(荒俣宏 平凡社ライブラリー)

奇人が一人でも存在すれば、世界の均衡を崩す。しかし逆に、バランスを打ちこわすからこそ、世界に奇人の数はすくない。仮に、これを<奇人の原理>と呼ぶ。

<本書は、そういう仮説をごく軽く検証するためのコレクションである。>

蝦夷地を開拓し、アイヌたちと仲良くしなければ、日本はロシアの餌食になると確信し、27歳で憂国の北地探検家となり、「北海道人」を名乗った――松浦武四郎。

16歳で世界無銭旅行を志し、ボーイとして潜り込んだ米軍艦で類まれなる商才を発揮して、20歳で巨万の富を成すという立身出世を果たした――小池泉。

軽便印刷機への世界的需要に目を付け、ライバルとなる発明王エジソンの影に怯えながら、全財産を投げうって世界に誇る「ガリ版」を発明した――堀井新治郎。

などなど、有名・無名織り交ぜた数々の奇人・変人たちを次々と俎上に載せ、その艱難辛苦・波乱万丈の人生の歩みを活写してみせる・・・この類の本は、

『バンヴァードの阿房宮』―世界を変えなかった十三人―

『二列目の人生』と『泡沫桀人列伝』

など、「記録」には残らないが、ある人々の「記憶」には残った「人生」の優しさが偲ばれて、暇人の好きな部類の本ではあるのだが、この本における奇人蒐集者は、

『サイエンス異人伝』―科学が残した「夢の痕跡」―

『陰陽師』

『お化けの愛し方』―なぜ人は怪談が好きなのか―

などでもご紹介した、「評論家とは世をしのぶ仮の姿で、正体は幽明界を自在に往き来できる」(@南伸坊)、あの世界の秘密に通暁した妖怪・荒俣宏なのだから、

選んだ当の本人が、一番面白がっていることは、『アラマタ大事典』の「アラマタ・ヒロシ」の項目を読んでみれば、明らかなことなのである。

人にはもって生まれた「分」というものがあり、いたずらにその「分」を越そうとすれば、創りださねばならない“過剰”の重みに潰されてしまうことになる。

しかし稀には才能や財力や、あるいは「思い込み」などという非常の力を借りて、その重量を支えきってしまう人物が出てくることがある。

<これが奇人なのだ。>

という著者の定義に従えば、妖怪・荒俣宏その人こそが奇人であることは明白であり、もちろんそんなことはアラマタ自身も自覚しているようなのである。

筆者は、このすばらしい奇人たちを集めるのに、3年間を無駄についやした。だがもちろん、奇人にとっては、無駄な努力を嬉々として積み重ねることも、“過剰”と並ぶ特徴的行動なのだが――。

本日もお読みいただいた皆様どうも有り難うございました。
今後も読んであげようと思っていただけましたなら、
どうぞ応援のクリックを、お願いいたします。
↓ ↓ ↓

人気ブログランキング