知財弁護士の自由帳

知財の様々な話題について、柴田・鈴木・中田法律事務所の知財弁護士中田裕人が気ままに意見するブログです

このエントリーは法務系Advent Calendar 2017のエントリーです。kanekoさん(@kanegoota)からバトンを頂きました。二日連続で著作権ネタです。

10月に最近話題のJASRACに訪問する機会があったので、巷でカスラックとささやかれているJASRACと音楽著作物を利用する際の注意点について、基本的なことを簡単にご紹介するコーナーです。もうよく知っている人は読まなくても大丈夫。

JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)とは、著作権等管理事業法に基づいて、音楽著作権者との間で信託方式による管理委託契約を締結し、音楽著作物の利用の許諾その他の著作権の管理を行っています。

ちなみに、著作権等管理事業を行うには、文化庁長官の登録を受けなければなりませんので、著作権エージェント的な業務を行う場合には気を付けましょう。委託者が使用料の額を決定するものであれば、同法の「管理委託契約」に該当しないので、大丈夫ですが、受託者側で使用料の額を決定する場合は、ほとんど要登録となると思われます。

巷で認識されているJASRACといえば、音楽著作権を振りかざして音楽を無断使用しているところから著作権料をぶんどったり、侵害行為を辞めさせたりするコワモテ集団、という感じではないかと思うのですが、それはあくまで上記で紹介した「音楽著作物の利用の許諾その他の著作権の管理」の部分、JASRACの一側面しか見ていません(それに本当は委託者の権利の実現に一生懸命なだけで、怖くないです。きっと。たぶん。)。ここで、「音楽著作権者との間で信託方式による管理委託契約を締結」の方にも少し注目してみましょう。

JASRACは1939年に、著作権等管理事業法の前身の仲介業務法(著作権ニ関スル仲介業務ニ関スル法律)に設立されました。設立当初の社員(社団法人の社員)は68人で、「六甲颪」などを作曲した古関裕而氏、詩人・作詞家の西条八十氏(「青い山脈」作詞など)、箏曲家の宮城道雄氏(「春の海」作曲など)、ラジオ体操その他いろんなジャンルの作曲をした服部正氏、そのほか数多くの著名な音楽家の方が含まれていました。すなわち、JASRACはその発端から、音楽家が、自分の著作権を管理させるために、自分たちで設立した団体であったのです(「プラーゲ旋風」など、仲介業務法成立までの歴史もなかなか壮絶ですが、ここでは割愛。)。

JASRACの現在の社員も、音楽著作権の委託者の中で、JASRACに入会し、一定の基準を満たして正会員資格を取得した方たちですし、JASRACの理事も30名中18名が作詞家、作曲家、音楽出版社の代表者であって、過半数を音楽関係者が占めるようにされています。

音楽家からしてみれば、JASRACがなければ、自ら全国津々浦々のカラオケ、BGMをかけているショップ・レストランなどに出向いて、利用許諾契約を締結してきて、使用料徴収業務までやらなければならないところを、代わりにやってくれる(しかも、単体で言ったら「あなたの曲は誰も歌わない」と追い返されかねないところ、JASRACでまとめて行けばそういう言い訳は通用しなくなる)という大きなメリットがあるわけです(実際は、多くのアーティストは音楽出版社に権利を預けているので、JASRACがなくても音楽出版社単位ではまとめて行動することができますが。)。ニコニコ動画やYoutubeと包括契約を結べたのもJASRACのような団体だからであって、個々の音楽家や音楽出版社では、なかなかそこまでできなかったように思われます。

利用者側からしても、JASRACがなければ、権利者のところに自らコンタクトして毎回毎回許諾条件を交渉し、許諾を取らなければならないところ、JASRACが代わりに許諾してくれて、しかも料金は料金表に書かれている(一部の利用形態については「指値」と言って、権利者との交渉が必要ですが、例外です。)、という点で実は使い勝手がよくなっているのです。

結局のところ、JASRAC嫌い、というのは、音楽コンテンツにお金を払うのが嫌い、というだけで、JASRACは悪くないように思います。そして、そうやってタダでコンテンツを消費しようとすれば、そのコンテンツはやがて栄養不足で枯れてしまいます。そのコンテンツが好きなら、お金という栄養を上げないといけません。利用者が音楽著作物に簡単に(適法に)アクセスできるようにし、その結果生まれたお金を権利者に還元して次のそうやって音楽コンテンツに栄養がよく行きわたるようにしてくれているのがJASRACなのです。そうすると、案外悪くないように思えませんか?

