(松沢哲郎 岩波新書)
ヒトとサルが昔は同じ一つの生き物だったということは、多くの人が理解するところです。これは科学的な正しい理解です。「ではチンパンジーは?」ときくと、「チンパンジーは黒くて大きなサルだ」と多くの人々が思っているでしょう。
<しかし、これはまちがいです。>
「霊長類」と呼ばれる約200種のサルの仲間の系統発生的な関係を見れば、昔は一つの生き物だったものがヒトの系統とサルの系統へと分かれたことは確かだが、
分かれた後のサルの共通祖先から、ゴリラやオランウータンやテナガザルなどのサルが生まれ、そのなかの一つがチンパンジーだ、と考えるのは間違いなのである。
まず3千万年前に、ヒト、チンパンジーなどの尻尾のないサル「エイプ ape」と、ニホンザルなどの尻尾のあるサル「モンキー monkey」の系統が分かれた。
そして8百万年前に、「ゴリラに向かう系統」と「ヒトとチンパンジーに向かう系統」が三者の共通祖先から分岐したことが、DNAの塩基配列から判明している。
19世紀以来の動物分類ではチンパンジーとゴリラを「大型類人猿」としてヒトと対置してきたが、実はゴリラが違って、ヒトとチンパンジーが同じだったのだ。
およそ5百万年さかのぼれば同じ一つの生き物だったということで、ヒトとチンパンジー(とボノボ)のDNA配列による遺伝的な差はわずか1.2%なのである。
というわけでこの本は、人間の言葉や数を理解するチンパンジーとして注目を浴びた「アイ」と、彼女が1歳のときから25年に渡って一緒に過ごしてきた、
京大霊長類研究所の教授が、アフリカの森での観察や、日本の研究室内での振る舞いの検証を通して、彼らの心の奥を探ってきた研究成果の集大成なのである。
野生にも拘らず巧みにできあいの道具を使う工夫をしてみせたり、研究室のコンピューターを使って文字や数字が理解できることを嬉々として示したり、
彼らが披露してくれた、ヒトと比肩しうる(時には凌駕する)ような認知的な能力や、様々な感情や仲間意識の発露など、
驚くべき新発見の喜びは、どうぞご自分で読んでいただきたいのだが、(NHKの人間講座でもやったらしい、但し2002年と物凄く古い話で恐縮です。)
人間の心や認識に興味があって選んだ「哲学科」の大学院博士課程1年の時に、霊長類研究所の助手の公募に申し込んだのは、
「人間に最も近いといわれるサルの仲間が、この世界をどのように見ているのか、何を考えているのか、それを行動の解析を通じて調べたい」
というのが、26年後の今に続く研究動機だったという。
人間の心も、その体同様に進化の産物ではあるが、化石に残る骨格や歯などと違って、知性や認識は化石に残ることがない。
だとすれば、我々の心の由来を知るためには、人間以外の動物との「比較認知科学」(どこが同じでどこが違うか)の研究が必要だろうというのである。
人間と最も近縁なチンパンジーを知ることは、両者の共通祖先のふるまいや認識を推測し、我々の「心の進化」の過程を辿るための道標となるのである。
チンパンジーを進化の隣人だと理解することによって、人間は現在地球上に生きている他の多様な動植物と変わらない生命の一員であることがわかります。そして「進化」と「多様性」と「共生」といったキーワードで語られるような、まったく新しい人間観、人間という存在の科学的理解を手にいれられるように思います。
本日もお読みいただいた皆様どうも有り難うございました。
今後も読んであげようと思っていただけましたなら、
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ヒトとサルが昔は同じ一つの生き物だったということは、多くの人が理解するところです。これは科学的な正しい理解です。「ではチンパンジーは?」ときくと、「チンパンジーは黒くて大きなサルだ」と多くの人々が思っているでしょう。
<しかし、これはまちがいです。>
「霊長類」と呼ばれる約200種のサルの仲間の系統発生的な関係を見れば、昔は一つの生き物だったものがヒトの系統とサルの系統へと分かれたことは確かだが、
分かれた後のサルの共通祖先から、ゴリラやオランウータンやテナガザルなどのサルが生まれ、そのなかの一つがチンパンジーだ、と考えるのは間違いなのである。
まず3千万年前に、ヒト、チンパンジーなどの尻尾のないサル「エイプ ape」と、ニホンザルなどの尻尾のあるサル「モンキー monkey」の系統が分かれた。
そして8百万年前に、「ゴリラに向かう系統」と「ヒトとチンパンジーに向かう系統」が三者の共通祖先から分岐したことが、DNAの塩基配列から判明している。
19世紀以来の動物分類ではチンパンジーとゴリラを「大型類人猿」としてヒトと対置してきたが、実はゴリラが違って、ヒトとチンパンジーが同じだったのだ。
およそ5百万年さかのぼれば同じ一つの生き物だったということで、ヒトとチンパンジー(とボノボ)のDNA配列による遺伝的な差はわずか1.2%なのである。
というわけでこの本は、人間の言葉や数を理解するチンパンジーとして注目を浴びた「アイ」と、彼女が1歳のときから25年に渡って一緒に過ごしてきた、
京大霊長類研究所の教授が、アフリカの森での観察や、日本の研究室内での振る舞いの検証を通して、彼らの心の奥を探ってきた研究成果の集大成なのである。
野生にも拘らず巧みにできあいの道具を使う工夫をしてみせたり、研究室のコンピューターを使って文字や数字が理解できることを嬉々として示したり、
彼らが披露してくれた、ヒトと比肩しうる(時には凌駕する)ような認知的な能力や、様々な感情や仲間意識の発露など、
驚くべき新発見の喜びは、どうぞご自分で読んでいただきたいのだが、(NHKの人間講座でもやったらしい、但し2002年と物凄く古い話で恐縮です。)
人間の心や認識に興味があって選んだ「哲学科」の大学院博士課程1年の時に、霊長類研究所の助手の公募に申し込んだのは、
「人間に最も近いといわれるサルの仲間が、この世界をどのように見ているのか、何を考えているのか、それを行動の解析を通じて調べたい」
というのが、26年後の今に続く研究動機だったという。
人間の心も、その体同様に進化の産物ではあるが、化石に残る骨格や歯などと違って、知性や認識は化石に残ることがない。
だとすれば、我々の心の由来を知るためには、人間以外の動物との「比較認知科学」(どこが同じでどこが違うか)の研究が必要だろうというのである。
人間と最も近縁なチンパンジーを知ることは、両者の共通祖先のふるまいや認識を推測し、我々の「心の進化」の過程を辿るための道標となるのである。
チンパンジーを進化の隣人だと理解することによって、人間は現在地球上に生きている他の多様な動植物と変わらない生命の一員であることがわかります。そして「進化」と「多様性」と「共生」といったキーワードで語られるような、まったく新しい人間観、人間という存在の科学的理解を手にいれられるように思います。
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