投資界隈には、「インフレリスクに備えて株式を買おう。」みたいなことを言う人が多くいます。
曰く、「株式は企業の資産や利益が裏付けであり、それらの数値はインフレに追随するため、株価はインフレ率の上昇とともに上がるはずであるからである。」ということです。
下手すると証券会社や銀行のパンフレットにもそう記載されていたりしますね。「銀行預金や債券だと実質価値が目減りする」と付け加えたりね。つまり、株式をインフレヘッジの手段として買うことを推奨しているわけです。

しかしながら研究によれば、株式のリターンはインフレーションと相関はありません。むしろ、マイナスである可能性の方が高いのです。
BekaertとWang(2010)が世界中の株式についてリターンとインフレの関係を調べていますが、結果は以下のようになっています。

 インフレβ
先進国-0.25
新興国1.01
北米-0.42
アジア-0.83

※BekaertとWang(2010)より抜粋
※インフレβはインフレに対する株式リターンの感応度

推定誤差は大きいのでマイナスであることが統計的に優位とまでは言い切れないものの、少なくとも先進国ではインフレと株式のリターンに相関はないことが見て取れます。つまり株式はインフレヘッジの役には立たないのです。

実際にどうだったのかを見てみましょう。
米国のCPIとダウ平均をそれぞれ対数スケールでグラフ化しました。

図:米国の物価水準とダウ平均の推移(対数)



1950~60年代は、株価は4倍になりましたが、物価は1.5倍程度でした。
1970年代は株価は横這いでしたが、物価は2.5倍になりました。
1980~00年代は、株価が10倍になった一方で物価は1.5倍程度です。
00年代以降は、株価が2倍になり、物価は1.3倍程度になりました。

さて、グラフからも分かるように、やはりインフレと株式のリターンに相関はないとみるのが自然です。
むしろ、低インフレ期はリターンが高く、高インフレだとリターンが悪化しているように見えます。

これには「高インフレ期は金融政策が引き締め気味である」「高インフレ期は消費が落ち込む」などもファンダメンタルズ的な理由もありますし、「高インフレ期はボラティリティの上昇から投資家の割引率が高まる」といった心理的な理由もあります。
真相はもちろん1つではないのでしょうが、いずれにせよ、世の中で一般的に考えられている「株式はインフレヘッジになる」はおかしいということになります。

ちなみにデータは割愛しますが、インフレヘッジに最も適した資産はコモデティで、次点が短期国債(ないしは預金)になります。
つまり本当にインフレだけが心配ならば、株式投資をするよりも、預金か商品に入れておくのが無難ということになります。
株式投資を推奨したい金融機関や投資界隈の諸氏には不都合かもしれませんが、これが事実です。
これからは「インフレヘッジの株式投資」みたいな噴飯ものの投資勧誘は厳に控えましょう。

ちなみに私はこれを以て「株式投資なんかやめて預金にせよ」と言いたいわけではありません。
「株式のリターンの源泉はあくまでも企業のキャッシュフロー変動に対するリスクプレミアムであり、株はインフレヘッジに使うものではないよ」と認識しておいてほしいのです。
投資の第一歩は「投資先の未来を読む」ことではなく、「投資先のリスク・リターンの特徴を正しく把握する」ことです。