(京極夏彦 講談社)
黒い着物に黒い羽織。黒足袋に黒下駄。鼻緒だけが赤い。闇を纏った男は背後に置かれた手燭を黒い手甲を嵌めた手で取って、己の前に掲げた。
<まるで地獄の底から這い出て来た魔物の如き悪相である。>
と800ページを超えるこの本の、750ページになってようやく登場してきた<京極堂>こと中禅寺秋彦に、「待ってました」の声をかけたくなってしまうのには、
これが「百鬼夜行シリーズ」(昔はそんな名前は付いていなかったような気がするが)の、なんと17年ぶりの新作だという事情もあるのだが、
デビュー作『姑獲鳥の夏』から、日本推理作家協会賞を受賞した二作目の『魍魎の匣』に続き、『邪魅の雫』に至るまで、
まるで小ぶりの弁当箱のような長編、全9作を読み通してきた者とはいえ、物語の設定上は昭和28年の『邪魅の雫』の翌年、昭和29年の事件だと言われても、
17年も前の事件の詳細など覚えているはずもなく、ほとんどの登場人物が過去の事件の経緯を引きずっているその場の空気に馴染むのに些か苦労することになった。
◎鵼――鵼は深山にすめる化鳥なり 源三位頼政 頭は猿 足手は虎 尾はくちなはのごとき異物を射おとせしに なく聲の鵼に似たればとて ぬえと名づけしならん――『今昔画図続百鬼』鳥山石燕
「蛇」幼い頃の父親殺しの記憶に悩む娘の話に巻き込まれてしまった作家の関口。
「虎」失踪してしまった婚約者の捜索の依頼を受けた探偵の益田。
「貍」20年前に発生した他殺死体紛失事件の真相究明を命じられた刑事の木場。
「猴」発掘された古文書の鑑定に駆り出され光る猿の謎を耳にした古書肆の中禅寺。
「鵼」山中の独り暮らしで亡くなった大叔父の遺品整理に訪れた病理学者の緑川(今回初登場)。
と、それぞれがそれぞれに抱える謎を追いかける5つの物語が、順繰りにバラバラに語られていくのだが、いつしか舞台は日光の山奥へと引き付けられることになり、
5つの謎は絡まり合って、題名にある「鵼」のような<キマイラの化け物>が誕生してくるという趣向なのである。
では、その化け物の正体とは何だったのか?ネタバレになるので、どうしても知りたいという方は、ご自分でお読みください。
「じゃあ何なんだよ京極堂」
「だから、何でもないのさ。何もなかったんだから何でも良いんだ。猿だの虎だの蛇だのがチョイスされた理由は判らない。ただ――鳥だけは判る」
本日もお読みいただいた皆様どうも有り難うございました。
今後も読んであげようと思っていただけましたなら、
どうぞ応援のクリックを、お願いいたします。
↓ ↓ ↓
黒い着物に黒い羽織。黒足袋に黒下駄。鼻緒だけが赤い。闇を纏った男は背後に置かれた手燭を黒い手甲を嵌めた手で取って、己の前に掲げた。
<まるで地獄の底から這い出て来た魔物の如き悪相である。>
と800ページを超えるこの本の、750ページになってようやく登場してきた<京極堂>こと中禅寺秋彦に、「待ってました」の声をかけたくなってしまうのには、
これが「百鬼夜行シリーズ」(昔はそんな名前は付いていなかったような気がするが)の、なんと17年ぶりの新作だという事情もあるのだが、
デビュー作『姑獲鳥の夏』から、日本推理作家協会賞を受賞した二作目の『魍魎の匣』に続き、『邪魅の雫』に至るまで、
まるで小ぶりの弁当箱のような長編、全9作を読み通してきた者とはいえ、物語の設定上は昭和28年の『邪魅の雫』の翌年、昭和29年の事件だと言われても、
17年も前の事件の詳細など覚えているはずもなく、ほとんどの登場人物が過去の事件の経緯を引きずっているその場の空気に馴染むのに些か苦労することになった。
◎鵼――鵼は深山にすめる化鳥なり 源三位頼政 頭は猿 足手は虎 尾はくちなはのごとき異物を射おとせしに なく聲の鵼に似たればとて ぬえと名づけしならん――『今昔画図続百鬼』鳥山石燕
「蛇」幼い頃の父親殺しの記憶に悩む娘の話に巻き込まれてしまった作家の関口。
「虎」失踪してしまった婚約者の捜索の依頼を受けた探偵の益田。
「貍」20年前に発生した他殺死体紛失事件の真相究明を命じられた刑事の木場。
「猴」発掘された古文書の鑑定に駆り出され光る猿の謎を耳にした古書肆の中禅寺。
「鵼」山中の独り暮らしで亡くなった大叔父の遺品整理に訪れた病理学者の緑川(今回初登場)。
と、それぞれがそれぞれに抱える謎を追いかける5つの物語が、順繰りにバラバラに語られていくのだが、いつしか舞台は日光の山奥へと引き付けられることになり、
5つの謎は絡まり合って、題名にある「鵼」のような<キマイラの化け物>が誕生してくるという趣向なのである。
では、その化け物の正体とは何だったのか?ネタバレになるので、どうしても知りたいという方は、ご自分でお読みください。
「じゃあ何なんだよ京極堂」
「だから、何でもないのさ。何もなかったんだから何でも良いんだ。猿だの虎だの蛇だのがチョイスされた理由は判らない。ただ――鳥だけは判る」
本日もお読みいただいた皆様どうも有り難うございました。
今後も読んであげようと思っていただけましたなら、
どうぞ応援のクリックを、お願いいたします。
↓ ↓ ↓