結論:
あえて言おう、カスではないと!

ちなみに、JASRACは著作権のみ管理し、著作隣接権は管理していません。したがって、市販のCDの音源を、別の作品のBGMとしてコピーして使う場合には、JASRACでの著作権(複製権)処理のほかに、レコード会社との間で著作隣接権の処理が必要になります。JASRACだけで満足しないでください。
つい昨日話題に上った、GLAYの曲の結婚式での無償利用も、あくまでも著作隣接権が無償なだけで、著作権の方はJASRACかNexToneで処理が必要ですからね(式場が別途包括契約している場合はOK)。著作権は、信託契約によりGLAYの手を離れているので、GLAYが自分で無償にできないのです。

また、JASRACに信託する権利はある程度選択可能なので、自分が利用しようとした利用形態について、JASRACの管理対象から外れている可能性もあります。その場合は、音楽出版社など、権利者と交渉する必要があります。この意味でも、JASRACに行けばすべて解決、ではないです。

さらにさらに、もちろん、JASRACが管理していない楽曲もありますので、例えば、YoutubeやニコニコはJASRACと包括契約しているから音楽使い放題だ、というわけにはいかず、「JASRAC管理楽曲は使える」ということなので、誤解なきよう。

と、最後に無理やり企業法務との接点ぽいことを書いて、法務系Advent Calendarの趣旨に合わせる。。。

明日はYoshi Shimizu先生(@ysaksmz)です!
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またまた更新が滞ってしまいましたが、7月17日に日本知財学会のデザイン・ブランド・マーケティング分科会で、標記のタイトルでお話してきたので、その内容を少しご紹介しておきます。

工業デザインの保護といえば、もちろん意匠法がメインで、他にも立体商標や不正競争防止法の形態模倣、周知・著名表示などを使うこともできるのですが、著作権でも保護できないかというお話で、このブログでも何回か取り上げています。

法律家なのでまずは条文が出発点なわけですが、詳しい話を省略すると、要は条文上、工業デザインのようないわゆる応用美術が「著作物」の定義に該当するかはっきり書いていないことが問題の発端です。

昔の裁判例では、工業デザインを著作権で保護することは否定的であり、「高度の芸術性…を有し、純粋美術としての性質をも是認するのが社会通念に沿うものであるとき」(東京高判平成3年12月17日・木目化粧紙事件)とか、「通常の創作活動を上回り、…純粋美術と同視し得る美的創作性(審美的創作性)を具備していると認められる場合」(大阪高判平成16年9月29日・グルニエ・ダイン事件)には美術の著作物として保護する、という議論がされてきました。この「純粋美術と同視」のキーワードは、5年くらい前まで、普通に用いられてきました。

その根拠は、意匠法と著作権法との棲み分けであるとされています。著作権法は登録なしに保護が生じるので、著作権法で保護されるとなると、意匠法が利用されなくなるし、著作権の保護期間は長いので、デザインの利用が阻害される、ということがよく言われていました。

しかし、意匠法と著作権法は保護要件も保護範囲も違うのだから、両方の保護が並立してもよい、だから、応用美術であっても、通常の著作物と同様に著作物性を判断する、ということを明らかにした画期的な裁判例が、このブログでも紹介した清水裁判長のTRIPP TRAPP事件(知財高判平成27年4月14日)でした。

その後、清水裁判長は同種の判決を出す(知財高判平成28年11月30日・スティック状加湿器事件、及び知財高判平成28年12月21日・ゴルフクラブのシャフト事件、ただし、いずれも結論として著作物性は否定されたので、著作物性肯定例はTRIPP TRAPPのみ。)ものの、他の裁判官には支持してもらえない状態が続いています。

例えば、TRIPP TRAPP後の大阪地判平成27年9月24日・ピクトグラム事件では、「それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合」という基準が用いられましたし、東京地判平成28年4月27日・エジソンのお箸事件でも同じことが言われましたし、ついには知財高判平成28年10月13日・エジソンのお箸事件控訴審(鶴岡裁判長)でも、前記地裁判決の判断がそのまま引用されてしまいました。

