補佐するシステムとして、天皇制は安定的に機能することが可能になったという、

「摂関政治の実像」(榎本淳一)

浄土庭園を有する寺院群と、豊富な文献資料が遺っていながら、東北地方の「地方史」の研究対象という位置づけにより、実態が見えてこなかった「仏国土」平泉。

奥州藤原氏が求めたのは、単なる京の「模倣」ではなく、歴史的伝統に基づく独自性の中で、内乱の時代に即応しようとする姿の荘厳な現出であったという、

「平泉と奥州藤原氏」(大平聡)

まで、3世紀から12世紀を見通すために、歴史の焦点となる各時代の重要テーマ15をそろえ、それぞれの時代を象徴する研究焦点に光を当てた入門書なのである。

ただし、すでに出来上がった古代史像を提示するのではなく、どのような研究の上にどのように古代史像を構成しつつあるのか、という現状報告なので、

「興味がある人は自分で勉強してね」とばかりに、さらに詳しく知るための参考文献のリストも充実しているのも、お得感あふれるおススメの1冊である。

古代の多様な歴史資料から歴史的事実の情報を探り出し、歴史の文脈をつむいで古代史像を新しく再構成することは、歴史学の醍醐味ともいえる作業である。その作業の中には地味な史料批判の手続きがふくまれるかもしれないが、歴史学がふまえなくてはならない学問的営為までを紹介しようとしていることを理解していただき、本書によって古代史の最新の研究現場の現状とその雰囲気を楽しんでいただければ幸いである。

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