(Gガルシア=マルケス 新潮文庫)
この村でも二度とあらわれないと思うほど進取の気性に富んだホセ・アルカディオ・ブエンディアは、どの家からも同じ労力で川まで行って水汲みができるように家々の配置をきめ、さらに・・・
<数年のうちにマコンドは、当時知られていた、住民三百をかぞえるどの村よりもととのった勤勉な村になっていた。>
20世紀文学を代表する屈指の傑作として、その名だけは知っていた『百年の孤独』が文庫化され、ベストセラーになっていたので、早速読んでみたのだが、
それは、西洋文明から隔絶された南米の地を開墾し、苦難の果てに新たな村を建設した、6代百年に及ぶ一族の歴史を描いた壮大な物語だった。
なんてアッサリとまとめてみたのでは、「残念な誤読」になってしまうのは、この物語がおよそ一筋縄ではいかない「魔術的」なエピソードに満ち溢れているからだ。
そもそも、代々のアルカディオとアウレリャノを名乗る男子と、ウルスラとアマランタの名を受け継ぐ女子ばかりが登場して、余計に話をややこしくするけれど、
2代目の双子の長男アルカディオは、家を出て村のはずれに住み謎の自殺を遂げるが、その血はドアの下から流れ出て、母の住む家に死を告げるため流れてくる。
チョークで描いた自分の周囲3mの円内には、母親ウルスラでさえ立ち入ることを許さない、双子の弟で戦争の英雄となったアウレリャノ大佐は革命の日々を送る。
姉妹同然に育てられた二人の美少女は、同じ長男を愛して互いに傷つき、アマランタは手に巻いた黒い包帯が手放せず、レベーカは幼い頃の奇癖が再発して土を喰う。
4年と11ヶ月と2日、降り続く雨の鬱陶しさに耐えかねて悪態を垂れ流す妻に、怒りを爆発させた4代目アウレリャノは、ありとある瀬戸物をすべて打ち砕く。
絶世の美女として村中の男から求愛を受けながら、ある日突然、本当に空中に飛び去って「昇天」してしまった。小町娘のレメディオス。
錬金術に没頭し、糟糠の妻ウルスラから愛想をつかされて、庭の樹の根元に縛り付けられ、やがて幽霊となって出没するようになった家長のアルカディオ。
類い稀なる商才を発揮して家計を切り盛りし、視力を喪っても変わることなく一族の歴史を見守り続けながら、150歳の長寿を全うしたウルスラ。
などなど、有りうべからざる異常な事態が続出することになるのだが、微細で正確な描写や執拗なディテールの積み重ねが違和感を払拭させてくれるのは、
あの『予告された殺人の記録』でも立証された、<日常の中へきわめて自然にシュール・リアリズムが混入している>(筒井康隆)この作家のマジックの冴えなのだ。
「この一族の最初の者は樹につながれ、最後の者は蟻のむさぼるところとなる」という、村を定期的に訪れてきたジプシー、メルキアデスが遺した予言。
6代目に至り、家計の乱れから知らぬ間に犯してしまった禁忌の結果、アマランタとアウレリャノ夫婦の間に生まれてきた赤ん坊には、「豚のしっぽ」があった。
この時アウレリャノは、メルキアデスの百年前の予言書には、自分と自分たち一族の運命が、サンスクリット語ですでに書き記されていたことを知ったのだった。
<羊皮紙の最後のページを解読しつつある自分を予想しながら・・・しかし、最後の行に達するまでもなく、もはやこの部屋から出るときのないことを彼は知っていた。>
なぜならば、アウレリャノ・バビロニアが羊皮紙の解読を終えたまさにその瞬間に、この鏡の(すなわち蜃気楼の)町は風によってなぎ倒され、人間の記憶から消えることは明らかだったからだ。
本日もお読みいただいた皆様どうも有り難うございました。
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この村でも二度とあらわれないと思うほど進取の気性に富んだホセ・アルカディオ・ブエンディアは、どの家からも同じ労力で川まで行って水汲みができるように家々の配置をきめ、さらに・・・
<数年のうちにマコンドは、当時知られていた、住民三百をかぞえるどの村よりもととのった勤勉な村になっていた。>
20世紀文学を代表する屈指の傑作として、その名だけは知っていた『百年の孤独』が文庫化され、ベストセラーになっていたので、早速読んでみたのだが、
それは、西洋文明から隔絶された南米の地を開墾し、苦難の果てに新たな村を建設した、6代百年に及ぶ一族の歴史を描いた壮大な物語だった。
なんてアッサリとまとめてみたのでは、「残念な誤読」になってしまうのは、この物語がおよそ一筋縄ではいかない「魔術的」なエピソードに満ち溢れているからだ。
そもそも、代々のアルカディオとアウレリャノを名乗る男子と、ウルスラとアマランタの名を受け継ぐ女子ばかりが登場して、余計に話をややこしくするけれど、
2代目の双子の長男アルカディオは、家を出て村のはずれに住み謎の自殺を遂げるが、その血はドアの下から流れ出て、母の住む家に死を告げるため流れてくる。
チョークで描いた自分の周囲3mの円内には、母親ウルスラでさえ立ち入ることを許さない、双子の弟で戦争の英雄となったアウレリャノ大佐は革命の日々を送る。
姉妹同然に育てられた二人の美少女は、同じ長男を愛して互いに傷つき、アマランタは手に巻いた黒い包帯が手放せず、レベーカは幼い頃の奇癖が再発して土を喰う。
4年と11ヶ月と2日、降り続く雨の鬱陶しさに耐えかねて悪態を垂れ流す妻に、怒りを爆発させた4代目アウレリャノは、ありとある瀬戸物をすべて打ち砕く。
絶世の美女として村中の男から求愛を受けながら、ある日突然、本当に空中に飛び去って「昇天」してしまった。小町娘のレメディオス。
錬金術に没頭し、糟糠の妻ウルスラから愛想をつかされて、庭の樹の根元に縛り付けられ、やがて幽霊となって出没するようになった家長のアルカディオ。
類い稀なる商才を発揮して家計を切り盛りし、視力を喪っても変わることなく一族の歴史を見守り続けながら、150歳の長寿を全うしたウルスラ。
などなど、有りうべからざる異常な事態が続出することになるのだが、微細で正確な描写や執拗なディテールの積み重ねが違和感を払拭させてくれるのは、
あの『予告された殺人の記録』でも立証された、<日常の中へきわめて自然にシュール・リアリズムが混入している>(筒井康隆)この作家のマジックの冴えなのだ。
「この一族の最初の者は樹につながれ、最後の者は蟻のむさぼるところとなる」という、村を定期的に訪れてきたジプシー、メルキアデスが遺した予言。
6代目に至り、家計の乱れから知らぬ間に犯してしまった禁忌の結果、アマランタとアウレリャノ夫婦の間に生まれてきた赤ん坊には、「豚のしっぽ」があった。
この時アウレリャノは、メルキアデスの百年前の予言書には、自分と自分たち一族の運命が、サンスクリット語ですでに書き記されていたことを知ったのだった。
<羊皮紙の最後のページを解読しつつある自分を予想しながら・・・しかし、最後の行に達するまでもなく、もはやこの部屋から出るときのないことを彼は知っていた。>
なぜならば、アウレリャノ・バビロニアが羊皮紙の解読を終えたまさにその瞬間に、この鏡の(すなわち蜃気楼の)町は風によってなぎ倒され、人間の記憶から消えることは明らかだったからだ。
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