(Dピース 文藝春秋)

(1949年7月5日、出勤途中に消息を絶った)初代国鉄総裁下山定則は、翌6日の午前零時20分頃、足立区五反野の、国鉄常磐線の北千住駅・綾瀬駅間の線路上、立体交差する東武伊勢崎線のガード下付近で轢断死体となって発見された。

当時国鉄は下山総裁指揮の下、10万人の職員解雇を計画しており、その死には左翼分子に殺害されてから轢かれたとする他殺説と、

労使紛争の板挟みに心身衰弱したあげく、みずから線路に飛び込んだとする自殺説とがあり、いずれもが有力な証拠を提示して決着することもなく、

GHQが仕掛けたアメリカの謀略だとする松本清張(『日本の黒い霧』)の推理など、さまざまな憶測も飛び交うこととなったのだ。

この「下山事件」については、事件後70年を超えた現在も、公式の解明がなされることなく、この謎を解こうとしておびただしい書物や記事が書かれてきた。

たとえば、オウムの素顔を描いた自主制作ドキュメンタリー映画「A」を世に問うた森達也は、『下山事件』(新潮社)で、

日本の赤化を恐れたGHQの一大方向転換の意を汲んだ、<ある勢力>の共産党つぶしの秘策の犠牲となった、という説を仄めかしている。

初代国鉄総裁下山定則は、なぜ自ら死を選んだのか?あるいは殺されたのだとするならば、誰が何のために殺したのか?それが次に解明すべき大きな謎だった。

というわけでこの本は、ブリティッシュ・ノワールの鬼才が、アメリカ占領期の東京で起きた3つの怪事件に挑む<東京三部作>の棹尾を飾る完結編である。

1945年から46年にかけて少なくとも7人が殺された連続婦女暴行殺人事件の「小平事件」を扱った『TOKYO YEAR ZERO』。

1948年1月26日に白昼堂々銀行を訪れた男が女性子供をを含む12人を一挙に毒殺した「帝銀事件」を描いた『占領都市』。

そして、戦後最大の謎と呼ばれた「下山事件」を取り上げたのが、本作『TOKYO REDUX』なのである。(redux は、「帰ってきた」という意味だそうだ。)

1949年、左翼分子の犯行を疑うGHQの命を受けて、総裁の死の謎を追う、民間諜報局公安課捜査官・スウィーニーの地道な聞き込み捜索を描いた第一部。

1964年、オリンピック開催目前の東京で、下山事件の取材中に消えた作家・黒田浪漫の足跡を追う、探偵・室田の暗躍を描いた第二部。

1988年、病に倒れた昭和天皇への憂いに覆われた東京で、翻訳家・ライケンバックを訪れた下山事件の過去の亡霊との顛末を描いた第三部。

もちろん、著者は小説家なのだから、膨大な資料を丹念に読み込んだ実際の事件にまつわる事実に基づくストーりーであるとはいえ、これはフィクションなのであり、

ただでさえ入り組んだ複雑な背景を持つこの事件に、時期をずらした3つの物語が折り重なって、虚実の網が読者を絡めとろうとしてくるのである。

この小説は、米国主導の日本占領に関わった、あるいはその時代を生きた、多くの日本人とアメリカ人の伝記的事実や回想や著書に材を取っている。その主な人物は・・・

<ただし無用の疑いを避けるために言い添えるなら、この小説はその人たちが下山定則の死に何らかの形で関わったと仄めかしているのではない。>

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