利休にたずねよ (PHP文芸文庫)
□あらすじ |
女のものと思われる緑釉の香合を肌身離さず持つ男・千利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、天下一の茶頭へと昇り詰めていく。しかしその鋭さゆえに秀吉に疎まれ、切腹を命ぜられる。利休の研ぎ澄まされた感性、艶やかで気迫に満ちた人生を生み出した恋とは、どのようなものだったのか。思いがけない手法で利休伝説のベールが剥がされていく長編歴史小説。第140回直木賞受賞作。
(「BOOK」データベースより)
□感想 |
題名の通り、商人・茶人でありながら、豊臣秀吉から切腹を命じられた男「千利休」が本作の主人公です。
「形だけでも頭を下げれば許してやる」という秀吉に対し、「謝らなければならないことなどない」と頑として頭を下げず、腹を切って散った利休。天下人に対してさえ己が道を曲げなかった、彼の信念を支えていたものはひとりの女性でした。
「千利休」が主人公なのですから、茶道に関する用語が頻繁に登場いたします。私にはお茶の知識などほとんどありませんでしたので、その点は多少苦労いたしましたが、読み進めていくうちにあまり気にならなくなりました。
物語のなかには織田信長や豊臣秀吉、徳川家康といった名だたる人物が多く登場いたしますが、彼等の存在が利休の影を薄くしてしまうようなことはなく、逆に彼等の存在が利休をはっきりと浮かび上がらせているように感じました。
ただ、豊臣秀吉にいたっては、かなり酷い描かれ方がされており、作者の山本兼一氏は秀吉のことが嫌いなのかなとさえ感じるほどでした。しかしながら、主人公である利休の目を通してみれば、それも当然のことだと思います。
本作は歴史ものですが、舞台の背景が戦国時代というだけで、合戦の描写は一切ありません。ひとりの女性を生涯想い続けた、ひとりの男の物語として読んでいただければ、この作品をおおいに楽しんでいただけるのではないかと感じております。
読めばすぐにわかることなのですが、本書には他には無いような趣向が凝らされいてます。この記事で紹介すべきか迷ったのですが、解説を書かれた宮部みゆき氏に倣い、この場では伏せておくことにいたします。実際にご自分の目で確かめてみて下さい。
最後に、本書で私が好感をもった点をひとつ挙げたいと思います。それはルビです。大概の作品では、人物の名前や難しい漢字など、それが出てくる一番初めにだけルビがふられ、以後はルビが無いということが多いのですが、この作品においては、それが章単位となっており、読み方を忘れてしまっても、さほど苦労はいたしませんでした。私が今までに読んだ本で、このようなものは無かったと記憶しており、大変ありがたいと感じました。
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