ただ、これらの判決も、もはや「純粋美術と同視」の基準は取っていません。したがって、裁判例の流れとしては、アメリカの分離可能性説に近いと思われるこれらの判決と、清水裁判長説の二つに集約されてきた、と言えそうです。

この統一には最高裁の判断を待つしかありません。個人的には、日本でも世界と同等のデザイン保護を目指す(そしてデザインへの投資を容易にして国際競争力を確保する)ために積極的に工業デザインを保護すべきこと、及び基準のわかりやすさから、清水裁判長説が好きなのですが、あまり支持を集めていないように思います。

清水裁判長説は、ざっくり言ってしまうと原則著作物性肯定、例外的に機能上の制約があれば否定、という感じなのに対し、分離可能性説では原則著作物性否定、機能から分離可能なものは肯定、という感じなので、前者の方が保護が広くなる傾向にはなるでしょうが、機能上の制約を厳格に考えたり、著作権法の制限規定を活用すれば、分離可能性説から導かれる結論に近いような、事案の妥当な解決を導けるような気がします。

例えば、ということで学会の席で言及した制限規定について触れておくと(なお、下記は私見なので、単独説の可能性が高いです。議論の活性化のために掲載します。反対説、ご意見、歓迎です!)、

30条の2(付随的著作物の利用)について、「写真の撮影等の対象とする事物…から分離することが困難」の要件を応用美術について柔軟に解釈したら(純粋美術に比べ世にあふれているので、映り込みやすい=分離しにくい)、適切な権利制限ができないか?

46条(公開の美術の著作物等の利用)の「原作品」を個々の実用品と捉え、「屋外の場所に恒常的に設置」については「はたらくじどうしゃ事件」を参考に、柔軟に判断できないか?→これについてはおそらく「原作品」は実用品のプロトタイプのようなものであり、個々の実用品は複製物と考えるのが素直なので、難しいだろう。→そうすると、45条(原作品の所有者による展示)と47条(展示に伴う複製)も使えない。

47条の2(譲渡等の申出に伴う複製等)は、美術の著作物と考える以上、当然使える。

同一性保持権については、実用品であるという特殊性を「意に反する改変」「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」(20条2項4号)の解釈の際に考慮して、例えば実用品の修理などは同一性保持権侵害としないと解釈できないか?

あとは、現在検討中であるという「柔軟性のある権利制限規定の整備」で新しく入る権利制限規定が活用できるかもしれません。

そんなことをお話してきました。

ちなみに余談ですが、清水裁判長の判決は、TRIPP TRAPP事件では

「応用美術は、…表現態様も多様であるから、応用美術に一律に適用すべきものとして、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とは言えず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。」

といい、
携帯用加湿器事件では、

「応用美術は、「美術の著作物」…に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とは言えず、著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべきである。」

といっており、少し言い回しが違っています。特に「それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならない」という部分が加わっています。

これは、純粋に私の推測ですが、両事件の間に出たエジソンのお箸事件控訴審判決において、鶴岡裁判長が、清水裁判長説に沿って主張を行った控訴人に対し

「実用品であっても美術の著作物としての保護を求める以上、美的観点を全く捨象してしまうことは相当ではなく、何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが必要である(これは、美術の創作性としての創作性を認める上での最低限の要件というべきである)。したがって、控訴人の主張が、単に他社製品と比較して特徴的な形態さえ備わっていれば良い(およそ美的特性の有無を考慮する必要がない)とするものであれば、その前提において誤りがある。」

と説示したことへのお返事として、「そんなことは考えていません。美的特性は当然必要ですよ。その上での創作性の話をしているのです。」ということを書いたのかな、と考えています。
判決文でこんな往復書簡が行われていたのだとすると、面白いですよね(あるいはエジソンのお箸事件控訴審の控訴人の主張が清水裁判長説を誤解するようなものであったために、鶴岡裁判長ではなく、世間に向けて、自説の立場を補足説明されたのかも…)。

そんなわけで、まだまだ応用美術の保護については、引き続き注目です。

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このエントリーは法務系Advent Calendar2016のエントリーです。mortdoreeさんからバトンを頂きました。今までの流れと違って専門的な話題で恐縮です。

 

今気づいたけれどこれの前のブログエントリーがAdvent Calendar2015ということは、今年1年ブログを更新しなかった、ということですな。うむ、いかん。来年は頑張ります。

 

