彼女は存在しない (幻冬舎文庫)


□あらすじ


平凡だが幸せな生活を謳歌していた香奈子の日常は、恋人・貴治がある日突然、何者かに殺されたのを契機に狂い始める…。同じ頃妹の度重なる異常行動を目撃し、多重人格の疑いを強めていた根本。次々と発生する凄惨な事件が香奈子と根本を結びつけていく。その出会いが意味したものは…。ミステリ界注目の、若き天才が到達した衝撃の新領域。
(「BOOK」データベースより)


□感想


私は何を買おうか決めて書店へ行くことはまずありません。気が向いたときに書店へ行って、表紙買いすることがほとんどです。本書との出会いもそうでした。妻との買い物のついでに書店へ立ち寄り、お勧めコーナーに置かれていたのを購入したのです。知らない作者だったので、不安半分期待半分でした。

ミステリ・サスペンスものではよくある「解離性同一性障害」、所謂「多重人格」が題材となっています。「多重人格」ものはハサミ男プラチナデータで若干食傷気味ではありましたが、結果としては最後まで飽きることなく読ませていただくことが出来ました。ただ、耐性のある私は平気だったのですが、グロテスクな表現や性的な表現が出てきますので、その手のものが苦手な方は注意していただきたいと思います。

内容について、私が気になったところをふたつほど上げさせていただきます。あまり掘り下げてしまうとネタバレになってしまいますのでさらっと書きます。

まず、とある殺害シーンに関してですが、「それって目撃者が絶対にいるんじゃないか? 防犯カメラにだってきっと映ってるよね」と思われるものがあります。犯人はそんなこと気にしていなかったのかもしれませんが、その後に警察が動く気配もなく、読後にモヤモヤとしたものが残りました。
それともうひとつ、結果的には綺麗にまとまっているのでそれほど気にはならないのですが、この作品の核となる「多重人格」に関連することです。「それってありか? それをやったら何でもありになってしまうだろ」と思う設定があり、もう同じ手は使って欲しくないなと感じました。 

ここまで、なんだかんだと書かせていただきましたが、序盤から読ませる技量がすばらしく、私はどんどんと物語へと引き込まれていきました。そして、読んでる間に感じていた違和感が、最後の最後でスッと解消される終盤は圧巻の一言。収束へと向かってこれでもかと繰り出される数々の言葉に、作者の気迫のようなものを感じました。

ミステリ・サスペンスものが好きで、グロテスクな表現に耐性のある方は、一度は読んでみても損はしないと思います。

最後に私の失敗談をひとつ。本書の終盤、頻繁に「譫言(うわごと)」という言葉がでてきます。私は、その「譫言」を「讒言(ざんげん)」と読み違えていました。このふたつの言葉はまったく意味が違う上に、「讒言」では文章が成り立たないため、ちんぷんかんぷんになってしまったのです。はじめは、作者が間違った言葉を使っているのだと思っていましたが、最後の最後で自分が間違えていることに気づき、しばし呆然としてしまいました。皆さんはこんな失敗しませんよね――。



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