白夜行 (集英社文庫)


□あらすじ


1973年、大阪の廃墟ビルで一人の質屋が殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りする。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂―暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んで行く。二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪。だが、何も「証拠」はない。そして十九年…。息詰まる精緻な構成と、叙事詩的スケール。心を失った人間の悲劇を描く、傑作ミステリー長篇。
(「BOOK」データベースより)


□感想


ようやく読み終わりました。実はこの作品を読んだのはこれで二回目になります。前回の記憶を頼りに感想を書こうとも思ったのですが、物語が長いせいもあり感想を書けるほど内容を覚えていなかったので、この際だからと読み返すことにした次第です。

800ページ以上にも及ぶページ数がある本書は、ブックカバーに収まらないほどの分厚さで、ずっしりとした重みがあります。読むのが遅く、時間も取れない私が読みきるには、相当な時間が必要となりました。


本作は「亮司」と「雪穂」というニ人の男女を中心に、十九年にもわたる長い歳月を描いた物語です。「白夜行」とい名前の通り、薄暗い道を僅かな灯りを頼りに進んでいくような、そんな雰囲気を醸し出している気がしました。

作中、主人公である「亮司」と「雪穂」が言葉を交わすシーンは一度もありません。二人が揃って描かれている場面も無きに等しいです。そして、二人の心情は全く描かれてもいません。

物語は二人をとりまく人々の視線で進行して行きます。ですから「亮司」と「雪穂」が何を考え、どのように感じているのかは、それを見ている人物が二人のことをどう思い、どのような印象を持ったかで想像するしかないのです。

主人公の二人が互いに愛し合っていることは容易に想像できるのですが、本当にそうなのかといわれれば、答えは「わからない」となります。なぜなら、二人の心情は一切描かれていないのですから。そういった点からも、前述した薄暗い道を進むような雰囲気を感じ取ることができると思います。

解説を書かれた作家の馳星週氏はこの「白夜行」を傑作だといっています。そしてこのような作品を生み出すことのできる東野圭吾氏に対し嫉妬しているのだともいっていました。私もこの作品を傑作だと思いますし、数々の名作を世に出している著者に嫉妬にも似た憧れを抱いています。

何はともあれ、この感想文を読んで、もっともっと多くの方が「白夜行」を読んでくれたら嬉しいかぎりです。




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