さて、このエントリー、位置づけ的には、「応用美術と著作物性 -TRIPP TRAPP事件控訴審-」の続きエントリーです。しかし、Advent Calendarの一貫なので、専門的な話よりも、問題意識を指摘する軽めの読み物として書いてみようと思います。


  • 「応用美術」とは

 
「応用美術」とは、一般的に、「実用に供され、あるいは産業上の利用を目的とする表現物」であると言われています。例えば、工業製品のデザインや大量生産される洋服のデザインなどが入ってきます。従来の支配的な考え方によれば、応用美術は著作権法によって保護されるのではなく、意匠法によって保護を受けるべきであり、従って、著作物として例外的に保護を受けるためには、純粋美術と同視し得る程度の美的創作性がなければならない、とされてきました(このように応用美術について通常の著作物よりも高度な創作性を要求する説を「段階理論」と呼びます)。

  • 新しい裁判例

しかし、前述のTRIPP TRAPP事件控訴審判決(知財高裁平成27414日判決)はこの段階理論を採用せず、応用美術についても他の著作物と同様、表現に制作者の何らかの個性が発揮されていれば著作物性を認める、と判示しました。これまでの通説的な見解を覆す、画期的な判決です。

 

これで裁判例の流れが変わるのか、それともTRIPP TRAPP事件控訴審判決は「異端児」となるのかが注目されていましたが、結果は、今のところ、同控訴審判決を出した清水裁判官以外に、同判決に従う裁判例を書く人は出てこない状態です。逆に、TRIPP TRAPP事件控訴審判決の後、地裁レベルでは大阪地裁平成27924日判決(ピクトグラム)、東京地裁平成28114日判決(携帯用加湿器)、東京地裁平成28421日(ゴルフシャフト)と、従来の段階理論的な考え方を取る判決が相次ぎ、ついには、平成281013日に知財高裁(清水裁判官とは別の部)からも、段階理論的な考え方を取る判決が出ました(エジソンのお箸。うちの息子も愛用しております。)。このままTRIPP TRAPP事件控訴審判決は埋もれていくのか、と言いますと、タイムリーなことに、おととい、清水裁判官が前記携帯用加湿器事件の控訴審判決を書いたものが裁判所ウェブサイトにアップされました(知財高裁平成281130日判決)。清水裁判官はここでも、「応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い」として、段階理論を取らないことを明言されています(ただし、著作物性が認められたTRIPP TRAPPと異なり、携帯用加湿器の形状はアイデアに過ぎないとして著作物性は否定しました。)。

 

  • TRIPP TRAPP or not

 

さて、ここまで裁判例が真っ二つになっていると、どっちで考えてよいか分からなくなってしまうわけですが、おそらく、背景には「美術の著作物」とは何か、という大問題が隠れているような気がしています。少し例を考えてみましょう。

 

事例1:世界的な超有名デザイナーが、シンプルな、しかし優れたデザインの椅子を一点物で制作した。その椅子は、当該デザイナーの工房に、彼の作品例として展示してある。この椅子は、実用に供するものでもないし、産業上の利用も目的としていないので、「応用美術」には該当しないように思われる。その場合、作者の何らかの個性が発揮されていれば創作性は認められ、幼稚園児の絵でも創作性はあるというのが一般的な見解なのだから、世界的な超有名デザイナー作の優れたデザインの椅子に創作性が認められないということはなさそうだ。しかし、しばらくして、あるメーカーがそのデザイナーからライセンスを受け、同じ椅子を大量生産した。この場合、その椅子は事後的に「応用美術」になってしまうが、著作物性は失われるのだろうか?

 

事例2:何の変哲もないちょっと古びたママチャリがある。これを現代美術館の展示室に持って行って、ちょっとハンドルを傾けた状態で設置して、「寂しい自転車」というタイトルとともに置いてみた。これはこれでアート(純粋美術)として成立しそうである。アートとして成立するのであれば、著作物はありそうである。しかし、元は何の変哲もないママチャリであって、ママチャリ自体には著作物性はないだろう(ありふれている。)。同じものなのに、美術館に置くと著作物性があって、駅前駐輪場にあると著作物性がないのだろうか?

 

こういった事例を見ていくと、「美術の著作物」というのは外縁が極めて曖昧であって、「美術の著作物」と「応用美術」も境界線は極めてあやふやであるということが分かるのではないかと思われます。そうであれば、「純粋美術」と「応用美術」の切り分けを前提とする段階理論は、少し無理をしているのではないかと思われます。さらに、そのような段階理論は、裁判所が、何が「アート」で何が「アート」ではないか、ということを決めるに近い状態になり、適切ではないように思われます。そういうわけで、私はTRIPP TRAPP事件控訴審的な考え方が正しいのではないかと思っていますし、冒頭に紹介した昨年のエントリーでも、デザインの法的保護を厚くして、デザイン重視の世の中の流れに日本の産業界が乗れるようにするという政策的観点からそう考えた方がよいのではないか、ということ書きました。また、フランスやドイツではこの手のものには著作物性が認められていますので、国際ハーモという観点でも、そのように考えた方がよいのではないかと思います。わが国だけデザイン保護が薄いというのでは、国際競争力の観点からも問題がありそうです。

 

  • 法務パーソンの心得

 

最後に、上記のような流れを考慮した上での法務パーソン向けの一般的なアドバイスを書きますと、応用美術の創作性は今著作権業界でホットに議論されており、将来、応用美術にも著作物性を認める時代がくる可能性があります。創作側としては、その権利がきちんと自社帰属するような手当(職務著作要件の充足や外注からの権利譲渡の手当て)をしておく必要があると思いますし、利用側としては、応用美術であっても著作権侵害が起きうることを念頭に利用していく必要があると思います。

 

明日はysaksmzさんです。

 

  • 補足

 

最後に少し専門的な見地から上の事例を分析してみます。お時間のない方はスルーしましょう。

 

事例1の場合、TRIPP TRAPP事件のように考えるのであれば、おかしなことにはなりませんが、段階理論的に考えると、最初「純粋美術」に分類したものが、事後的に「応用美術」になることで、判断枠組みが変わってしまう、という現象が起きるように見えるので、おかしなことになってしまうように見えます。しかし、段階理論的に考えても、そもそもシンプルな椅子は、美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り、誰が作ろうとも類型的に「純粋美術」には該当しないのだ、と考えれば、おかしなことにはなりません。ちなみに、エジソンのお箸事件の第一審(東京地裁平成28427日判決)は、応用美術は、「その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく、同法211号の『文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの』に当たらない」としており、美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えない応用美術は、創作性の有無の判断の前に、そもそも類型的に著作権法の保護を受けない、と言っているようにも読めます。しかし、「美的鑑賞の対象となり得るような美的特性」があるかないかを、応用美術の利用前に判断できるでしょうか?美的かどうかはそもそも個人の感性もかかわってきますし、基準として適切かと言われると、微妙であるように思われます。

 

事例2の場合は、いずれの説に立っても、ママチャリに創作性はないことが明らかなので、結局のところ、現代美術館における展示の方法に創作性があり、それ故に現代美術館に展示されているママチャリはアートである、という説明になりそうであると思います。すなわち、それと同じママチャリを同じような格好で駐輪場に駐車しても著作権侵害は成立せず、同じような格好で、同じようなタイトルをつけて美術空間に展示することによって著作権侵害が成立する、ということになるのではないかと思います。

次に、この事例の変形として、自転車が特殊な形状をしており、装飾も施されているような場合はどうか、という問題はどうでしょうか。段階理論に立つ場合、実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えているかが重要です。美術館にあれば、それは「美的鑑賞の対象となり得る」でしょうが、駅前駐輪場にあっても「美的鑑賞の対象となり得る」でしょうか?もちろん、形状の特殊さや装飾の程度によっては駅前駐輪場にあっても美的鑑賞の対象となり得る自転車はあるかもしれませんが、やはり美術館にあるのと駅前駐車場にあるのとでは、美的鑑賞の対象となる自転車のレベルは違うように思われます(駅前駐車場にあると、かなり美的でないと鑑賞の対象にはなりませんが、美術館にあるとほとんどのものは美的鑑賞の対象とされるでしょう。)。段階理論に立つ場合、どこに置いた場合を想定して美的鑑賞となり得るかを判断するのでしょうか。

 

現代アートの誕生・発展による美術の範囲の拡張(ありふれたスープ缶だって絵画にすれば現代アートになるところから、間違って清掃員が捨ててしまう美術品まで、広がってきています。)、工業製品のデザイン化の発展の波を考えれば、両者はこれからも接近するでしょう。そろそろ、段階理論から卒業してもよいころなのではないかと思います。今後の裁判例の発展に期待します。


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